落語の「鰻(うなぎ)の幇間(たいこ)」はお客にだまされて、…(2024年2月22日『東京新聞』ー「筆洗」)

 落語の「鰻(うなぎ)の幇間(たいこ)」はお客にだまされて、鰻屋の代金を全額支払うはめになった男の話で、男が腹立ちまぎれに店側に文句を並べたてるところが実におかしい

▼「どこで取れたの、この鰻は。天井裏じゃないのか。3年、舌の上にのっけてもとけやしない」「お香物もよくこんなに薄く切れたもんだ」。文句はお燗(かん)のぬるさ、店の汚さ、果てはお銚子(ちょうし)の柄に及ぶ。「ドジだね」「することに誠意がないんだよ」

▼今の人が耳にすれば、これも立派な迷惑行為の「暴言」「権威的態度」「長時間拘束」に該当するか。東京都は顧客の暴言や理不尽な要求などによる「カスタマーハラスメント」を防止する条例の制定を検討しているそうだ

▼全国初のケースらしい。客からの迷惑行為で従業員が心身をすり減らし、退職するケースも増えている現状を思えば、その効果を見たい

▼迷惑行為の裏には客側の「自分こそが正しい」「店を教育してやる」という一方的な思い込みがあるのかもしれぬ。店も客も対等。客となる身はここをよくわきまえておきたい

▼<肉屋の小僧に対(たてつ)きて、言(こと)荒くいひて 怒りを買はむ心あり>は釈迢空(しゃくちょうくう)(折口信夫)。肉に脂身が多いと店に文句を言ったときの歌らしい。反省の気分も少し混じっているか。お店に言いたいことを言って一時、スッとした気分になったとしても、後で自分が嫌になることはよくある。