原爆資料館の混雑対策 発信強化につなげたい(2024年2月17日『中国新聞』-「社説」)

 昨年夏以降、目立っていた入館待ちの長い行列が緩和できそうだ。

 広島市原爆資料館がきのう、混雑対策を始めた。オンラインによる入館チケットの販売と、朝夕の一部時間帯の予約受け付けである。

 昨年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)をきっかけに、国内外から広島を訪れる人が増えている。被爆80年の節目を迎える来年に向け、さらに増えそうだ。

 新型コロナウイルス禍の往来制限が解かれ、歴史的な円安も追い風になっている。被爆地から世界へ、核兵器廃絶の訴えを一層広げていく機会を阻んではならない。

 オンラインによるチケットは、資料館のホームページを通じて、3月1日以降、90日先まで購入・予約できる。日本語や英語、中国語など計15言語に対応している。

 混雑解消に最も有効なのは予約枠の新設だろう。3月から朝と夕方に各1時間延長する開館時間帯だけが対象となる。1年間では700時間を上回る。

 朝夕とも、30分ごとに入館できる人数の上限を300人とした。館内滞在者が600人を超すと混雑した感じになるためだ。朝夕の時間帯を予約しておけば、確実にゆっくり見学できるようになる。

 昨年は炎天下や寒風の中でも行列が長く延びていた。入れずに帰った人がいるほか、入館できても混雑していたため、じっくり見られなかった―との声が上がっていた。

 今回の対策は、第1弾に過ぎないと言えよう。窓口でのチケット購入待ちの時間短縮や分散入館が期待できるが、実際にどれほど効果があるかは、やってみないと分からないからだ。1年間試行して課題が浮かべば、その都度、対応を練る必要がある。

 混雑が解消できなければ、開館時間のさらなる延長を検討すべきである。修学旅行生に配慮しつつ、全ての時間帯を予約制に変えることが求められるかもしれない。

 「核なき世界」を目指す訴えを世界に広げていくには、資料館を核にした市内の他の平和関連施設とのネットワーク構築も急がれる。連携や役割分担を進めて、発信力を強化しなければならない。今年8月には、まず原爆犠牲者追悼平和祈念館とのスクラムが具体化する。祈念館で被爆資料を展示する計画だ。

 袋町小や本川小、旧日銀広島支店をはじめとする被爆建物も積極活用したい。資料館とは違う形の平和学習が可能になれば、ヒロシマ発信を点から面に広げられる。回遊性も高まり、長時間滞在する人が増えるに違いない。地域の活性化も期待できる。