米軍事件見舞金判決 被害者救済制度を改めよ(2024年12月19日『琉球新報』-「社説」)
米兵事件の被害者を救済する制度を早急に改めなければならない。これは基地の提供義務を負う国の責務である。
公務外の米兵が起こしたタクシー強盗致傷事件の損害補償について、米軍の支払い分を除いた額を日本政府が肩代わりする「SACO見舞金」について争った訴訟で、最高裁は補償金元金だけでなく遅延損害金を含む補償金の支払いを国に求めた遺族の請求を棄却した。
事件発生から既に16年が経過している。公務外の米兵事件の賠償に長い年月を要するばかりか、被害者や家族が納得できる賠償金が支払われない制度上の欠陥が裁判の過程で浮き彫りとなった。
遺族敗訴が確定したものの、判決文の大部分を占める個別意見は現在の被害者救済制度の不備を厳しく指摘した。政府は重く受けとめ、制度改正を急ぐべきだ。この問題は国政で解決されなければならない。日米地位協定の不平等性を放置してきた国の不作為が問われている。
タクシー運転手の男性を襲った強盗致傷事件が起きたのは2008年1月である。男性はその後、病死した。遺族が起こした民事裁判で元金約1737万円、補償の遅れで生じる遅延損害金約905万円の計約2642万円の支払いが確定している。
沖縄防衛局は「加害者本人の責任であり、被害救済とは別」として遅延損害金の支払いを拒んでおり、米国側から支払われた約146万円と遅延損害金を差し引いた見舞金の支給案を遺族に提示した。さらに、遅延損害金を除く見舞金の支給に同意する書類の提出を遺族に求めた。遅延損害金も含む賠償金の支払いを求める遺族は書類を提出せず、国を提訴した。
最高裁判決は書類の未提出について「遺族と国との間で支給の合意は成立していない」として遺族の請求を退けた。被害者救済制度の課題には触れず手続き論にとどまる判決であり、受け入れられるものではない。
他方、三浦守裁判長による長文の個別意見は防衛局による遅延損害金の除外について、「公平かつ公正な被害者救済の理念に反する」と断じている。さらには「重大犯罪が繰り返されている沖縄の住民負担を真に軽減することは国政の重大な課題である。被害者等が遅滞なく十分に救済されることが肝要であり、制度の基本的な在り方が問われる」と論じている。
まさに正論というべきであろう。本来であれば、このような認識に立った司法判断が下されるべきであった。
米軍事件の被害者になったばかりに生活が一変してしまった被害者はただちに救済されるべきである。特に公務外の事件では、被害者救済が実現するまでに数年を要する場合がある。このような現状はただちに是正する必要がある。政府、国会は議論を急がなければならない。
米兵事件の見舞金支給 真の救済へ見直し必要(2024年12月18日『沖縄タイムス』-「社説」)
2008年に沖縄市で起きた米兵による強盗致傷事件の被害者の遺族が、「SACO見舞金制度」に基づく見舞金を国が支払わないのは違法と訴えた国家賠償請求訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は請求を退けた。
同制度は、公務外の米軍人・軍属による事件や事故の損害について加害者が賠償しない場合、米側の支払った慰謝料と、裁判で確定した賠償額の差額を日本政府が支払う努力を定める。
事件では米兵2人がタクシー運転手の男性を酒瓶で殴り、重傷を負わせた。男性は事件後、PTSDに苦しみ、12年に亡くなった。
遺族は米兵2人に対し、損害賠償を求め、17年に提訴した。翌18年に遅延損害金900万円を含む約2640万円の賠償額が確定し、日本政府に支払いを申請した。
ところが沖縄防衛局は遅延損害金を支給対象から外し、今後も求めないと約束する受諾書の提出を要求した。遺族側は国を相手に遅延損害金を含めた見舞金の支払いを求め、提訴した。
最高裁は一審、二審と同様に遺族の訴えを認めなかった。受諾書を提出していないことから国との間の合意が成立せず、国の賠償責任は生じないと判断した。
賠償額の確定には時間がかかる。被害者側が遅延損害金を請求しないことを引き換えに見舞金を支給するのでは、真の救済には程遠い。
制度の課題に触れず、手続き論で退ける木で鼻をくくったような判決だ。
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一方、今回の判決では裁判長による異例の個別意見が付いた。
