下請法の抜本改正を検討している政府の有識者会議について、報告書案の全容が判明した。取引代金の振込手数料を下請け業者に負担させる行為などを禁じ、法の網を広げることを求める。不当な商習慣を一掃し、価格転嫁をサプライチェーン(供給網)全体に浸透させる狙いがある。
染みついた商習慣、「失われた30年」一因
報告書案は、長年染みついた下請けいじめが「失われた30年」と呼ばれる長期停滞の一因になったと指摘。1990年代半ば以降、大手企業と中小企業の取引で価格転嫁が進まない商習慣が定着し、物価と賃金が伸びない「価格据え置き型経済」が定着したとする。その結果、中小企業が投資と賃上げの原資を確保できなくなって技術革新が起きず、経済が伸び悩む悪循環に陥ったと訴えている。
下請法の抜本改正は約20年ぶりとなり、多面的な見直しを求める。
代金の支払い慣行では、現在は書面上の合意を得ずに振込手数料を下請け側に負担させた場合は、違法な減額に当たる。これを、合意の有無にかかわらず同法に適用する方針。取引現場では、大企業が中小企業に決済を行う際、振込手数料分を差し引く事例が横行しているためだ。
約束手形、対象取引で全面禁止
取引の後払いに使う約束手形に関しては、下請法の対象となる取引での使用を全面的に禁じる。政府は今年、手形の決済期限を従来の120日から60日に約60年ぶりに見直したが、さらに踏み込む。
大企業へのけん制機能を強めるため、過去の違反事案への対策も進める。現行制度では、支払い遅延といった一部の違反行為は、継続している事案にしか同法違反に問えず、長年問題視されていた。
知的財産のあり方にも懸念を示す。大手が中小との取引で得た知財を、無償で所有する事例が報告されているためだ。有識者会議は、知財やノウハウは中小企業の成長の源泉とし、公取委に対して広範な実態調査を求めた。
このほか、資本金を意図的に増減させて同法を逃れる脱法的行為に対処するため、従業員数の基準を新たに追加する。下請け企業と協議せずに取引価格を一方的に決めることを禁止する新たな規定も盛り込む。
従来の常識、今後は非常識
ただ、製造業では、下請法の適用対象となるのは取引全体の約35%にすぎないとされる。実質的には下請け的な立場にありながらも、資本金が3億円超の中堅企業などは保護できない。このため、有識者会議は価格転嫁を供給網全体に波及させるために、独占禁止法上の手当ても要求する。
報告書案は、従来の業界の常識は、今後は非常識になり得るとしている。一連の改正を、物価と賃金が連動して上昇する経済の好循環に結び付けられるか注目される。