原発の再稼働に関する社説・コラム(2024年10月31日・11月1・7日)


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女川(おながわ)原子力発電所は、三陸海岸の南端にある牡鹿半島の中ほど、宮城県牡鹿郡女川町と石巻市に立地しています。敷地の広さは約173万m2あり、東京ドーム約37個分に相当します。牡鹿半島は、全域が三陸復興国立公園に指定されているため、発電所の建物のデザインや配色を周辺環境と調和するよう配慮しています。
住所:〒986-2293 宮城県牡鹿郡女川町塚浜字前田 1(東電HPキャプチャ

島根原発再稼働 見えぬ避難計画の実効性(2024年12月7日『山陽新聞』-「社説」)
 
 全国の原発で唯一、県庁所在地に立地する中国電力島根原発2号機(松江市)がきょう再稼働する。万一、事故が発生した場合、多くの住民が避難を余儀なくされ、岡山、広島県内も広域避難先となる。岡山県内では約10万人の受け入れが想定されている。
 東日本大震災で過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型と呼ばれる原発である。この型の原発としては福島の事故後、東北電力女川原発2号機(宮城県)に次いで、2番目の再稼働となる。
 島根2号機は東日本大震災当時は運転中だったが、2012年1月に定期検査のため停止し、13年近く稼働していない。沸騰水型の原発は原子炉格納容器が小さく、圧力が上昇しやすいという指摘もあり、安全対策工事や原子力規制委員会の審査に長い時間を要してきた。
 政府は岸田文雄前首相の下で国会での十分な議論もないまま原発政策の大転換を閣議決定し、原発を最大限活用する方針を打ち出した。石破茂首相もこの方針を踏襲する考えを示している。しかし、どんなに対策を講じても原発事故の可能性はゼロにはならない。住民の安全を守るために重要なのは避難計画の実効性である。
 だが、地元住民の不安は解消されていない。避難計画の対象となる半径30キロ圏内には島根、鳥取両県の約45万人が暮らしている。もともと人口が多いことに加え、内閣府のまとめによれば、単独での避難が難しい在宅の要支援者が約4万人に上るという。
 さらに事故時の司令塔となる島根県庁は原発から10キロ以内に立地し、避難指示が出された場合、県庁機能を市外へ移さなければならない。重大事故の際、混乱なく役割を果たせるのか懸念は拭えない。立地条件から見て多くの課題を抱えた原発だ。
 避難計画が「絵に描いた餅」であることを浮き彫りにしたのが、今年1月に起きた能登半島地震だった。北陸電力志賀原発(石川県)の半径30キロ圏内で道路が寸断され、150人以上が孤立した。家屋倒壊が相次ぎ、屋内退避すら難しい状況だった。もし原発が深刻な事態に陥っていれば、住民は被ばくの危険にさらされていただろう。
 日本は地震国であり、地震原発事故が同時に起きる複合災害への対策が不可欠だ。しかし現在、避難計画の策定は自治体に委ねられ、規制委の審査対象には含まれない。住民が島根2号機の運転差し止めを求めた仮処分申請が5月に却下された際、広島高裁松江支部は避難計画の是非について検討すらしなかった。
 島根原発は2号機に続き、3号機が30年度までの新規稼働を目指して規制委の審査を受けている。政府が原発の活用を進めるというのなら、避難計画の実効性を政府自身が責任を持って検証する仕組みを構築すべきではないか。

原子炉のカス(2024年12月7日『中国新聞』-「天風録」)
 
