不信任を否決後にこの笑い…盛山正仁文科相を続投させて大丈夫か? 危うい記憶力、「名案」も思い付けない(2024年2月22日『東京新聞』)

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が取り沙汰される盛山正仁文部科学相不信任決議案が20日自民党などの反対で否決された。否決後、今後の信頼回復の方法を問われた盛山氏は「名案があれば教えて」。振り返ると、似たような人ごとめいた発言が…。宗教法人を所管する大臣に対し、国民の不信感が解消されたと言えるだろうか。(森本智之、岸本拓也)

◆信頼回復策を聞かれても、あの答え

 立憲民主党が提出した盛山氏の不信任決議案は、20日午後、衆院本会議で採決された。共産党、国民民主党なども賛成したが、自民、公明の与党に加え日本維新の会などの反対多数で否決された。
自身に対する不信任決議案が否決され一礼する盛山文科相

自身に対する不信任決議案が否決され一礼する盛山文科相

 盛山氏はその後、記者団に「まずはほっとした」とひと言。「粛々とこれまで通り対応したい」と続投の意思を表明したものの、信頼回復に向けた取り組みを問われると「名案があれば教えてほしい」と、判断を丸投げするかのようだった。

文科省行政ど真ん中の質問にも即答

 実は、盛山氏は16日の閣議後記者会見でも同じような受け答えをしていた。
 記者から「今後解散命令請求をされるような団体が選挙応援を申し出てきたら見分けられるのか」とただされると「見分けるのは難しい。名案は思い浮かばない」とさじを投げてしまった。
衆院本会議に臨む盛山文科相

衆院本会議に臨む盛山文科相

 さかのぼれば、昨年9月の文科相の就任会見でも教員のなり手不足について問われ「正直名案はありません」と即答していた。文科行政のど真ん中の質問だっただけに、就任早々、ネットなどで大臣起用を疑問視する声が出た。

◆「うすうす思い出してきた」に違和感

 盛山氏が旧統一教会の関連団体「世界平和連合」から選挙支援を受けたとの疑惑は今月6日、朝日新聞が写真付きで報じて発覚した。
 盛山氏は同日の衆院予算委員会で「はっきりした記憶がない。あれば(自民党調査で)報告していた」と答弁。ところが翌7日になると「報道された写真を見てうすうす思い出してきた」と変化するなどあいまいな答弁に終始している。
 名門私立校の灘中・高から東大法学部に進んだ盛山氏。国土交通省の官僚を経て、政界に転じた。経歴に照らすと、記憶力や判断力を疑わせるような答弁に違和感を禁じ得ない。

◆受験生「記憶にないわけないでしょ」

 盛山氏に名案が思い浮かばないのならと、知恵を授けてくれそうな学問の神様をまつる東京・湯島天神の周辺で参拝者らに聞いてみた。
自身に対する不信任決議案が否決され、議席に戻り笑顔を見せる盛山文科相(中央)=20日午後、国会で

自身に対する不信任決議案が否決され、議席に戻り笑顔を見せる盛山文科相(中央)=20日午後、国会で

 受験シーズン真っただ中、志望大学への合格を祈願した高校3年の女子生徒は「記憶にないわけないでしょう」と突っ込み。「信頼を取り戻す方法が分からないなら、信頼感のある人に交代するしかないのでは」と即答した。盛山氏の問題と受験問題のどちらが難しいか尋ねると、「受験の方がよほど難しいです」と話した。

◆「やめるしか」「また同じ問題起きる」

 年金生活者という都内の男性(72)も「学問の神様の前で聞くほどの難問でもない」と一蹴。「本当に記憶になくても問題だし、覚えてるのに忘れたふりをしていても問題。どっちにしてもやめるしかないと思う」
 取材では同じように辞任を求める声が目立ったが、中には冷めた意見も。新潟市から観光で訪れた植木職人の男性(70)は「関係を断つと言っても次々に問題が発覚するのは、それだけ統一教会自民党は根深くくっついているからでは。交代してもまた同じような問題が起きるよ」

