日中首脳会談に関する社説・コラム(2024年11月17日)

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日中首脳会談を行う石破首相(左端)と中国の習近平国家主席(右端)=15日、ペルー・リマ(代表撮影・共同)

日中首脳は対話継続で安保含む協議探れ(2024年11月17日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相はペルーで中国の習近平国家主席と会談した。首相就任後、間を置かずトップ会談が実現し、習氏も対日関係に関し「改善と発展のカギを握る時期」と述べた点に注目したい。一方、中国の挑発が目立つ安全保障面での意思疎通は乏しい。関係安定には首脳対話の継続が極めて重要だ。
 習氏は中国による日本産水産物の禁輸を巡り段階的な輸入再開という先の当局合意を再確認した。トップが言及した意義は大きい。中国は一刻も早く決断すべきだ。
 広東省深圳、江蘇省蘇州で起きた日本人学校の児童、関係者の殺傷事件について、習氏は「日本人を含む在中国の外国人の安全を確保する」と述べた。それでも犯人の動機さえ明かされないままでは再発防止策を立てようがない。引き続き中国側に説明を求めたい。
 最大の問題は安保面の抜き差しならない対立だ。2年前には沖縄県の日本の排他的経済水域EEZ)に中国の弾道ミサイルが初めて着弾した。今年8月には長崎県男女群島沖で中国軍機による初の領空侵犯が確認されている。中国、ロシア両軍が連携して日本に圧力をかける動きもある。
 首相は尖閣諸島を含む東シナ海情勢、中国軍の活動活発化への憂慮を伝えた。台湾海峡の平和と安定が極めて重要だとも指摘した。だが中国側が緊張緩和に向けた一歩を踏み出さなければ、習氏が触れた関係改善には限界がある。
 アステラス製薬の社員ら日本人の拘束問題も依然として未解決だ。具体的な拘束理由もわからない以上、日本企業は安心して社員を中国に派遣できない。経済交流、対中投資が停滞している原因はここにもある。この問題の解決は避けて通れない。中国トップ主導の裁断を強く促したい。
 米国では来年1月、トランプ氏が大統領に再び就く。中国に厳しい人事布陣も明らかになりつつある。対日を含む中国外交の微妙な変化は、トランプ政権をにらんだ動きという指摘もある。ただ、それはあくまで中国側の都合にすぎない。この局面で習政権の対日外交を巡る基本方針が大きく変化したと判断するのは時期尚早だ。
 日本としては、目先の変化に惑わされず、中長期的な視点から安定した関係をめざす必要がある。いずれにせよ大事なのは、強い権限を持つ中国トップとの直接対話の継続だ。首相が得意とする安保含む率直な意見交換を期待する。

日中首脳会談 かみ合ったと喜ぶ関係か(2024年11月17日『産経新聞』-「主張」)
 
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首脳会談を前に握手する石破首相(左)と中国の習近平国家主席(代表撮影)
 石破茂首相が南米ペルーの首都リマで、中国の習近平国家主席と初めて会談した。
 日中両国が戦略的互恵関係を包括的に推進し、建設的かつ安定的な関係を構築する方向性を確認した。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を理由に中国側が全面停止した日本産水産物輸入の再開合意の着実な履行を申し合わせた。
 石破首相は会談後、記者団に「非常にかみ合った意見交換だった印象だ」と満足そうに語った。習氏と会談を重ねていくことで一致したと明かし、「首脳間を含むあらゆるレベルで意思疎通、往来を図り、懸案を減らしていく」と語った。
 「かみ合った」と本気で感じたのであれば、石破首相の外交感覚はピントがずれていないだろうか。
 また、首脳間の往来が習氏の国賓としての来日を含むのであれば許されない話だ。習氏はウイグル人などへの深刻な人権弾圧の責任者だからだ。
 石破首相は習氏に対し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、東シナ海情勢や領空侵犯など中国軍の活動に深い憂慮を表明した。深圳での日本人児童殺害を取り上げ、現地日本人の安全確保を求めた。拘束されている日本人の解放も求めた。
 習氏の態度は、ほぼゼロ回答だった。「日本人を含む全外国人の安全を確保する」と述べたが、それは国家として当たり前の話にすぎない。水産物の輸入再開は実現の時期さえ示さなかった。これで「かみ合った」と語るセンスを疑う。
 懸案を抱える中でも共通の利益の拡大を図るのが戦略的互恵関係だという。岸田文雄前首相が昨年の習氏との会談で6年ぶりに復活させた。だが、今の日中はそのような関係を推進できる間柄なのか。
 習氏は、来年登場する米国のトランプ政権を警戒し、日米が協力して中国に厳しい対応を取らないように対日姿勢を一時的に調整しているだけだろう。
 中国共産党政権の首脳は全員、力の信奉者だ。日本が防衛力や経済力、科学力などの国力を高めたり、日米同盟の結束を強めたりすることが、対中発言力を増すことになる。その努力なしに、首脳の往来で握手を重ねても、日本の平和と安全、国益は確保できないと石破首相は肝に銘じてもらいたい。

