来年4月に開幕する大阪・関西万博で、来場者を送迎するバスの運転手不足が深刻化している。地元で地下鉄などを運転する大阪メトロ(大阪市)では、駅員らが大型2種免許を取得してバス会社に出向し、運行を担うという。安全面は大丈夫だろうか。そして本当に人手は足りるのだろうか。(中川紘希)
◆往路だけで1日最大で1163便、6万1110人を運ぶ想定
「安全確保は、バスを運行する各事業者が担うものだ。出向する社員向けに研修もしっかりやると聞いている」
日本国際博覧会協会(万博協会)の淡中泰雄交通部長はそう語った。
2025年日本国際博覧会協会が公表した会場へのバスルート(一部)
協会によると、万博への来場者の輸送計画では、JR大阪駅などの主要駅と人工島・夢洲(ゆめしま)にある会場を結ぶシャトルバスが5ルート、自家用車で訪れた人向けに近隣駐車場と会場をつなぐシャトルバスもある。空港から直行するバスなどを含め、往路だけで1日最大で1163便が走り、6万1110人を運ぶ想定になっている。
淡中部長は「関西のバス運転手の人手不足は深刻。万博のため、各社が苦労して人員を確保している」と認める。協会として、全国のバス事業者に協力を求めるなど、支援していると説明した。
◆「免許取得で、一定レベルの技術を持ったと言える」
人手不足の中で目を引くのが大阪メトロだ。
子会社の大阪シティバス(大阪市)は、近隣の舞洲(まいしま)の駐車場と会場間約6キロを大型バスで運行するほか、会場内約5キロを小型バスで巡回する予定。だが運転手が足りず、大阪メトロから駅員や鉄道車両の整備士、事務職員ら約100人を万博の期間中、出向させることに。うち約60人には大型2種免許を新たに取得させるという。
人員確保の見通しは立ったというが、安全性に問題はないだろうか。
大阪メトロ広報担当者は「免許取得したということは、一定レベルの技術を持ったと言える。路線もたくさんあるわけではなく、高度な運転ではない」と話した。
ただ大阪市でタクシーとバスを運行する日本城タクシーの坂本篤紀代表(59)は「夢洲にはコンテナヤードがあり、道路は荷物を運ぶトラックで混雑している。免許を取得したばかりの人では事故につながりかねず、人命を軽視している」と批判した。
◆「万博のバス運行に人手を奪われた」
バス運行を巡っては他にも物議を醸している。
大阪府交野(かたの)市は、万博にシャトルバスを出す京阪バス(京都市)が来年3月に交野市内4路線を廃止することから、市主体で代替バスの運行を模索していた。今年9月には「万博のバス運行に人手を奪われたことで担い手が見つからない」として、万博協会に配慮を求める申し入れをした。
市は外部人材の募集を諦め、市の消防職員らにバスを運転させることを検討している。山本景市長は「こちら特報部」の取材に「万博開催のせいで市民の足の確保に影響が出ることは許せない」と述べた。
一方で京阪バスの担当者は「万博事業と交野市の路線撤退は無関係だ。撤退は総合的に検討した結果だ」と話している。
大阪在住のジャーナリストの吉富有治氏は「バス運転手の人手不足はある程度、予測できたはずだ。見切り発車で計画を進めたから、今になって出向という急ごしらえの形で人員確保することになった」と指摘。「そもそも交通の便の悪い夢洲で万博を開催すること自体が誤りだった」と批判する。
さらに「安全に来場者を輸送するため、海上輸送を強化するなど、対策を探るべきではないか」と述べている。