元社会党衆院議員の川俣健二郎さんと2015年、横手市で開かれたフリージャーナリストの講演会で同席した。亡くなる前年のことだ。「講師を案内したい所がある」と声をかけられて同行した先は歴史を感じる洋風の建物。東洋経済新報社社長だった石橋湛山が戦中、横手へ疎開した折の雑誌発行拠点だ
▼その演説を受けた衆参両院の代表質問がきのうまで3日間行われた。企業・団体献金禁止を迫るなど政治とカネ問題に切り込む野党に対し、石破首相の答弁は煮え切らない。理解ある一部野党の方ばかり見て広く議論を深めようとしない姿勢では国民の信は遠のく
▼湛山は首相就任からほどなく病気により退陣。在任わずか2カ月余だった。記者だった戦前、入院した首相に対して議会運営への支障を理由に退陣を主張した。自らの言葉に責任を持つための辞任だった
危うい話(2024年12月5日『琉球新報』-「金口木舌」)
▼日本は憲法で「陸海空軍その他の戦力」を保持しない。なのに駐留米軍は例外だった。裁判所の理屈はこう。「わが国が主体となって、これに指揮権、管理権を行使し得ない外国軍隊はたとえ、それがわが国に駐留するとしても、『戦力』には該当しない」
▼つまり、米軍は日本が指図できない外国の軍隊だから自国の戦力にあたらないというのだ。現実と最高法規との乖離(かいり)は明らか。この国は無理なつじつま合わせで、それを埋めてきた
▼石破氏は、外国軍の施設を共同使用するというが、それは一時的な貸し借りなのか、管理権が及ぶ使用なのか。管理権があるなら治外法権の米軍施設に国内法が及ぶようになるのか。疑問は尽きない
巨額の経済対策が常態化する中、必要性の吟味がおろそかになっていると言わざるを得ない。
個別に支出状況を把握できた138事業では、計約19兆円の予算の46%が年度内に消化されていなかった。
うち34事業は、計約1兆5000億円の予算全額が翌年度に繰り越された。約6000億円は最終的に使われなかった。
事業の妥当性が十分に精査されないまま、予算が水膨れしていた実態が浮かび上がる。適正だったかどうかの検証ができるような仕組みが欠かせない。
補正予算は本来、当初予算を組んだ後に災害など不測の事態が生じ、緊急に支出が必要な場合に編成するものである。
しかし、当初予算で対応すべき公共事業費などが盛り込まれることが多い。短期間での編成となり査定が甘くなりがちだ。
コロナ禍への対策に迫られた20年度以降は、膨張ぶりが顕著だ。
財源の多くは国債が占める。大盤振る舞いを続ければ将来世代にツケを回すことになる。
支出後のチェックも必須だ。
不正受給などがあったにもかかわらず、170億円が国に返還されていない。総額18兆円余の予算のうち3兆円余が不要になった。
税金の浪費を防ぐには、決算の審査が重要になる。支出の効果を検証し、不必要、不適切なものをあぶり出して、次の予算編成に反映させる。そうした国会の機能を強化しなければならない。
臨時国会が開幕した。石破茂首相が10月に就任し、与党が過半数割れした衆院選後の特別国会は、わずか4日間で閉じられた。与野党伯仲の国会でようやく本格論戦が始まる。国内外に山積している課題の解決策を導き出し、国民の負託に応えてほしい。
物価高対策や成長戦略を盛り込んだ政府の経済対策の財源を裏付ける、2024年度補正予算案の審議が最大の焦点になる。経済対策の策定には自民、公明の両党に加え、衆院選で躍進した野党の国民民主党が関わり、年収103万円の壁の引き上げ、ガソリン減税の検討などが明記された。
少数与党で補正予算案の成立が見通せず、「部分連合」の手法で予算案の骨格がつくられた形だ。しかし、論戦の主舞台となる予算委員会の委員長ポストが立憲民主党に渡っており、与党が強引に審議を進め、成立させることはできない状況だ。
これまでの自公政権では党内の事前審査で了承を得てから法案が国会に提出され、国会での議論は形骸化していた。少数与党では、野党の理解を得られなければ法案成立は見通せない。政府・与党はこれまでのような国会軽視の姿勢を改め、野党の合意を得るため国民に見える形で丁寧に議論する努力を惜しんではならない。
