衆院選2024 に関する社説・コラム(2024年10月22・23日)

中小賃上げ要求 格差是正の上乗せ実現を(2024年10月23日『北海道新聞』-「社説」)
 
 連合は来年の春闘賃上げ要求を定期昇給分と合わせ5%以上とし、このうち中小企業の労組は格差是正の上乗せで6%以上とする基本構想を発表した。
 中小向けの高い目標設定は11年ぶりだ。今年の連合傘下労組は33年ぶりとなる平均5%超の賃上げを達成したが、中小は4.45%にとどまっていた。
 物価高が進む一方で大手と中小の賃金格差は広がる。芳野友子会長は「是正をしっかりとしていきたい」と強調する。
 だが実現は容易ではない。現在の急激な円安は輸出や海外事業が主な大企業には追い風となるが、資材や燃料価格高騰で中小の経営を圧迫している。
 賃上げは衆院選でも主要な争点である。下請けの価格転嫁を進めるとともに、賃上げした中小企業への税や社会保険料の減免などの対策も検討が必要だ。
 中小企業で働く人の割合は全国で7割近く、道内では8割超を占める。生活向上の実感がなければ個人消費は伸びず、本格的な景気回復につながらない。
 とはいえ中小企業は利益率が低く、賃金への労働分配率は高い傾向にある。コストを価格転嫁して賃上げ原資とすることが急務だが、中小企業庁の調査でも転嫁率は40%台にとどまる。
 親会社による買いたたきなど下請法違反は後を絶たず、公正取引委員会の指導・勧告は昨年度8千件に上った。日産自動車のように支払い代金を一方的に減額した悪質なケースもある。
 中小任せでなく経済界全体で問題解決を図るべきだ。
 経済同友会新浪剛史代表幹事は最低賃金の平均1500円への引き上げに関し、記者会見で「払わない経営者は失格」と述べた。真意はともかく、苦境の中小零細を切り捨てるような発言ともとられよう。
 賃上げには国、自治体のきめ細かい支援が欠かせない。岩手県は時給を50円上げた中小企業などに1人当たり年間5万円支給する制度を導入し好評という。技術革新や生産性改善を促すような政策も求められる。
 気がかりなのは、人材確保のため企業が新人や若手の賃上げに比重を置くことだ。特に賃上げ原資が限られる中小はその傾向が高まる可能性がある。
 国の統計では、昨年の賃金増減率は大卒の20代で2%台後半、50代前半はマイナス0.3%だった。蓄えも乏しい就職氷河期世代にしわ寄せが及ぶ。
 連合は今回の基本構想に「全ての人の生活向上を目指す必要がある」と盛り込んだ。非正規やフリーランスも含め実現への具体的な道筋を示してほしい。

優先条項 違い見極めたい/衆院選 憲法改正(2024年10月23日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)
 
 国家の基本である憲法の改正を巡り、衆院選の各党公約は、どの条項を優先するのかで主張の隔たりが目立つ。
 
 先の通常国会では改憲に前向きな党派が中心となり、大地震など緊急事態時に国会議員の任期を延長する改憲案の条文化を進めようとした。だが、衆院選で議会の構成が変わる以上、もう一度根本からの議論が必要だ。
 各党がどの条項の改正に優先的に取り組もうとしているのか。なぜその改正が必要なのか。選挙戦でしっかりと説明してもらいたい。私たち有権者はその中身を比較し、違いを見極めたい。
 
 自民党の公約は、戦争放棄・戦力不保持を定めた9条への自衛隊明記と緊急事態条項の新設、参院選の合区解消、教育充実-の4項目を挙げ、衆参両院の憲法審査会で議論を深め、改憲原案の国会発議と国民投票を行い、「改正を早期に実現する」と明記する。石破茂首相は「首相在任中の改憲発議」を目標に据えると述べている。
 これに対して、野党第1党の立憲民主党は現行憲法の基本理念と立憲主義に基づく「論憲」を進めると主張。国家権力を制約する方向で議論すると強調している。自衛隊の9条明記案にも反対であり、対立点は明確だ。
 一方で、いわゆる「改憲勢力」とされる政党間にも隔たりがある。特に慎重なのが与党の公明党だろう。9条は堅持するとし、自衛隊に関しては「統治機構の中に位置づける検討を進める」と自民の9条明記案とは一線を画す。
 日本維新の会は「停滞している改正論議を積極的にリードする」と表明。教育無償化や自衛隊明記、緊急事態条項の創設などを、期限を切って国民投票の実現を目指すと主張。国民民主党改憲には前向きだが、9条に関しては自衛権の行使の範囲や自衛隊の統制ルールを議論すべきだと指摘。デジタル時代に対応したデータ基本権を憲法に位置づけるべきだとしている。
 「改憲勢力」も足並みがそろっていないのは明白だ。
 そもそも石破首相は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めた9条2項を削除し、集団的自衛権文民統制を定めた安全保障基本法を制定するというのが持論だった。改憲4項目は安倍晋三元首相時代に策定されたものだ。石破氏は持論を封印し続けるのか、明確にすべきだ。
 一方、改憲への姿勢は野党共闘が進まなかった一因ともなった。
 共産党は日米同盟強化に反対し、集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法の廃止を訴える。だが、立民の野田佳彦代表は、安保関連法は「再検証する」と述べ、即時廃止には消極的だ。改憲に積極的な維新や国民民主も含めた共闘には憲法のハードルは高かった。
 このほか、れいわ新選組は政府が現行憲法を守るよう監視すると主張。社民党は9条改憲に反対する。参政党は国民自らが憲法を創る「創憲」を推進するとしている。各党の主張はまちまちだ。
 公明を「改憲勢力」に数えるならば、参院では改憲発議に必要な「総議員の3分の2」を超えている。今回の衆院選でも「3分の2」の310議席を超えるかが一つの焦点となろう。だが、各党の主張にはこれほどの隔たりがある。「改憲勢力」とひとくくりにする議論は慎むべきだ。

負担増隠しは現実逃避だ/衆院選 社会保障(2024年10月22日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)
 
 衆院選の論戦は後半に入った。日本は2040年ごろ高齢者人口がピークを迎え、働き手の現役世代が急減していく。社会保障制度を持続可能にして将来に引き継ぐにはどうするべきか。その議論が避けて通れない。
 
 年金、医療、介護などの社会保障はサービス給付の「受益」と、それを皆で支え合う保険料、税の「負担」で成り立つ。受益を拡大するなら応分の負担をしなければ子や孫にツケが回り、目をつぶれば現実逃避の空論になる。各党は負担増の必要性も語り有権者の判断材料にすべきだ。
 各党公約はどうか。自民、公明両党が「基礎年金給付の底上げ」を強調。自民は「児童手当の抜本的拡充」、公明は「出産費用の実質無償化」もうたう。立憲民主党が「誰もが必要な医療、介護などのベーシックサービス拡充」を主張。高校、大学などの「無償化」は与野党の多くが表明する。さながら「受益」のアピール合戦だ。
 財源のための「負担」はどうか。自民は「全ての世代が能力に応じて支える全世代型社会保障の構築」、立民が「社会保険料負担の上限額を見直し富裕層に応分の負担を求める」と公約。経済力がある高齢者は支える側に回り、現役富裕層に負担増を求める方向は妥当だ。だが財源確保には焼け石に水だろう。
 日本維新の会は、高齢者の医療費窓口負担を3割に上げ「現役世代と同じとする」とした。だが、社会保障の安定財源とされる消費税については維新、共産、国民民主各党などが減税や廃止を主張。石破茂首相は引き上げを「当面考えていない」と否定した。
 今は改革の途上。岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」の財源として医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」の徴収が26年度から始まり、28年度に徴収額は1兆円に達する。ところが政府は、社会保障費の歳出削減により支援金負担を「実質ゼロ」にすると説明する。
 当然しわ寄せが伴う。原則1割である75歳以上の高齢者の医療費窓口負担が現役並みに3割となったり、同じく1割の介護サービスの自己負担が2割に増えたりする人の対象拡大を政府は検討している。75歳以上の医療費財源は5割を税、4割を現役世代の保険料で賄っており、現役世代の負担軽減にもつなげる想定。40~64歳が納める介護保険料の支払い開始年齢引き下げも検討課題だ。
 年金も重い改革が控える。少子高齢化に応じて年金額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みがあるため、自営業者らが入る国民年金(基礎年金)の給付水準は将来、3割程度も目減りする見通しだ。
 給付底上げへ、会社員らが入る厚生年金と財源を一体化してマクロ経済スライドによる抑制を前倒しで完了させる措置が検討されている。これには、基礎年金の給付財源の半分を賄う国庫の追加負担が2兆円必要となり、政府内には「将来的に消費税引き上げしかない」との意見もある。
 これらは全て政府が現に検討中のことだ。社会保障子育て支援にはカネがかかる。負担増は早めに分かち合う方が痛みを減らせる。それが少子高齢化の日本の現実だ。
 今回の衆院選、来夏の参院選を「負担増隠し」で乗り切り、その後やにわに具体化となれば、議会制民主主義に反する。

’24衆院選 財政健全化 財源後回し、無責任を改めよ(2024年10月23日『河北新報』-「社説」)


 有権者の関心が物価高対策に集まる中、与野党の公約は給付や減税といったメニューが並ぶ一方、財政規律への言及は極めて乏しい。
 
 物価高に苦しむ世帯に十分な支援が必要なのは言うまでもないが、具体的な財源も示さずに給付拡充を言い立てるだけでは、責任ある公約とは呼べまい。
 人口減の中で日本が国力を維持していくには、成長と財政健全化の両立が不可欠だ。
 日銀の利上げ開始で「金利のある世界」が戻り、元利払いに充てる国債費が今後、増していくのは必至だ。景気回復を頼みに借金依存を続ける無責任財政からの脱却を急がなくてはならない。
 自民の石破茂首相は15日、福島県いわき市での第一声で「大きな補正予算を編成したい」と述べ、新たな経済対策の裏付けとなる2024年度補正予算について、23年度補正の13兆円を上回る規模にする考えを示した。
 岸田文雄前政権がガソリンや電気・都市ガス料金抑制の補助金などを盛り込んだ23年度補正予算は、全体の約7割に当たる8兆8000億円を国債で賄った。さらに大型の補正予算を組めば、財政のさらなる悪化は避けられない。
 内閣府は7月、国と地方の基礎的財政収支プライマリーバランス)が初めて政府目標通り25年に黒字化するとの試算を出したが、その実現も遠のく恐れがある。
 補正予算は本来、年度途中に生じた予期せぬ問題に対応するのが目的だ。コロナ禍で膨張した財政の正常化に向けて、政府は23年6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」に「歳出構造を平時に戻していく」と明記したはず。不要不急の事業を入れ込まぬようにすべきだろう。
 岸田政権は防衛力強化や少子化対策などの財源を詰めずに政策方針の閣議決定や法整備を急ぎ、国民の負担増となる議論を先送りしてきた。
 防衛力強化は27年度時点で1兆円強を所得税法人税、たばこ税の引き上げで賄うとしているが、増税の開始時期は決まっていない。
 少子化対策では、公的な医療保険料に上乗せされる「支援金」が現役世代の追加負担になるとの批判がくすぶる。
 社会保障の歳出削減でも1兆1000億円を確保する方針だが、具体的に何を削るかは未定のまま。どれもこれも衆院選後の政権を悩ませる宿題となる。
 一方、財源や将来の負担増をあいまいにしている点では野党の公約も似たり寄ったりだ。消費税の減税や廃止、大胆な教育無償化などを掲げるのであれば、相応の財源確保策を提示すべきだ。
 大企業や金融所得への課税強化、日銀保有の上場投資信託ETF)の売却益などを挙げているものの、果たして金融市場の混乱を招かずに実現できるのか。野党にも丁寧な説明が求められる。

