停止中の北陸電力志賀(しか)原発が被災した能登半島地震震源域で、同社の想定より広範囲で活断層が連動した可能性が高いことが分かった。既に10年近くかかっている原子力規制委員会の新規制基準審査は、さらに長びくとみられる。想定を超える断層の動きがあったとすれば、安全性確認のため再稼働への判断が遅れるのはやむを得ない。規制委には厳格で慎重な審査を求めたい。

 能登半島地震志賀原発震度5強の揺れに襲われ、敷地前の海域で最大高さ3メートルの津波が観測された。変圧器が破損して油が漏れ、計5回線ある外部電源のうち2回線が使えなくなった。また周辺の放射線監視装置(モニタリングポスト)の一部が測定できなくなったほか、使用済み核燃料プールから水があふれた。

 北陸電は「安全確保に問題は生じていない」としているが、東京電力福島第1原発事故の原因も電源喪失だった。地元住民に不安を与えるトラブルであり、決して過小評価はできない。揺れの加速度は設計上の想定を一部で上回り、変圧器の破損も想定外だったという。専門家による地震の分析結果を待ち、再稼働審査に生かさなければならない。

 志賀原発には原子炉が2基あり、いずれも福島原発事故があった2011年3月から停止している。北陸電は14年に2号機の再稼働に向けた審査を申請し、能登半島北側で活断層が約96キロ連動すると想定した。昨年、周辺の断層の審査が始まった。

 ところが能登半島地震では、150キロ程度が連動した可能性があると政府の地震調査委員会が指摘した。北陸電が予測していた活断層の動きとの差はあまりにも大きい。断層評価の前提が崩れた以上、想定を一から見直すとともに、耐震設計などを再検討してもらいたい。

 能登半島地震原発が抱えるリスクを改めて示した。志賀原発で判明した「想定外」は、稼働中の原発や既に審査に合格し、再稼働を控える原発でも起きる恐れがある。

 従来の審査も断層を巡り電力会社と規制委の見解が異なる例があった。関西電力大飯、高浜原発福井県)では若狭湾の断層2本連動(約35キロ)の想定に対し、規制委は3本連動(約63キロ)の可能性を指摘した。四国電力伊方原発では中央構造線断層帯の連動が論点となり、約54キロの想定を約480キロに見直した。会社側の想定の甘さは否めない。

 活断層評価や電源確保の問題など今回の地震で得た知見は、全ての原発の安全対策に反映させる必要がある。規制委は、審査に合格した施設にも新たな規制をさかのぼって命じる「バックフィット」をためらわずに適用すべきだ。