函館の特養で日常的に不適切な身体拘束の疑い 市が調査進める(2024年2月21日『NHKニュース』)

一方、施設を運営する法人の理事長は「身体拘束があったことは事実で反省しているが、虐待を指摘されるようなことはしていない」と話しています。

不適切な身体拘束をしていた疑いが指摘されているのは、函館市にある特別養護老人ホーム「恵楽園」です。

NHKが関係者に取材したところによりますと、この施設では入所者のベッドを柵で囲ったり、下半身をシーツやタオルケットできつく巻いたりして、身動きを取れなくさせる行為が日常的に行われていたということです。

介護施設などでの高齢者への身体拘束は介護保険法などで原則、禁止されていて、緊急性のあるやむをえない場合にかぎり認められていますが
▽施設側で検討したうえで
▽本人や家族にも十分説明し理解を求める必要があります。

ところが、この施設の複数の関係者によりますと、介護スタッフらが本人や家族の理解を得ることなく、長年にわたり認知症の入所者を中心に身体拘束を行ってきたということです。

函館市も去年、こうした情報を把握したということで、虐待にあたらないか施設側から聞き取りを行うなど調査を進めています。

一方、施設を運営する社会福祉法人恵山恵愛会」の菅龍彦理事長は「身体拘束があったことは事実で大いに反省しているが、職員が介護に必要と考えて行ったもので、虐待を指摘されるようなことはしていない。施設を改善していくため今後の市の調査には協力したい」と話しています。

施設内の画像には行動を制限されている入所者の姿

 

NHKが入手した施設内の画像には、ベッドの柵から両足を出した状態で座らされ行動を制限されている入所者の姿が写っています。

また、別の画像からは、下半身をシーツなどできつく巻かれ身動きできない様子でベットに横たわっていたり、ズボンを下ろされておむつ姿で放置されたりしている様子がわかります。

画像を提供した関係者によりますと、写っている人はいずれも認知症をわずらい抵抗したり意思表示したりすることが困難な入所者で、本人や家族の同意をえないまま身体拘束が行われていたということです。

職員“身体拘束は少なくとも10数年前から”

 

今回、施設で働く職員が匿名を条件にNHKの取材に応じ、身体拘束の実態などを証言しました。

この職員によりますと、入所者本人や家族の同意をえない身体拘束は少なくとも10数年前から続けられ、介護スタッフの大半が関わったということです。

特に新型コロナの感染が拡大した当時は面会が禁止されたことで家族の目を気にする必要がなくなり、身体拘束が日常化したということです。

この職員は「仲間どうしで見て見ぬふりをしていた。人手不足の中『自分の業務中は動かないでいてほしい』といった自分勝手な考え方をして、入所者がどんな思いをしているか思い至らなかった」と証言しました。

また、認知症の入所者を中心に身体拘束されたことについては「認知症が重いと人に言いつけることもないので問題が発覚しなかった。介護スタッフにとっては身体拘束した方が仕事が楽になるので、放置してきた」と実情を明かしました。

昨年度の高齢者虐待件数

厚生労働省が高齢者が介護施設の職員などから受けた虐待について調べたところ、昨年度の相談・通報件数は2795件で、前の年度より405件増えて過去最多でした。

また、このうち虐待があったと判断された件数も856件で前の年度より117件増えて過去最多を更新しました。

虐待が起きた要因は、複数回答で
▽「教育・知識・介護技術などに関する問題」が56.1%と最も多く
次いで
▽「職員のストレスや感情コントロールの問題」が23%
▽「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制など」が22.5%
▽「倫理観や理念の欠如」が17.9%
▽「人員不足や人員配置の問題と関連する多忙さ」が11.6%でした。

また、虐待の種別では、複数回答で
▽身体的虐待が57.6%
心理的虐待が33%
▽介護等放棄が23.2%
▽経済的虐待が3.9%
性的虐待が3.5%でした。

身体の自由奪う身体拘束は原則禁止

介護施設で利用者をベッドに縛りつけるなど身体の自由を奪う身体拘束は、介護保険法と老人福祉法に基づいた省令で原則、禁止されています。

厚生労働省は、身体拘束について「やむを得ない場合」に限って認めるとしていて、具体的には
▽生命や身体が危険にさらされる可能性が高い「切迫性」
▽身体拘束以外に介護の方法がない「非代替性」
さらに
▽身体拘束があくまでも一時的なものである「一時性」の3つの要件を満たすことを条件としています。

ただ、その判断に当たっては
▽施設側で検討したうえで
▽本人や家族に十分に説明し理解を求めることとしています。

専門家「心身にとってありとあらゆるマイナスの要素」

 

介護施設での身体拘束の問題に詳しい杏林大学の長谷川利夫教授は「ベッドから出られないように周囲を柵で囲むのは明白な身体拘束だし、下半身を縛るようにシーツのようなもので巻くことも身体拘束に非常に近い。こうした行為は身体機能を低下させたり屈辱感を与えたりして、心身にとってありとあらゆるマイナスの要素がある」と指摘しています。

また、長谷川教授は、介護施設などで不適切な身体拘束や虐待があとを絶たない背景に「入所者の世話をしてやっている」という施設側の意識があり、人手不足やけがの予防といった表向きの理由は通用しないと厳しく指摘しています。

そのうえで「施設側が誤った考え方にとらわれないためにも、適切なケアを行っている外部の事例など見識を広める機会を増やすとともに、行政も『身体拘束の根絶』を施設側に訴え続けていくことが必要だ」と話しています。