[2024衆院選]地方創生 同じ失敗を繰り返すな(2024年10月23日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 日本は人口減少と少子高齢化が急速に進み、先細りが懸念されている。大都市圏に人口が偏る現状をいかに改め、地方の活性化をどう図っていくかは大きな課題だ。
 
 2014年に安倍政権が打ち出した看板政策が「地方創生」だ。「まち・ひと・しごと創生本部」を創設し、東京一極集中是正などに取り組んだ。地方への移住者増加など一定の成果はあったが、課題に掲げられた中央省庁の地方移転は進まず、一極集中の大きな流れは変えられなかった。
 省庁移転で成果といえば、文化庁京都府移転ぐらいのものだ。大半がかけ声倒れに終わった。それはなぜなのか。原因を分析するところから始めなくてはならない。
 だが、政府が今年6月に発表した地方創生の10年を総括する報告書には、成果が乏しかった要因についての分析はなかった。地方自治体から失望の声が上がったのは当然だ。これまでの取り組みの検証をおろそかにしたままでは、同じ失敗が繰り返されかねない。限られた予算を無駄にすることにもなってしまう。
 総務省によると、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)の人口は、転入が転出を上回る転入超過が1996年から2023年まで28年にわたって続いている。新型コロナウイルス禍でテレワークの普及が進み、転入超過のペースが一時鈍化したものの、コロナが収まってくるにつれて、再び加速しているのが現状だ。
 石破茂首相は初代の地方創生担当相であり、東京一極集中是正に懸ける思いは強いはずだ。手腕が問われる。
 所信表明では、政策の柱に地方創生を据えると宣言。交付金を当初予算ベースで倍増し、農林水産業や観光産業、地域の文化・芸術の復興などに力を入れるとした。首相を本部長とする「新しい地方経済・生活環境創生本部」を先頃創設。再スタートを切った。
 交付金の倍増はインパクトがあるが、新味のある政策は見当たらない。予算のばらまきに終わってしまうのではないかとの懸念は拭えない。
 ただ各党の公約を見ても、地方に軸足を置いた政策は物足りない印象だ。閉塞(へいそく)感漂う地方にいま何が必要か。もっと政策のアイデアを出し合い、論議を深めてもらいたい。
 アベノミクスは、大胆な金融緩和で円安や株高が進み、大企業や富裕層が潤えば、その恩恵が中小企業や地方に行き渡る「トリクルダウン」が起きるとしていた。だが恩恵は乏しいままだった。
 求められるのは、地方の産業を活性化させ、地域全体が潤うようにするための取り組みだ。自治体はそれぞれの地域の強みを生かし、施策を展開したい。政府はその後押しに力を入れるべきだ。

衆院選・投票の機会/具体的に日時決めて行動を(2024年10月23日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 より多くの民意を国政に反映させるため、期日前投票不在者投票などを活用することが大切だ。
 県選管によると、衆院選の投票日の7日前となる20日現在、県内で期日前投票を行った有権者数は10万6243人だった。2021年の前回の同時期に比べ1393人増えた。不在者投票の用紙は8678枚交付された。
 区割りの改定で本県は4小選挙区となった。候補者の政見や人柄が分からないという有権者もおり、関心の低下が懸念されている。さらに裏金事件などによって政治不信は深刻さを増している。
 政治離れに拍車をかけかねない材料がある中で、期日前投票者数が前回より増えた。棄権せず権利を行使した10万人超の有権者に、投票の重要性を訴える選挙関係者は頭の下がる思いだろう。
 全国の有権者を対象にした明るい選挙推進協会明推協)の調査で、前回棄権した理由は「仕事」が約20%に上った。仕事以外の「重要な用事」は約10%だった。
 1票を投じる意思がありながら、忙しくて行けなかったということは避けたい。27日に投票する予定の有権者は、当日の行動をよく考える必要がある。
 無理をしないと投票できなさそうな場合は、期日前投票をしてほしい。予定の実行性を高めるために「何日の何時に、どこから投票所に行く」と、事前に具体的な計画を決めることがお勧めだ。
 投票する日の行動を確認してもらうなど前述の提案は、より良い選択を自発的に促す行動科学「ナッジ」を参考にしたものだ。大阪大の佐々木周作特任准教授によると、米国の研究では、有権者に謝意を伝えたり、当日の行動を具体的に尋ねたりすることで投票率が上がることが確認されている。
 特に課題となっている若者の投票率の向上について、佐々木氏は「投票未経験の人らにとって有益な情報を届けることが大切ではないか」と指摘する。
 例えば普段買い物をしない人には、卵1パック300円が安いか高いかよく分からない。売り場での他の人の行動が、卵を買うかどうかの判断材料の一つとなる。
 選挙も周囲の行動に影響されるという。ただ買い物と違い、他の人が投票に行ったかどうかは分かりにくい。政治に詳しくなく不安という若者の場合、同世代の投票に関する情報が安心して投票所に足を運ぶ判断材料になり得る。
 どう有権者の行動を後押しし、投票につなげるか。各選管や明推協などには、呼びかけ方などに工夫を凝らすことが求められる。

【2024衆院選 経済政策】消費活発化の議論を(2024年10月23日『福島民報』-「社説」)
 
 27日投開票の衆院選で、経済政策が政治改革と並ぶ大きな争点に浮上している。「デフレからの脱却を目指すには、個人消費を活発化させる必要性がある」との公約や党首の発言が目に付く。ただ、具体的な対策が各党から提示されているとは言い難い。国民の金融資産を消費に振り向ける方策を十分論議すべきではないか。
 賃上げで増えた所得を消費に回せば企業の収益が拡大し、さらなる賃上げにつながる好循環が実現する。国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費の動向は、この国の経済の浮沈を握っているとも言えるだろう。
 「たんす預金」を含め、流動性に乏しいとされる高年齢層の金融資産に注目したい。内閣府が公表した今年度の年次経済財政報告(経済財政白書)は、自らの預貯金や有価証券などの財産を取り崩さない傾向が高齢者に強いと指摘した。60―64歳世帯の金融資産平均保有額は約1900万円、80歳以上は約1600万円との総務省の全国家計構造調査の結果も出ている。白書には、長寿化により生活資金の確保に不安を抱え、支出が抑制されているとの見立てが盛り込まれた。
 半面、「財産を使い切りたい」との思いも少なくないとした。金融広報中央委員会の昨年の調査で、「財産を使い切りたい」との高齢者の回答は34%に上り最多だったと紹介している。
 地域の特産を返礼品にした「ふるさと納税」の寄付額は昨年度、全国で初めて1兆円を超えた。県産品をそろえた県観光物産館(福島市)の昨年度の売り上げは過去最高の10億円を記録した。個性的な商品・サービスは消費を喚起する。お年寄りが子や孫、旧友のため贈答品を購入する動きにもつながる。衆院選では、地方創生の観点からも地場産品の需要を一層伸ばす提言に期待したい。
 今回の論戦では、経済政策と物価高対策が同義になっている印象が強い。光熱費高騰をはじめ、日用品の相次ぐ値上がりが国民生活を圧迫している厳しい実態を早期に解消するのは急務だ。一方で、幅広い視点に立ち、国力を引き上げる未来の成長戦略を打ち出すことこそ、真の「経済政策」だとの認識も忘れてはならない。(菅野龍太)

衆院選2024 子ども・若者政策 希望持てる未来像提示を(2024年10月23日『毎日新聞』-「社説」)
 
 子育てや教育は社会の将来を築く土台となる。子どもや若者が希望を持って暮らせる環境を整えることは政治の責務だ。
 にもかかわらず、衆院選では「政治とカネ」や物価高の問題に隠れ、議論がかすみがちだ。自民党石破茂首相や立憲民主党野田佳彦代表は、公示後の第一声で全く触れなかった。
 子どもや若者を取り巻く環境は厳しさを増している。
 10~20代の自殺率は上昇傾向にあり、児童虐待やいじめ、不登校の件数は過去最多を更新している。経済的にも子どもの9人に1人が貧困状態にあり、ひとり親家庭では貧困率が5割近くに達する。
 こうした状況に対応するため、岸田文雄政権下でこども家庭庁が発足し、こども基本法と、施策を総合的に進める大綱が制定された。全ての子が等しく健やかに成長できる社会を目指すとしている。
 昨年末には、子育て世帯への給付など総額3・6兆円の少子化対策がまとまった。だが、これでは大綱が掲げる目標の一部にしか応えていない。
 次に打ち出す施策として、各党がこぞって公約に盛り込んだのが「教育の無償化」だ。高校や大学の授業料、小中学校の給食費、塾代など多岐にわたる。多くの人が恩恵を受けるため、有権者にアピールしやすい。
 家計への支援と、子どもの権利保障の観点から、教育にかかる負担の軽減は進めるべきだ。しかし、必要な予算規模や財源が十分に示されているとは言い難い。
キャプチャ
給食がなくなる夏休みを前に、困窮家庭へ支援の食料品を送る準備をする国際NGOセーブ・ザ・チルドレン」のスタッフら=千葉県船橋市で2024年7月11日午前11時7分、石塚孝志撮影
 貧困や虐待など困難な状況にある若年層に寄り添う支援も、急ぐ必要がある。格差是正や孤独・孤立の防止は喫緊の課題だ。
 ひとり親家庭を対象とした児童扶養手当の拡充、家族の介護などを担うヤングケアラーへの支援、家庭と学校以外の居場所作りなどの政策を競い合ってほしい。
 過去4回の衆院選では、20代の投票率はいずれも40%を切り、年代別で最低だった。若い世代に政治への関心を持ってもらう上でも、子ども政策の議論を深めることが重要だ。
 若者が閉塞(へいそく)感を抱いたままでは将来の展望は開けない。誰も取り残されることのない社会の実現に向け、各党は道筋を示すべきだ。

衆院選憲法改正 国民を守る議論が必要だ(2024年10月23日『産経新聞』-「主張」)
 
キャプチャ
 日本を取り巻く安全保障環境は厳しい。日本の独立と繁栄、国民の命がかかった衆院選にもかかわらず、国の根幹をなす憲法改正の議論が十分行われていないのは問題だ。
 自民党は公約に改憲原案の国会発議、国民投票の実施を明記した。ただ、石破茂首相が演説で憲法改正にあまり触れていないのは残念である。
 論点の一つである自衛隊明記に関し自民は「第9条の2」として条文を新設する論点整理をまとめている。最終的には憲法に軍を規定すべきだが、途中段階としての意義はある。日本維新の会も9条改正で自衛隊を規定すると公約に掲げている。
 公明党自衛隊について「統治機構の中に位置付ける」と公約に記した。首相や内閣の職務を規定した第72条や第73条への明記を想定したものだが、日本の防衛意思を示すには、それだけでは足りないだろう。
 立憲民主党は自民案について「戦力不保持・交戦権否認を定めた9条2項の法的拘束力が失われ、フルスペックの集団的自衛権まで行使可能となりかねない。平和主義を空文化させる」との見解を記した。結果として憲法を改めなくても平和を保てると考えているとすれば、認識が甘すぎないか。
 憲法改正を巡るもう一つの論点は緊急事態条項の創設だ。自民や維新、国民民主党などは国会議員の任期延長に賛成しているが、公明は賛否両論あるとして「議論を積み重ねる」とするにとどめた。
 緊急政令の根拠規定を設けることについても自民や維新などは足並みをそろえているが、公明は「危機管理法制の中で私権に対する一定の制約などを整備するしかない」として慎重な立場を鮮明にした。
 立民は憲法参院の緊急集会が規定されていることに加え、災害対策基本法など緊急事態に応じた個別法が存在するため、「議員任期延長を含む緊急事態条項を定める必要はない」としている。それだけでは対応できないと考えて、他党が議論しているのを知らないのか。
 南海トラフ巨大地震などの大規模災害はいつ起きるか分からない。台湾有事の懸念も高まっている。緊急事態条項の創設も急務だ。衆院選は大詰めを迎えている。国民を守るために憲法改正の議論は不可欠だ。

