米兵らによる性的暴行事件に関する社説・コラム(2024年7月13・15日・8月3・8・26日・9月4・10日)

米兵の性犯罪 手ぬるい対応を正さねば(2024年9月10日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 沖縄駐留米兵による性暴力事件がまた起きていた。こうした痛恨事が繰り返されてしまうのは、米側におもねて後手に回り続ける政府の手ぬるい対応に起因している。
 被害者が受けた心身の深手は想像に余りある。再発防止策の運用改善はもちろん、米軍に特権を与えている日米地位協定の見直しを日米当局に強く求める。
 沖縄県在住の20代の女性に性的暴行を加え、負傷させた不同意性交致傷の疑いで、今月、沖縄県警が20代の米海兵隊の男を書類送検した。犯行は6月だった。
 同じ6月、在沖米兵による少女らへの性暴力事件が、報道によって2件続けて発覚した。それぞれ犯行は昨年12月と今年5月。起訴されても公表されず、政府も県に知らせていなかった。
 批判を受け、政府は7月、米軍人を容疑者とした性犯罪は例外なく県に伝えるとした。これに沿う形で今回、書類送検に合わせて県警は県に伝えた。それでも犯行から2カ月余りたっている。
 県は住民の安全確保や再発防止の責任を担っている。少なくとも2事件が速やかに公表され、県も入って対策を講じていれば、その後に起きた今回の事件は「防げた可能性があった」と県関係者は悔やむ。もっともだ。
 こうした事件が表沙汰になるたび、政府は「米側に再発防止の徹底を求めていく」と繰り返してきた。米側もパトロールの強化や、県、住民との協議の場づくりなどを打ち出した。しかし、徹底する意志があるかは疑わしい。
 対策は被害者のプライバシー保護に留意しつつ、住民保護の観点から米軍や基地問題に厳しい姿勢を貫く県の関与があってこそ、実効性が高まるだろう。的確な捜査を迅速に進めて県と情報共有し、再発防止に万全を期したい。
 それには日米地位協定の見直しが避けられない。
 米兵らの公務中の犯罪は原則、裁判権が米側にある。公務外でも身柄が米側にあれば、日本側は米側の「好意的な配慮」によらなければ取り調べもできない。
 今回の男も逮捕されず、身柄は今も米側の管理下にある。男は容疑を否認しているという。県警は任意聴取や防犯カメラ映像などを基に立件したが、こうも不平等、不公正な取り決めを温存したままでは犯罪抑止は力を欠く。
 玉城デニー知事が米国を訪問している。国務省などに直接抗議するという。国民を守るべき政府が前面に立たなければおかしい。

米兵性加害裁判 被害者の傷広げぬよう(2024年9月4日『東京新聞』-「社説」)
 
 沖縄県の米空軍嘉手納基地に所属する兵長(25)による性加害事件の裁判。被害者の少女が証人として出廷し、被害の状況を語ったが、尋問は休憩を挟んで7時間半に及んだ。未成年には負担が重すぎる。配慮を欠くのではないか。
 被告の兵長は裁判で少女に対するわいせつ目的誘拐と、不同意性交の罪を問われている。焦点の一つは、被告が少女が16歳未満だと認識していたか否かだ。
 昨年改正された刑法では、16歳未満の子どもに対する性交やわいせつな行為は「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」として処罰されるようになった。
 7月の初公判で被告は起訴内容を認めず無罪を主張。性的行為は認めつつも、少女の年齢を18歳と認識し、同意があった、として事実関係を争う形となった。
 検察側証人として出廷した被害少女に対する尋問は8月下旬に行われた。少女は16歳未満である自身の年齢を被告に日本語でも英語でも伝えたとし、暴行時には「やめて」「ストップ」と声を上げたことや、なぜ逃げなかったのかを問われて「逃げても逃げられないと思った」などと説明した。
 尋問は少女が見えないよう、被告や傍聴人との間についたてを置いて行われた。しかし、長時間に及び、性被害の具体的行為や抵抗しなかった理由などが何度も問われ、言葉に詰まり、息が乱れる場面もあったという。
 被害証言が重要だとはいえ、少女は長時間、法廷にいることで、恐怖など心身の負担を感じたのではないか。視線が遮られても、ついたての向こうに加害者がいるのなら、なおさらだ。
 沖縄県内で性被害者を支援するメンバーは事前に、カウンセラーがそばに待機し、モニターを通じて別室で尋問を受ける「ビデオリンク方式」を求めた。性犯罪を巡る刑事裁判で使われる方式だが、今回は採用されなかった。
 少女は昨年12月の事件後から眠れなくなり、自傷を繰り返しているとも語った。トラウマ(心的外傷)を負う性被害者に現れる症状であり、被害当時の記憶が突然よみがえるフラッシュバックも心配だ。十分なケアを必要とする。
 裁判は公開が原則でも、性暴力被害者の心の傷をさらに広げるセカンドレイプの場となってはならない。司法関係者は別室での尋問など対応を徹底すべきである。
米兵性加害裁判 被害者の傷広げぬよう(2024年9月4日『東京新聞』-「社説」)
 