「政治とカネ」の問題を巡っては、政治資金規正法の再改正などが議論される。既に始まっている与野党協議では、政党から党幹部に渡される使途公開不要の政策活動費は廃止の方向性で一致しているものの、企業・団体献金の禁止については自民などが反対するなど意見の隔たりが大きい。
歳費とは別に月額100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開についても結論が先送りされてきた。与野党の協議がまとまらないことを理由に、課題を放置しておくことは許されない。
野党の役割も大きく変わる。予算委員長を含め17ある衆院常任委員長ポストのうち七つは野党に配分された。政府・与党に「反対」を唱えるだけでは、国民の期待に応えたとはいえない。政府・与党の法案などに賛同できないのであれば対案などを示すのが筋だ。
政党と議員がその責務を全うし国会の存在意義を高めなければ、政治の信頼回復は成し得ないことを肝に銘じてもらいたい。
臨時国会は、石破茂首相による29日の所信表明演説を受けて本格論戦に入る。新内閣が発足後、国会審議が実質2カ月にわたって休眠していた事態は異常だ。首相と各閣僚の資質が試されるだけではない。衆院過半数割れの連立与党と、特定の少数野党による政策協議の新たな枠組みは開かれた熟議の国会をゆがめず、健全に機能するのか、先行きも見極めねばならない。
国民民主党は今回、与党との政策協議を経て補正予算案に賛成する流れにある。手取りを増やす年収103万円の壁引き上げの見返りに、予算案の中身や財源に無批判ならば、数の論理で予算案を通過させた旧来政治と変わらない。予算審議には責任を持って臨むべきだ。石破政権は過半数割れした自省の下、他の野党との議論にも真摯[しんし]に応じる必要がある。
年収の壁を巡っては、地方税収が大幅に減る事態への懸念が県内をはじめ全国の自治体に広がっている。物価高や人手不足などへの対応は急務だが、年収の壁引き上げに伴う税制が持続可能かどうかも重要だ。税制改正大綱は、従来の政府・与党、あるいは一部野党の公約のみを取り込むだけで策定されていいのか。将来世代への責任を重視し、与野党間で広く議論を尽くすべきではないか。
立憲民主党は、議席を大幅に伸ばしながらも、国民民主党への高まる注目度の陰で埋没感が指摘されている。それでも、野党第1党として、衆院予算委員長の強い職権を手にした重責を負う。国会変革へ、建設的な審議のかじ取りに注力すべきだ。
政治資金規正法の再改正は企業・団体献金が焦点となる。自民党は民主主義のコストとして、献金を含めた政治資金を正当化する。しかし、派閥の巨額の裏金問題を見れば、主張をすんなりとは受け入れ難い。そもそも、政党交付金の形で国民がコストを税負担している。にもかかわらず、何がなぜ足りないのかを精査して国民に理解を求め、生煮えの政治とカネ問題に今国会で決着を付けるよう重ねて求めたい。(五十嵐稔)
臨時国会開幕 選挙の公平どう保つか論じよ(2024年11月29日『読売新聞』-「社説」)
臨時国会が開幕した。山積する政策課題への対処や、政治資金の透明化の議論はもちろん重要だが、緊急を要するテーマはほかにもある。
国政、地方を問わず目立ち始めた選挙を巡る 歪 ひず みだ。真偽が不確かな情報もあるSNSが大きな影響力を持つようになった。自らの当選を目指さない立候補といった想定外の事態も起きている。
民主主義の根幹である選挙への信頼が揺らげば、国権の最高機関である国会の権威も失墜しかねない。与野党は、選挙の公平性や、SNSの活用のあり方について議論を深めるべきだ。
立花氏は、出直し選に臨んでいた斎藤元彦知事の街頭演説の前後に同じ場所で演説を行い、斎藤氏を擁護する主張を展開した。
公職選挙法は、選挙活動の妨害を禁じている。だが、他候補を支援するための立候補を制限する条文はない。立花氏の出馬は、現行法の盲点を突いたともいえる。
知事選で敗れた陣営は、立花氏の「応援」で斎藤氏の運動量は事実上、2倍になったと批判している。立花氏は自主的に活動したというが、斎藤氏の返り咲きを後押しした可能性は否定できない。