’24 衆院選 社会保障政策 給付と負担、全体像語れ(2024年10月23日『東京新聞』-「社説」)
 
 年金、医療、介護、子育て支援などの社会保障は制度の維持が課題だ。衆院選の各党公約には給付増や負担減は並ぶが、負担のあり方は十分には示されていない。どの程度の給付にはどの程度の負担が必要か、全体像が知りたい。
 社会保障制度は少子高齢化や経済情勢の変化に伴って、給付は世代とは関係なく必要な人に届ける「全世代型」、負担は能力に応じた「応能負担」という考え方で見直すことが急務だ。
 年金制度について、自民党は基礎年金の水準底上げや働く高齢者の年金減額制度の見直しなどを掲げる。既に政府が検討している内容で公明党も方向性は同じだ。
 立憲民主党は低所得高齢者の年金上乗せ給付、日本維新の会は保険料の積み立て方式や最低所得を保障する制度導入、日本共産党も最低保障年金をそれぞれ訴える。
 年金制度は、すべての国民が長期にわたって関係する大規模な仕組みであり、時々の保険料収入から用意する賦課方式から積み立て方式への変更など、大がかりな制度改革は現実的とは言えない。
 年金制度を支える現役世代が減る中、制度維持のためには、誰にどの程度の負担を求めるのか、各党・候補は説得力のある設計図を有権者に示す責任がある。
 負担軽減策に関し、維新は子どもの医療費無償化、国民民主党は高齢者医療への公費投入による現役世代の負担軽減、共産は高齢者の医療費負担軽減などを主張。
 一方、負担増については、立民は保険料の富裕層負担増、維新は高齢者の医療費負担増、国民は富裕層への課税強化、共産は大企業への課税強化などを訴えるが、負担と給付の間に不公平は生じていないか、検証は必要だろう。
 消費税を巡っては、与党は減税に反対し、立民は低所得者に給付をする税控除制度導入、他の野党は減税・廃止を主張する。
 消費税は低所得者の負担が大きいとされる上、減税には消費を活発にする効果があるとされる。
 ただ、社会保障の重要な財源となっていることを考えれば、減税する場合、それに代わる財源の確保策も同時に示す必要がある。
 27日の投票日までわずかだが、各党・各候補は給付と負担について誠実に語らねばならない。

社会保障政策 負担増に踏み込む論戦を(2024年10月23日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 高齢化により年金や医療、介護などの社会保障給付費は膨らんでいる。出生率は想定を超えるペースで下がっている。社会保障の主な担い手である現役世代の割合は減り続け、このままでは制度の存続が危ぶまれる。
 どのようにして立て直すのか。衆院選の重要な争点である。論戦が低調なのが残念だ。
 各党の公約は総花的で、給付の拡充や負担減など有権者の歓心を買おうとする政策が前面に並ぶ。
 財源の負担は誰が、どのように分かち合うのか。肝心な点が曖昧で、実現可能か判断が難しい。
 現役世代の負担の軽減は、待ったなしだ。自民党は年代を問わず支払い能力に応じて支え合う「全世代型社会保障」の構築を公約に掲げる。高齢世代の負担増は避けられないとして、では、どの所得層にどれくらい負担を求めるのか。具体案が欠けている。
 日本維新の会と国民民主党は、高齢者医療の窓口負担の引き上げを主張する。対象の線引きなど、詳しい説明を聞きたい。
 高齢者の低年金対策も課題だ。自民、公明両党は基礎年金の受給の底上げを公約に盛り込む。
 立憲民主党は誰もが必要とする医療や介護、子育て支援などを保障するベーシックサービスの拡充を掲げる。立憲民主、維新、国民民主は給付付き税額控除などの導入を訴えている。
 これらは巨額の財源や、所得の的確な把握が必要になる。
 見過ごせない公約がある。国民民主の「尊厳死の法制化」だ。玉木雄一郎代表は12日の討論会で関連して「医療給付を抑えて、若い人の社会保険料を抑える」と述べた。批判を受け、「医療費削減のためにやるものではない」などと釈明したが、命の選別につながる極めて危うい発想だ。
 このような乱暴な発言が出る一因に、政治の怠慢があるのではないか。国政選挙の度に各党で政策を競いはするものの、言いっ放しで、制度の全体像の議論につなげてこなかった。
 全世代型社会保障への転換の必要性は、多くの党が認めている。例えば共産党が主張する介護職の賃上げと処遇改善は、他の与野党も公約に盛り込んでいる。
 衆院選で政策を競った後は、超党派で議論すべきだ。負担増にも踏み込み、持続可能な形へと編み直す。社会保障制度の再構築は、政治全体の責任である。

賃上げと成長/持続可能な中小支援策を(2024年10月23日『神戸新聞』-「社説」)
 
 物価高に賃金アップが追いつかない。暮らしの安心感にはほど遠く、個人消費は伸び悩む。日本経済がデフレから完全に脱却し、好循環に入るには、働き手の7割を雇用する中小企業に持続的な賃上げの動きを波及させることが必要だ。
 現在の最低賃金は、時給換算で全国平均1055円、兵庫県は1052円である。前年度より平均51円の大幅増だが、国際的には低水準のままだ。衆院選では、多くの政党が一層の引き上げを公約に据える。
 自民党は、石破茂首相が所信表明で「2020年代に1500円」を目指すと述べたが、公約に金額は示さず引き上げを加速するとした。公明党は「5年以内に1500円」、立憲民主、共産、れいわ新選組、社民の各党は「1500円以上」、国民民主党は「全国どこでも1150円以上を早期に」とする。
 人手不足が深刻化し、人材をつなぎとめるために無理をしてでも「防衛的賃上げ」に踏み切る中小事業者は少なくない。しかし、それでは持続可能とはいえまい。企業にとって賃上げは人件費増に直結する。コストの上昇分を適切に価格転嫁できる環境整備が欠かせない。
 この点では与野党とも、施策の方向性はおおむね一致する。下請法や独占禁止法に基づく監視を強め、企業間の取引価格を適正化するというものだ。賃金を引き上げた企業の税軽減を盛り込む党もあるが、現行の「賃上げ促進税制」は効果を疑問視する声が上がる。先行する政策の点検が求められる。
 成長戦略も問われる。各党はいずれもデジタル化や気候変動対策の推進を通して、投資や技術革新を促すことを公約に掲げた。中小企業が取り組みやすい支援策が要る。日本維新の会は、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)を「成長の起爆剤」と位置付ける。
 
 兵庫工業会の宮脇新也会長は「人や設備への投資に目が向き始めた。経営環境の激変は大きなリスクとなる。企業が成長への種をまけるよう、為替や金融政策の安定化が重要」と話す。
 人口が減少する日本経済の将来像をどう描くのか。当面の課題にとどまらず、中長期の視点で議論を交わすことを望む。

2024衆院選・エネルギー政策 原発回帰の「影」も議論せよ(2024年10月23日『中国新聞』-「社説」
 
 地球温暖化を防ぐため脱炭素の取り組みを進めつつ、どうやってエネルギーの安定供給を図るか―。資源小国で、エネルギーの自給率が1割余りと低い日本にとっては重要な政策課題である。
 忘れてはならないのは、原発回帰に対する賛否である。というのも、3年前の前回衆院選の後、再稼働推進を含む原発回帰へと、政府が大きくかじを切ったからだ。民意を示す絶好の機会である。候補者や政党の主張をしっかり見極めたい。
 原発回帰を政府が鮮明に打ち出したのは、2022年にまとめた経済財政運営の指針「骨太方針」だった。「可能な限り(原子力への)依存度を低減する」と前年に盛り込んだ文言を削除し、「原子力などの電源を最大限活用」とした。東京電力福島第1原発事故を踏まえた「原発依存度低減」は葬られた。
 翌23年には、廃炉の決まった原発の次世代型への建て替え推進や、最長60年に制限した原発の運転期間のさらなる延長も可能とした。
 大転換を受け、原発を巡る主な政党の主張は二極分化してしまった。与党間では、ねじれも生じている。
 原発活用に前向きなのは自民党に加え、野党の日本維新の会、国民民主党だ。維新は核融合発電の技術開発推進、国民は次世代革新炉の建て替え・新増設も訴えている。
 連立与党の公明党と野党第1党の立憲民主党社民党原発回帰に慎重だ。共産党、れいわ新選組はそれぞれ「30年度にゼロ」「即時停止」と踏み込んだ目標を掲げる。
 原発より、太陽光や風力といった再生可能エネルギーに関心を持つ人もいるだろう。各国が推進しており、立ち遅れの目立つ日本としては脱炭素を進めて自給率を上げるため拡充が急がれる。にもかかわらず、主要な政党の主張には大きな差は見られない。どう拡充していくか、各党の具体策が聞きたい。
 原発に関する、日本世論調査会による今年初めの全国郵送世論調査によると、「今すぐゼロ」が4%、「将来的にはゼロ」は55%に上った。一方で「一定数維持」と「積極的に活用」は計39%にとどまった。再び事故が起きないか。なし崩しの原発回帰が安全性軽視につながらないか。福島の原発事故から13年半過ぎたが、国民の不安は拭い切れていない証しである。
 元日の能登半島地震で、地震列島での原発のリスクを改めて感じた人は多かろう。事故時の住民避難の計画が、いかに頼りないかも浮き彫りになった。「原発のごみ」ともいえる高レベル放射性廃棄物をどう処分するかなど、先送りできない課題は多い。
 そうした原発回帰の「影」についても、論議を深めることが必要だ。中長期的な視点でエネルギー供給の在り方を考えることにもなるはずだ。
 折しも、次期エネルギー基本計画の作成に向けた議論が始まっている。原発や再生エネに今後どれだけ頼るのか。国民の関心を一層高めていくためにも、活発な論戦が各党には求められる。

山の動く日(2024年10月23日『中国新聞』-「天風録」)
 
 さぞかし熱い演説だったろう。39年前、ケニア・ナイロビであった国連主催の会議で英訳の詩が披露された。「山の動く日来(きた)る」「すべて眠りし女(おなご) 今ぞ目覚めて動くなる」。日本も女性差別撤廃条約を批准した感慨を、政府首席代表の森山真弓さんが重ねた
▲詩は男尊女卑が当たり前だった明治末期に、与謝野晶子が雑誌「青鞜(せいとう)」の創刊号に寄せた。その意志は政治や経済、社会からの排除にあらがう人に継がれてきた。森山さんは後に、女性議員で初めて官房長官になった
▲思い返したのは先日、国連の女性差別撤廃委員会が日本政府の対面審査をしたからだ。「世界の女性の憲法」といわれる条約を守っているか、法律や政策、男女格差の実態を監視し、不十分なら改善勧告を出す
▲政府の説明に心底がっかりした。これまで3回の勧告を受けた選択的夫婦別姓の導入は「さらなる検討を進める」と繰り返した。女性の9割以上が姓を変える現状を、「社会的な圧力」とみる国際水準と落差は大きい
衆院選真っただ中。かつて女性候補を多く擁立し、大勝した野党の女性党首が「山が動いた」と語った参院選があった。格差の山を動かす議員を「1票」で育てたい。

