岸田文雄内閣の支持率が低空飛行を続けています。朝日新聞社が1月20、21日に実施した全国世論調査(電話)で、岸田内閣の支持率は23%でした。昨年12月の前回調査と同じで、2012年に自民党が政権に復帰して以降、最も低い支持率です。前々回の11月は25%、その前の10月も29%でした。なぜ? 昨年1月以降の全国世論調査の結果から探ってみました。(朝日新聞記者・四登敬)
不支持の理由 最多は「政策の面」
調査では毎回、内閣を支持する理由、支持しない理由を質問しています。このうち、支持しない理由の変化を見てみました。 最も多いのは「政策の面」です。昨年1月は33%、最も多かった昨年11月の調査(18、19日実施)は42%でした。
<岸田内閣を「支持しない」理由は…> 政策の面=33%(2023年1月)、29%(2月)、30%(3月)、25%(4月)、23%(5月)、25%(6月)、28%(7月)、30%(8月)、27%(9月)、33%(10月)、42%(11月)、34%(12月)、32%(2024年1月)
自民党中心の内閣=9%(2023年1月)、12%(2月)、11%(3月)、9%(4月)、11%(5月)、13%(6月)、11%(7月)、10%(8月)、14%(9月)、13%(10月)、10%(11月)、17%(12月)、18%(2024年1月) 他のほうがよさそう=5%(2023年1月)、5%(2月)、5%(3月)、6%(4月)、4%(5月)、4%(6月)、7%(7月)、7%(8月)、8%(9月)、8%(10月)、6%(11月)、8%(12月)、9%(2024年1月)
首相が岸田さん=4%(2023年1月)、4%(2月)、3%(3月)、3%(4月)、2%(5月)、4%(6月)、4%(7月)、5%(8月)、3%(9月)、5%(10月)、6%(11月)、5%(12月)、6%(2024年1月)
※コンピューターで無作為に電話番号を作成し、調査員が電話をかけるRDD方式で調査。その他は省略。
この11月調査の直前、政府は、岸田首相が打ち出した所得税などの定額減税を盛り込んだ「経済対策」を決めました。 これを受け、同月の調査では、「政府は、経済対策として、所得税などを1人あたり年4万円減税し、低所得世帯に対しては現金7万円を給付することを決めました。あなたは、この減税と現金給付を評価しますか」と質問したところ、「評価しない」は68%でした。
さらに、「あなたは、岸田首相がこの減税と現金給付を打ち出したのは、どちらかといえば、国民の生活を考えたからだと思いますか。それとも、政権の人気取りを考えたからだと思いますか」と尋ねると、「政権の人気取り」が76%を占めました。 政権の浮揚を狙った政策と見透かした有権者からの批判が多数を占め、不支持理由の「政策の面」が高まった可能性が考えられます。
「自民党中心の内閣」が上昇 「政治とカネ」が影響
ところが、「政策の面」は翌12月調査(16、17日実施)で34%、今年1月の調査では32%に落ちます。 12月になって世の中の注目を集めたのは、自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題でした。 11月までは、いくつかの派閥が政治資金収支報告書を相次いで修正した、という報道でしたが、
月が変わると、清和政策研究会(安倍派)や志帥会(二階派)で、所属議員が販売ノルマを超えて集めた分を派閥の収支報告書の収入に記載せず、議員側に環流して裏金化していた疑惑が相次いで発覚。自民党への風当たりが強まります。
内閣を支持しない理由にも、このことが現れます。 不支持理由に「自民党中心の内閣」を挙げる人は、11月調査は10%でしたが、12月調査は17%に跳ね上がり、今年1月調査も18%でした。
自民党が政権に復帰した12年以降で、最も高い割合です。 無党派層に限ると、11月調査は12%でしたが、1月調査は20%まで増えました。政治とカネに揺れる自民党への批判が、岸田内閣の支持率低迷の要因になっているようです。
自民党の支持率も下落傾向にあります。昨年1月は33%でしたが、7月には20%台に落ち込みました。 それでも11月まで同水準で推移したものの、裏金問題が発覚した後の12月調査ではもう一段落ちて23%になり、今年1月も24%と低調です。