 沖縄県の米空軍嘉手納基地に所属する兵長(25)による性加害事件の裁判。被害者の少女が証人として出廷し、被害の状況を語ったが、尋問は休憩を挟んで7時間半に及んだ。未成年には負担が重すぎる。配慮を欠くのではないか。
 被告の兵長は裁判で少女に対するわいせつ目的誘拐と、不同意性交の罪を問われている。焦点の一つは、被告が少女が16歳未満だと認識していたか否かだ。
 昨年改正された刑法では、16歳未満の子どもに対する性交やわいせつな行為は「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」として処罰されるようになった。
 7月の初公判で被告は起訴内容を認めず無罪を主張。性的行為は認めつつも、少女の年齢を18歳と認識し、同意があった、として事実関係を争う形となった。
 検察側証人として出廷した被害少女に対する尋問は8月下旬に行われた。少女は16歳未満である自身の年齢を被告に日本語でも英語でも伝えたとし、暴行時には「やめて」「ストップ」と声を上げたことや、なぜ逃げなかったのかを問われて「逃げても逃げられないと思った」などと説明した。
 尋問は少女が見えないよう、被告や傍聴人との間についたてを置いて行われた。しかし、長時間に及び、性被害の具体的行為や抵抗しなかった理由などが何度も問われ、言葉に詰まり、息が乱れる場面もあったという。
 被害証言が重要だとはいえ、少女は長時間、法廷にいることで、恐怖など心身の負担を感じたのではないか。視線が遮られても、ついたての向こうに加害者がいるのなら、なおさらだ。
 沖縄県内で性被害者を支援するメンバーは事前に、カウンセラーがそばに待機し、モニターを通じて別室で尋問を受ける「ビデオリンク方式」を求めた。性犯罪を巡る刑事裁判で使われる方式だが、今回は採用されなかった。
 少女は昨年12月の事件後から眠れなくなり、自傷を繰り返しているとも語った。トラウマ(心的外傷)を負う性被害者に現れる症状であり、被害当時の記憶が突然よみがえるフラッシュバックも心配だ。十分なケアを必要とする。
 裁判は公開が原則でも、性暴力被害者の心の傷をさらに広げるセカンドレイプの場となってはならない。司法関係者は別室での尋問など対応を徹底すべきである。

宿題は難題(2024年8月8日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 今年の東京大学の入学式で新入生に宿題が出た。総長の藤井輝夫さんが述べた式辞にある「構造的差別」を知り、解消に向け叡智(えいち)を尽くせ―との難題である
▼藤井さんは「構造的差別」を「特定の属性を持つひとが、等しい機会を得られずに排除され、あるいは人一倍の努力をせざるを得ない状況」と定義する。属性とは性別や身体的特徴、居住地域などを指す。それが障壁となり、権利行使が理不尽に阻まれることがある
沖縄大学元学長の新崎盛暉さんは地域の視座から「構造的沖縄差別」を問うた。米軍基地の過度な偏在で生じる危険は耐えがたい。ゆえにこれ以上の基地負担は勘弁してほしい。そんな民意が他県と同じ重みでくみ取られない差別を訴えた
▼相次ぐ米兵による性的暴行事件への抗議について憲法研究者は言う。「沖縄という地域、そして住民に苦悩を背負わせておきながら恥じない。これが日本政府ではないか」
▼東大総長の宿題は「責任の所在は政府にあり」がヒントか。政府が据える「構造的差別」の壁は高く、正当な要求を幾度も阻んできた。どう乗り越えるか。新入生に限らず国民に課された難題である。

