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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。
そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。
同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。
『地面師』連載第41回
より続く
利用された「華僑の帰国」
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話を富ヶ谷のケースに戻そう。詐欺に気づいた地道は精力的に動いた。まずは年明けの16年1月、法律事務所の責任者である弁護士の諸永に対し、6億4800万円の損害賠償請求訴訟を起こした。と同時に、第2東京弁護士会に、弁護士として懲戒処分の申し立てをおこなった。当人がこう言う。
「万世橋警察はけっこうやる気を出して捜査をしてくれました。ひょっとしたら本物の呉さんは殺されているのではないかと疑い、本籍のある台湾にまで出向き、向こうで本人に会って呉さんの生死を確かめた。吉祥寺の家には住んでなく、今は台湾暮らしなのがわかったのも警察の捜査によるものです。犯人たちにとって、日本に土地を持っている外国人が祖国に戻れば、なりすましのネタになる」
改めて確認すると、本物の呉如増は、偽パスポートの写真とは似ても似つかない老人だった。ここから警察も地面師詐欺として捜査を本格化させた。警視庁捜査2課に協力を要請し、万世橋署で捜査を続けてきた。
さて、詐欺の舞台となった諸永総合法律事務所の責任者である諸永芳春や事務員の吉永は、いかように弁明するのか。
加担を認めない吉永
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「言いたいことはたくさんあるんですよ。でも、この件は民事裁判にもなっているし、弁護士事務所への懲戒請求も受けている。取材を受けどうコメントを使われるかわからないので、答えられませんな。損害賠償とか、弁護士会の懲戒問題は、そこに何らかの過失があったかどうか、そこが争点になるから」
吉永は逃げを打ちながら、こう返答した。
「刑事告訴したといっても、それで警察が動くかどうかは別問題なんでね。万世橋署は一年経つのにまだわれわれを呼び出しもしていない。私たちは今回、詐欺に加担したとか、そういうことはない。法律的にいう意思や故意はまったくないわけですよ」
詐欺という事実があっても、そこに加担してはいない。つまるところ、そう言いたいに違いない。
「そこは絶対ないんでね。ただ、そのあとの損害賠償とか、いわゆる懲戒問題ということになると、こちらに過失があったかどうかで結論が決まってきちゃう。そこが非常に微妙なところなんです。で、取材を受けて記事を出されると、そういう過失の認定を含めて影響する可能性がある。だから、いま話をするのは勘弁してください」
そもそも吉永は山口とどう知り合ったのか。
怪し過ぎる関係
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「彼とは富ヶ谷とは別の物件の取引で知り合ったんです。そのときの売買は、事前にダメになった。弁護士事務所として山口に対する守秘義務や信義があるし、いろんな話がつながっていっちゃう可能性もあるので、詳しくは言えませんが、要は買い手側にファイナンス(資金繰りの目途)がつかず、お金ができなかったのです」
話を総合すると、吉永と山口は一度試みた不動産取引に失敗し、そのあと今度の南平台や富ヶ谷の取引でいっしょに動くようになったことになる。やはりかなり怪しい関係と言わざるをえない。最初の段階で、山口の話に怪しさは感じなかったのか。
「だから、そういう話をしていくと、今度は、山口が悪いとか、いろんな話になりかねない。そこは当然評価を伴うしね。地道に訴えられている裁判でも、山口には証人になってもらわなければならないし、陳述書も提出してもらわなければならないから、今の段階で申し上げられるようなことはない」
諸永事務所への損害賠償請求訴訟では、吉永が山口に被告側の証人として出廷してもらわなければならない立場だ。つまり詐欺の被害者である地道に対し、吉永と山口がタッグを組んでいるという話である。となると、地道が行方不明だと言う山口自身とは連絡が取れているのだろう。そこを聞いてみた。
「連絡は直接ではなく、ある弁護士を通して取れます。必要があれば裁判に出廷してもらうという形をとっています。この件は私だって事実関係を知らないので、山口から聞かなければなりませんからね」
『「不動産詐欺」で騙し取られた“6億円”の行方はまさかの…「カネの流れ」を通じて暴かれた「地面師」グループ同士の“繋がり”』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団 (講談社文庫) 文庫 – 2022/9/15
森 功 (著)
ネットフリックスドラマの「参考文献」となったノンフィクション。
ドラマに出てくる事件の「本当の話」は、すべてこの本に書いてある。
石洋ハウス=積水ハウスは、なぜ地面師グループにコロッと騙されたのか?
ハリソン山中=内田マイクは本当にあんなに残虐なのか?
小池栄子演じる麗子=秋葉紘子(こうこ)はどうやってなりすまし役を集めるのか?
ピエール瀧演じる「司法書士上がりの地面師」は、実際はどんな役割をするのか?
現実はドラマより恐ろしく、ドラマよりエキサイティングだ。
複雑で巧妙な手口が本書で明かされる。
地面師はあなたの隣にいる。
何食わぬ顔で社会に溶け込み、ある日勝手にあなたの土地を売り飛ばすかもしれない。
不動産関係者、銀行関係者だけでなく、
全国すべての不動産オーナーはこの本を読んでおいたほうがいいだろう。
【本書のおもな内容】
◆「積水ハウス」事件
ストップされた工事/史上空前「五五億円」の被害/ニセ地主の故郷/常務が前倒しした決済
◆頂点に立つ男
内田マイクの正体/地面師集団の役割分担/なりすまし役のスカウト/マニキュアで指紋を消して
◆新橋「白骨死体」地主の謎
五輪人気で高騰「マッカーサー道路」/群がった地上げ業者/三倍になる借地権/白骨死体の謎
◆台湾華僑になりすました「富ヶ谷事件」
引き延ばされた本人確認/公正証書の嘘/地面師とタッグを組む元弁護士/内田マイクとの接点
◆アパホテル「溜池駐車場」事件の怪
架空の生前贈与/大都会の異様な空間/逮捕された中間業者/釈放された手配師/なりすまし犯の言い分
◆なりすまし不在の世田谷事件
二重売買という新たな手口/消えた五億円の行方/裏の裏を読んだ警察/逮捕状が出た内田マイク
◆荒れはてた「五〇〇坪邸宅」のニセ老人
二課のリベンジ捜査/偽造ではないニセ印鑑証明/「引き込み」役の親族/根絶やしにはできない