<主な政党の支持率は…> 自民=33%(2023年1月)、31%(2月)、31%(3月)、32%(4月)、33%(5月)、33%(6月)、28%(7月)、28%(8月)、27%(9月)、26%(10月)、27%(11月)、23%(12月)、24%(2024年1月)
立憲=6%(2023年1月)、6%(2月)、6%(3月)、5%(4月)、5%(5月)、4%(6月)、4%(7月)、4%(8月)、4%(9月)、4%(10月)、5%(11月)、5%(12月)、4%(2024年1月) 維新=4%(2023年1月)、4%(2月)、4%(3月)、6%(4月)、7%(5月)、6%(6月)、7%(7月)、5%(8月)、7%(9月)、6%(10月)、5%(11月)、4%(12月)、6%(2024年1月) 公明=4%(2023年1月)、4%(2月)、4%(3月)、2%(4月)、4%(5月)、2%(6月)、3%(7月)、3%(8月)、3%(9月)、3%(10月)、4%(11月)、3%(12月)、3%(2024年1月) 共産=2%(2023年1月)、3%(2月)、3%(3月)、2%(4月)、3%(5月)、2%(6月)、2%(7月)、2%(8月)、3%(9月)、3%(10月)、3%(11月)、4%(12月)、2%(2024年1月) 無党派層=47%(2023年1月)、46%(2月)、48%(3月)、49%(4月)、45%(5月)、49%(6月)、51%(7月)、54%(8月)、50%(9月)、53%(10月)、50%(11月)、54%(12月)、54%(2024年1月) ※コンピューターで無作為に電話番号を作成し、調査員が電話をかけるRDD方式で調査。その他は省略。
「事務的なミス」首相の発言への評価は
政治とカネの問題で、「身内」に足を引っ張られていると言えなくもない岸田内閣の支持率ですが、首相自身の発言も響いているようです。 自民党派閥の政治資金パーティーをめぐっては、岸田首相が会長を務めていた宏池政策研究会(岸田派)もパーティー収入など約3千万円を政治資金収支報告書に記載していなかったことがわかりました。
今年1月に入り、東京地検特捜部が岸田派の元会計責任者を立件する方針を固めたことが報じられると、岸田首相はその日の朝、記者団に「事務処理上の疎漏(そろう)と承知している。それ以上のことは承知していない」、「事務的なミスの積み重ねだ」などと説明しました。 1月調査で、この岸田首相の発言について「自民党の岸田派が、およそ3千万円の収入を政治資金収支報告書に記載しなかったことがわかりました。会長を務めていた岸田首相は『事務的なミス』と話しています。あなたは、この説明に納得できますか」と質問しました。
調査結果は、「納得できない」が89%を占めました。自民支持層でも76%、無党派層では93%に上ります。ほぼ、「総スカン」の状態と言えそうです。
<「事務的なミス」岸田首相の説明に…> 全体=納得できる7%、納得できない89% 自民支持層=納得できる18%、納得できない76% 無党派層=納得できる3%、納得できない93%
※その他・答えないは省略。
コンピューターで無作為に電話番号を作成し、固定電話と携帯電話に調査員が電話をかけるRDD方式で、1月20、21の両日に全国の有権者を対象に調査した。
固定は有権者がいると判明した949世帯から456人(回答率48%)、携帯は有権者につながった1774件のうち723人(同41%)、計1179人の有効回答を得た。
この発言は野党だけでなく、自民党内からも「自分だけ知らぬ存ぜぬは通らない」と批判の声が上がりました。 自身が会長だった派閥側の立件が報じられたことに加え、こうした批判の声もあったためか、岸田首相は、岸田派の解散を検討していると表明し、自民党の複数の派閥が解散するという流れを作ることになります。
ただ、派閥を解散しても、政治とカネの問題が根本的に解決するとは思えません。政治資金の流れを透明化する制度改正の議論を、有権者が納得する形で深める必要があります。
個々の政治家も、政治資金収支報告書の内容を訂正するだけでなく、報告書に記載しなかったお金を何に使ったのか、具体的に有権者に説明することが求められます。まして、自民党総裁でもある岸田首相の説明責任は、言うまでもありません。
岸田首相はこれから先、政治とカネの問題に対してどのような姿勢をとるのでしょうか。それを、有権者はどのように受け止めるのでしょう。今後の全国世論調査には、そうした評価も含まれた結果が現れます。