「あの時に似ている。提言を実現したいがための印象操作ではないか」―。強い疑念を抱くとともに、どこかで見た覚えのある光景だった。
経団連が10月、国のエネルギー基本計画の改定に向けて発表した提言。現行の計画にある「可能な限り原発依存度を低減する」との記述を削除し、原発の最大限活用を求める内容だった。そこに「経団連アンケートにおいても、約9割の企業が既設の原子力発電所の再稼働の必要性を認識」とあった。
経団連アンケートにおいては、わが国の電力供給に課題を感じると回答した企業が約9割であった。具体的な課題としては、「電力価格の上昇」、「電源の脱炭素化が不十分」、「需要に対応できる安定的な供給量の不足」の順で大きな懸念が寄せられている。企業が3Eを担保できるエネルギー政策を求めていることが明らかといえる(図表 2)。
政府には、エネルギー政策のあり方がわが国経済・産業の帰趨を決定し、ひいてはわが国の将来像を転換させる可能性を認識したうえで、危機感を持って対応することを求める。
「9割」という極めて印象的な数字はどうやって導き出されたか。経団連の会員企業・団体は1700あるが、アンケートの対象は電力消費が大きい475社に絞った。回答率は35%、つまりは167社が回答、その86%が「原発再稼働が必要」と答えただけだった。
十倉雅和会長は後日の会見で「誤解されないようにという話も(経団連内に)あった」とした上で、「アンケートの結果にある通り。それ以上でも、それ以下でもない」と印象操作を否定した。
しかし、アンケートは内容自体に疑義を呈さざるを得ないものだった。
設問は、原発活用の方向性として選択肢を四つ示し、一つを選ばせた。回答の多い順に「将来に向けて原発を継続的に活用する観点から、再稼働に加えて、建て替え・新増設も進める」(68.4%)、「将来的には原発の活用を止めていく観点から、再稼働までにとどめ、建て替え・新増設は行わない」(17.4%)、「原発の活用を今すぐ削減する観点から、再稼働しない」(1.3%)、「その他」(12.9%)―だった。
最初と2番目を足して「9割」としたが、2番目は「原発活用を止めていく方向」なのだから提言とは逆だ。それなのに都合良く「9割」に含めたのは恣意(しい)的にすぎる。統計調査に詳しい上西充子法政大教授は「設問が複雑で、どうしてシンプルに3択のようにしなかったのか不可解だ」と指摘する。
都合の良い数字を持ち出してきての印象操作―。見覚えがあったのは、6年前に起きた安倍政権の統計データ偽造と重なって見えたからだ。
最近はEBPM(根拠に基づく政策立案)といって、データなど客観的事実の裏付けが以前に増して重視される。いまだに「9割の企業」などと数字の虚構を振りかざす経団連は古い体質を引きずったまま、時代に取り残された「ガラパゴス組織」と指弾されても仕方ない。