また、SNS上では「斎藤氏によるパワハラはなかった」といった投稿が相次いだが、斎藤氏自身は机を 叩 たた くといった行為は認めており、反省の弁も述べている。
SNSでは、一部の人の主張が真偽を問われることなく、まるで多数の意見であるかのように拡散することが珍しくない。
街頭演説などの動画を配信して再生数を稼ぎ、広告収入を得ようとする人もいる。実際、兵庫県知事選では立花氏らの演説を利用して収益を得た例があるという。
公正であるべき選挙を 貶 おとし めるような事例も無視できない。
審議が尽くされたにもかかわらず、採決を引き延ばすような恣意(しい)的な運営は許されない。予算委員長や憲法審査会長などの重要ポストを得た立民は、国民に対し重責を負っていることを忘れてはならない。
予算委で審議する令和6年度補正予算案は政府の総合経済対策の裏付けとなるものである。歳出規模、民間支出分を含めた事業規模はともに昨年の経済対策を上回る。
自民、公明、国民民主の3党は年内の早期成立で合意しているが、需要不足が縮小する中で昨年以上の規模にする必要があるのかなど見極める必要がある。安住淳予算委員長に課せられた責任は重い。
一説に、「責任」には2種類あるという。自分が「引き受ける」ものと他人から「押し付けられる」もの。「自己責任」は、語感からして後者か。<たいがいは他人がつける「自己」という語をはね返し「責任」よ立て>俵万智
▼ピリッとした一首に背筋が伸びるのは、当方だけではあるまい。辞書にある「責任」の語釈は、「引き受ける」という自発的な色が濃い。ところが昨今は、「自分は負わない」式の無責任が目につく。その代表格が石破茂首相というのが情けない。
▼臨時国会が始まった。首相が自らの判断で国民に信を問い、招いた少数与党の試練である。大敗の責任をいまだに取ろうとしない姿勢はいかがなものか。トップに居座り続け、信頼を取り戻せると考えているのだろうか。野党もまた国会運営にこれまで以上の責任を負っている。
▼衆院の常任委員会や審査会では委員長・会長ポストの半数近くを立憲民主党などが握る。憲法改正に待ったをかけるのは論外だ。社会の基本を崩す選択的夫婦別姓制度では、拙速な議論を慎まねばならない。「103万円の壁」の撤廃を掲げる国民民主党の責任も問われている。
▼所得税の非課税枠を引き上げれば、中央や地方の税収が減る。「財源は与党の責任で」は、議論が始まった当初の同党の姿勢だった。議席を大幅に増やした国民民主が国会運営のキャスチングボートを握っている以上、責任の丸投げは許されない。
▼<おろすわさびと恋路の意見/きけばきくほど涙出る>(柳家紫文著『人生に役立つ都々逸読本』から)。恋路を政治に変えれば、石破首相の苦境にも当てはまる。ピリッと引き締まった論戦を国民は望んでいる。政治家の「責任」の取り方を示してもらおう。
臨時国会がきのう開会した。10月の衆院選で自民、公明両党が過半数を割り込む中、第2次政権を発足させた石破茂首相にとって初の本格的な国会論戦となる。新たな経済対策を盛り込む補正予算案や、自民党の派閥裏金事件を受けた政治資金規正法の再改正などが焦点となる。
首相の政権基盤は極めて脆弱(ぜいじゃく)だ。野党の協力なしには法案や予算案を通すことができない。国内外に課題が山積する中で、国会運営は厳しさを増す。首相は多様な意見に耳を傾け、与野党が丁寧な議論を重ねて合意形成に努めねばならない。
最優先で取り組むべきは、裏金事件で浮き彫りになった「政治とカネ」を巡る問題を決着させることだ。
自民は、党から幹部らに支出され使途の公開義務がない政策活動費の廃止を政治改革案に明記した。ただし外交や企業の秘密に関わる支出などは使途の非公表もあり得るとし、透明性の担保に疑問符が付く。
政治資金を監視する第三者機関は「国会内に置くことを基本」としたが、強い権限を持つ組織となるよう制度設計を急がねばならない。
国会議員に月額100万円を支給する調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開や残金返納は自民も前向きな姿勢に転じた。3年前から議論が続く懸案であり、必ず結論を出す責務がある。