議論深まらない地方創生(2024年10月23日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
 27日の衆院選投開票が近づいているのに議論が深まらない地方創生の話だ。初代担当相を務めた石破茂首相は交付金の倍増などを打ち出すものの、地方の人口減に歯止めをかけ、東京一極集中を是正する具体的な道筋を示していない
 野党も序盤は「政治とカネ」の問題を争点化する戦略で、17日に島根入りした立憲民主党野田佳彦代表が地方創生に言及することはなかった。もどかしさが募った
 安倍政権が2014年に打ち出した地方創生は成果が乏しい。石破首相は9月の自民党総裁選で「再起動」に強い意欲を示した。その後の議論を取材してきたが、過去の検証が不十分な印象だ。政府機関の地方移転がなぜ進まなかったのかは、ほとんど議論にならない
 政府の有識者会議のメンバーの一人は、日本や他国の過去の首都一極集中是正策を十分に議論できず、14年に取り組みを始めたことを反省した。今回はどうか。同じ轍(てつ)を踏まないでほしい
 その姿勢は地方自治体にも求められる。島根県内の市町村に取材した際、人口減少対策の5カ年計画「総合戦略」の成果や課題、掲げた事業に関連の交付金が充てられたかどうかを過去にさかのぼって質問しても、「(策定時は)担当ではなかったのですぐには答えられない」との声が目立った。国も地方も本気で改善点を考えなければ地方の疲弊は進み、地方創生は単なる選挙対策で終わりかねない。(吏)

【2024衆院選 社会保障】給付と負担の具体像急げ(2024年10月23日『高知新聞』-「社説」)
 
 高齢化が進んでいる。2040年ごろには団塊ジュニア世代が65歳以上になり、高齢者数はピークとなる。医療や介護が必要な人は今後ますます増える。
 一方、社会保障制度を支える労働力人口は減っている。介護職などサービスの担い手不足も深刻化しており、医療や介護の体制維持が難しくなっている。
 将来不安が膨らんでいるにもかかわらず、持続性を高める制度改革が先延ばしにされているのが実情だろう。対応を急ぐ必要がある。
 厚生労働省は、高齢者が住み慣れた地域で医療や介護を一体的に受けられる「地域包括ケアシステム」の推進を掲げる。
 しかし、介護業界の人手不足は深刻だ。特に在宅介護を支える訪問介護は担い手が少なく、近年の有効求人倍率は15倍前後となっている。
 理由の一つには、重労働の割に賃金が低いことが挙げられる。高知県など各地で保険料を支払ってもサービスを受けられない「介護難民」の増加が懸念されている。
 ところが、政策は逆に状況を悪化させている。本年度は訪問介護の基本報酬が減額された。事業者は中小が多く、経営状況は厳しい。閉鎖や倒産が相次いでいる。
 公約では、自民、公明両党をはじめ、野党も立憲民主党など多くの党が介護人材の処遇改善を掲げる。これまでもたびたび訴えられてきたが、状況は大きく改善されていない。現場や地方の声を踏まえた取り組みが求められる。
 膨らみ続ける社会保障費の捻出も大きな課題だ。政府は「全世代型社会保障」を掲げて現役の負担増に歯止めをかけ、年齢にかかわらず能力に応じた負担を求める改革を進めてきた。
 当面の焦点は、75歳以上の医療費の窓口負担について、現役並みの所得があって3割負担となる人の対象拡大などだ。
 公約では、野党の一部は高齢者に負担を課す改革を訴えているが、自民は負担の在り方に触れていない。給付と負担の議論の踏み込み不足は否めない。具体的な全体像を示す必要がある。
 年金の将来像にも不安がつきまとう。厚労省が公表した公的年金財政検証の結果では、給付水準は目標とする「現役収入の50%以上」を将来にわたり維持できるとの結果になった。とはいえ、約30年後には給付水準は現在よりも約2割目減りする見通しだ。
 自民、公明両党は基礎年金の底上げを主張する。立民は低所得者の年金に一定額を上乗せ給付するとしている。制度の抜本改革を訴えるのは日本維新の会で、世代間格差を生まない積み立て方式の導入を掲げている。
 社会保障の議論は、痛みを求める展開になりがちだ。中長期の展望を描いた上で、丁寧な説明と合意形成を図る作業が重要になる。

災害への備え なぜ防災庁議論を深めよ(2024年10月23日『西日本新聞』-「社説」)
 
 日本を襲う自然災害が近年頻発している。
 今年は正月に能登半島地震が発生し、8月には南海トラフ巨大地震の臨時情報が初めて出された。能登では先月、記録的豪雨により甚大な二重災害となった。
 もともと地震・火山大国である。地球温暖化による豪雨も苛烈さを増す中、災害から国民の命を守るのは政治の重要な役割だ。
 発生時の初動や被災者支援が鍵となる。自民、公明の両与党が衆院選公約に掲げるのが「防災庁」設置だ。
 石破茂首相は自民総裁選で提唱した「防災省」創設への一歩と位置付けているようだ。野党の一部も防災省設置を公約に盛り込んだ。
 防災行政の中核は内閣府が担っている。約150人の職員が防災計画の企画立案、各省庁の防災担当部局との調整などを行う。
 首相は人員、予算を大幅に拡充し2026年度の防災庁設置を目指すという。平時の備えから発災、復旧、復興までの過程を一元的に担う組織の必要性は理解できる。
 現在は他省庁からの出向者が多く、2~3年で戻るため専門職員が育たないとの批判がある。縦割り行政の弊害も指摘され、全国知事会は防災組織の創設を求めてきた。
 ただ組織の輪郭がはっきりしない。国土交通省総務省文部科学省防衛省警察庁など防災機能を持つ組織は多岐にわたる。どう効果的に結びつけるのか、具体像は見えない。
 防災庁のような組織の創設については、関係副大臣会合が15年に「積極的な必要性は直ちには見いだし難い」と結論付けた。各省庁の専門性が生かされず、組織の肥大化を招く懸念があった。
 当時とどう状況が変わったのか、与党は説明する責任がある。省庁の設置自体が目的化してはならない。
 組織再編を待たず急務なのは避難所の環境改善だ。
 能登半島地震では昭和時代と変わらぬ雑魚寝など、プライバシーが守られていない避難所が散見された。温かい食事やトイレの不足も深刻だ。劣悪な環境は心身に悪影響を与え、災害関連死につながりかねない。
 避難所運営は市町村が中心的役割を担うが、多くの職員も被災する。国や都道府県、民間の力を集結し、より早く確実に支援できる仕組みを国主導で構築すべきだ。地震が多発するイタリアや台湾など好例がある。党派を超えて取り組んでもらいたい。
 かつて副総理を務めた後藤田正晴氏は1995年の阪神大震災発生時、当時の村山富市首相にこう助言している。「地震は天災だから防ぎようがない。だけど、これからは人災になる」
 政治が備えを怠り、人災を生んでいないか。不作為を放置してはならない。

’24衆院選 経済政策 暮らしに向き合う提言を(2024年10月23日『琉球新報』-「社説」)
 
 物価高に賃金上昇が追い付かない状況から抜け出せずにいる。衆院選ではデフレ経済からの脱却に向けて各政党、候補者がさまざまな経済政策を掲げている。庶民の暮らしに向き合った政策が示されているのかが問われる。
 8月に厚生労働省が発表した6月の毎月勤労統計調査で、実質賃金が前年同月比で1.1%増となり、2年3カ月ぶりにプラスに転じた。日銀の17年ぶりの利上げや株価の高騰などがあり、日本経済は「失われた30年」とも言われる低迷期から抜け出すとの見方もあった。
 しかし、実質賃金のプラスは2カ月のみ。8月の勤労統計調査でマイナスに転じた。消費者物価指数は伸び率に鈍化はあるものの上昇が続き、現金給与総額から差し引くと実質賃金は減ってしまう。
 コメは卸売業者に販売する際の契約価格が31年ぶりの高値となった。昨年の猛暑の影響もあり、品薄となった。物価高にいかに対応するか、各党の政策が問われる。
 自民党は物価高対策で低所得者世帯への給付金支給を掲げた。中小企業が賃上げできる環境を整えると訴える。
 公明党は電気・ガス料金、ガソリン代の補助延長、低所得者や子育て世代に新たな住宅手当創設も打ち出した。
 立憲民主党は給付付き税額控除を中低所得者層に導入すると主張する。実質的に消費税の一部を還付するという。
 日本維新の会は消費税率を10%から8%に引き下げ、軽減税率を廃止。所得税法人税も減税すると訴える。
 共産党は消費税の廃止を目指し、当面5%への引き下げを掲げる。大企業の内部留保への時限課税も訴える。
 国民民主党景気対策に減税を掲げる。実質賃金が持続してプラスになるまで消費税率を5%にするとしている。
 れいわ新選組は消費税廃止、季節ごとに10万円の「インフレ対策給付金」支給を訴える。
 社民党は消費税率の3年間ゼロ、大企業の内部留保への課税も掲げた。
 参政党は積極財政と消費税減税を訴える。第1次産業向けの予算3倍増も掲げる。
 デフレ脱却は長年の課題だ。日銀が進めた大規模な金融緩和もこれこそが目的であった。金融緩和を目玉とした「アベノミクス」の功罪を検証しなければ、次のステージには進めない。選挙戦も終盤に差し掛かる中、政策論争をしっかりと深めてもらいたい。
 エネルギー基本計画の改定を控え、エネルギー政策についても問われる。自民は原発を最大限に活用する方針だ。野党の立民は新増設に加え、避難計画策定と地元合意のない再稼働を認めない。共産は原発ゼロを打ち出した。有権者に分かりやすく方向性を提示してもらいたい。
 総選挙は政権を任せる政党を選ぶ機会となる。日々の生活に引きつけて各党の訴えに耳を傾けよう。

[2024 衆院選辺野古新基地建設 状況変わらず 重大争点(2024年10月23日『沖縄タイムス-「社説」)
 
 名護市辺野古の新基地建設問題は、普天間飛行場の早期返還につながるかどうかだけではなく、地方自治の観点などからも政治の重要なテーマである。
 
 当時自民党幹事長だった石破茂首相は2013年11月、普天間の県外移設を求めていた党の県選出国会議員5人を並べ、「辺野古移設を排除しない」と認めさせた。1カ月後に当時の知事が辺野古の埋め立てを承認し、事業は動き出した。
 石破首相は9月の総裁選で、5人に「大変なご負担をかけた」と謝罪した一方、新基地建設を進める考えを鮮明にしている。
 前回の衆院選後の3年間で象徴的なのが昨年12月の国による代執行だ。軟弱地盤の広がる大浦湾側の埋め立てに必要な設計変更を県に代わって承認した。
 県は沖縄防衛局の設計変更を「調査が不十分」などを理由に不承認とした。防衛局は同じ国の機関である国交相に不服を申し立て、国交相は知事の不承認を取り消す裁決を出した。
 さらに知事に承認するよう指示した。知事は「違法」と訴えたが、裁判所は「知事は裁決に拘束される」と退けた。不承認とした中身は裁判所で審理されなかった。
 これがまかり通れば、地方が国の政策に反対しても、法を所管する大臣の裁決だけで覆し、「代執行」で推し進めることになる。
 国と地方は対等と言えず、地方分権改革で培ってきた関係性が崩れる。
■    ■
 27日投開票の衆院選で、普天間飛行場辺野古移設について、沖縄1~4区の立候補者16人のうち、2人が推進、2人が容認、7人が反対、5人がその他と、本紙アンケートに答えた。
 これまでに比べ大きな争点になっているとは言い難い。コロナ禍を経て、県内では物価高や人手不足、子どもの貧困など課題が山積するからだ。
 とはいえ事業開始から10年たっても、状況が変わったわけではない。
 陸や海では反対する住民たちの抗議活動が続く。国は総工費9300億円を見込み、1700億円を警備費に充てる計画だが、さらに膨らむ可能性が高い。
 埋め立てを加速するために鹿児島県奄美大島の土砂の使用を検討するものの、自然破壊や外来種侵入など新たな問題に直面する。
■    ■
 現政権は普天間飛行場の一日も早い閉鎖、返還のために「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返す。
 果たしてそうだろうか。
 軟弱地盤の改良工事は難航が予想され、辺野古新基地の完成まで10年以上かかるのは確実とされる。
 その間の普天間の危険性除去についても十分に話し合われていない。
 玉城デニー知事が求め続けている対話に応じない現政権の姿勢も問われる。
 新基地建設問題は依然として重大な争点である。
 衆院選では各政党、各立候補者が議論を深め、解決への道筋を示すべきだ。 