 何もかもをのみ込む深い穴が、ある村で見つかる。やがて原発会社が群がり、金や道路と引き換えに「原子炉のカス」を次々と捨てていく―。星新一さんのSF短編「おーい でてこーい」の一幕だ
▲カスとは使用済み核燃料、あるいは再利用できない高レベル放射性廃棄物を指すのだろう。どちらにせよ、長い名前を2文字で表すところが短編の名手らしい。発表から66年が過ぎても、背筋の凍る結末は色あせない
中国電力の島根原発2号機がきょう再稼働する。停止は13年近くにも及んだ。福島の事故で揺らいだ原発の「安全神話」を必死に繕った歳月と言える。15メートルにかさ上げした防波壁をはじめ、64もの安全対策が施された
▲再稼働でよみがえる問題もある。使用済み核燃料の行方だ。2号機の貯蔵場所は約10年で満杯になるという。一時的な保管先にと、中電が山口県上関町で建設を探る施設もまだ先は見通せない。SFのような便利な穴もないままに「カス」は増える
▲快適な暮らしは何と引き換えに成り立つのか。目をそらしている暗部はないか。星さんの問いかけに私たちも背筋を伸ばして向き合う時かもしれない。いつかつけが降りかからぬように。

女川原発再稼働 地域の不安置き去りか(2024年11月1日『北海道新聞』-「社説」)
 
 東北電力女川原発宮城県女川町、石巻市)2号機が再稼働した。東日本大震災の被災地に立地する原発では初めてで、東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉BWR)としても初の再稼働となる。
 女川原発東日本大震災で過酷な事故は免れたが、地下の設備が浸水し、2号機の原子炉建屋で1千カ所以上のひび割れが見つかった。立地する牡鹿半島では津波で道路が寸断され、孤立集落が多数発生した。
 東北電は安全対策に約5700億円を投じ、国内最大級の防潮堤を整備するなどした。
 女川原発から5キロ圏内と半島南部、四つの離島に約3千人、5~30キロ圏内には18万人超が住む。自然災害と原発事故が重なった際の避難に対する住民の心配や疑念は拭えていない。
 東北電と原発の最大限の活用を掲げる国は、過去何度も地震津波に見舞われた地域で原発を運転する危うさを改めて自覚すべきだ。脱炭素や電力の安定供給の名の下に、住民の不安を置き去りにしてはならない。
 原発近くを北上しなければ避難できない半島南部の住民は、放射性物質が放出されるような事故時には海路や空路も使って避難する。5~30キロ圏内では屋内退避が基本だ。
 東日本大震災では土砂崩れや津波で多くの道路が通行止めとなり、港もがれきなどで使えなかった。複合災害時はヘリ輸送も容易ではないとされる。
 1月の能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の事故時に避難する道路が寸断された。多くの家屋が倒壊し、屋内退避も困難な状態だった。
 女川原発の避難計画には、能登半島地震の教訓は反映されていない。見直しは急務だ。
 避難計画の作成主体は自治体で、国と県は支援する立場にとどまる。ただ計画の実効性を高めるには、道路・港湾などの整備や改良が欠かせない。
 国は関与を強める必要があろう。屋内退避のみを所管とする原子力規制委員会も専門的な知見を生かすべきではないか。
 北海道電力泊原発3号機は再稼働に向けた審査が大詰めを迎えている。西日本ですでに再稼働している加圧水型軽水炉(PWR)だが、11年余りに長期化した審査では原発事業者としての資格が問われてきた。
 周辺地域では高齢化や人口減が進んでいる。厳冬期などに高齢者らが計画通りに避難できるか不透明な部分もある。
 再稼働には多くの課題が残っていることを、北電と国は真摯(しんし)に受け止める必要がある。

