◆今後は後進の育成に
イトマンスイミングスクールの平井伯昌総監督(左)から花束を受け取り、笑顔の競泳女子の大橋悠依
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◆雨でも、冷たい水でも…
この日が29歳の誕生日。大橋はケーキとともに現役生活の区切りを祝った。「夢にも思っていなかった五輪での2冠に輝くことができて、大満足の競泳人生でした」。涙はなかった。
繊細で、気持ちの浮き沈みがあるタイプ。ただ貪欲に挑む姿勢はぶれなかった。「環境が整っていないところで育ったのは、強みだと感じた」と語ったことがある。高校時代まで過ごした滋賀には当時、屋内の50メートルプールがなかった。雨天でも、20度以下と冷たい水温でも試合に臨んだ経験は、スイマーとして周囲に左右されない「ずぶとさ」を培った。
◆「びびっても勇気を出してレースができた」
家族の助けで極度の貧血を克服して開花した。東京五輪では直前まで調子が上がらず、緊張に震えながらも、夏季五輪では日本女子史上初の2冠。名伯楽の平井監督に「困難なものがあった後に、人が達成できない成果を出す」と歩みをたたえられた。
現役引退の記者会見で、花束を手に笑顔を見せる競泳女子の大橋悠依
有観客の晴れ舞台にこだわって現役を続けたこの3年間は振るわなかった。パリ五輪は200メートル個人メドレーで準決勝敗退。でも後悔はない。
「東京の金メダルは結果自体より、びびっても勇気を出してレースができたことに価値がある」。そう過去の栄光を捉え直せるほど、挑戦に意義を見いだせた。苦しんだ過程も含め、誇れるプールでの日々だった。