困難をやり過ごす技(2024年2月14日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

運鈍根

 「運鈍根(うんどんこん)」という言葉がある。成功するための3要素で運と根気。そして「鈍」は粘り強くチャンスを待つことといわれる。ただ自己流の解釈だが「鈍」は文字通り鈍いことであってもいい。いわば“鈍感力”。


 いい意味でだが、困難に遭遇しても、まるで気付かないようにやり過ごす。むろん簡単ではない。今日、宮崎日日新聞スポーツ賞を受ける大庭康資さん(45)=高鍋町=も過去の記事を見ると、生来備えている前向きな力を日々の鍛錬でさらに強くした印象を受ける。

 生後間もなく左目が見えなくなり、右目の視力も次第に落ちて22歳で失明。失意で沈みそうだが、切り替えが早かった。「全く見えなくなって吹っ切れた。普通の生き方はできないが、普通ではできないことをやろうと思った」。カンフー映画の影響から空手道場に入門。

 県内では指導法も確立されていない頃だ。通常なら師匠やビデオで形を見て覚えるが、「人の足音やラーメンの匂いなど、目から得る以外の情報を総動員する」大庭さんは細かい努力を重ねて成長。昨年10月にハンガリーであった空手の世界パラ選手権男子視覚障害者部門(形)で銀メダルに輝いた。

 大庭さんの活躍は「県障がい者空手道協会」の創設につながった。周囲の支えに感謝し「行動しないと何も始まらない。いろんな経験をしていきたい」と前進を続ける大庭さん。贈呈式ではインタビューもある。運鈍根の一端に触れて元気をもらえるはずだ。