沖縄防衛局が、受諾書提出を見舞金支給の条件としていることに「差額の見舞金を支給しないことは信義則上の義務に違反し、被害者の法的利益を害している」と断じた。
事件から16年。この間、遺族が受け取ることができたのは米側の慰謝料146万円のみである。
被害者の迅速な救済を目的とする制度の趣旨を考えれば、防衛局は遅延損害金を含む見舞金の支給に応じるべきだ。
日本政府はSACO見舞金の支払いを「努力義務」としている。
しかし、日米安保条約に基づき、米軍基地を提供しているのは日本政府だ。
公務内外を問わず、米軍関係の事件、事故の被害者を保護し、救済する大きな責任がある。
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23年度までの27年間に県内での米軍人・軍属らの刑法犯検挙件数は1412件に上るのに対し、沖縄防衛局が支払ったSACO見舞金は10件にとどまる。
見舞金申請では、加害者に対する損害賠償訴訟にためらう被害者や、制度自体を知らない被害者が相当数いると想定される。加害米兵が国外へ転居すれば、訴訟を起こすことも難しい。
被害者側の負担は重い。申請を前提とした仕組みに課題があるのではないか。
被害が確定した時点で、国が一定の見舞金を支給するなど制度の見直しを議論すべきだ。
米兵の移転開始 沖縄の負担軽減に程遠い(2024年12月17日『新潟日報』-「社説」)
ようやく始まった米海兵隊員の国外移転だが、計画に対して実行されたのはごくわずかだ。これでは沖縄の基地負担軽減がいつ実現するのか疑問だ。今後の移転が早急に進むよう日本政府は働きかけねばならない。
12年には日米両政府が、約1万9千人いる沖縄海兵隊のうち約9千人を国外に移し、その中の4千人以上の移転先をグアムとすることなどを決めた。
今回の100人は米軍再編で合意して以降、初めての移転で、25年中に完了させる。中谷氏は「大きな節目」と評価している。
しかし、合意から18年もたち、100人が動くだけでは、地元から「少なすぎる」との不満が漏れるのも理解できる。
米軍に任せ切りではなく、日本側も積極的に移転を求めていく姿勢が必要だ。
とはいえ、ごく少数で今後の移転も未定では、目に見える負担軽減とは言い難い。
米軍にとってグアム移転は、インド太平洋地域で軍備増強を進める中国をにらみ、兵力を分散・機動化して抑止力を強化する狙いがあるのだろう。
ただ、沖縄を戦略的要衝に位置付け、対中国の防壁とする方針に変わりはない。南西諸島方面の防衛態勢に隙を生じさせてもならず、移転が少数にとどまったのは、慎重に計画を進めたい思惑が反映したとみられる。
日米合意が確実に履行されていくか注視していかねばならない。
沖縄では米兵による性的暴行事件が後を絶たない。
米軍は問題が起きるたびに綱紀粛正を掲げるが、類似事件が頻発する状況は到底許されない。米兵への信頼が失われれば、日米安保体制の根幹を揺るがす。
沖縄の女性からは「米兵がいなくならない限り犯罪はなくならない。移転がたった100人では安心できない」との声も出ている。
沖縄の負担軽減を根本的に図ることを、沖縄だけではなく日本全体で考えていかねばならない。
米兵少女誘拐暴行判決 「同意」主張を断罪した(2024年12月14日『琉球新報』-「社説」)
判決は無罪を訴えていた被告の主張を退け、「悪質さが際立つ」と断じた。被告が少女に謝罪していないことなどを踏まえ「犯情は重く実刑は免れない」と指摘した。
事件から1年近くが経過した。被害に遭い、法廷で証言した少女や家族にとってつらい日々であっただろう。平穏な暮らしが訪れることを願いたい。関係者は少女の精神的ケアを重ねてほしい。
起訴状によると、米兵は昨年12月24日、本島内の公園にいた少女を車に誘い込んだ上で、少女が16歳未満であることを知りながら自宅で性的暴行を加えた。
少女が16歳未満であることを認識していたか、同意があったかどうかが争点となった。法廷での証言で少女はジェスチャーで実年齢を伝え、わいせつ行為に対して抵抗したと主張した。被告米兵側は少女を18歳と認識し、同意があったとして無実を主張した。判決は、少女の証言は「不自然不合理ではなく整合的で信用できる」とした。
被告に適用された不同意性交罪は、性犯罪事件の無罪判決に抗議するフラワーデモの高まりなどで昨年6月に可決成立した刑法改正で設けられた。同意のない性行為は犯罪であることを明確にした。判決は被告の「同意」主張を、法に基づき断罪したのだ。