◆「教団側のリーク」と主張するが…

 盛山氏と旧統一教会側との関係がポロポロと出てきたのはなぜか。盛山氏は16日の閣議後記者会見で「(教団側が)揺さぶりをかけてきているということも十分考えられる」と強調した。昨年10月に文科省が教団の解散命令を東京地裁に請求したことへの「意趣返し」で、教団側から盛山氏との関係が意図的に「リーク」されている可能性を示唆したものだ。
解散命令請求に対する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の記者会見。多くの報道陣が集まった=昨年10月、東京都渋谷区で

解散命令請求に対する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の記者会見。多くの報道陣が集まった=昨年10月、東京都渋谷区で

 一方、世界平和連合は17日、ウェブサイトで声明を発表。その中で、盛山氏が窮地に陥っているのは、岸田首相が2022年8月に教団との関係を断つと宣言したためだと主張した。「こちら特報部」は21日、同連合に、盛山氏の「揺さぶり」発言への受け止めを尋ねたが、期限までに回答はなかった。

◆「接点」報道で安倍派が出ないのは…

 教団側の情報工作が疑われるのは、このところ過去の「接点」が報じられているのは、岸田首相をはじめ、林芳正官房長官、今回の盛山氏と、「岸田派」ばかりだからだ。ジャーナリストの鈴木エイト氏は「もともと、長年盛山氏を応援したのに解散命令請求を出された憤りが個々の信者にはあった。これまで自民党との関係に配慮した教団側はそういう憤りを抑えていたが、今回、岸田派に限ってはリークを黙認している状況だ。関係が深い安倍派の話が一切出てこないのもその裏付けだ」と話す。
 とはいえ、盛山氏と教団側の間に問題視される接点があったのは事実だ。「22年に実施した自民党の点検の甘さが、教団に付け入る隙を与えている。議員個人だけでなく、自民党が過去、統一教会勝共連合などとどのように付き合ってきたのか、第三者を入れて徹底的に調査しなければ」と鈴木氏は説く。

◆更迭避けるのは「首相の保身」

 文科省の解散命令請求を受け、東京地裁は22日、国と教団側双方に話を聞く「審問」を初めて実施する。また、同省は被害者の救済に向けて、不動産の処分前の届け出を義務付ける「指定宗教法人」に教団を指定する方向で検討している。
衆院予算委で岸田首相(手前)の答弁を聞く盛山文科相

衆院予算委で岸田首相(手前)の答弁を聞く盛山文科相

 こうした手続きが進む中で、盛山氏の不信任案が否決され、岸田首相も「現在は関係を持っていない」と擁護した。しかし、文科省のトップを盛山氏が続けることに問題はないのか。法政大学の白鳥浩教授(現代政治分析)は「教団から選挙支援で便益を得ていたような人物が、解散命令請求を出す組織のトップにいる状況は利益相反だ。これからの裁判で教団と最後まで対抗できるのか、疑念が付きまとう」と指摘する。
 22年10月には、自民党の点検後にも接点が次々明らかになった山際大志郎経済財政・再生相(当時)が事実上更迭された。白鳥氏は「普通に考えたら盛山氏も罷免か更迭するのが筋だ。しかし、それでは岸田首相が自身と教団との接点は『知らない』と不問にしたこととの整合性が全く取れない。盛山氏を擁護するのは、自身の安全を図っているためと見られても仕方ない」と批判する。

◆盛山氏擁護は政治不信を招くだけ

 自民党政治資金パーティーを巡る問題も、衆院政治倫理審査会に誰が出席するかを含めて収束していない。教団の問題を巡る一連の盛山氏の言動や、その盛山氏を擁護して政権の維持を図る岸田首相の姿勢は、政治不信を一層招いているだけではないか。
 駒沢大の山崎望教授(政治理論)は「岸田首相の対応からは、国民からの政治への信頼を回復しないといけない、という切迫感が見えない。支持率が低いのは、一連の対応が国民に認められていないためだ」と指摘し、こう続ける。「支持率の低さは政治そのものへの不信につながる。岸田首相や自民党の話にとどまらず、民主主義をむしばむ危機的な問題であることを厳しく認識する必要がある」

◆デスクメモ

 小学校の学習指導要領は、問題発見・解決能力を学習の基盤に位置付ける。善悪を「見分けられず」、名案が「思い浮かばない」人が教育行政を担うとしたら、子どもたちに顔向けできない。より適任者はいないのか。いや今の党内では、こちらも名案が思い浮かばないのかもしれない。(北)
 

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