経済対策の裏付けとなる補正予算案は、一般会計の歳出で約13兆9千億円に上る。物価高への対応は必要だが、予算規模と政策効果を吟味するべきだ。巨費を投じてきた過去の経済対策の検証も求められる。
国会きょう召集 言論の府再生の一歩に(2024年11月28日『北海道新聞』-「社説」)
選挙結果の民意によって生まれた与野党伯仲の国会だ。熟議と協力の合意形成が何より重要となる。政府・与党は主張を貫くだけでなく、野党の意見を丁寧に聞き、修正も辞さない柔軟な姿勢を基本とすべきだ。
自民1強時代は数の力による強引な手法で審議が形骸化し、国会は政府の追認機関とやゆされた。与野党は国民の目を意識し、今国会を「言論の府」再生の第一歩とする必要がある。
廃止の方向で一致した政策活動費についても、自民党は外交関連などを念頭に一部非公開の支出を残す考えを示している。
政治改革は本来、国会の場で扱うべきテーマだ。何が問題でそれにどう対処すべきか、開かれた議場で、堂々と議論するのが筋である。
今国会のもう一つの大きな論点が、本年度一般会計補正予算案を裏付けとする経済対策だ。
しかし、自民、公明、国民民主の3党が密室で事前に全てを決めてしまい、国会に提案後の質疑が形ばかりとなるようでは従来問題視されてきた「与党の事前審査」と変わらない。
政府は第2次安倍政権以降、集団的自衛権の行使容認や防衛費の大幅増などの重要政策を国会に諮らず次々と決めてきた。
国会が国権の最高機関である以上、外交・安全保障政策にも関与するのは当然である。政府の意思決定と国会のあり方についても見直す契機とすべきだ。
賃金の伸びが物価上昇に追い付かない状態が長く続いている。いっそうの財政悪化を防ぎつつ、厳しさを増す暮らしを支える知恵を熟議の政治で形にしていく必要がある。
自民党派閥の裏金事件などで失墜した政治への信頼を取り戻すため、政治資金制度の抜本改革も急務だ。
会期は12月21日までの24日間。石破茂内閣が閣議決定した経済対策の裏付けとなる2024年度補正予算案が最大の焦点で、低所得世帯に配る3万円の給付金や12月終了予定だったガソリン料金補助の継続、電気・都市ガス代の補助再開などが柱だ。
働く人の実質賃金は22年4月以降、過去最長の26カ月連続マイナスとなった後、今年6、7月はいったんプラスに転じたものの、8、9月はまたマイナスに戻った。
力強さを欠く個人消費が日本経済の足かせとなっている現状を考えれば、家計への効果的な支援は不可欠だろう。
ただ、歳出規模で23年度を上回る13兆9000億円にまで膨らんだ大型補正に十分な必然性があるのかは、厳しくチェックする必要がある。
規模ありきの編成となった背景には、衆院選を有利に進めたい政権側の思惑があったことは否定できない。
与党は、国民民主党が求める所得税非課税上限の年収「103万円の壁」引き上げなどをのむことで、何とか補正予算案成立に向けた協力を取り付けたが、具体的な引き上げ幅などは今後の税制改正の議論に先送りされた。
7兆~8兆円とも試算される税収減には自民内だけでなく、地方からも懸念の声が上がる。利上げに向かう局面でもある。財源を安易に国債に頼ってはなるまい。
衆院選後の本格論戦となる臨時国会が28日に始まる。自民、公明両党の「少数与党」での政権運営は厳しさを増す。与野党は日程闘争が中心の旧来型の対決構図を脱し、建設的な政策協議と合意形成にこそ力をそそぐべきだ。新たな国会の姿を示してもらいたい。
石破茂首相は今後の政権運営について「党派を超えて優れた方策を採り入れ、政策を前に進めていきたい」と強調している。少数与党は1994年の羽田孜内閣以来となり、野党の協力がなければ予算や法律の成立は難しい。羽田内閣は約2カ月で退陣した。
2007年の参院選で自民党が敗北し、衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」となった際は混乱が長く続いた。政府人事の国会承認が滞り、日銀総裁が戦後初めて空席となった。国内外の課題に対処する法改正も遅れ、国民生活や外交力に深刻な影響を与えた。