女川原発再稼働 住民の不安は置き去りか(2024年11月1日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 東北電力女川原発宮城県)2号機を再稼働させた。
 2011年3月の東日本大震災東京電力福島第1原発が過酷事故を起こして以降、被災地に立地する原発として初めての再稼働である。
 震源に最も近く、当時は13メートルの津波に襲われた。外部電源5回線のうち4回線が止まり、残った電源で冷却を維持して重大事故を何とか免れた経緯がある。
 その後、東北電は5700億円をかけ、国内最大級の防潮堤を整備するなど大規模な安全対策工事を終えた。だが、福島の事故で原発の「安全神話」が崩れるのを実感した住民の不安は依然、払拭されていない。
 政府は、引き続き他の原発も再稼働を進め、岸田文雄前政権から掲げる原発の「最大限活用」を軌道に乗せたい考えだ。
 事故後の再稼働は13基目。これ以前に再稼働した原発は全て西日本にあり、いずれも加圧水型(PWR)の原子炉だった。東日本の原発としても、福島と同じ沸騰水型(BWR)原子炉としても、今回が初の再稼働となった。政府にすれば、今後に向けて弾みにしたいところだろう。
 だがこのままでは、住民を置き去りに既成事実を積み重ねることになる。ひとたび事故が起きれば取り返しのつかない事態を招く原発の危険性をどう考えるかは、電力消費地を含む国全体の課題である。政府と電力会社は、不安と正面から向き合うべきだ。
 住民が訴える不安の一つが、避難計画の実効性だ。女川原発は太平洋に突き出た牡鹿半島にある。避難路が限られ、事故の際、半島南部の住民は原発のそばを通らなければ避難できない。
 今年1月の能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県)の事故時の避難に使う想定の道路が寸断され、地震原子力の複合災害となった場合の避難路確保の難しさが浮かんでいる。
 BWRの安全性も不安がつきまとう。PWRと比べ原子炉格納容器が小さいため、圧力が上昇しやすいとされる。福島事故では圧力上昇によって大きく破損し、放射性物質の放出につながった。
 今後、中国電力が12月上旬にBWRの島根原発2号機(松江市)を再稼働させる計画だ。東電は同じくBWRの柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働を目指しており、政府が強く後押ししている。
 事故から13年7カ月。記憶と教訓を忘れて、住民の安全安心を後回しにしてはならない。

女川原発の再稼働/不断の努力で安全確保図れ(2024年10月31日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 想定外の事態が起きうることを肝に銘じ、安全・安心を追求することが求められる。
 東日本大震災で被災した東北電力女川原発宮城県女川町、石巻市)2号機が13年7カ月ぶりに稼働した。東京電力福島第1原発事故以降、被災地に立地している原発として初めて、福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても初の再稼働になる。
 震災時、女川原発には13メートルの津波が押し寄せ、2号機の原子炉建屋地下が浸水した。このため東北電は総額約5700億円を投じて海抜29メートルの防潮堤を整備し、原子炉建屋の耐震性も強化した。重大事故時に原子炉格納容器の圧力を下げて破損を防ぐフィルター付きベントなども設けた。
 施設の安全性を向上させ、原子力規制委員会の審査に合格したとはいえ、完全に安全が担保されたわけではない。女川原発は長期にわたり運転を停止していたため、技術系社員約500人のうち4割に運転経験がなく、社員のスキル向上などが課題とされる。
 東北電は、作業員の教育や訓練などにも注力し、安全最優先の運転に努めてほしい。
 懸念されているのは、有事の際の住民の避難だ。女川原発三陸海岸の最南端に位置する牡鹿半島にある。30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)の3市4町の約20万人を対象に策定された住民の避難計画では、地域ごとに避難経路が設定されているものの、地震などで道路が寸断される恐れがある。
 1月の能登地震では半島部の道路網の脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りになり、孤立集落が相次いだ。屋内退避が呼びかけられても、自宅や公共施設が地震などで被災すれば、放射性物質流入を防ぐ気密性が保たれるかどうか分からない。
 三陸沖を震源とする大きな地震は今後も発生が想定されている。国や県、立地自治体は避難ルートの整備や耐震化、屋内退避時の安全対策の強化など、計画の実効性を高める取り組みが急務だ。
 福島第1原発事故の避難者訴訟では国の責任を否定し、東電だけに賠償を命じる判断が続く。こうしたなか、政府は原発の依存度を低減させるとしてきた方針を、脱炭素とエネルギー安定供給を理由に「最大限活用」と転換した。
 女川2号機に続き、同じ沸騰水型の中国電力島根2号機、東電柏崎刈羽7号機の再稼働が計画されている。国は原発事故がもたらす被害の深刻さを十分に理解したうえで原発の利活用推進にかじを切ったのであれば、その責任を全うしなければならない。

