「裏金」アンケート 国民への説明が足りない(2024年2月15日『熊本日日新聞』-「社説」)

 たった二つの質問で何が分かるというのか。自民党の「裏金」アンケートは、実態解明への消極姿勢を際立たせた。国民への丁寧な説明を欠いたまま、政治改革を進められるはずはない。
 

 「政治とカネ」を巡る衆院予算委の集中審議で、岸田文雄首相は「党として説明責任を果たすことが大事」と述べた。野党の求めに応じ、政治倫理審査会(政倫審)に安倍派幹部らの出席を促すのが党総裁の責任である。

 自民が公表したアンケート結果によると、現職国会議員374人と選挙区支部長10人のうち、政治資金収支報告書への不記載があったのは85人だった。2018~22年の裏金は総額5億8千万円近くに上り、二階俊博元幹事長が3526万円で最も多かった。

 アンケートで尋ねたのは「収支報告書への不記載の有無」と「5年間の金額」だけだ。それ以外の設問はなく、裏金づくりの動機や経緯、使い道などは分からない。

 不記載の現職議員は安倍派と二階派に属し、新たに申告した議員はいなかった。調査対象も5年間に限ったため、東京地検特捜部の捜査内容にほぼ沿った結果にとどまる。17年以前に裏金づくりがあったのかどうかも不明だ。いつ、誰が、なぜ始めたのか。どう管理し、何に使い、残った分はどうしたか。こうした疑問に一切答えておらず、全容解明には程遠い。

 裏金づくりには、パーティー券の販売ノルマを超えた金額が派閥から還流されたほか、議員がノルマ超過分を派閥に納めずにプールする「中抜き」もあったとみられる。調査結果には「一部派閥が報告書に記載しないよう指導していた」と記したものの、議員ごとの手法は判然としない。

 不記載議員は立件されなかっただけで、裏金に手を染めたことに変わりはない。調査は本来、通帳や帳簿、領収書などのチェックが必要なはずだ。それを議員の自己申告に委ねており、党内調査の説得力が乏しいのは明らかだ。

 収支報告書の訂正内容も目に余る。安倍派幹部「5人組」の萩生田光一政調会長の選挙区支部は20~22年の報告書に派閥からの収入を追加したが、支出目的や金額は「不明」とした。二階氏の資金管理団体は、支出に「書籍代」として約3400万円を追加した。政治資金の不透明、不自然な使われ方も検証を要する。

 自民は1月にまとめた政治改革の中間報告で、派閥をカネと人事の役割をなくす政策集団に変えるとした。作業部会は政治資金規正法、党則改正の議論を始めた。再発を防ぐ対応は急ぐべきだが、裏金の実態を伏せたままでは抜本的な改革にはつながるまい。

 裏金に関わった安倍派、二階派の幹部らはこれまで、検察の捜査などを理由に詳しく説明していない。捜査に区切りが付き、政倫審は説明の機会となろう。証人喚問と違って出席義務はなく、偽証罪にも問われないが、欠席やあいまいな答弁では、自民党への不信感はさらに深まるに違いない。