判決後、米空軍嘉手納基地第18航空団司令官のニコラス・エバンス准将は「このような事件が起きたことを心から遺憾に思う」とした声明を発表した。この中で「日米同盟を支えるために沖縄で名誉ある任務に就いている何千もの米軍兵士の価値観を反映したものでは決してない」と強調している。
この発言は容認できない。日米同盟こそ米軍絡みの事件・事故の温床であり、県民の人権を侵す元凶である。判決直後の声明が22日に予定されている県民大会を念頭に、世論の沈静化を図る狙いがあったとすれば言語道断だ。米軍、日米両政府は日米同盟を称揚するのではなく、米軍人・軍属による性犯罪抑止の抜本策を確立すべきだ。
今回の事件を巡っては、政府が沖縄県に通知しなかったことも問題となった。今年5月に発生した事件についても報道で発覚するまで県に連絡はなかった。速やかな情報提供があれば、関係機関の連携でその後の事件を防ぐことができた可能性がある。
米兵は逮捕されることなく、起訴後も否認しているのにもかかわらず釈放されるなど、日米地位協定下で特権的な扱いを受けた。被疑者が米兵だという理由で特別扱いされる現状は異常である。日米両政府は直ちにこの不平等を解消すべきである。
暴行米兵に懲役5年 少女の勇気に応えねば(2024年12月14日『沖縄タイムス』-「社説」)
少女の勇気ある告発が司法の裁きにつながった。
争点となっていたのは、少女の年齢に対する認識と同意の有無だった。裁判所は、少女が16歳未満であることを日本語・英語・指のジェスチャーで伝えたとする主張は防犯カメラの映像などとも整合しており「十分に信用できる」と認め、被告が年齢を把握していたと判断した。
同意の有無について、性的暴行を受けた際に「やめて」「ストップ」と言ったとの主張も「年齢や体格差もある中、恐怖を感じつつも取り得る精いっぱいの拒絶の意思表示としてごく自然だ」とした。
2023年に施行された不同意性交罪では、被害者が13歳以上16歳未満で加害者が5歳以上年上なら、同意の有無に関係なく罪が成立する。
判決は「若年の被害者に対する性的侵害の程度の大きい犯行」「若年の被害者の性的自由に関する意思決定をないがしろにしており悪質さが際立つ」と断じており、法改正の趣旨に沿ったものだといえる。
ただ、初犯であることが考慮され、不同意性交罪の量刑の下限である5年となった。
求刑は7年である。少女が受けた恐怖や心の傷と比べると、十分な量刑といえるのか。
■ ■
釈然としないのは、同意の有無に関して那覇地裁が、少女が「やめて」と言うまで、特段の拒絶の意思表示はなく、被告が「同意があるものと誤信していた可能性が残る」と結論付けたことだ。
性犯罪では、被害者が恐怖のあまり声を出したり、抵抗したりできないケースが多々ある。
昨年の法改正で、恐怖や驚(きょう)愕(がく)でフリーズ状態になった場合も不同意と認められるようになったにもかかわらず、疑問が残る内容である。
被害少女は公判に出廷し、5時間にわたる尋問で、つらい体験を詳細に語らなければならなかった。
継続的な心のケアが必要だ。「あなたは悪くない」と社会がメッセージを伝え続けたい。
■ ■
今回の事件のきっかけになった場所は地域の公園だった。生活圏に米兵がいる環境が沖縄では当たり前だ。米軍基地が集中していなければ事件は起きなかったはずだ。
事件を日本政府が県警や県に伝えず、起訴から約3カ月後の6月に報道で明るみに出るなど、公表の遅れも問題になった。
米兵による性犯罪は戦後、連綿と続き、沖縄の女性の人権が侵害され続けている。少女の勇気ある告発に応える責任が日米両政府にはある。これ以上被害者を出さないために。
判決は無罪を訴えていた被告の主張を退け、「悪質さが際立つ」と断じた。被告が少女に謝罪していないことなどを踏まえ「犯情は重く実刑は免れない」と指摘した。
事件から1年近くが経過した。被害に遭い、法廷で証言した少女や家族にとってつらい日々であっただろう。平穏な暮らしが訪れることを願いたい。関係者は少女の精神的ケアを重ねてほしい。
起訴状によると、米兵は昨年12月24日、本島内の公園にいた少女を車に誘い込んだ上で、少女が16歳未満であることを知りながら自宅で性的暴行を加えた。