女川原発の再稼働 被災地の不安拭えたのか(2024年10月31日『毎日新聞』-「社説」)
 
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宮城県東北電力女川原発2号機(奥)=2024年10月24日午後0時25分、本社ヘリから
 宮城県女川町、石巻市に立地する東北電力女川原発2号機が再稼働した。東日本大震災で被災し、損傷した原発では初めてだ。安全対策と避難体制の不断の点検が求められる。
 震度6弱を記録し、敷地は約1メートル地盤沈下した。高台にあったため津波の直撃は受けなかった一方で、海水が地下の水路から流入し2号機の設備に被害が出た。ただ、東京電力福島第1原発のような過酷事故は免れた。
 東北電は耐震強化と津波対策を進め、2020年に原子力規制委員会の審査を通過した。その後、宮城県など地元自治体が再稼働に同意した。
 東日本では原発は一基も運転していなかった。政府は電力不足の解消につながるとして、再稼働の動きを後押ししてきた。
 だが、三陸沖では大地震が繰り返されてきた。自然災害と原発事故が重なる「複合災害」への備えを怠ってはならない。
 北陸電力志賀原発が立地する能登半島では、今年1月に発生した地震による住宅の倒壊や道路の寸断が相次いだ。被ばくを避けるための避難や屋内退避が困難になることが浮き彫りになった。
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 女川原発は太平洋に突き出た半島部にある。リアス式海岸の急峻(きゅうしゅん)な地形で避難は難しい。わずかな平地に集落が点在するため、孤立しやすい。能登半島と状況が似ている。
 規制委は能登半島地震を受け、屋内退避の在り方の検討を始めた。しかし中間報告では、家屋の耐震化や道路寸断時の対応について管轄外として踏み込まなかった。
 能登半島は先月、豪雨にも見舞われた。災害リスクは高まっている。再稼働への理解を住民に求めるのであれば、各省庁が一体となって複合災害対策に取り組む姿勢が欠かせない。
 12月には中国電力島根原発も再稼働する見通しだ。県庁所在地に唯一立地する原発であるにもかかわらず、多くの住民が安全に避難できる体制が整っていないとの指摘もある。
 原発の安全対策は強化されたが、楽観は禁物である。東日本大震災の教訓を忘れずに、国民の命を守る手立てを講じるのが政府、自治体、電力事業者の役割だ。

女川原発再稼働 電力の着実な安定供給へ一歩(2024年10月31日『読売新聞』-「社説」
 
 電力の安定供給と脱炭素を両立させる電源として、原子力発電所は不可欠である。各地で原発の再稼働を着実に進め、電力供給力の上積みに努めることが必要だ。
 東北電力女川原発2号機(宮城県)を再稼働した。2011年の東日本大震災後、東日本にある原発としては初めてとなる。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても初の再稼働だ。
 エネルギーの安定確保のため、原発を最大限に活用していく上で大きな一歩と言えよう。
 これまでは、加圧水型軽水炉(PWR)で再稼働が先行し、西日本の計12基が再稼働にこぎ着けている。沸騰水型より格納容器が大きく事故が起きにくいとされ、原子力規制委員会の安全審査が比較的早く進んだ。
 西日本で再稼働が順調に進んだのに対し、東日本は再稼働が遅れて火力発電に頼る状況が続き、電気料金が高止まりしている。東日本でも再稼働を急ぎ、地域格差が縮小することを期待したい。
 女川原発は、東日本大震災震源に最も近く、福島第一原発と同様の揺れや津波に見舞われた。しかし、高い場所にあったため津波の直撃を免れ、原子炉をすべて安全に停止することができた。
 また、東北電力は震災後、設備や配管の耐震補強を行い、事故後にできた新規制基準をクリアした。20メートル以上の津波を想定し、海抜29メートルの防潮堤も建設した。
 震災直後、女川原発津波で家を失った近隣の住民300人以上を構内の体育館で受け入れた。こうした経緯もあって、地元の理解が比較的、得られやすかった側面もあるのではないか。
 沸騰水型では、女川に続き中国電力島根原発2号機も12月に再稼働する。東北電力中国電力は安全を最優先し、沸騰水型原発への信頼を取り戻してもらいたい。
 沸騰水型の審査では当初、東電の柏崎刈羽原発新潟県)が先行していたが、その後、テロ対策の不備などが相次ぎ、地元では東電への不信感が高まった。新潟県知事からも再稼働の同意が得られておらず、見通しが立たない。
 国内では、大量の電気を消費する最新の半導体工場やデータセンターの建設が続き、将来の電力不足が懸念される。中東情勢のさらなる悪化で、エネルギー供給が滞る事態にも備えねばならない。
 国や新潟県は、大局的な視点に立ち、協力して柏崎刈羽原発の早期再稼働を目指すべきだ。

