膠着のリニア 地域と向き合えているか(2024年2月19日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 東京・品川―名古屋間で建設工事の続くリニア中央新幹線の開業時期が、見通せない状態になっている。

 

 JR東海が、昨年12月に国に出した工事実施計画で「2027年」から「27年以降」に変更した。

 

 当初掲げた27年の開業はこれまでも「困難」としてきたが、計画の中で明文化した形だ。

 

 トンネルや駅の建設が進む地域の住民に不安が広がっている。行き交うダンプカーなど工事の影響がいつまで続くのか、今後のまちづくりに深刻な影響が出るのではないか、といった懸念だ。

 

 一つ一つと丁寧に向き合っていかねばならない。リニア事業ではこれまで、住民の理解を軽視して情報公開にも後ろ向きな姿勢がJRに目立つ。地域の暮らしを左右する工事を進めている責任を改めて自覚してほしい。

 

 開業が未定となった最大の理由にJRが挙げるのが、静岡県による静岡工区の着工反対だ。

 

 同県の川勝平太知事は、南アルプスを貫く長大トンネルの工事で湧水が流出し、大井川の流量に影響する懸念を示してきた。

 

 長く議論が続いたこの水問題は昨年、進展があった。上流にあるダムの取水を抑制して流出分と同量の水を確保する対策案をJRが示し、県が了解した。

 

 だが、静岡工区の問題はそれで終わりではない。川勝知事が水問題とともに指摘してきた南アルプスの生態系への影響が残る。

 

 国の有識者会議が昨年、監視継続などを求める報告書をまとめて区切りとしたが、知事は納得していない。具体的な保全措置が十分示されていないとし、県の専門部会で議論が続く見通しだ。

 

 この膠着(こうちゃく)状態は容易には解消されないだろう。JRは、時間がかかっても提起された課題に真摯に取り組んでいく必要がある。

 

 川勝知事は最近、静岡以外の区間の先行開業はどうかと提案しているという。JRは先月、これに対し異例の記者会見を開き、部分開業の考えはないと強調した。

 

 JRは、東京、名古屋、大阪の三大都市をつないで一つの「巨大都市圏」を作り出すことをリニア建設の意義として強調する。災害への備えとして日本の大動脈輸送を(東海道新幹線とリニアで)二重系化できる効果も訴える。大都市を結ばなければ意味がない、ということだろう。

 

 その発想の下で山間地の自然や暮らし、地方のまちづくりをないがしろにしていなかったか。いま一度問い直してみてはどうか。