名古屋の元陸自幹部に有罪判決 女性隊員への強制わいせつ罪(2024年3月7日『毎日新聞』)

名古屋地裁が入る名古屋高地裁合同庁舎=名古屋市中区で2019年9月30日、川瀬慎一朗撮影 

名古屋地裁が入る名古屋高地裁合同庁舎=名古屋市中区で2019年9月30日、川瀬慎一朗撮影

 陸上自衛隊の演習場敷地内で昨年6月、女性隊員に対する性暴力事件があり、強制わいせつ罪に問われた元陸自第10師団(名古屋市)所属の男性1等陸尉の被告(34)=依願退職=に、名古屋地裁は7日、「上官の立場を利用した卑劣な犯行」として、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑・懲役3年)の判決を言い渡した。

 元自衛官の五ノ井里奈さん(24)による性暴力の告発を受け、防衛省は2022年9~11月、全自衛隊員を対象としたハラスメントに関する特別防衛監察を実施。事件が起きたのは、組織を挙げてハラスメント一掃に取り組むさなかだった。

 訓練後の慰労会に参加していた女性隊員は、被告に促されてトイレに立った後、宿営地の駐車場に連れて行かれて被害にあった。被告は拒絶されてもわいせつな行為をやめず、最後に「言っちゃだめだよ」と口止めしたという。

 吉田智宏裁判官は判決理由で「上官から突然、理不尽な被害を受けた被害者の精神的苦痛は大きい」と指摘。その上で被告について「同意してくれると思ったと述べるなど、女性に対する認知のゆがみも見過ごせない」とした。

 五ノ井さんに対する性暴力事件で元隊員3人が有罪判決を受けた昨年12月12日に初公判が開かれた。

 その後の審理などで被告が捜査段階で、被害者も同意し、女性隊員から先に抱きついてきた、などと供述していたことも明らかになった。被告は法廷で「思い違いがあった」と弁解したが、吉田裁判官から「自分に都合が良いように話したのではないか」とれると、「はい」と認めた。 

 女性隊員は被害者参加制度を利用して出廷し、こうしたやり取りをついたての向こうで聞いていた。

 「同意していないのは分かっていたはずなのに、勝手な解釈を聞かされつらかった」。1月19日の第2回公判で行われた意見陳述で、女性隊員は声を震わせながら胸の内を明かした。相談した同僚隊員の中には、被告から同様の被害を受けたと打ち明ける人もいたという。

 陸自第10師団司令部によると、被告は判決を前に辞職したという。三浦誠司・広報幹部は「既に辞めた隊員なのでコメントする立場にない」と答えた。

 第10師団は昨年12月、被告を停職7カ月の懲戒処分としたが、発表されたのは所属部隊や階級、年代のみだった。被害隊員の性別や行為の内容などは明らかにせず、結果的に事件は大きく報じられなかった。

 自衛隊のハラスメント問題に取り組む「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」の佐藤博文弁護士は、量刑について「実刑を免れた中では最も重いもの。事案の重大性を重く見たのではないか」と評価した。防衛省が特別防衛監察を経てハラスメント根絶を宣言した後、再び事件が起きたことに「(今回の事件のように明らかになった被害は)氷山の一角に過ぎない。組織全体が変わらなければ結局繰り返すだけだ」と述べた。【田中理知】