米兵少女誘拐暴行裁判 被害者保護の対応徹底を(2024年8月26日『琉球新報』-「社説」)
 
 2023年12月に発生した米兵少女誘拐暴行事件の第2回公判が23日に開かれ、被害に遭った少女が出廷し、当時の状況などを証言した。16歳未満である自身の年齢を被告に日本語でも英語でも伝えたとし、暴行の際に「やめて」「ストップ」と拒否したことを法廷で話した。
 被告が起訴事実を否認しており、被害者の証言は立証の鍵となる。しかし、未成年の少女が7時間半も証言席で尋問を受ける状況など、訴訟の進行は被害者への配慮に欠けていたと言わざるを得ない。少女への証人尋問が被害者支援の在り方に即していたのか、検証が必要だ。
 裁判は、嘉手納基地所属の空軍兵長(25)がわいせつ誘拐、不同意性交の罪に問われている。7月の初公判で被告は「私は無罪だ」と主張した。弁護側は、被害少女との間に性的行為があったことは認めたが、少女の年齢を「18歳と認識」したと指摘するなど犯意を否定した。
 検察側の証人として出廷した少女への尋問は、被告や傍聴人との間についたてを置き、証人を遮へいする形で行われた。相手からの視線は遮られるとはいえ、ついたての裏側では被告が話を聞いている状況だ。犯罪を証明するための証言や被害に遭った気持ちを述べることの精神的な重圧は計り知れない。事件当時の恐怖が強烈によみがえる「フラッシュバック」を引き起こす懸念もある。
 性犯罪を巡る刑事裁判では、モニターを通じて別室で尋問を受ける「ビデオリンク方式」が採用されることが多い。検察側はなぜ今回ビデオリンク方式ではなく、被害者を直接法廷に立たせたのか。大いに疑問だ。
 休憩を挟んで7時間半の長時間にわたる尋問は、10代の少女にとって心身の負担が大きい。その尋問では性的行為の有無や程度を重ねて質問するやり取りが続いた。
 不同意性交罪は2023年6月の改正刑法で新設された。これまでの強姦罪や強制性交罪は「暴行や脅迫」により被害者の抵抗が「著しく困難」な場合でなければ処罰されなかったが、法改正で「同意のない性行為」が犯罪になることを明確にした。
 被害を訴えた少女に抵抗しない理由を問い続けるなどした進行は、性犯罪規定を大幅に見直した法改正の趣旨に逆行していると言えないか。少女の心的ケアに万全を期す必要がある。
 被害者の精神的な負担・不安の軽減に加え、公開が原則の裁判でも被害者のプライバシーが守られるよう、公判段階における被害者支援の対策が進められてきたはずだ。
 被害者を責めるような周囲の心ない発言は、「セカンドレイプ」と呼ばれる新たな心の傷を生じさせかねない。公判手続きが二次被害につながることがないよう、被害者保護を優先にした司法の対応を徹底すべきだ。

沖縄米兵事件と外務省 隠蔽の疑いがぬぐえない(2024年8月3日『毎日新聞』-「社説」)
 
