知事辞任を機にリニアを前へ(2024年4月14日『日本経済新聞』-「社説」)

 
報道陣に公開されたリニア中央新幹線の地下トンネルの工事現場=川崎市
 

 静岡県川勝平太知事が辞職する。4月1日の新入職員への訓示で職業差別とも取れる発言をしたことの責任を問われた。発言の中身は言語道断で弁護の余地はなく、辞職はやむを得ない。

 県政の刷新を契機に、遅延を重ねたJR東海リニア中央新幹線計画が早期の実現へ動き出すことを期待したい。

 JR東海は2027年の東京―名古屋間のリニア開通をめざして各地で工事を進めてきたが、静岡工区の着工のメドがたたず、今年3月末に丹羽俊介社長が「27年の開業は実現できる状況になく、新たな開業時期を見通すこともできない」と公式に表明した。

 問題となったのは静岡県を含む南アルプスを貫く全長25キロメートルの長大なトンネルの影響だ。

 川勝知事は17年に南アルプスを水源とする大井川の水量が減る恐れがあるとして工事に「待った」をかけた。その後も工事期間中の地下水の流出や南アルプスの生態系保全、掘削で出る廃土処理など懸念材料を次々に提起した。

 この間、JR東海は様々な対策を打ち出し、専門家を集めた政府の有識者会議も「大井川の中下流域の河川流量は維持される」などとした報告書をまとめた。だが、知事の姿勢はかたくなで、大井川流域の自治体首長からもそれを疑問視する声が上がっていた。

 環境問題を重視するのは当然だが、科学的な知見に即して議論を進めることが重要である。「反対のための反対」は非生産的だ。新たな県政においては、リニア中央新幹線について冷静で合理的な判断を期待したい。

 リニアが開通すれば、東名間はおよそ40分、大阪まで延伸すれば東阪を1時間で結ぶ。移動時間の短縮は日本の基軸である東名阪のより緊密な連携をもたらし、新たな成長に道を開くだろう。

 地震津波東海道新幹線が止まった際も、代替ルートとして大きな役割が期待できる。山梨や長野、岐阜、三重、奈良など沿線各県の振興にもつながる。