23負担増隠しは現実逃避だ/衆院選 社会保障(2024年10月22日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)
 
 衆院選の論戦は後半に入った。
日本は2040年ごろ高齢者人口がピークを迎え、働き手の現役世代が急減していく。社会保障制度を持続可能にして将来に引き継ぐにはどうするべきか。その議論が避けて通れない。
 年金、医療、介護などの社会保障はサービス給付の「受益」と、それを皆で支え合う保険料、税の「負担」で成り立つ。受益を拡大するなら応分の負担をしなければ子や孫にツケが回り、目をつぶれば現実逃避の空論になる。各党は負担増の必要性も語り有権者の判断材料にすべきだ。
 各党公約はどうか。自民、公明両党が「基礎年金給付の底上げ」を強調。自民は「児童手当の抜本的拡充」、公明は「出産費用の実質無償化」もうたう。立憲民主党が「誰もが必要な医療、介護などのベーシックサービス拡充」を主張。高校、大学などの「無償化」は与野党の多くが表明する。さながら「受益」のアピール合戦だ。
 財源のための「負担」はどうか。自民は「全ての世代が能力に応じて支える全世代型社会保障の構築」、立民が「社会保険料負担の上限額を見直し富裕層に応分の負担を求める」と公約。経済力がある高齢者は支える側に回り、現役富裕層に負担増を求める方向は妥当だ。だが財源確保には焼け石に水だろう。
 日本維新の会は、高齢者の医療費窓口負担を3割に上げ「現役世代と同じとする」とした。だが、社会保障の安定財源とされる消費税については維新、共産、国民民主各党などが減税や廃止を主張。石破茂首相は引き上げを「当面考えていない」と否定した。
 今は改革の途上。岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」の財源として医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」の徴収が26年度から始まり、28年度に徴収額は1兆円に達する。ところが政府は、社会保障費の歳出削減により支援金負担を「実質ゼロ」にすると説明する。
 当然しわ寄せが伴う。原則1割である75歳以上の高齢者の医療費窓口負担が現役並みに3割となったり、同じく1割の介護サービスの自己負担が2割に増えたりする人の対象拡大を政府は検討している。75歳以上の医療費財源は5割を税、4割を現役世代の保険料で賄っており、現役世代の負担軽減にもつなげる想定。40~64歳が納める介護保険料の支払い開始年齢引き下げも検討課題だ。
 年金も重い改革が控える。少子高齢化に応じて年金額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みがあるため、自営業者らが入る国民年金(基礎年金)の給付水準は将来、3割程度も目減りする見通しだ。
 給付底上げへ、会社員らが入る厚生年金と財源を一体化してマクロ経済スライドによる抑制を前倒しで完了させる措置が検討されている。これには、基礎年金の給付財源の半分を賄う国庫の追加負担が2兆円必要となり、政府内には「将来的に消費税引き上げしかない」との意見もある。
 これらは全て政府が現に検討中のことだ。社会保障子育て支援にはカネがかかる。負担増は早めに分かち合う方が痛みを減らせる。それが少子高齢化の日本の現実だ。
 今回の衆院選、来夏の参院選を「負担増隠し」で乗り切り、その後やにわに具体化となれば、議会制民主主義に反する。

’24衆院選 福島の復興 具体策提示し本気度示せ(2024年10月22日『河北新報』-「社説」) 
 


 東日本大震災福島県は、地震津波東京電力福島第1原発事故が重なる複合災害に見舞われた。13年7カ月たった今も被災者は多くの困難を背負い続けている。
 第1、第2原発に計10基が立地し、電力供給地として首都圏の発展を支えてきた末に起きた事故である。にもかかわらず、衆院選で各党は「福島の復興に全力で取り組む」と繰り返すばかりで、具体策に欠ける。
 被災者に寄り添う生活再建、復興まちづくりの道しるべになるような将来像を示して本気度を見せるべきだ。
 被災地、福島県浜通り地方で昨年から新たな動きが相次いでいる。
 第1原発にたまる処理水の海洋放出が始まり、創造的復興の中核拠点をうたう福島国際研究教育機構(F-REI=エフレイ)が発足した。
 原発事故に伴う帰還困難区域では、県内6町村に設定された特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が全て解除。復興拠点以外でも、住民の意向に応じて再び住めるよう除染する特定帰還居住区域制度が創設され、希望者全員の2020年代の帰還に向けた仕組みが整った。
 一方、避難先の暮らしが定着したことなどから住民帰還の動きは鈍く、避難解除が遅れた双葉町の居住人口は今年8月時点で135人。医療や福祉、子育て、教育、買い物といった生活環境を支える人手が不足している。
 第1原発に隣接する中間貯蔵施設では、事故に伴う除染で生じた大量の土などを保管している。45年3月までに県外搬出して最終処分すると法律で定められたが、処分に至る道筋は決まっていない。
 処分量を減らすため、放射性物質濃度が基準以下の土を全国の公共工事で使う再利用も進んでいない。
 第1原発1~3号機にある溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しも難航が続く。推定で計880トンあるデブリの本格回収に向け、今年8月に3グラム以下を試験採取する予定だったが、作業ミスや採取装置のカメラの不具合が相次ぎ、中断が続く。
 課題山積の現状に対し、与党の公約では「次期復興・創生期間で十分な財源を確保し、新たな産業を興す」(自民)「廃炉の完遂、除去土壌の県外最終処分、住民帰還の環境整備に取り組む」(公明)と訴える。
 野党は「避難解除地域の生活環境整備や産業・生業の再生を進める」(立憲民主)「除染廃棄物の30年以内の県外撤去という実現が見通せない目標を見直す」(日本維新の会)「政府、東電は被害者賠償に責任を果たすべきだ」(共産)などと主張する。
 多少の差異はあるが「国の責任で復興を完遂する」との姿勢では、一致するはずだ。連携できる政策は与野党が協力し、一歩でも前に進めるべきだ。

[2024衆院選]エネルギー 脱炭素の具体策を示(2024年10月22日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 温暖化による異常気象で甚大な災害が多発するなど、世界中の人々の暮らしが脅かされている。地球規模による脱炭素の取り組みは待ったなしだ。
 
 日本は2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。安定したエネルギー供給を維持しながら、いかに実現するのか。責任ある政策の推進が求められる。
 先進7カ国(G7)は今年4月、二酸化炭素(CO2)排出削減対策を講じていない石炭火力発電を35年までに段階的に廃止することで合意。英国は先月、全廃に踏み切った。
 日本では11年の東京電力福島第1原発事故後、電力供給で原子力の比率が低下し、石炭や液化天然ガス(LNG)などを燃やす火力への依存度が高まった。事故前の10年度に65・4%だった火力の比率は12年度に88・6%に上昇し、22年度も72・8%と依然高い。
 輸入の化石燃料に頼る構造には海外から批判もある。脱却への対策を加速させるべきだ。
 エネルギー安定供給や脱炭素社会実現を目的に、岸田前政権が原発回帰へとかじを切ったのは22年12月。福島第1原発事故後の歴代政権が維持した「原発の依存度低減」からの政策転換だ。石破茂首相はこれを踏襲し「安全を大前提とした原発の利活用」を明言している。
 岸田前政権の政策転換は、国会で十分に審議されず、国民的な議論もないままの決定だった。この衆院選で審判を受けることになる。
 地震の多い日本での原発立地はリスクが大きく、「核のごみ」の最終処分場建設のめども立たない。にもかかわらず、なぜ原発回帰を目指すのか。石破政権は説明する必要がある。
 原発の利活用を巡る選挙公約では、自民党日本維新の会、国民民主党が推進の立場。一方で自民と連立を組む公明党のほか、立憲民主党共産党は慎重姿勢を示す。与党、野党それぞれの中でも主張が割れている。
 再生可能エネルギーへの注目度は高まっている。洋上風力発電能代、秋田両港湾区域で国内初の大規模商業運転が始まり、さらに国の促進区域に指定されている本県沖5海域の事業者が決定。折り曲げ可能でビルの壁面や窓ガラスに設置できる「ペロブスカイト太陽電池」の実用化なども期待される。
 こうした分野へ積極的に投資し、成長させる視点が不可欠だ。与野党は再エネ拡大を含めた脱炭素の具体策を掲げ、論戦を繰り広げてほしい。
 政府は22年1月にガソリンなどの燃油価格を抑える補助を開始。電気・ガス向けも翌年に始めた。いずれも一時的な措置だったはずだが、延長や再開を繰り返し、予算累計額は既に11兆円を超えている。
 化石燃料の利用を促す面もある政策であり、脱炭素の取

[2024衆院選]エネルギー 脱炭素の具体策を示(2024年10月22日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 温暖化による異常気象で甚大な災害が多発するなど、世界中の人々の暮らしが脅かされている。地球規模による脱炭素の取り組みは待ったなしだ。
 日本は2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。安定したエネルギー供給を維持しながら、いかに実現するのか。責任ある政策の推進が求められる。
 先進7カ国(G7)は今年4月、二酸化炭素(CO2)排出削減対策を講じていない石炭火力発電を35年までに段階的に廃止することで合意。英国は先月、全廃に踏み切った。
 日本では11年の東京電力福島第1原発事故後、電力供給で原子力の比率が低下し、石炭や液化天然ガス(LNG)などを燃やす火力への依存度が高まった。事故前の10年度に65・4%だった火力の比率は12年度に88・6%に上昇し、22年度も72・8%と依然高い。
 輸入の化石燃料に頼る構造には海外から批判もある。脱却への対策を加速させるべきだ。
 エネルギー安定供給や脱炭素社会実現を目的に、岸田前政権が原発回帰へとかじを切ったのは22年12月。福島第1原発事故後の歴代政権が維持した「原発の依存度低減」からの政策転換だ。石破茂首相はこれを踏襲し「安全を大前提とした原発の利活用」を明言している。
 岸田前政権の政策転換は、国会で十分に審議されず、国民的な議論もないままの決定だった。この衆院選で審判を受けることになる。
 地震の多い日本での原発立地はリスクが大きく、「核のごみ」の最終処分場建設のめども立たない。にもかかわらず、なぜ原発回帰を目指すのか。石破政権は説明する必要がある。
 原発の利活用を巡る選挙公約では、自民党日本維新の会、国民民主党が推進の立場。一方で自民と連立を組む公明党のほか、立憲民主党共産党は慎重姿勢を示す。与党、野党それぞれの中でも主張が割れている。
 再生可能エネルギーへの注目度は高まっている。洋上風力発電能代、秋田両港湾区域で国内初の大規模商業運転が始まり、さらに国の促進区域に指定されている本県沖5海域の事業者が決定。折り曲げ可能でビルの壁面や窓ガラスに設置できる「ペロブスカイト太陽電池」の実用化なども期待される。
 こうした分野へ積極的に投資し、成長させる視点が不可欠だ。与野党は再エネ拡大を含めた脱炭素の具体策を掲げ、論戦を繰り広げてほしい。
 政府は22年1月にガソリンなどの燃油価格を抑える補助を開始。電気・ガス向けも翌年に始めた。いずれも一時的な措置だったはずだが、延長や再開を繰り返し、予算累計額は既に11兆円を超えている。
 化石燃料の利用を促す面もある政策であり、脱炭素の取り組みに矛盾する。政策の再点検が必要ではないか。