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在沖縄米兵による性的暴行事件を受け、上川陽子外相(左)に抗議文を手渡す沖縄県玉城デニー知事=東京都千代田区で2024年7月3日午後5時14分、渡部直樹撮影
 沖縄県に駐留する米兵による性的暴行事件で、なぜ米軍や外務省はルール通りに動かなかったのか。防衛省と県に通報しないという判断を誰がしたのか。疑問は深まるばかりだ。
 米空軍兵が昨年12月、16歳未満の少女に性的暴行を加えたとされる事件が起きた。報道で明るみに出たのは、半年後の今年6月だった。外務省は捜査当局から情報提供を受け、米側に抗議したが、防衛省や県には伝えなかった。
キャプチャ2
 この他にも昨年から今年にかけて米兵による性的暴行事件が4件起きたが、いずれも県に通報されなかった。
 1995年の少女暴行事件を受けて、日米両政府は97年、米軍の事件・事故が発生した際の通報手続きを決めた。米軍が米国大使館を通じて外務省に伝えるルートと、直接、沖縄防衛局へ伝えるルートなどが定められている。連絡を受けた外務省は、防衛省や県に情報を伝える。だが、手続きは形骸化していたと言わざるを得ない。
 問題は、衆参両院の閉会中審査で集中的に取り上げられた。
 上川陽子外相は「被害者のプライバシー保護」を理由に事件を非公表とした捜査当局の判断を踏まえ、「防衛省に情報を提供しなかった」と説明した。首相官邸には伝えられていた。
 上川氏はさらに「日米間でも適切にやり取りを行い、迅速な対応が確保され、問題があったとは考えていない」と言い切った。ことの重大性への認識を欠いている。
 警察庁幹部は「外務省に対し通報手続きを行わないよう求めた事実はない」と明言した。
 非公表だから情報共有しなかったという外相の説明は、説得力が乏しい。県などに知らせなかった対応は、被害者の人権を軽視していると見られても仕方ない。
 事件発覚までの半年間には、4月に岸田文雄首相の訪米、6月に沖縄県議選があった。政治・外交日程に影響が出ることを恐れ、隠蔽(いんぺい)が図られたのではないかとの指摘が出ている。
 日米両政府は対応策をそれぞれ発表した。だが、小手先の対策をいくら打ち出しても問題は解決しない。関係者間でどのようなやり取りがあったのか。徹底した検証が必要だ。

米兵事件共有されず 恣意的な判断なかったか(2024年7月15日『琉球新報』-「社説」)
 
 情報共有・通報体制は機能不全に陥っていると言わざるを得ない。昨年12月の米兵少女誘拐暴行事件、今年5月の米兵女性暴行事件について、首相官邸に情報が入っていた一方、防衛省は報道で明るみに出るまで把握していなかった。今回の事件は県や市町村にも情報が伝達されてなかったばかりか、政府内でも情報共有されていなかったのだ。
 
 米軍人・軍属による事件・事故の通報手続きは、1997年3月の日米合同委員会で合意されている。この中では、事件・事故が発生した際には米大使館から外務省へ通報する経路と、米軍側から防衛局に通報する経路がある。
 今回、米大使館から外務省に積極的な通報はなく、外務省が把握した後で大使館との情報共有が始まった。一方、在沖米軍から沖縄防衛局へ通報はなく外務省から防衛省への通報もなかった。
 県や市町村への通報は防衛局がその役割を担う。米軍、外務省はなぜ防衛省・沖縄防衛局に通報しなかったのか。
 今回の事件に関しては、沖縄県警からも県に情報提供されていない。県警側はその理由に「プライバシー保護の観点」を挙げる。外務省は県警の対応を受け、通報しなかったと説明している。
 外務省や県警は、県や市町村に通報すると被害者のプライバシーが守れないと認識しているのだろうか。被害者の2次被害防止、プライバシー保護は当然であり、関係機関が一致して取り組まなければならない。そのためにも情報共有は前提となるべきだ。
 誘拐暴行事件は3月に米兵が起訴されたが、翌4月には日米首脳会談が予定されていた。事件は首相官邸に伝達されており、岸田文雄首相も知っていた可能性がある。しかし首脳会談で岸田首相からバイデン大統領に抗議した形跡はない。首相官邸、外務省に日米首脳会談に影響を及ぼさないような配慮があったと疑わざるを得ない。
 林芳正官房長官は情報共有について見直しを表明したが、今回の米軍や外務省の対応を検証しなければ、情報提供に恣意(しい)的な判断が入る余地を残さないだろうか。
 速やかな情報伝達は、被害者への適切なケアや補償、行政と地域が連携した被害防止、綱紀粛正要請による再発防止など住民の生命・財産を守るためには不可欠だ。
 1995年の米兵少女乱暴事件を機に、政府は在沖米軍基地問題を重要課題に位置づけてきたが、辺野古新基地建設を巡る対立が長期化する中、政府内の関心低下も指摘される。しかし、県民が望まぬ米軍基地の駐留から派生する事件・事故への適切な対応は、自国民を守るための最重要の責務である。
 県民の生命・財産と相反する日米安保体制は許されるものではない。同時に、長引く県と政府の対立が県民の安全に影響するようなこともあってはならない。

