「食欲なくなり、涙出た」裁判員裁判の制度から15年 判決後のSNS上の誹謗中傷、命の重みへの苦悩…(2024年5月12日『産経新聞』)

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裁判員制度の施行から今月で15年。市民が刑事裁判に参加する中で、さまざまな課題も浮かび上がっている。
 
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殺害された小学生兄弟
 
神戸地裁姫路支部で2月、稲美町で令和3年11月に起きた放火殺人事件の裁判員裁判の判決が言い渡された。小学生の兄弟が犠牲となり、検察側は死刑を求刑したが判決は懲役30年。SNS上などではこの量刑に対し、「軽すぎる」などの批判的な意見も散見された。
極刑か死刑回避か。裁判員には、兄弟と被告、双方の命の重みがのしかかった。判決後、裁判員や補充裁判員ら計7人が記者会見に臨み、そのうちの1人は「食欲がなくなり、涙が出たり、眠れなかったりする日もあった」と重圧を吐露した。
SNS上の批判的な声に、落胆したり反論したりする裁判員もいた。裁判官や自身らに対する誹謗(ひぼう)中傷とも取れる意見があったと指摘したある裁判員は、「嫌な思いになった」と肩を落とした。
別の裁判員も、SNS上には「極刑だろう」と決めつける意見が目についたという。「被害者は正義で加害者は悪」という一方向的な見方を押しつけるようだったと、報道のあり方にも疑問を投げかけた。
SNS上では自由に発言することが許される。ただ、心ない意見が裁判員を萎縮させてしまうとすれば、市民感覚を反映させる裁判員裁判の趣旨をゆがめかねない。
最高裁によると、平成21年5月の制度開始以降、今年1月末までに裁判員や補充裁判員に選ばれた人は延べ約12万人。地裁姫路支部では令和5年、裁判員裁判で10件の判決が下されている。
職業も思想も信条も違う人たちが市民の代表として、その事件ごとに責任を果たしてきた。選任は無作為で誰でも次に裁判員になる可能性もある。もし自分が裁判員だったら-。裁判員に対する発言は、判決を導く裏側にまで思いをはせたものであってほしい。(福井亜加梨)
 

放火殺人事件被告が被害者の両親に「間接的にやったのはお前らやで」(2024年2月6日『産経新聞
 
兵庫県稲美町で令和3年11月、民家が全焼し小学生の兄弟が死亡した事件で、殺人と現住建造物等放火の罪に問われた兄弟の伯父で無職、松尾留与(とめよ)被告(53)の裁判員裁判が5日、神戸地裁姫路支部佐藤洋幸裁判長)で開かれた。被告人質問が行われ、被告は兄弟の両親に対し「間接的にやったのはお前らやで」などと述べた。
この日は被害者参加制度に基づき、遺族側の代理人弁護士が両親に代わって質問した。被告は質問への回答で、両親に対し「もう少し精神的ダメージがあってもいいと思う」と主張。また、死刑になる可能性について「仕方ない。無期懲役だと両親も兄弟も納得しない」と述べた。
また、弁護人から兄弟の両親へ伝えたいことを問われた際には、「間接的にやったのはお前らやで」などと発言。「今の精神状態だとあいつら(両親)に謝ることはできない」と話した。一方、裁判長から兄弟へ言いたいことはあるか尋ねられると「ごめんなさい」と述べた。