テレビは“多様性”とどう向き合えばいいのか――性的マイノリティ当事者の日テレ社員が期待する「オフェンス」意識の浸透(2024年2月22日)

エンタメは多様な人々が活躍してきた場だった

「今ここだったらできるかも」から7年で全社キャンペーンに
中学時代に自身のセクシュアリティを認識し、大学時代も同性愛者であることを周囲にオープンにしてきたという白川氏。メディア企業である日本テレビに入社するにあたり、当事者の立場で発信したいという思いは、「あるにはありました」と振り返る。

しかし、入社した2004年当時は、“LGBTQ”という言葉も普及していなかった頃。今では各局で放送されている男性同士のラブストーリードラマの企画書を、20代の頃は積極的に出していたというが、「やっぱりなかなか通らなかったですね」といい、「定年までに何かできればいいなと、今から思えば悲観的モデルに基づいた未来予測をしていました」と話す。

白川氏が、社会が大きく変化したきっかけと考えているのが、2015年に渋谷区と世田谷区が同性パートナーシップ制度を導入したこと。20代はバラエティ制作、30代半ばまで情報番組のプロデューサーを担当していた白川氏が2017年に報道局へ異動すると、ニュース番組で性的マイノリティに関する話題がたびたび取り上げられるようになっていた。

こうした状況に「“今ここだったらできるかも”と感じ、このテーマに取り組みたいという思いが改めて生まれたんです」と自分の中の思いが再燃。

「社会部の記者として取材する時に、マイノリティ当事者の方がカメラの前で勇気を出してお話ししてくれているのに、同じく当事者である自分が“大変なんですね”なんて他人事のようにウソをつくことは絶対に耐えられなかったので、LGBTQについて学ぶ社内研修の進行役を志願して、その冒頭で自分がゲイであることを200名ほどいた社員の前で公表しました」

この公表には、社会の変化に加え、「やはり先輩として谷生俊美さん(グローバルビジネス局スタジオセンタープロデューサー)がトランスジェンダーであることを公表して、社内で堂々と働いている姿に背中を押された側面もあります」と打ち明ける。

報道局に異動して「今ここだったらできるかも」と動き出してから7年。全社横断的に展開する今回のキャンペーンが実現できたことは、「すごくいい形になったなと思います」と感慨深い様子。「“多様性”をテーマにしたキャンペーンは、民放テレビ局では初めてだと思います。グローバル企業に比べると、まだまだですが、自分たちとしては一歩ずつ進んでいけているのかなと思っています」と手応えを述べた。

■入社20年で日テレ社内に感じる変化

入社して20年という歳月で、日本テレビに身を置いて“一歩ずつ”進んでいる点は、どのように肌で感じているのか。

「それはもういっぱいありますが、個人的にすごく感じるのは、仕事場の中で自分のパートナーの話を自然な流れでできるようになったのが大きいです。例えば、教育に関する企画の話をしていて、男性の社員が“うちの妻が教師なんだけど、こういう課題があると言ってたよ”みたいな発言をするのは自然なことですが、僕は公表するまでそういうことができなかった。もっと砕けた場で、交際している人について聞かれてウソをつくこともあったのですが、今はそんな必要もなく交流できているのが、些細(ささい)なことですが、すごく感じている変化です」

一方で、「性的マイノリティに関していうと、より多くの方が公表したほうがいいとは全く思っていません。日テレの人は“LGBTQ”という言葉を見たら、谷生さんと白川の顔が浮かぶというくらいに身近に感じてくれるようになってありがたいのですが、その先には、目の前の人が、見た目には分からなかったり、明かしていなかったりする様々なマイノリティ性があるかもしれないという感覚を持ってコミュニケーションが進んでいくようになるといいなと思います。僕に対して“白川、どんな女性が好みなの?”と聞いてくる人はもうさすがにいませんが、大多数の“男性に見える人”に対しては、まだそういうコミュニケーションが当たり前にあると思うので、それが次の一歩かなと思いますね」と、さらなる進化に期待を示した。


●白川大介
1981年、大阪府生まれ。04年に日本テレビ放送網へ入社し、『ザ!鉄腕!DASH!!』『ZIP!』などの番組制作に携わる。17年に報道局へ異動し、社会部記者を経て、報道番組『news zero』でカルチャーを担当。21年には生配信番組『Update the world』を企画し、社会の価値観のアップデートを目指した。現在は報道局プロデューサーとして、『news zero』やカルチャー分野のニュース配信に関わりながら、社長室サステナビリティ推進事務局で多様な人材の活躍と共生に向けての活動を行っている。

中島優