野木亜紀子は戦後史とどう向き合う? 『海に眠るダイヤモンド』は黄金チームの挑戦作に(2024年10月20日『リアルサウンド』)

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 10月20日からTBS系にて、神木隆之介主演の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』が放送される。
 
 本作は、2018年の東京と1955年の長崎県端島という、現代と高度経済成長期の日本を描いた愛と友情、そして家族の壮大な物語。神木は2018年に生きるその日暮らしのホスト・礼央と、1955年に炭鉱の職員として働く青年・鉄平の一人二役を演じる。
  本作の脚本は野木亜紀子、チーフ演出は塚原あゆ子、プロデューサーは新井順子が担当している。
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 3人は2018年に『アンナチュラル』(TBS系)、2020年に『MIU404』(TBS系)という1話完結の連続ドラマを手がけ、現在は映画『ラストマイル』が劇場公開中で大ヒットしている。
 この3作は現代日本のさまざまな問題を背景にしたクライムサスペンスとなっており、社会性とエンタメ性を両立させた映像作品として高く評価された。
 対して、最新作となる『海に眠るダイヤモンド』は、過去作とはテイストの異なるドラマとなりそうだが、過去と現在を行き来する話になると知って、まず連想したのが、塚原と新井が過去に手がけた2本の連続ドラマ『Nのために』(TBS系)と『最愛』(TBS系)だ。
 2014年に放送された『Nのために』は、湊かなえの同名小説(双葉文庫)をドラマ化したもので、脚本は奥寺佐渡子が担当している。
 2004年に起きたセレブ夫婦殺人事件の現場にいた人々の物語で、現在と過去を行き来する構成となっていた。殺人事件の謎が次第に明らかになっていくミステリードラマだったが、物語の核にあるのは切ない青春ドラマで、特に主要人物2人が愛媛県の青景島で暮らしていた時期を描いた過去パートが、珠玉の仕上がりとなっていた。
  一方、2021年に放送された『最愛』は、脚本を奥寺佐渡子と清水友佳子が担当したオリジナルドラマ。
 本作もまた、2つの時代を行き来する物語で、2006年に起きた殺人事件の関係者だった男女が2021年に起きた殺人事件を捜査する刑事と容疑者となって再会するサスペンスドラマだった。
 事件の謎を視聴者が推理する考察が放送当時は盛り上がったが、同時に過去の事件の関係者として再会した人々の人間模様を描いたヒューマンドラマとして高く評価された。何より過去パートで描かれた、岐阜県白川郷の自然をバックに描かれた切ない青春ドラマが印象的だった。
 野木亜紀子は、『アンナチュラル』のシナリオブック(著:野木亜紀子、河出書房新社)のあとがきで、塚原あゆ子の演出の魅力を「端的に言うと『スタイリッシュかつエモい』、これにつきます」と書いている。
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 確かに塚原の演出は、スピード感があってテンポが良く、ユニークなガジェットを多用する凝った映像とが満載だ。しかし、そうでありながら、役者の魅力を見事に引き出し、情感のあるヒューマンドラマをしっかりと見せてくれる。
 野木亜紀子脚本の3作は、都市の風景を切り取ったクライムサスペンスということもあってか、塚原演出の「スタイリッシュ」な部分が、前面に打ち出されていたように感じた。
 対して『Nのために』や『最愛』は、田舎の風景を背景にした甘酸っぱくて泣ける青春ドラマが強く印象に残る作品で、塚原演出の「エモい」部分の方が際立っていた。
 おそらく、1955年の長崎の端島を舞台にした『海に眠るダイヤモンド』は、『Nのために』や『最愛』のようなエモさが前面に打ち出された、これまでにない野木亜紀子脚本のドラマとなるのではないかと思う。
 また、10~15年の歳月を描いた『Nのために』、『最愛』に対し、『海に眠るダイヤモンド』では70年の物語になるという。そのため、日本の戦後史が主役とでも言うようなスケールの大きな展開になるのかもしれない。
 その意味でも、犯罪を通して現代社会の闇を描いてきた過去作とはアプローチの異なる、壮大なヒューマンドラマに仕上がるのではないかと期待している。
 3人にとっては新たな一歩となる大きな作品となることは間違いないだろう。放送が楽しみだ。