女川再稼働を安全に進め原発活用広げよ(2024年10月31日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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再稼働した女川原子力発電所2号機は30日未明、核分裂反応が継続する「臨界」に達した=代表撮影
 東北電力女川原子力発電所2号機が再稼働し、30日未明に核分裂反応が持続する「臨界」に達した。2011年に東日本大震災が起きてから13基目で、東日本の稼働ゼロはようやく解消された。
 事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉BWR)としても事故後初の稼働で、大きな節目といえる。事故の重い教訓を踏まえ、安全確保を大前提に運転にあたる必要がある。
 再稼働で先行した西日本と比べて東日本は電力供給に余裕がなく、料金も高止まりしていた。今後は状況の改善が期待できる。生成AI(人工知能)の普及に伴うデータセンターや半導体工場の新設で、今後は電力需要が増える見通しだ。成長産業を国内で育てるためにも、安定した脱炭素電源である原発への期待は増している。
 同じBWR中国電力島根原発も12月に再稼働を予定する。東京電力柏崎刈羽原発でも準備が進む。女川の再稼働を機に、既存原発の活用を進めてもらいたい。
 東北電力は防潮堤のかさ上げや耐震補強などの安全対策に約5700億円を投じた。それでも不安に思う住民や市民は多い。施設は13年あまり停止し、運転経験のない現場社員が4割に達する。
 樋口康二郎社長は「安全確保を最優先に対応する」との談話を発表した。11月7日に発電・送電を始めた後、いったん停止させ、設備に異常がないか再点検したうえで12月に営業運転へ移る計画という。機器の状況を確かめながら慎重に作業を進めてほしい。
 地域や社会の理解を得る努力も欠かせない。万全を期しても想定外のトラブルは起こりうる。異常があった場合、軽微でもためらわず作業を止め、情報を積極的に公開すべきなのは言うまでもない。
 原発本体の安全対策と併せて、複合災害時の避難対策の強化も急がねばならない。原発が立地する地域では、地震や大雪などの自然災害と原発事故が重なった際の対応を心配する声がある。
 元日に発生した能登半島地震では道路や海路の寸断が相次ぎ、北陸電力志賀原発の周辺地域で多くの集落が孤立した。建物の被害がひどく、放射線から逃れる屋内退避ができない課題も浮上した。
政府は安全確保を大前提に原発を最大限活用する方針だ。避難用道路の整備や退避施設の耐震化を国が主導し、原発に対する国民の信頼回復に努める責務がある。

女川原発再稼働 震災の地 不安置き去り(2024年10月31日『東京新聞』-「社説」)
 