日中首脳会談 対話重ね相互理解深めよ(2024年11月17日『中国新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相は日本時間のきのう、南米ペルーの首都リマで、中国の習近平国家主席と初会談した。戦略的互恵関係の包括的な推進と、建設的かつ安定的な関係を構築する方向性を確認した。約35分間と短かったが、まずは両トップが対面し意見交換した意義を認めたい。
 米国の次期大統領に決まったトランプ氏は対中強硬姿勢を鮮明にし、関税を大幅に引き上げる考えを示している。国務長官には強硬派のマルコ・ルビオ上院議員を起用すると発表した。
 世界の大国である米中の関係が悪化すれば、各国に不安が広がる。双方と関係が深い日本は日中間の関係改善に加え、米中両国を取り持つ役割で国際社会の期待に応えるべきだ。今回の会談をその第一歩にしたい。習氏と今後も会談を重ねる方針で一致したことは、一定の成果だろう。
 戦略的互恵関係とは、日中両国がアジアと世界に対して厳粛な責任を負うとの認識の下、アジアと世界に共に貢献する中で、互いに共通の利益を拡大していくという考え方である。最大の共通利益の一つは無用な衝突、特に軍事衝突を避けることに違いない。
 そのためには、さまざまな形で相互に理解を深める努力が不可欠だろう。会談で申し合わせた通り、外相の相互往来や閣僚級の「日中ハイレベル人的・文化交流対話」「日中ハイレベル経済対話」を確実に実現してほしい。
 日中関係は冷え込みが続いていた。中国は日本の領海や領空への侵犯を繰り返し、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り、日本産水産物の輸入を全面停止した。日本も南西諸島のミサイル配備など防衛力を強化してきた。両国間で不信が増幅し、悪循環に陥っている面があった。
 今回の会談で石破首相は、中国の活発な軍事活動に対する懸念を伝え、日本人学校の児童の刺殺事件などを受けて邦人の安全確保を求めた。互いに言うべきことを言える関係が重要である。
 中国は、日本との関係を悪化させたくない状況だろう。国内経済の不振は深刻で、デフレの懸念が強まっている。トランプ氏が米大統領に就任すれば、輸出の環境もさらに悪化すると思われる。
 習氏は「中日関係は改善と発展という重要な段階にある」と述べた。9月に合意した日本産水産物の輸入再開も「きちんと実施する」と確認した。関係改善の好機と受け止めたい。
 とはいえ、習氏は中国共産党総書記として3期目入りを決めた2年前の党大会で台湾統一を目標に掲げ「武力行使の放棄は約束しない」と明言。今年10月には台湾を包囲する海空域で軍事演習をした。危機が近くにある状況に変わりはない。
 石破首相は日中首脳会談に先立ち、米国のバイデン大統領、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領とも会談し、安全保障分野などでの協力を調整する事務局組織の新設で合意した。独自の対話チャンネルを重層的にしつつ、関係各国と連携するバランス感覚が求められる。

日中首脳会談 対話重ね相互理解深めよ(2024年11月17日『高知新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相は日本時間のきのう、南米ペルーの首都リマで、中国の習近平国家主席と初会談した。戦略的互恵関係の包括的な推進と、建設的かつ安定的な関係を構築する方向性を確認した。約35分間と短かったが、まずは両トップが対面し意見交換した意義を認めたい。
 米国の次期大統領に決まったトランプ氏は対中強硬姿勢を鮮明にし、関税を大幅に引き上げる考えを示している。国務長官には強硬派のマルコ・ルビオ上院議員を起用すると発表した。
 世界の大国である米中の関係が悪化すれば、各国に不安が広がる。双方と関係が深い日本は日中間の関係改善に加え、米中両国を取り持つ役割で国際社会の期待に応えるべきだ。今回の会談をその第一歩にしたい。習氏と今後も会談を重ねる方針で一致したことは、一定の成果だろう。
 戦略的互恵関係とは、日中両国がアジアと世界に対して厳粛な責任を負うとの認識の下、アジアと世界に共に貢献する中で、互いに共通の利益を拡大していくという考え方である。最大の共通利益の一つは無用な衝突、特に軍事衝突を避けることに違いない。
 そのためには、さまざまな形で相互に理解を深める努力が不可欠だろう。会談で申し合わせた通り、外相の相互往来や閣僚級の「日中ハイレベル人的・文化交流対話」「日中ハイレベル経済対話」を確実に実現してほしい。
 日中関係は冷え込みが続いていた。中国は日本の領海や領空への侵犯を繰り返し、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り、日本産水産物の輸入を全面停止した。日本も南西諸島のミサイル配備など防衛力を強化してきた。両国間で不信が増幅し、悪循環に陥っている面があった。
 今回の会談で石破首相は、中国の活発な軍事活動に対する懸念を伝え、日本人学校の児童の刺殺事件などを受けて邦人の安全確保を求めた。互いに言うべきことを言える関係が重要である。
 中国は、日本との関係を悪化させたくない状況だろう。国内経済の不振は深刻で、デフレの懸念が強まっている。トランプ氏が米大統領に就任すれば、輸出の環境もさらに悪化すると思われる。
 習氏は「中日関係は改善と発展という重要な段階にある」と述べた。9月に合意した日本産水産物の輸入再開も「きちんと実施する」と確認した。関係改善の好機と受け止めたい。
 とはいえ、習氏は中国共産党総書記として3期目入りを決めた2年前の党大会で台湾統一を目標に掲げ「武力行使の放棄は約束しない」と明言。今年10月には台湾を包囲する海空域で軍事演習をした。危機が近くにある状況に変わりはない。
 石破首相は日中首脳会談に先立ち、米国のバイデン大統領、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領とも会談し、安全保障分野などでの協力を調整する事務局組織の新設で合意した。独自の対話チャンネルを重層的にしつつ、関係各国と連携するバランス感覚が求められる。