【2024衆院選 エネルギー政策】現下の課題見据えて(2024年10月22日『福島民報』-「論説」)
 
 衆院選は、脱炭素社会実現に向けたエネルギー政策も争点の一つとなっている。原発については、東京電力福島第1原発事故で浮き彫りになった課題をいかに克服し、過酷事故に備えるかが重要になる。先行き不透明な核燃料サイクルや使用済み核燃料の最終処分への対応も不可欠だ。
 地球温暖化防止に向けた化石燃料の利用削減が求められる中、電力消費は人工知能(AI)の普及に伴い、急激な伸びが予想されている。需要の増加に応えるには、どのようなエネルギー構成が最適なのか。明示するのは政治の大きな責務と言える。
 原発の再稼働について、自民党公明党は、安全確保と立地自治体などの理解を前提に進める考えを示す。立憲民主党は、実効性のある避難計画の策定と地元合意を条件とした。日本維新の会と国民民主党は、安全確保などを条件に早期再稼働に積極的な立場を取る。共産、れいわ、社民各党は脱原発を掲げている。
 
 13年前の福島第1原発事故は、巨大地震による津波で全ての電源が失われて起きた。原発事故を巡る訴訟は、大津波の発生と、大津波による事故を予見できたかなどが争点となり、司法の判断が一部分かれた経緯がある。
 北陸電力志賀原発が立地する能登半島地震では道路が寸断され、原発事故発生時の避難経路の確保に懸念が生じた。放射線を防護できる施設の充実も迫られている。
 原発の安全確保や、事故発生に備えた対策は、なお途上にある。事業者だけでなく、国や原子力規制委員会などの役割も問われてくる。原発を巡っては、新たに浮上したさまざまな課題を踏まえた対策、政策が欠かせない。
 使用済み核燃料は、大半が青森県六ケ所村の再処理工場に運び込まれる計画だ。しかし、着工から30年以上たった今も操業に至っていない。最終処分場の候補地も決まっていない現状を、どう打開するのか。核燃料サイクルを巡る現実を直視し、有権者に考えを提示してもらいたい。
 太陽光など再生可能エネルギーは、多くの党が普及拡大をうたっている。ただ、環境保護の観点で新規開発を規制したりする動きも広がっている。環境とどう調和させるかなど今日的な課題解決策も求められる。(渡部総一郎)

衆院選2024 問われる防災体制 議論通じて機能高めたい(2024年10月22日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
避難所を視察する石破茂首相(右から3人目)=石川県珠洲市の市立大谷小中学校で2024年10月5日(代表撮影)
 日本は世界有数の災害大国である。頻発する地震や豪雨への日々の備えから復旧・復興まで、取り組みの強化が求められている。
 過去の災害で浮き彫りになったのは、対策が不十分で、住民本位の視点が欠けていたことだ。
 避難所の劣悪な環境が典型例だ。雑魚寝を強いられ、プライバシーが守られないケースが目立つ。衛生面の管理なども行き届かず、災害関連死を招いている。
 老朽化した水道やガスなどインフラの更新も喫緊の課題だ。耐震性が低いために壊れやすく、復旧までに時間がかかる。生活再建への支障となっている。
 長年の課題だが、財政難などがネックとなり、設備の更新や避難先の環境改善に手が回っていない。政府は課題を洗い出し、支援策を拡充する必要がある。
 石破茂首相は、防災対策の司令塔となる「防災庁」の設置準備を始めると表明した。各党も選挙公約で防災対策の重要性を訴える。
 現在は、内閣府が防災行政を所管し、約150人の担当者が調査・研究、他省庁との調整などに当たっている。だが出向者が多く、2~3年で交代するため、専門職員が育ちにくい。
 相次ぐ災害への対応で過重業務となっており、予算、人員の両面でのてこ入れが急務である。
 防災庁にどれだけの権限を持たせるのかといった制度設計はこれからだ。各省庁の防災部門と業務が重なれば「屋上屋を架す」ことになりかねないとの批判もある。現行体制の課題を検証することが出発点となる。
 国内では、多数の死傷者が予測されている南海トラフ地震や首都直下地震が、いつ発生しても不思議ではない。
 ひとたび起きれば、被害は都道府県の枠を超えた甚大なものになる。急速な高齢化と過疎化が進む地方では、支え合いの体制が脆弱(ぜいじゃく)になっている。人口が集中する都市部は混乱が避けられない。
 広域避難の調整など政府が果たすべき役割は大きい。自治体や民間との連携も重要だ。
 国民の生命と財産を守ることは、政治の責務である。選挙戦を通じて有権者も意識を高め、社会全体で防災力を向上させる契機としたい。

’24 衆院選 経済政策と財源 財政の健全化はどこに(2024年10月22日『東京新聞』-「社説」)
 
 衆院選で各政党が掲げる公約には、財政の持続可能性という視点が決定的に欠落している。給付金支給や減税など苦しい暮らしへの支援策を実現するにも、厳しさを増す財政状況への目配りが欠かせないのではないか。
 自民党石破茂総裁(首相)は第一声で「2023年度を上回る大きな補正予算を成立させたい」と訴えた。23年度補正予算の総額は13兆1992億円。23年度の税収は72兆円超と4年連続で過去最高を更新した。円安の追い風で業績が好調だった企業からの法人税収が伸びたためだ。
 政府は財政の健全性を示す基礎的財政収支プライマリーバランス=PB)が25年度に黒字化すると見込むが、この試算には24年度の補正分は含まれていない。
 23年度を上回る額の補正には、税収増を充てるだけでは無理がある。結局、国債発行に頼らざるを得ず、PBも赤字が続くことを伝えなければ無責任極まりない。
 日銀が安倍晋三政権当時の経済政策アベノミクスによる「大規模な金融緩和」からの脱却を模索している点も軽視してはならない。利上げ局面に入れば国債の利払いは増え、財政圧迫要因となる。各党はこの厳しい現実と向き合い、公約を練るべきでなかったか。
 立憲民主党が掲げた日銀の物価目標を「2%」から「0%超」とする公約は理解に苦しむ。2%にこだわらず政策の柔軟性を高める意図だとしても、デフレを追認したと受け取られる恐れがある。
 そもそも日銀の専管事項である金融政策に政権を狙う政党が言及するのは、金融市場の動揺を招きかねない。公約の真意をより丁寧に説明することを求めたい。
 日本経済はアベノミクスによる超低金利により、財源を国債発行に依存した積極財政が慢性化。円安の影響を受けた物価の高騰で暮らしは打撃を受け続けている。
 給付増や極端な減税論は心地よいとしても、財源の裏付けが見えず、今後も財政状況が悪いままでは、将来の社会保障給付に不安を抱く若い世代の消費は滞り、景気は上向かないのではないか。
 真に困っている人を支援するために限りある財源を有効活用し、財政健全化にも配慮する。そんな誠実な訴えが聞いてみたい。

衆院選と年金 次世代も安心する提案を(2024年10月22日『産経新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
衆院選公明党候補の応援に駆け付け、演説する石破茂首相。手前右は公明の山口那津男前代表=20日午後4時9分、大阪市淀川区柿平博文撮影)
 令和7年には5年に1度の年金法の改正が予定されている。だが衆院選での年金を巡る議論は低調だ。
 今年夏に公表された年金の財政検証では、積立金の運用が順調だったことなどで収支は好転した。しかし、これで改革の機運を衰退させてはいけない。
 非正規雇用の人が増え、高齢期にも多くの人が働くようになっているのに、今の年金制度は働き方の変化に追い付いていない。公的年金の土台となる基礎年金(国民年金)の水準低下にも対処が必要である。
 選挙戦は、これらの難問にどう取り組むかを訴える好機なのに、各党の公約は漠然としていて、具体策や実現の時期、財源の裏打ちが示されていない。
 自民党は、パートなど短時間労働者への厚生年金の適用拡大に向けて「引き続き検討」するというが、拡大は企業規模なのか、業種なのか、労働時間なのか明確でないのは問題だ。
 基礎年金の水準については、自民も公明党も「底上げを図る」と主張するものの、どのような手段で実現するのかは不明だ。有権者に理解してもらう努力が欠けている。
 低年金の人に、国庫負担などによる給付を行い、年金に最低保障機能を持たせる「最低保障年金」案は野党側には今も魅力的に映るようだ。
 国民民主党は「最低保障機能強化による安心の年金制度」をうたい、日本維新の会は制度の抜本改革による「最低所得保障制度」の導入を掲げる。立憲民主党は「低所得の高齢者の年金に一定額を上乗せして給付する」と訴える。
 しかし、最低保障年金は過去に頓挫した経緯がある。旧民主党は平成21年の衆院選で「月額7万円の最低保障年金」を掲げた。だが、政権奪取後に試算すると、消費税5%弱分の追加財源が必要なうえ、生涯の平均年収が420万円程度を超える人には減額になる仕組みだと分かった。
 各党が、本気で最低保障年金や年金の上積みを制度化するつもりなら、当時の民主党案とどう違い、どう財源を用意するつもりか明らかにすべきだ。
 年金などの社会保障制度は、次世代に安心をつなげられるかが問われている。過去の失敗に学び、公平で適切な再分配をしなければならない。

’24 衆院選 経済政策と財源 財政の健全化はどこに(2024年10月22日『東京新聞』-「社説」)
 
 衆院選で各政党が掲げる公約には、財政の持続可能性という視点が決定的に欠落している。給付金支給や減税など苦しい暮らしへの支援策を実現するにも、厳しさを増す財政状況への目配りが欠かせないのではないか。
 自民党石破茂総裁(首相)は第一声で「2023年度を上回る大きな補正予算を成立させたい」と訴えた。23年度補正予算の総額は13兆1992億円。23年度の税収は72兆円超と4年連続で過去最高を更新した。円安の追い風で業績が好調だった企業からの法人税収が伸びたためだ。
 政府は財政の健全性を示す基礎的財政収支プライマリーバランス=PB)が25年度に黒字化すると見込むが、この試算には24年度の補正分は含まれていない。
 23年度を上回る額の補正には、税収増を充てるだけでは無理がある。結局、国債発行に頼らざるを得ず、PBも赤字が続くことを伝えなければ無責任極まりない。
 日銀が安倍晋三政権当時の経済政策アベノミクスによる「大規模な金融緩和」からの脱却を模索している点も軽視してはならない。利上げ局面に入れば国債の利払いは増え、財政圧迫要因となる。各党はこの厳しい現実と向き合い、公約を練るべきでなかったか。
 立憲民主党が掲げた日銀の物価目標を「2%」から「0%超」とする公約は理解に苦しむ。2%にこだわらず政策の柔軟性を高める意図だとしても、デフレを追認したと受け取られる恐れがある。
 そもそも日銀の専管事項である金融政策に政権を狙う政党が言及するのは、金融市場の動揺を招きかねない。公約の真意をより丁寧に説明することを求めたい。
 日本経済はアベノミクスによる超低金利により、財源を国債発行に依存した積極財政が慢性化。円安の影響を受けた物価の高騰で暮らしは打撃を受け続けている。
 給付増や極端な減税論は心地よいとしても、財源の裏付けが見えず、今後も財政状況が悪いままでは、将来の社会保障給付に不安を抱く若い世代の消費は滞り、景気は上向かないのではないか。
 真に困っている人を支援するために限りある財源を有効活用し、財政健全化にも配慮する。そんな誠実な訴えが聞いてみたい。

食料安全保障 コメの安定供給どう実現(2024年10月22日『新潟日報』-「社説」)
 