 東北電力女川原発2号機(宮城県)が再稼働した。東日本大震災後、被災地では初。福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉BWR)が動くのも初めてだ。周辺住民には地震津波、その後の大事故の衝撃がなお生々しい。不安を置き去りにしていないか。
 女川原発は、東日本大震災震源に最も近い原発だ。海抜14・8メートルの高台に位置していたが、地震の衝撃で1メートル地盤沈下したところへ13メートルの津波が押し寄せた。
 危うく直撃は免れたが、2号機の原子炉建屋が浸水し、熱交換器や冷却ポンプ室が水没。揺れによる被害も甚大で、外部電源5系統中4系統が送電線倒壊などで使えなくなり、配管や機器類に600カ所以上のトラブルが発生した。福島のような事故につながらなかったのは幸運というほかない。
 原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査の過程では、2号機の建屋の壁に1130カ所ものひび割れが見つかった。
 東北電は約5700億円を投じて、海面からの高さ29メートル、延長800メートルの防潮堤や、海水の浸入を防ぐ厚さ30~40センチの防潮壁を築くなどの対策を実施。6年にわたる長期審査を経て、新規制基準に「適合」となりはしたものの、無論「安全のお墨付き」ではなく、住民の不安は残ったままだ。
 牡鹿半島の真ん中あたりに立地する女川原発は、避難上の制約が強く、地震津波原発事故が重なる「複合災害」のリスクも計り知れない。原発30キロ圏内の3市4町には約19万人が暮らす。そのうち半島先端部から陸路で避難する人々は、事故を起こした原発に向かって逃げることになる。
 その陸路が断たれる可能性もある。大震災時には、女川1号機タービン建屋で火災が発生したが、地震で道路が寸断されて消防車が出動できず、所員が粉末消火器で消し止める事態も起きている。
 地元紙の河北新報が3月、県内有権者を対象に実施したインターネット調査で、女川再稼働に「反対」と答えた人が44%と「賛成」の41%を上回った。多くの「ノー」に抗(あらが)って原子炉に再び火を入れた東北電の責任は極めて重大だ。

グリム童話の「死に神のお使いたち」は若い男が死に神を助ける…(2024年10月31日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 グリム童話の「死に神のお使いたち」は若い男が死に神を助ける話で、死に神はお礼にこんな約束をする。「おまえの寿命が終わるときは前もって使いを出して教えよう」。だが、ある日のこと。死に神が突然にやって来て、男に告げた。「おまえの寿命は終わりだ」-
▼約束の使いなんて来なかったと男が怒ると、死に神はこう言った。「使いはちゃんと出した。熱が出なかったか。目まいはどうだ。耳鳴りや痛風、歯の痛みも。全部おれの使いだ」
▼それが寿命を警告する使いだとしても、人はなかなか気づかないのだろう。2011年の東日本大震災による福島第1原発事故。あれは原発の危険を伝える「お使い」であっただろうに。東北電力女川原発宮城県女川町、石巻市)2号機を13年7カ月ぶりに再稼働させた
東日本大震災の被災地にある原発の再稼働はこれが初となる。安全を最優先するというが、心配性はどうも落ち着かない。万が一、大事故が起きれば。不安が拭いきれぬ
▼電力の安定供給のためという事情は分からぬでもない。それでも13年前を忘れ、原発にすがる道を歩むことに、あの死に神が浮かんでしまう
▼電力、経済、地域振興という事情の中で、どんな「お使い」が来てもわれわれは気がつかないらしい。いや、気づかないふりをしているだけかも。突然、「死に神」がやって来ないことを祈る。

女川原発再稼働 不安拭う取り組み続けよ(2024年10月31日『新潟日報』-「社説」)
 
