人口減少自治体の「空き家を活用した移住促進」が地方財政に重荷となって跳ね返ってくる不幸な未来(2024年5月16日『マネーポストWEB』)

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古い空き家リフォームしてを移住者に安く貸し出す事業を行うところもあるが…(写真はイメージ)
 
深刻な社会問題となっている「空き家」の増加だが、今後さらにこの動きを加速させる要因の1つと考えられているのが、「1人暮らしの高齢者世帯」の増加だ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によれば、2050年に1000万戸を超え、1人暮らし世帯全体の5割近くに及ぶという。そんな現実に対して有効な対策はあるのか? ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者・河合雅司氏が解説する。【前後編の後編。前編を読む
 
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 社人研の推計によれば、1人暮らしの男性高齢者に占める未婚者の割合は2020年には33.7%だったが、2050年には59.7%に急増する。女性は11.9%から30.2%に拡大すると予測している。
 相続する親族がいない1人暮らしの高齢者の増加は、空き家の拡大を加速させそうである。
 親族がいたとしても、独立した子どもなどが相続後に亡くなった1人暮らしの高齢者宅に住むとは限らない。子どもが住宅取得を考える年齢の頃に親が亡くなるのであれば、リフォームして実家に住もうという選択をする人も多くなるだろうが、いまや「人生100年」と言われる時代となり、子どもが定年退職する年齢に達しても親は健在というケースが増えているからだ。
 それは、親が亡くなるまでに、独立した子どもは子どもで自ら家庭を築き、自分の家族と住む住宅を取得して暮らしているということだ。
 実家がよほどロケーションに恵まれた場所にあるというならば別かもしれないが、多くの人は親が亡くなったからといって実家に移り住むという話にはならない。自宅が2軒あっても持て余すことになる。
 親族が少なくなった現代においては、相続を重ねて2軒どころか3軒以上の住宅を所有することになる人もいる。不便な地方の住宅を相続した場合、売ったり貸したりすることが難しく、すべてが放置空き家に転じていくことが珍しくないのだ。
「活用しないのはもったいない」との声も小さくないが、拡大し続ける空き家をどうすればよいのだろうか。
「管理不全」対策など新たな取り組みも始まったが…
 政府は2023年の法改正で、倒壊の恐れや衛生上有害な「特定空き家」の前段階にある空き家を「管理不全空き家」と位置付け、固定資産税の軽減特例の除外対象に加えることとした。
 さらに、今年4月からは不動産の相続登記を義務化した。空き家の所有者が不明となって管理が行き届かなくなることを避けるのが目的だ。
 民間では、空き家活用への取り組みが広がっている。大都市の郊外などでは、築年数の経った空き家を買い取り、リフォームして貸し出すビジネスも見られる。人口減少に悩む自治体では、移住促進策の一環としてリフォームした空き家を移住者に安く貸し出す事業を行っているところも少なくない。
 こうした個々の取り組みをすべて否定するつもりはないが、これらは「一時しのぎの策」だ。残念ながら、空き家問題の根本解決とはならない。
 理由は日本の人口減少が激しすぎるためだ。空き家が誕生するペースが速すぎて、空き家の一部を活用したところで焼け石に水ということである。
 リフォームを施して一時的に「住む人」が現れたとしても、ずっと誰かが住み続ける保証はない。住宅総数と人口減少による需給バランスの崩れを考えれば、再び空き家に戻る可能性が大きい。
 それどころか、過疎地域の空き家をリフォームして貸し出したり、売却したりすることは、人口減少社会においては新たな課題を生むことにもなる。
 人口減少が進む社会で地方が社会機能を維持するためには、ある程度の商圏規模の確保が必要であり、住民の集住を促すことが求められる。さまざまな事業を成り立たたせるのに必要な人口規模を維持できなければ、行政サービスの維持コストは高くなり、民間事業者の撤退や廃業が進むこととなるからである。
 過疎地域の空き家を移住促進策のツールとして活用することは、こうした地域の集住に逆行する。人口減少社会において居住地を分散させる政策をとることは、いずれ地方財政にかなりの重荷となって跳ね返ってくるであろう。
人口減少を前提とした住宅政策とは
 では、今後の対策はどうすべきか。
 まず取り組むべきは、空き家を必要以上に生み出さないようにすることだ。税制をはじめ供給過剰の解消を促す仕組みづくりが急がれる。
 同時に、人口減少に伴って必然的に出てくる空き家について、新たな「住宅」として作り直すものと、別用途の土地活用に向けて壊すものとに分けることが求められる。人口減少社会とは、「住民」となる国民の数が減っていくということだ。使われなくなった住宅をすべて「住宅」として再生することには無理がある。
 社会の担い手が少なくなり、1人暮らしの高齢者世帯が増えるという現実が横たわる中、社会機能を維持するにはどのような街づくりを進めればよいのかを考える視点が不可欠となるということだ。
 人口が減ることを前提とした国土政策の中で、増える空き家をどう扱うか──。日本の住宅政策は大きな曲がり角を迎えている。
(了。前編から読む
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授大正大学客員教授産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。