 あすの食を国民に案じさせぬために、どう農業を再生し、コメの安定供給を図り、食料安全保障を強化するか。実現に向けた骨太な論争を望みたい。
 主食のコメを中心とした農業政策と食料安保が、衆院選での重要論点になっている。
 2023年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%と低い中、ロシアのウクライナ侵攻を受けた小麦価格の高騰などで、輸入依存度の高い食料の安定供給に危機感が高まっている。
 一方、自給率100%のコメは生産が揺らいでいる。23年産米は猛暑と少雨などで、コシヒカリの1等米比率が極端に低下し、本県の多くの生産者が打撃を受けた。今夏は全国的に品薄となった。
 衆院選公約では、与野党ともに食料安保の強化に関してはほぼ一致しているものの、手法では政党間に差がある。
 コメ政策を巡っては、政府は18年度に生産調整(減反)を廃止したが、主食用米の生産抑制を誘導する事実上の減反政策を続ける。
 自民党は需要予測に応じた生産を進め、農産物の輸出拡大による需要拡大を図るとする。連立を組む公明党も輸出拡大に言及する。
 野党の立憲民主党旧民主党政権時代に行った戸別所得補償をバージョンアップし、農地に着目した直接支払い制度を構築するとした。国民民主党は新たな直接支払い制度導入を、社民党は所得補償制度復活をそれぞれ訴える。
 日本維新の会は水田の畑地化に反対し、コメの生産量1・5倍を目指すと強調する。
 食料自給率については、自公は数値目標を明記せず、立民や国民、れいわ新選組、社民はそれぞれ50%への引き上げを打ち出した。共産党は60%を目指すとし、参政党は現在の倍増を主張する。
 選挙戦では、財源も含めたビジョンを丁寧に説明してほしい。
 農林水産省によると、出荷団体と卸売り業者が売買する「相対取引価格」は24年産米の9月の全銘柄平均が玄米60キロ当たり2万2700円だった。1993年の「平成の米騒動」以来31年ぶりの高値とみられる。
 長年コメは、人口減や食習慣の変化による需要減退が問題視され、消費拡大が課題だった。
 コスト高に苦しむ生産者にとって値上がりは歓迎できる半面、高止まりが続けば、消費者のコメ離れが進む恐れもある。
 担い手不足対策も急務だ。若い世代の就農を促すには、稼げる農業に向けた施策が欠かせない。
 省力化へスマート農業が注目されるが、機材購入費の工面などの課題もあるだろう。
 各党や候補者には、生産者と消費者の実情を見据え、地に足の着いた論戦を展開してもらいたい。

財政の健全化 負担ごまかさず誠実に語れ(2024年10月22日『京都新聞』-「社説」)
 
 眼前の物価高対策や子育て支援の論戦の一方、それを支える財政の健全化の議論がかすんでいる。
 国・地方の長期債務残高は、先進国で最悪水準の1200兆円を超える。選挙では給付の充実や負担軽減策を与野党が競い合う様相だが、財源の裏付けは十分とは言いがたい。次の世代への重いツケを膨らませない責任ある議論が求められる。
 「デフレ脱却」を旗印としたアベノミクス以降、大規模な金融緩和と巨額の財政出動による景気刺激策で、借金財政は急激に悪化した。
 石破茂首相は衆院選公示日、物価高対応を盛った補正予算案を昨秋の13兆円を上回る規模で組むと強調した。
 かねて「規模ありき」の経済対策を批判してきたが、なりふり構わない選挙対策の思惑が透ける。
 自民、公明両党の公約は低所得者世帯への給付金支給に加え、燃料費や電気・ガス料金の補助の継続を打ち出す。
 困窮する低所得者層への支援は当然で、野党側も掲げる。
 ただ、岸田文雄前政権の唐突な定額減税や既に11兆円に上るエネルギー補助の効果は不透明なままだ。根拠に乏しい人気取りの「ばらまき」とならぬよう、効果と範囲を見極めた「賢い支出」が求められよう。
 政府は7月、財政の健全度を表す基礎的財政収支プライマリーバランス)が2025年度に8千億円の黒字となる試算を示した。高い経済成長を前提とした上、石破氏が打ち出した大型補正が食い込み、赤字財政にとどまる可能性が高まっている。
 前政権は新型コロナウイルス対策で膨張し続けた歳出の「平時化」を掲げる一方、防衛費の「倍増」を決定。「異次元」の少子化対策でも児童手当拡充を盛り込み、石破政権は引き継ぐ。財源の見通しは明確でない。
 懸念は、日銀がマイナス金利を解除して17年ぶりに「金利のある世界」に戻る中、巨額の国債の利払いが急激に膨らむことだ。政策経費を圧迫するとともに、先進国で突出した借金財政のリスクは国際的な信用を揺るがしかねない。
 生活と景気の支援策として、立憲民主党は中低所得者に向けて「給付付き税額控除」(消費税還付制度)導入を提案し、維新の会も所得税法人税の減税、共産党や国民民主党は消費税の5%への引き下げを訴える。
 各党とも、財源について税収増や歳出削減、企業の内部留保への課税などを挙げるが、整合性や実現性が問われる。
 1年前の共同通信世論調査で、今後の日本財政に不安を感じる国民は約8割に及んだ。人口が減少し、災害が多発する中、社会保障を維持し、財政余力を高める政治の責任は大きい。

災害への備え/「命を守る」議論尽くして(2024年10月22日『神戸新聞』-「社説」)
 
 今回の衆院選では、激甚化、頻発化する自然災害への対応が争点の一つとなっている。
 多くの党が元日に起きた能登半島地震の被災地復興を公約に掲げる。地震に加え、毎年各地を襲う豪雨災害への対応も急がれる。近い将来には南海トラフ地震や首都直下地震などの「国難」レベルの巨大災害の発生が高い確率で想定される。過去の経験と教訓を生かして被害を最小限にとどめなければならない。
 災害はいつどこで起きるか分からず、その都度様相が異なる。自治体レベルでは対応できない課題も多い。国民の命を守り、被害を減らし、復興への力を結集する。その体制づくりは国の最重要課題である。
 国の防災業務は内閣府内閣官房が調整役となり、国土交通省総務省消防庁などが分担している。多くの省庁が関わり、縦割り行政の弊害が指摘される。内閣府の防災担当は他省からの出向者が多く、短期間で戻るため、専門的な人材が育たないなどの問題点がある。
 石破茂首相は、持論とする事前防災から被災後の復旧・復興までを一手に担う「防災省」創設に向け、2026年度中に「防災庁」を設置する方針を掲げた。当面は内閣府防災担当の機能を人員や予算の両面で強化した上で、専任の閣僚を置くなどとしているが、具体的な組織の中身は十分に示されていない。
 防災省など常設機関の創設を巡っては、これまで全国知事会関西広域連合などが必要性を訴えてきた。神戸新聞社も15年にそう提言した。一歩前に進んだとは言える。
 自民党公明党が防災庁の設置を衆院選の公約に明記した。立憲民主党も「危機管理・防災局を設置」と打ち出す。日本維新の会は災害時の初動対応の改善策を提案する。
 備えが必要との認識では各党が一致している。東日本大震災を機に設置された復興庁の教訓と課題も論点となるだろう。防災庁の設置により被災地支援で国の権限が大きくなり過ぎることへの懸念もある。自治体への支援や協力態勢を強めるための組織であるべきだ。与野党の垣根を越えて具体案を持ち寄り、実現への議論を深めてもらいたい。
 防災を叫ぶ一方で、被災者を置き去りにしてはならない。発生から9カ月余りが経過した能登地震の被災地は豪雨禍にも見舞われ、復旧すら思うように進んでいない。過酷な避難生活で亡くなる災害関連死は増え続けている。暮らし再建への支援策を充実させることが不可欠だ。
 これからの災害への備え、被災地への支援はいずれも政治の責務である。各党、各候補者は防災・減災の具体策をもっと語ってほしい。

衆院選社会保障 財源をどう確保するのか(2024年10月22日『山陽新聞』-「社説」)
 
 高齢化が進み、人数の多い団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者になる2025年は目前だ。少子化も著しく、社会保障制度が持続できるのか国民の関心は高い。だが、衆院選では与野党とも改革に踏み込む気配が乏しい。
 選挙後に政府が取り組まねばならない課題が、来年の通常国会に関連法案の提出を目指す年金制度の改革である。
 その論点の一つ、パートら短時間労働者の厚生年金への加入拡大は、勤務先の従業員数の要件を撤廃するとみられる。賃金に応じて年金が減る「在職老齢年金制度」も、就労を促すため見直す方向だ。
 しかし、これと並ぶ論点の国民年金(基礎年金)の給付水準維持は難航しそうだ。保険料を納める期間を65歳まで5年間延ばす案は給付額が増えるが、厚生労働省は7月に公表した公的年金財政検証で、延長せずとも一定の給付水準を維持できる結果になったとして見送る方針である。
 財政状況が厳しい基礎年金と堅調な厚生年金の財源を一体にして運用すれば、将来の給付水準が上昇する試算になったものの、厚生年金加入者らの反発が懸念される。
 一方、医療費は後期高齢者で原則1割の窓口負担が3割となる人を広げるのが検討課題となっている。岸田政権は高齢化対策の中長期指針「高齢社会対策大綱」の改定を先月閣議決定し、拡大の検討を加速させる方針を明記した。
 超高齢社会にあって「支える側」と「支えられる側」を単に年齢だけで分けないという考え方はやむを得まい。政府は医療に加えて、介護保険サービスも利用者負担の引き上げを検討するが、高齢者の反発が予想され、見直し内容や時期は決まらないままだ。
 石破茂首相の社会保障への関心は高いとは言い難い。所信表明演説では制度全般の見直しを主張したが、どう見直すかは聞かれなかった。
 衆院選でも、例えば年金制度について、与党の自民、公明党の公約とも、厚生年金の加入拡大や在職老齢年金制度の見直しのほか、基礎年金の受給額底上げを盛り込んでいるとはいえ、具体性には欠けると言わざるを得ない。
 野党は、立憲民主党が低所得の高齢者の年金に一定額を上乗せする制度の創設、日本維新の会は世代間格差を生まない「積み立て方式」または「最低所得保障制度」の導入などを提唱するが、実現可能なのか疑問が拭えない。
 共産党とれいわ新選組は、少子高齢化に応じて年金給付の伸びを抑えるマクロ経済スライドの凍結などによる年金の引き上げ、国民民主党後期高齢者医療制度の3割負担の拡大などで現役世代の社会保険料軽減を訴えている。
 見直しのポイントは、給付に見合う財源をどう確保するかだろう。その点で納得のいく説明がなければ実現は期待できまい。各党は国民の不安に応えて、もっと議論を深めてもらいたい。

世知辛いおやつ予算(2024年10月22日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 秋の行楽シーズンになると思い出す指南がある。遠足のおやつ選びは大いに打算を働かせるべし、という「ちびまる子ちゃん」の一話で、予算200円を生かすこつが描かれていた
▼まず100円を友達との交換用に投資。50円をここぞとメインに張り込む。残り50円は食べ慣れたものを―。もったいぶった講釈とともにとりどりの駄菓子が登場して何とも楽しい
▼まる子と同じ小学3年生ながら「そんなにうまくいきっこない」と、ぼやくこちらは令和のわが子である。漫画は1974年ごろと思われるが、半世紀たっても上限が税込み220円にとどまっている
▼あれもこれも値上がり傾向で、79年の発売以来長らく10円だった定番の「うまい棒」も、おととしから12円、今月からは15円だ。やりくりが難しいのだろう。指折り計算しつつ、売り場を小一時間もうろついていた
▼もっとも、学校ごとに設定額は違う。食物アレルギー対策として学校側で用意して配るケースもあると聞く。そもそも世知辛いかな、昨今は授業時間に余裕がないため「遠足」ではなく「校外学習」という勉強の場に位置付けるのが主流なのだ
▼折しも衆院選の期間中。食料品の消費税負担の軽減、最低賃金の引き上げなどを訴える候補者の声が聞こえてくる。まる子ならこう言うか。「アンタたち、しっかり頼むよ」