 原発に絶対的な安全はない。事業者や関係者はそのことを心に刻み、住民の不安を拭う取り組みに力を尽くしてもらいたい。
 東北電力は、運転停止中だった宮城県女川原発2号機を29日、再稼働させた。
 再稼働は、2011年3月に起きた東日本大震災の被災地に立地する原発で初めてだ。過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉としても全国初で、一つの節目となる。
 女川原発東日本大震災震源に最も近い原発で、最大約13メートルの津波に襲われた。敷地の海抜は津波より高かったが、冷却用水を取り込む取水路から流入した海水で原子炉建屋地下が浸水した。
 5回線あった外部電源は4回線が停止し、残った電源で冷却を維持して1~3号機を冷温停止させた。事故を防ぐことはできたが、間一髪の状況だったと言える。
 東北電はその後、11年の歳月と約5700億円をかけ、国内最大級となる海抜29メートル、総延長800メートルの防潮堤を整備するなど、大規模な安全対策工事を施した。
 ただ、手厚い対策を講じたとしても、リスクがゼロであるという根拠にはならない。
 元日の能登半島地震では、石川県の北陸電力志賀原発周辺で原発事故時の避難道路が寸断され、自治体が策定した避難計画の実効性に疑問の声が上がっている。
 女川原発は太平洋に突き出た牡鹿半島に立地し、地理的な条件は能登と同じだ。事故が発生した場合、半島南部からは原発のそばを北上しなければ避難できないといい、住民の不安は大きい。
 政府は「昨年12月に女川の避難計画を改定し、海路の避難経路を多重化するなど充実化に取り組んでいる」と強調するが、改定後に起きた能登半島地震の教訓は反映されていない。国や県、事業者は計画を再確認する必要がある。
 女川原発で今年、機器が計画外に作動したり、原子炉の出力を制御する「制御棒」を動かす装置の弁が水漏れしたりするトラブルが相次いでいることも気になる。
 ミスやトラブルが続くと住民の不安は膨らむ。事業者は気を引き締めて当たらねばならない。
 国は脱炭素対策などを理由に原発の最大限活用を進める方針で、12月上旬には女川2号機と同じ沸騰水型の中国電力島根原発2号機の再稼働が予定される。東電が再稼働を目指す本県の柏崎刈羽原発7号機も沸騰水型だ。
 ただ柏崎刈羽を巡っては、東電によるトラブルや不祥事が相次いだことで地元の不信感が根強く、避難対策などにも課題がある。
 被災地で原発が再稼働しても、福島事故で原発安全神話が崩壊した事実をゆるがせにはできない。二度と過酷事故を起こさないために、安全面の検証や情報公開の徹底が一層強く求められる。

女川原発再稼働/避難計画に課題はないか(2024年10月31日『神戸新聞』-「社説」)
 
 宮城県女川町・石巻市東北電力女川原発2号機が再稼働した。2011年の東日本大震災で、国内にある全原発が停止した。その後、関西電力の美浜、大飯、高浜原発九州電力四国電力原発は運転を始めたが、東日本で再稼働するのは初めてとなる。原発の「最大限活用」を方針に掲げる政府と電力業界にとって一つの大きな節目となった。
 女川原発は震災被災地に立地し、事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉だ。原子炉内で水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回して発電する。これまでに稼働した原発が採用する加圧水型より、原子力規制委員会が高い基準の事故防止対策を求めてきた。安全性について今後も厳しい視線が向けられると自覚してもらいたい。
 東日本大震災女川原発は想定を約4メートル超える高さ約13メートルの津波に襲われた。地震直後に1~3号機が自動停止し、津波の影響で一部の建屋の地下に浸水したものの、放射性物質の漏れなどはなかった。だが敷地は海抜約15メートルとぎりぎりの高さだった。事故が起きていてもおかしくなかったと言わざるを得ない。
 再稼働に向け、東北電は13年から安全対策工事を進めてきた。最大23・1メートルの津波を想定し、国内最大級とされる海抜29メートル、総延長800メートルの防潮堤を整備した。原子炉建屋の耐震性、電源・冷却機能などを強化したほか緊急時の建屋も設けた。
 さまざまな対策を講じたとしても、災害や事故には常に「想定外」がつきまとう。再稼働した以上、さらに安全意識を高め、常に万全の備えを怠らない姿勢が欠かせない。
 ところが女川原発ではトラブルが相次いでいる。6月と9月、事故時に放射性物質が外部に漏れるのを低減する「非常用ガス処理系」という機器が誤作動した。原子炉建屋で計約4リットルの水が漏れる事案も9月にあった。大きな事故につながらないよう、再発防止策を徹底してほしい。
 万一の事故時に懸念されるのは住民の避難だ。女川原発は、集落が点在し細い道も多い牡鹿半島にある。震災では道路が寸断し、原発構内に避難した被災者もいた。再稼働を巡っては、石巻市民が自治体の避難計画に不備があるとして差し止めを求める訴訟を起こしている。住民が不安を抱くのは十分理解できる。
 一審判決では差し止め請求が棄却され、控訴審判決が11月に仙台高裁で言い渡される。どのような判決になっても、安全に対する東北電や自治体の責任に変わりはない。1月の能登半島地震でも集落の孤立などが起きた。避難計画に課題がないかを常に検証し、必要があれば適切な見直しにつなげねばならない。

