相棒(2024年3月8日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 ホンダを世界的な企業に育て上げた藤沢武夫が昨夏、アメリカの自動車殿堂入りを果たした。先に殿堂入りした創業者の本田宗一郎の“相棒”で、財務や市場開拓など経営面から支え続けた

 

藤澤武夫(右)と本田宗一郎

◆藤沢の孫にあたる劇作家の藤沢文翁(ぶんおう)さんが「祖父は本田宗一郎さんの影に徹した人です」とエッセーに書いていた。生涯の友と思い、その友の影として「世界のHONDA」にすることに美学を持っていたという。優れたリーダーには優れた相棒がいて、力は何倍にも発揮される

国会中継を見ていると、岸田文雄首相が野党に攻められている。内閣支持率は低迷を続け、起死回生を狙っては失敗の繰り返し。衆院政治倫理審査会の出席も不評を買っただけの感があり、「支えてくれる相棒はいるのか」と余計な心配をする

◆相棒の二人は息を合わせ、前と後ろで棒を担ぐ。政治の場合、かごに乗せるのは国民だろうが、後ろで担ぐ人がいなければどこへも運べない。ずっと留め置かれては「担ぎ手はいないのか」と声を荒らげたくもなる

◆藤沢の妻は経営が厳しかった頃、4トントラックの免許を取ったという。「小銭を稼いであの人に渡せば、また大きな仕事で成功して私を楽させてくれると思ったのよ」。本田を支えた藤沢にも、信じて支えてくれる人がいた。仕事もプライベートも、相棒の存在は大きい。(知)