2024衆院選・安全保障/外交 防衛力強化の是非、論じよ(2024年10月22日『中国新聞』-「社説」)
 
 衆院選は終盤戦に入る。自民党総裁選から続く短期決戦ではやはり「政治とカネ」が大きな争点だが、日本の安全保障と外交の現状が問われていることも忘れたくない。
 自民公約で封印したとはいえ、石破茂首相が就任前に唱えた「アジア版NATO北大西洋条約機構)」構想が物議を醸した。重要なのは現実的とは思えない首相の持論に振り回されることではない。防衛力の大幅強化に象徴される岸田政権時代の安保政策の大転換の是非に、有権者が判断を下すことだ。
 岸田政権の3年を振り返ると世界はまさに激動だった。ロシアによるウクライナ侵攻が日本の安保政策にとって一つの転機となったのは間違いない。そこに中国の軍事力強化と台湾海峡を巡る緊張が加わった。北朝鮮の核・ミサイル開発も加速し、悪化する国際情勢に国民の危機感が強まったのは確かだ。
 しかし岸田政権がろくに国会で審議しないまま「安全保障関連3文書」改定を閣議決定し、前に進めた手法は問題だ。何より国内総生産GDP)比で1%程度だった防衛費を倍増するとし、2023年度から5年で43兆円という総額を唐突に打ち出した。
 さらに専守防衛を逸脱しかねない「敵基地攻撃能力」の保有を認め、南西諸島で拡充する自衛隊基地には中国をにらんだ長射程ミサイルの配備が想定されている。そうした中で日米同盟強化を旗印に、自衛隊と米軍の一体化がさまざまな点で加速しつつある。
 与野党の攻防の中で、こうした現状がどこまで語られているか。おとといのテレビ討論では、防衛力強化の財源となる増税の開始時期を巡って与野党幹部が応酬した。自民が唱える「抜本的強化」が、いつしか既定路線となりつつあるようにも見える。
 防衛力強化を求める国民の声が前より大きいのは事実だろう。ただ43兆円という額にしても十分な理解を得られているとは思えない。防衛費を何のため増やし、何に使うのか。やみくもな強化が周辺国にどんな影響を及ぼすか。正確な情報を開示した上で、日本に見合った防衛力はどれほどかを考える本質的な議論が要る。そこで日本が掲げてきた平和外交の役割を同時に考えるのは当然のことだ。
 その意味で野党の公約は、全体として物足りない。第1党の立憲民主党は「急増した防衛予算を精査し、防衛増税は行わない」などとする。安保政策の現状を正面から否定するのは共産党などに限られるが、政権交代の受け皿となり得るかどうか。
 「外交力と抑止力は二択ではない」。石破氏は8月に出した自著「保守政治家」でそう書き、中国脅威論ばかりが幅を利かせるとバランスのある議論ができなくなる、と指摘した。その認識は正しい。厳しい情勢だからこそ防衛力のみに頼らず、対話と協調で解決する姿勢も求められる。
 自公政権の路線を容認するかどうか、有権者に委ねられた。戦後80年を前に、日本外交の将来を左右する岐路に立つことを認識しておきたい。

【2024衆院選 原発】再び推進してよいのか(2024年10月22日『高知新聞』-「社説」)
 
 政府は現在、エネルギー政策の中長期的指針「エネルギー基本計画」の改定作業を進めている。2024年度内に第7次の計画としてまとめる方針だ。最大の焦点はやはり、原発をどう位置付けるかである。
 東日本大震災をきっかけにした東京電力福島第1原発事故は、それまでの原発政策に多くの教訓と反省をもたらした。原発依存からの脱却が望まれた。
 事故から来春で14年。政府はいま再び、原発を推進している。再稼働だけでなく新増設も目指す。本当にこのまま突き進んでよいのだろうか。衆院選は大切な論議と判断の機会になる。
 事故後の12年、当時の民主党政権は事故を教訓に「革新的エネルギー・環境戦略」を策定した。再生可能エネルギーの拡充や「30年代の原発稼働ゼロ」を掲げた。政策の大転換だった。
 ところが自民党が政権に復帰すると、原発回帰へと向かい始める。14年改定のエネルギー基本計画は原発依存度を「可能な限り低減する」と明記。同時に原発は「重要なベースロード電源」とも位置付けた。
 その後の改定でも、依存の可能な限りの低減方針は維持しつつ、30年度の原子力の電源構成比率目標を「20~22%」に設定。原発回帰が鮮明になった。
 それを回帰どころか「推進」にまで変えたのは岸田文雄前政権だった。22年、エネルギーの安定供給と脱炭素実現のため「原発の最大限の活用」を打ち出す。
 事故後に導入された原発運転の「原則40年、最長60年」の規定も見直し、60年超の運転を可能にした。廃炉が決まった原発の敷地内での次世代型原発への建て替え方針も閣議決定した。
 石破茂首相は、先の自民党総裁選では「原発をゼロに近づけていく努力は最大限する」と主張していたが、首相就任後はトーンダウン。原発の利活用を明言している。
 一方で野党は推進と反対で分かれる。最大野党の立憲民主党は党綱領で「原発ゼロ」を掲げている。
 ただ立民は、衆院選の公約では新増設や、避難計画の策定と合意がない再稼働を認めない姿勢を維持する一方、原発ゼロには触れていない。電力安定供給のための再稼働と、中長期的な原発に依存しない社会実現を分ける戦略のようだ。
 しかし、日本では巨大な地震がいつ、どこで起きてもおかしくない状況にある。本当に原発は安全なのか、根本的な疑問が拭えない。
 事故発生時の備えにも不安が募る。1月の能登半島地震では、北陸電力が再稼働を目指す志賀原発で、事故時に利用する住民避難路の大半が寸断。避難計画の実効性に疑問符が付いた。
 政治や電力会社に原発の再稼働や推進を安心して委ねられる状況にはない。国民不在の政策にならぬよう十分な論議が求められる。

’24衆院選 辺野古新基地 改めて民意を示す機会だ(2024年10月22日『琉球新報』-「社説」)
 
 米軍普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古への新基地建設は、長く沖縄の選挙で最大の争点となってきたが、その比重が徐々に小さくなっているように見える。しかし、米軍基地の過重負担に苦しみ続ける沖縄で、さらに南西諸島の軍事要塞(ようさい)化が進み、戦場化さえ懸念される中では、依然として重要な問題だ。この選挙は、改めて民意をはっきりと示す機会になる。
 新基地建設反対を掲げた翁長雄志氏が当選した2014年の県知事選以来、「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」が民意の受け皿となってきた。そして、選挙で何度も反対の民意が示されたが、政府は無視して手続きや工事を強行し、司法の場でも県側の主張が退けられてきた。止められないことで県民の諦めや無関心が広がっている可能性がある。
 一方、子育て支援や物価高対策など生活や教育の課題に関心が強まってきた。各種選挙で、自公政権の支援を受ける候補は、経済や生活課題を強調して辺野古問題の争点化を避ける姿勢を取ってきた。そのためか、選挙でオール沖縄陣営の退潮が続き、前回21年の衆院選では4小選挙区で2勝2敗となり、今年6月の県議選では新基地の賛否は24対24の同数となった。
 今回の衆院選には沖縄の4小選挙区に計16人が立候補している。琉球新報に寄せた各候補の「私の公約」では、オール沖縄陣営の4人が反対や工事中止を明記している一方で、自民党候補の1人が「着実に進める」としているだけで、辺野古新基地への言及は少ない。しかし、全選挙区でオール沖縄陣営の候補が明確に反対を主張しており、重要な争点であることに変わりはない。
 辺野古新基地の問題は山積している。防衛省は19年に事業費をそれまでの2.7倍の9300億円と試算しているが、23年度までに既に5319億円を支出済みだ。これまでの埋め立てに用いた土砂量は計画全体の15%だ。前例のない地盤改良工事も行うとしており、この先何年かかり、費用がどこまで膨らむか分からない。
 土砂の調達先の拡大も難問だ。糸満市など沖縄本島南部の土砂使用には、沖縄戦戦没者の遺骨が混じる可能性があるとして全国に反対の声がある。鹿児島県奄美大島の土砂を使うことも検討されているが、自然を守り戦争に反対する立場からの市民団体が反対を表明しており、沖縄県条例で侵入防止を定めている外来生物の混入も問題になる。
 辺野古基地問題は、基地の過重負担や沖縄県自治権に関わるだけではない。沖縄の観光や経済の振興、南西諸島の戦場化の懸念、日米関係や外交の在り方、環境問題など、沖縄の現在と未来に関わる重大問題である。各候補、各政党は県民に明確な選択肢を示し、有権者の審判を仰ぐべきである。

[2024 衆院選]多様性の尊重 権利保障進める議論を(2024年10月22日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 どんな人生を生きても、どんな家族の形を選んでも「個人の尊厳」や「両性の平等」が保障されなければならない。ジェンダー平等への取り組みで特に関心を集めているのが「選択的夫婦別姓」導入の是非だ。
 スイス・ジュネーブで開かれた国連の女性差別撤廃委員会で、夫婦別姓導入を巡り日本政府への厳しい指摘があった。夫婦の9割以上が夫の姓を選ぶ現状について、委員の一人は「社会の圧力」とまで言及した。
 夫婦同姓を義務付ける制度を採用している国は日本だけとされる。1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓を答申したが、たなざらしのままだ。
 2021年、最高裁夫婦別姓を認めない民法などの規定は「合憲」だと判断。その上で「国会で議論すべき」だとして、立法府にボールを投げ返した。
 今回の衆院選の各党公約を見ると、立民や共産などの主要野党は「早期実現」など導入に賛成の立場。公明も積極推進の立場をとる。一方で自民は運用上の課題を整理するなどとして慎重な姿勢を崩していない。
 各分野で女性の活躍が目覚ましい時代だ。経団連は6月、結婚後の女性が通称として旧姓を使うことは「海外で理解されづらい」などとして、夫婦別姓制度の早期実現を提言した。
 世界に目を向ければ、当然の動きである。
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 多様性尊重の流れの中で「同性婚導入」の是非も論点となっている。
 同性婚の実現を目指すNPO法人「EMA日本」(東京)によると、01年のオランダを皮切りに欧米などで法制化が進み、アジアでは19年に台湾が初めて導入した。現在、37の国や地域で認められており、来年1月にはタイでも施行される。
 だが先進7カ国の中で日本だけが、異性婚と同等の権利を認めるパートナーシップ制度を含めた国レベルの制度をいまだに持っていない。
 半面、全国の自治体では同制度の導入が急速に進み、すでに400以上の自治体で導入済みだ。県内では那覇市浦添市で施行され、県も導入の方針を示している。
 同性婚について、自民は公約の中で特に触れていない。一方で主要野党は賛成の立場を示しており、与野党の対立軸は明確である。
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 今年3月、札幌高裁は同性婚を認めない民法などの規定は違憲だと判断した。「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と婚姻の自由を定めた憲法24条1項が、異性間だけでなく同性間の婚姻も保障していると初めて示したのだ。
 各種世論調査でも、夫婦別姓同性婚に「賛成」が7割以上と、社会の意識は変わってきている。政府や国会はこれらの問題と真剣に向き合わねばならない。
 全ての人が安心して暮らせる社会をつくるには何が必要なのか。有権者一人一人が将来を見据えてしっかり選択できるよう、活発な議論を展開してほしい。