 
私たちの「怒り」(2024年7月13日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 広瀬すずさん演じる沖縄の女子高生・泉が米兵から性的暴行を加えられる―。2016年公開の映画「怒り」。芥川賞作家・吉田修一さんの同名小説が原作のフィクションだが、胸が張り裂けそうになった
▼「いくら泣いたって、怒ったって、誰も分かってくれないんでしょ。訴えたってどうにもならないんでしょ」。やり場のない怒り、無力感が漂う劇中の泉の言葉。さらに胸をえぐられた
▼米兵らによる性的暴行事件がまた発生した。「人間としての尊厳を蹂躙(じゅうりん)する極めて悪質な犯罪」。県議会が全会一致で可決した抗議決議は蛮行を厳しく非難する。県民の代弁者として当然だ
▼だが、沖縄の声は響いていないようだ。米側が発表した対策は遅きに失した。謝罪はいまだ一切ない。事件を「遺憾」と表現するエマニュエル駐日米大使らの声明は沖縄の怒りを人ごとと捉えていないか
▼悲劇を繰り返してはいけない。抜本的な解決のため、沖縄が置かれている現状を変える時だ。「どうにもならない」と諦めてはならない。今のままでは、怒りは収まらない。

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解説
吉田修一の原作を映画化した「悪人」で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作の小説を映画化した群像ミステリードラマ。名実ともに日本を代表する名優・渡辺謙を主演に、森山未來松山ケンイチ広瀬すず綾野剛宮崎あおい妻夫木聡と日本映画界トップクラスの俳優たちが共演。犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れたことから巻き起こるドラマを描いた。東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で田中という男と遭遇するが……。( 映画.com)
 
2016年製作/142分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2016年9月17日
 
 

米兵による性暴力 具体的な防止策を示せ(2024年7月13日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 本島中部で16歳未満の少女を誘拐して性的暴行をしたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪に問われた米空軍兵(25)の初公判が那覇地裁で開かれた。
 県警が公表せず、起訴から3カ月後に明らかになり、県に情報提供がなかったことも問題となった事件だ。
 検察側の冒頭陳述によると、被告は昨年12月24日、公園にいた少女に「軍の特別捜査官だから」などと言い、「寒いから車の中で話さない?」などと誘って、車に乗せて自宅に連れ込み暴行した。
 少女が、ジェスチャーを交えながら日本語と英語で年齢を告げたことや、帰宅後、泣きながら母親に被害を訴え、母親が110番通報したことも明らかにした。
 これに対し被告は、罪状認否で「私は無実だ。誘拐も性的暴行もしていない」と起訴内容を否認した。少女を18歳と認識していたと主張した。
 検察側と被告側の言い分は異なった。
 被告が問われている不同意性交罪は、2023年の刑法改正で強制性交罪から名称を変えた。
 暴行・脅迫や恐怖・驚愕(きょうがく)、地位利用など8項目の要因で、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態にさせ、性的行為に及んだ場合に処罰する。
 被害者が13~15歳の場合、5歳以上年上の行為は暴行や脅迫などがなくても処罰対象となる。
 8月23日には被害者と被害者の母親が証人尋問、30日には被告人質問がある。全容が明らかになるのはこれからだ。プライバシーがしっかり守られる環境をつくってほしい。
■    ■
 公判前日、花を手に街頭で性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」が那覇市で行われた。
 いつもより多い約70人が参加し、無言で抗議する「サイレントスタンディング」の後に緊急集会を開いた。
 主催者の一人である高里鈴代さんは「日米の同盟関係のために女性の人権がないがしろにされているのが事件の本質」と語り、怒りをあらわにした。
 今回の事件も、基地がなければ起きなかったはずの事件だ。
 戦後79年、復帰52年がたった今も、性犯罪の年表には加筆が続いている。
 事件の一つ一つを明らかにして、この流れを止めなければならない。
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 暴行事件を受け、エマニュエル駐日米大使と在沖米軍トップ四軍調整官のロジャー・ターナー中将は連名で、見解を発表した。
 対策として、勤務時間外行動指針(リバティー制度)を全部隊に導入することなどを示した。しかし具体的な内容には触れていない。
 対策が沖縄の怒りを収めるためのポーズに映るのは、県や地元自治体との対話を置き去りにしているからだ。
 沖縄では基地が女性の人権を侵害する「暴力装置」のような存在になっている。
 地位協定の改定など抜本的な解決に乗り出さない限り、再発を防ぐことはできない。