これまでの自公政権は事前審査で予算案や法案を党がまず了承し、国会提出後の修正は例外的だった。これが野党が政府の不祥事追及と審議の日程闘争に軸足をおく一因になってきた。
野党は責任が増している事実を自覚してもらいたい。キャスチングボートを握る国民民主党は、所得税の控除額の現行103万円からの大幅引き上げ、ガソリン減税などの早期実現を求めている。インフレ調整や一定の物価高対策は必要だとしても、財源は「政府が考えるべきだ」といった態度では責任野党の看板が泣く。
与野党伯仲で責任を共有するいまだからこそ、解決に一歩踏み出せる課題も多いはずだ。政治資金問題にケリをつけ、税や社会保障改革、人口減対策、安全保障の議論を加速してほしい。国民の負託にこたえるには、与野党の柔軟かつ建設的な対応が不可欠だ。
自民、公明の与党は過半数に達しておらず、野党の協力がなければ法案や予算案は成立しない。与党が続けてきた「数の力」頼みの強引な運営は不可能である。
必要なのは、少数意見を取り入れながら時間をかけ、納得できる法案を練り上げることだ。臨時国会は、民主主義の基本である「熟議の国会」を再構築できるかどうかの試金石となる。
国会審議は野党の意見を聞き置く場になり、審議時間を消費するだけの形骸化した議論になっていたのが実情だ。
自民、公明の与党は過半数に達しておらず、野党の協力がなければ法案や予算案は成立しない。与党が続けてきた「数の力」頼みの強引な運営は不可能である。
必要なのは、少数意見を取り入れながら時間をかけ、納得できる法案を練り上げることだ。臨時国会は、民主主義の基本である「熟議の国会」を再構築できるかどうかの試金石となる。
国会審議は野党の意見を聞き置く場になり、審議時間を消費するだけの形骸化した議論になっていたのが実情だ。
野党の協力がなければ補正予算も法律も成立しない。首相や閣僚ののらりくらりとした答弁など、その場しのぎの対応はもはや通用しない。
召集を前に与野党の協議が始まっている。政府・与党が野党と意見交換するのは大いに結構だが、議論の舞台は国会であるべきだ。与野党伯仲時代の立法府の新たな姿を示す試金石となる。公開の場で論議を深め、幅広い合意を得ることが肝要だろう。
自公政権で予算や法律は基本、政府案を与党が事前審査した上で提出し、審議日程をこなして成立させた。原案のまま数の力で押し切ることも少なくなかった。安倍政権以降続いた国会軽視の政権運営を改める必要がある。だが石破政権は「数合わせ」に重きを置いている感が否めない。
国民民主党との政策協議では、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」見直しで譲歩して、補正予算案への賛成を取り付けようとしている。特定の野党を取り込み、中身はそのままに成立させようとする発想はこれまでと同じではないか。
近く政府が提出する補正予算案は一般会計で13兆9千億円程度。従来の物価高対策をかき集めたり、半導体の開発・生産への支援など本来は当初予算で計上すべき政策を潜り込ませたりして規模を膨らませた印象がある。
衆院では、補正予算案を審議する予算委員会の委員長を立憲民主党が握る。必要性や効果の精査、適切な執行のための仕組みづくり、能登半島地震の被災地復興など、中身を掘り下げる議論を委員長の差配で実現してもらいたい。
他の委員会審議をリードすることにもなる。政府側が十分説明できなかったり、野党側から建設的な意見が出たりした場合は修正に応じる謙虚な姿勢を与党には求める。民主主義の原点にも通じよう。
焦点は企業・団体献金の扱いだ。野党は「腐敗の温床」と廃止を訴え、自民は「悪ではない」と反論。立憲民主、日本維新の会、共産党などは全面禁止の再改正案を共同提出すると決めた。慎重な立場の国民民主の出方を注視したい。
政治とカネ問題の抜本改革なしに信頼回復はあり得ない。まして議員活動の在り方を決める。双方が法案を出し、熟議の上で再改正を実現すべきだ。現行の企業・団体献金の温存が、金のかからぬ政治を求める民意にそぐわないことだけは明らかである。