◆「値段が高くて売れない」のに
「私は非常識なEV義務化を中止する」
安価な中国車が世界市場を席巻するEVに敵意を燃やすトランプ氏は選挙戦で、EVシフトに終止符を打つ決意を繰り返した。
9月、米デトロイト近郊のフォードの工場前で、EVの推進に反対するトランプ氏への支持を呼びかける労働者ら(鈴木龍司撮影)
廃止を主張するのが、EVの購入者に最大7500ドル(約115万円)を支給するバイデン政権の補助金だ。支給対象は北米での生産などの条件を満たした車両に限っているが、EVの市場投入が遅れ、巻き返しに躍起の米大手「ビッグスリー」は巨額の研究開発費が経営を圧迫。労働力が安価な海外に工場を移転することへの懸念も高まる。
日系企業関係者も「政府の補助金の対象となっている米メーカーのEVでも割高感が解消されず、値引き合戦が起きている」と明かす。トヨタ自動車やホンダ、日産自動車などはバイデン政権の補助金も当て込み、EV投資を進めてきたが、収益確保のハードルが高くなる。
◆「中長期の視点に立った投資を困難にさせる」
そんな中、トランプ氏とマスク氏の蜜月関係には「テスラの独走を図る思惑がある」(日系企業関係者)との見方が根強い。テスラは米EV市場で約5割のシェアを誇る。補助金の撤廃で新規参入の動きが鈍れば、ブランド力を含め先行者としての優位性を確保し続けることができるわけだ。
さらに、選挙戦で多額の献金を提供し、新政権で行政改革の要職に就くとされるマスク氏は、宇宙や生成人工知能(AI)の企業も率いる。トランプ氏と規制緩和を進め、自身のビジネスを有利に進める狙いがあるとみられている。
一方、今後の米市場はガソリン車に加えてハイブリッド車(HV)の販売増が加速すると予想され、米HV市場で約6割のシェアを誇るトヨタには好材料となる。対照的に、米国にHVを投入していないことが響いて経営が悪化し、9000人規模のリストラ策を発表した日産は、さらに厳しいかじ取りを迫られそうだ。
日系各社にとっては「米国第一主義」に基づく関税強化もリスク要因。政治的な思惑が絡んだ自動車政策の急転換について、中部地方の経済関係者は「中長期の視点に立った投資を困難にさせる」と漏らした。