東京マラソン(東京新聞など共催)が3月3日、東京都庁-東京駅前間の42.195キロで行われる。男子日本勢にとってはパリ五輪代表選考レースの最終戦で、残り1枠を懸けてトップ選手が火花を散らす。パリ切符を争う実力者4人を紹介する。
◆日本最速男の誤算
2021年に2時間4分56秒の日本記録を樹立し、22年3月の東京マラソンはアフリカ勢と渡り合って2時間5分28秒で日本人トップの4位フィニッシュ。目標のパリ五輪へ、鈴木健吾(富士通)の歩みは順風満帆に見えた。
東京での好走から4カ月後、暗転する。米オレゴン州で開催された世界選手権。レース前の新型コロナウイルス検査で陽性となり、欠場した。「そこから自分の歯車がかみ合わなくなった」。目標を見失った。気持ちを切り替えようと直後にあったロンドン・マラソンにエントリーするも、「準備が間に合わず」欠場。23年3月の東京マラソンも右股関節痛で出場を取りやめた。
故障中でさえ「走り続けていたい」と考えるほどの生粋のランナーにとって、これ以上なくつらい日々。「気持ちが沈むときも多かった」と胸の内を明かす。
◆MGC途中棄権、でも悲壮感はない
心の支えになったのは、パリ五輪への思いだ。19年の東京五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」で敗れて以降、「次こそは」と決意してずっと過ごしてきた。簡単にはあきらめられなかった。
23年6月、2時間5分台で走った東京マラソン以来約1年3カ月ぶりに函館マラソン(ハーフマラソンの部)でレースに復帰した。「緊張感とワクワク感、苦しさを感じられた」。大会でしか味わえない醍醐味(だいごみ)と「走る喜び」をかみしめた。
10月、パリ五輪のMGCに万全の状態でないことを承知で挑み、途中棄権した。「(自分を)もう一度じっくり、作り直す必要があると分かった」とパリ五輪までの「針路」を確認できたから、悲壮感はない。
そこから体を再構築するつもりで競技と向き合った。まずは故障がちな足を徹底的にケアして不安を払拭するところから。今年に入って鹿児島・徳之島で合宿し、長い距離をじっくりと走り込んだ。
◆競う相手は自分「狙えない記録ではない」
かつては慌てて仕上げてレースで失敗することも少なくなかった。「今は、やるべきことを冷静に判断できる。走るべきではない時は(走らないように)コントロールできる」と成長を実感する。
パリに行くには、3月3日の東京マラソンで日本陸連の設定タイム2時間5分50秒を突破するのが最低条件。東京では2年前の大会で上回っており「前半からペースを維持できれば、狙えない記録ではない。残りの期間でどれだけ準備できるか」と調整に細心の注意を払う。
日本人トップになることも求められるが、日本最速の男が競うのは他者ではない。「相手ではなく、どれだけ自分と戦えるかだと思う」。最後のチャンスで本領を発揮できるか。(渡辺陽太郎)