少女が16歳未満であることを認識していたか、同意があったかどうかが争点となった。法廷での証言で少女はジェスチャーで実年齢を伝え、わいせつ行為に対して抵抗したと主張した。被告米兵側は少女を18歳と認識し、同意があったとして無実を主張した。判決は、少女の証言は「不自然不合理ではなく整合的で信用できる」とした。
被告に適用された不同意性交罪は、性犯罪事件の無罪判決に抗議するフラワーデモの高まりなどで昨年6月に可決成立した刑法改正で設けられた。同意のない性行為は犯罪であることを明確にした。判決は被告の「同意」主張を、法に基づき断罪したのだ。
判決後、米空軍嘉手納基地第18航空団司令官のニコラス・エバンス准将は「このような事件が起きたことを心から遺憾に思う」とした声明を発表した。この中で「日米同盟を支えるために沖縄で名誉ある任務に就いている何千もの米軍兵士の価値観を反映したものでは決してない」と強調している。
この発言は容認できない。日米同盟こそ米軍絡みの事件・事故の温床であり、県民の人権を侵す元凶である。判決直後の声明が22日に予定されている県民大会を念頭に、世論の沈静化を図る狙いがあったとすれば言語道断だ。米軍、日米両政府は日米同盟を称揚するのではなく、米軍人・軍属による性犯罪抑止の抜本策を確立すべきだ。
今回の事件を巡っては、政府が沖縄県に通知しなかったことも問題となった。今年5月に発生した事件についても報道で発覚するまで県に連絡はなかった。速やかな情報提供があれば、関係機関の連携でその後の事件を防ぐことができた可能性がある。
米兵は逮捕されることなく、起訴後も否認しているのにもかかわらず釈放されるなど、日米地位協定下で特権的な扱いを受けた。被疑者が米兵だという理由で特別扱いされる現状は異常である。日米両政府は直ちにこの不平等を解消すべきである。
暴行米兵に懲役5年 少女の勇気に応えねば(2024年12月14日『沖縄タイムス』-「社説」)
少女の勇気ある告発が司法の裁きにつながった。
争点となっていたのは、少女の年齢に対する認識と同意の有無だった。裁判所は、少女が16歳未満であることを日本語・英語・指のジェスチャーで伝えたとする主張は防犯カメラの映像などとも整合しており「十分に信用できる」と認め、被告が年齢を把握していたと判断した。
同意の有無について、性的暴行を受けた際に「やめて」「ストップ」と言ったとの主張も「年齢や体格差もある中、恐怖を感じつつも取り得る精いっぱいの拒絶の意思表示としてごく自然だ」とした。
2023年に施行された不同意性交罪では、被害者が13歳以上16歳未満で加害者が5歳以上年上なら、同意の有無に関係なく罪が成立する。
判決は「若年の被害者に対する性的侵害の程度の大きい犯行」「若年の被害者の性的自由に関する意思決定をないがしろにしており悪質さが際立つ」と断じており、法改正の趣旨に沿ったものだといえる。
ただ、初犯であることが考慮され、不同意性交罪の量刑の下限である5年となった。
求刑は7年である。少女が受けた恐怖や心の傷と比べると、十分な量刑といえるのか。
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釈然としないのは、同意の有無に関して那覇地裁が、少女が「やめて」と言うまで、特段の拒絶の意思表示はなく、被告が「同意があるものと誤信していた可能性が残る」と結論付けたことだ。
性犯罪では、被害者が恐怖のあまり声を出したり、抵抗したりできないケースが多々ある。
昨年の法改正で、恐怖や驚(きょう)愕(がく)でフリーズ状態になった場合も不同意と認められるようになったにもかかわらず、疑問が残る内容である。
被害少女は公判に出廷し、5時間にわたる尋問で、つらい体験を詳細に語らなければならなかった。
継続的な心のケアが必要だ。「あなたは悪くない」と社会がメッセージを伝え続けたい。
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今回の事件のきっかけになった場所は地域の公園だった。生活圏に米兵がいる環境が沖縄では当たり前だ。米軍基地が集中していなければ事件は起きなかったはずだ。
事件を日本政府が県警や県に伝えず、起訴から約3カ月後の6月に報道で明るみに出るなど、公表の遅れも問題になった。
米兵による性犯罪は戦後、連綿と続き、沖縄の女性の人権が侵害され続けている。少女の勇気ある告発に応える責任が日米両政府にはある。これ以上被害者を出さないために。