登場人物のほとんどは騙された「被害者」…”地面師事件”の捜査を難航させる「複雑すぎる」手口(2024年11月9日『現代ビジネス』)

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Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。
そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。
同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。
『地面師』連載第9回
より続く
全員が被害者を主張

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海喜館の不動産登記簿で確認すると、そこには小山本人やその関係先とすぐにわかる会社は出てこない。「IKUTA HOLDINGS」という会社が、持ち主の海老澤佐妃子から海喜館を買い取り、積水ハウスに売却を仲介した形になっている。
まずIKUTA社が17年4月24日、ニセの海老澤佐妃子と売買予約という形で所有権移転の仮登記をし、さらに同じ日付で、積水ハウスがIKUTAと売買予約契約を結んでいる。IKUTAが海喜館の売買の仲介窓口として、積水ハウスに売り渡す契約を交わしたわけである。なぜそんな手間を踏んだのか。
地面師詐欺では、はじめに不動産ブローカーや事件師が蠢き、そのあと小さな仲介業者が出てきて実際に開発を手掛ける大手不動産業者に物件を売り渡すパターンが多い。中間業者がいくつも登場するケースも少なくない。最初の不動産ブローカーを含めたそのなかの誰かが、なりすまし犯を仕立て上げる地面師である。
もっともいざ事件として発覚すると、そこにかかわった登場人物の多くは、自分たちもニセ地主だと気づかずに騙された被害者だと主張する。それも捜査が難航する理由だ。
前述したように、海老澤佐妃子には名取弘人、という異母弟の法定相続人が存在した。佐妃子自身が異母弟の存在を知っていたかどうか、そこはいま一つ定かではないが、2人には海喜館を相続する権利がある。そこへ降って湧いたように起きたのが、今度の事件だ。
「仮登記抹消」の請求訴訟
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繰り返すまでもなく、ニセの海老澤佐妃子と海喜館の売買予約契約を交わし、法務局で登記簿に仮登記したのが、IKUTAである。登記簿上、売買予約を済ませ、取引窓口になったIKUTAは、近藤久美(35)という女社長が代表取締役となっているが、会社のオーナーは生田剛(46)という。この2人もまた、偽造有印私文書行使などの容疑で逮捕された。取引の直接窓口となった中間業者である。
佐妃子の異母弟として海喜館を相続したはずの名取兄弟は、IKUTAに所有権移転の仮登記を外してもらわなければ、海喜館を自由にできない。が、善意の第三者を主張するIKUTA
側は、なりすましの事実が判明してなお、「当時はニセ佐妃子が真の所有者だと信じていた」と仮登記の抹消手続きに応じなかった。
そこで名取兄弟は売買予約の「仮登記抹消」の請求訴訟を起こしたのである。訴訟は彼らが逮捕されるまで続いた。もとよりIKUTA側の主張はでたらめだが、現場で何があったか、裁判によりことの経緯を知ることはできる。
この民事裁判資料を参考にしながら、海喜館がいかにして地面師たちの手に落ちたのか、その詳細を追ってみた。
『「地面師」グループ内での取引先をめぐる対立…有名デベロッパーの元財務部長が「積水ハウスなんてちょろい」と言い切ったワケ』へ続く
森 功(ジャーナリスト)

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地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団 (講談社文庫) 文庫 – 2022/9/15
森 功 (著)
ネットフリックスドラマの「参考文献」となったノンフィクション。
ドラマに出てくる事件の「本当の話」は、すべてこの本に書いてある。
石洋ハウス=積水ハウスは、なぜ地面師グループにコロッと騙されたのか?
ハリソン山中=内田マイクは本当にあんなに残虐なのか?
小池栄子演じる麗子=秋葉紘子(こうこ)はどうやってなりすまし役を集めるのか?
ピエール瀧演じる「司法書士上がりの地面師」は、実際はどんな役割をするのか?
現実はドラマより恐ろしく、ドラマよりエキサイティングだ。
積水ハウスアパホテルなど、不動産のプロがコロッと騙された
複雑で巧妙な手口が本書で明かされる。
地面師はあなたの隣にいる。
何食わぬ顔で社会に溶け込み、ある日勝手にあなたの土地を売り飛ばすかもしれない。
不動産関係者、銀行関係者だけでなく、
全国すべての不動産オーナーはこの本を読んでおいたほうがいいだろう。
【本書のおもな内容】
◆「積水ハウス」事件
ストップされた工事/史上空前「五五億円」の被害/ニセ地主の故郷/常務が前倒しした決済
◆頂点に立つ男
内田マイクの正体/地面師集団の役割分担/なりすまし役のスカウト/マニキュアで指紋を消して
◆新橋「白骨死体」地主の謎
五輪人気で高騰「マッカーサー道路」/群がった地上げ業者/三倍になる借地権/白骨死体の謎
◆台湾華僑になりすました「富ヶ谷事件」
引き延ばされた本人確認/公正証書の嘘/地面師とタッグを組む元弁護士/内田マイクとの接点
アパホテル「溜池駐車場」事件の怪
架空の生前贈与/大都会の異様な空間/逮捕された中間業者/釈放された手配師/なりすまし犯の言い分
◆なりすまし不在の世田谷事件
二重売買という新たな手口/消えた五億円の行方/裏の裏を読んだ警察/逮捕状が出た内田マイク
◆荒れはてた「五〇〇坪邸宅」のニセ老人
二課のリベンジ捜査/偽造ではないニセ印鑑証明/「引き込み」役の親族/根絶やしにはできない