女川原発再稼働 万一の避難、大丈夫なのか(2024年10月31日『中国新聞』-「社説」)
 
 東日本大震災で停止してから13年7カ月余り。宮城県東北電力女川原発のうち2号機が再稼働した。震災後、東日本では初めての原発再稼働となる。
 原発を推進する側は、大きな節目を越えたと受け止めていよう。一つは「安全神話」を崩壊させた東京電力福島第1原発と同じ、沸騰水型軽水炉BWR)をやっと動かしたこと。そして損傷を受けながらも大事故を免れた「被災原発」を復活させたことだ。
 しかし原発活用に弾みがついたと手放しで喜ぶのは許されるのか。3・11と向き合う被災者に、不安を色濃く残す現実を忘れてほしくない。
 むろん原発本体と周辺施設の安全対策が強化されたのは確かだろう。新規制基準に合格し、過酷事故にも対応できると説明されている。
 11年の月日と5700億円をかけた女川原発の安全対策工事では海抜29メートル、総延長800メートルの国内最大級の防潮堤を築いた。原子炉建屋の耐震性を強化し、事故が起きても格納容器の圧力を下げるベントや、電源喪失時も冷却機能を維持する機能を備えた。
 それでも課題はさまざまに指摘されている。長期停止を経ただけにハード、ソフトで不具合は生じないのか。使用済み核燃料の貯蔵の余力はどれほどあるか。そして地域の視点から最も懸念されるのが、万一の際の避難計画の実効性が疑われることだ。
 女川原発は太平洋に突き出た牡鹿半島の中央部にある。5キロ圏に千人近くが住み、半島の南部と離島に2千人以上がいる。仮に放射性物質が放出されれば、これらの住民は即時に避難を開始し、5~30キロ圏に暮らす18万人以上は、屋内退避するという。
 こうした机上の計画の危うさを浮き彫りしたのが、元日の能登半島地震にほかならない。北陸電力志賀原発の避難路が各地で寸断された。逃げるのが難しい場合、放射線を避けて入るべき屋内の施設や家屋も数多く損壊した。
 その教訓を、女川原発の避難計画は映していない。陸路が無理ならヘリコプターや船舶で避難するというが、深刻な多重災害が起きた場合には現実問題として十分に機能するとは思えない。
 同じ問題には当然、各地の原発も直面していよう。
 とりわけ12月に再稼働を予定する中国電力島根原発2号機はどうなのか。原子炉に核燃料を入れる作業が始まり、準備は大詰めを迎えた。こちらもBWRであり、島根半島に立地している。
 島根県は来月に行う原子力防災訓練では能登半島の事態を踏まえ、道路寸断を想定した代替ルートの避難と屋内退避の訓練も予定すると聞く。ただでさえ根強い住民の不安をどこまで拭えるだろう。
 岸田政権時代に打ち出した原発回帰の路線と、避難計画を巡る対応の遅れ―。重ね合わせると感じざるを得ない。過酷事故は起こり得ると言いつつ「どうせ起きない」という楽観論に逆戻りしていないか、と。何があっても住民の安全は守る。その原点は絶対にゆるがせにできない。