【政治とカネ問題】杉田水脈・衆院議員「身内企業への支出」隠蔽疑惑 自身が役員を務めたコンサル会社への“業務委託費”が消えていた(2024年2月20日『NEWSポストセブン』)

自民党杉田水脈衆院議員に「身内企業への支出」隠蔽疑惑(時事通信フォト)© NEWSポストセブン 提供

 女性ジャーナリストの伊藤詩織さんを侮蔑するX(旧ツイッター)の投稿に「いいね!」を押したとして、2月8日に最高裁名誉毀損が認定され、55万円の賠償命令が確定した自民党杉田水脈衆院議員(56)。安倍派(清和会)きっての“炎上女王”として数々の騒動を起こしてきた杉田氏は、政界を揺るがすパーティー券の裏金問題でも、派閥からの収入1564万円を記載していなかったとして政治資金収支報告書を訂正したばかり。

【写真】杉田氏の政治団体『なでしこの会』の所在地には杉田氏のポスターやのぼりはなく、扉にはN社のステッカーが

 だが、彼女の「政治とカネ」の疑いはこれだけではなかった。ジャーナリストの大島佑介氏がレポートする。  * * *

 兵庫県宝塚市伊孑志。日本歌劇の聖地・宝塚大劇場周縁の人口約5000人の住宅街の一角に、杉田氏の政治団体杉田水脈 なでしこの会』の事務所は所在している。

 1階部分がテナント、2、3階部分が住居となっている杉田氏の事務所所在地のマンションを訪ねると、テナント部分に所在するはずの事務所には杉田氏のポスターやのぼりはなく、外観からここが彼女の事務所だとは識別できない。

 その代わりに、テナントの扉には不動産・コンサルティング業を営む「N社」のステッカーが大きく貼られている。近隣住民が言う。

「以前はあそこに杉田さんのポスターが貼られ、のぼりも立っていましたが、ここ数年間は見たことがありません。すでに事務所は引っ越して、どこかの会社が入っているのだと思っていました」

 2012年に兵庫6区で日本維新の会から衆議院選挙に出馬した杉田氏は、比例復活で初当選。その後、2014年に次世代の党に移党し、同じ兵庫6区から出馬するも、最下位で落選。以降は2017年に自民党から比例中国ブロックで出馬し再選を果たすまで、宝塚市に拠点を置きつつN社の取締役も務めていた。事情を知る関係者の話。

「落選中の杉田さんは知人のA氏とともに2015年にN社(本社・大阪)を立ち上げ、自身も取締役に就任。設立時にはSNSで〈会社を立ち上げました〉と告知していた。なでしこの会の事務所と同じ部屋にN社の支社を置き、講演や著述活動を行ない、役員報酬も受け取っていました」

 この証言を裏付けるように、2018年の杉田氏の資産報告書には、N社からの役員報酬の発生が見て取れる。

「ですが再選後の2018年3月に杉田さんはN社の取締役を辞任。以降は自民党中国比例第二支部に拠点を移しました。ただ、宝塚市の事務所を閉めたわけではなく、N社が彼女の政治団体『なでしこの会』の事務所業務もしているそうです」(同前)

 なでしこの会の事務所にN社が入居していたのは、そうした経緯があったようだ。

「N社が通常の業務をするなかで、なでしこの会の業務もすべて担っているので、杉田さん側は事務所スタッフを抱えていないはずです」(同前)

 不可解なのは杉田氏からN社へと支払われるカネだ。なでしこの会の収支報告書によれば、2018年から2020年まではN社に対して毎月20万~30万円超の業務委託費が支出されていたが、2021年、2022年にはN社への業務委託費の記載が消えた。

 同時に、それまで年間わずか2万~3万円だったなでしこの会の人件費が2021年に399万3693円、2022年に427万2252円計上された。

 ちなみに2020年のN社への業務委託費は計396万円。これに同年の人件費3万3693円を加えると業務委託費の記載が消えた2021年に計上された人件費と端数まで同じである。なぜ業務委託費が消え、入れ替わるように人件費が計上されたのか。

 この点を追うと、杉田氏が“身内企業”であるN社への出費を収支報告書から隠蔽した疑惑が浮上した。

収支報告書における人件費はブラックボックス

 N社の代表取締役であるA氏に、杉田氏からの業務委託に関してどのような形で、どのようなスタッフが行なっているのかを聞いた。

「業務委託を受けて、ウチの社員が杉田さんの事務所業務を行なっています。内容は主に宝塚市の支援者に対する情報発信などです。杉田さんの支援者からの電話対応もあるので、業務委託という形をとっているんです」

 そう回答したA氏だが、2021、2022年に収支報告書から業務委託費の記載が消えていることを伝えると、「業務委託は現在進行形ですが……」とやや驚いた様子。A氏からすれば、これまでと変わらず“業務委託費が計上されている”との認識だったようだ。

 同じタイミングでなでしこの会が年間約400万円の人件費を計上していることについては「人件費はウチは頂いてないです。よく分からないので、杉田さんに聞いてもらえますか?」と語った。前出の関係者が語る。

「杉田さんからすれば、N社は自身が設立し、過去には役員も務めていた企業です。そんなN社に業務委託費を支払い続けるのは“身内企業への供与”とも捉えられかねない。そこで出費先を記載せずに済む人件費に付け替えたのではないか」

 神戸学院大学法学部教授で憲法学者の上脇博之氏が指摘する。

「収支報告書における人件費はブラックボックスです。人件費の項目は総額だけ書けばよいことになっているので、これまでも出費先を明かしたくない金などを人件費で処理するケースがあった。杉田氏がそれを利用して本来の名目ではない人件費に付け替え、自身と近しい企業への出費を隠そうとしたのであれば問題です」

 業務委託費と人件費、さらになでしこの会の活動実態について4項目からなる質問状を杉田氏の事務所(永田町)に送ったが「N社様とは毎年契約書を交わし、法律に則り、適切に処理しています」との回答のみだった。改めて上脇氏が言う。

「そもそも選挙区ではない宝塚市政治団体を置き続ける理由も不明です。質問に正対した回答もなされておらず説明責任を果たしていません」

 政界がパーティー券のキックバック問題で揺れるいま、「政治とカネ」について、国民からこれまで以上に厳しい目が注がれている。

 なでしこの会には収支報告書が確認できる過去5年間で、清和会から計2134万円が寄付されている。裏金問題で揺れる渦中の派閥からこれだけの大金が流れているのだから、なでしこの会の収支報告書には極めて高い透明性が求められているはずだ。

 収支報告書から身内企業への出費を消した杉田氏の行為は、透明性の追求とは真逆をいくものではないのか。

【プロフィール】

大島佑介(おおしま・ゆうすけ)/ジャーナリスト。大阪府出身。米国、中国に留学後、1999~2004年まで週刊ポスト記者。2004年~2019年まで週刊文春記者として刑事、公安事件を中心に取材。著書に『半グレと芸能人』(文春新書)がある。

週刊ポスト2024年3月1日号