支持率の底なし沼(2024年2月17日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

支持率の底なし沼(2024年2月17日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 最近知った言葉だと言ったら、若い人に笑われるだろうか。「沼る」。周りが見えなくなるほど夢中になることをいうらしい。恋愛にゲーム、食べ物などいろんなものに使え「沼落ち」なる言葉もあるとか。

 「沼」という、ともすれば怖い印象もあるものを軽やかな動詞にしてしまう若い人の感性には脱帽だ。本来の「沼」の怖さを理路整然と説いたのは劇作家の別役(べつやく)実さんである。「さんずい」の付く言葉だけを集めたエッセー集「さんずいあそび」の中で書いている。

 別役さんによると「底なし沼」は「落ちること」「暗闇」「蛇」という、われわれがサルであった時代に感じ取った恐怖をすべて兼ね備えているのだという。最初の二つは分かるが、最後の「蛇」は? 「音もなく、しかも無法則的に近づいてくるから」というのが理由。

 岸田内閣が支持率の低迷から抜け出せない。昨年秋に所得税減税を打ち出したにもかかわらず回復しなかったときは、首相はまさに「底なし沼」に陥った気分になったのではないか。今月初めに行った共同通信社の電話世論調査では約24%。別の調査では「20%を切った」などといった結果もある。

 実物の沼と「支持率の底なし沼」が違うのは後者はいったんハマってしまっても自力で抜け出すことができるということだ。むろん、若者の「沼る」と違い「周囲が見えなくなる」のではなく、十分に周囲や情勢、何より国民が見えていなければならないが。