コロナワクチン 3学会が見解 レプリコン“シェディング”ない(2024年10月21日『NHKニュース』)

日本感染症学会など3つの学会は21日、新型コロナの重症化リスクはインフルエンザを上回るなどとして、高齢者に対してワクチンの接種を「強く推奨する」という見解を公表しました。
また、今回の接種で初めて使われている新しいタイプのワクチンについて、感染力のあるウイルスなどは含まれておらず、接種した人が周囲の人に感染させる「シェディング」と呼ばれるリスクはないとしています。

新型コロナワクチン接種「高齢者に強く推奨」日本感染症学会など

日本感染症学会と日本呼吸器学会、それに日本ワクチン学会は、10月1日に始まった新型コロナワクチンの定期接種についての見解を公表しました。

それによりますと、国内外の調査研究で
▽新型コロナで高齢者が重症化したり、死亡したりするリスクは、インフルエンザよりも高いほか
▽感染した場合、心臓や血管、呼吸器の病気のリスクが上がるといったことが報告されているとして、高齢者には、新型コロナワクチンの接種を「強く推奨する」としています。

また、見解では、今回の定期接種で使われている5種類のワクチンの有効性や安全性について詳しく解説しています。

このうち、今回初めて接種に使われている「レプリコンワクチン」と呼ばれる新しいタイプのワクチンについては、免疫反応を起こす遺伝情報を含むmRNAという物質に加え、そのmRNA自体を体内で増幅する酵素も組み込まれていることを説明したうえで、
▽ワクチンに感染力のあるウイルスなどは含まれておらず
▽接種を受けた人が周囲の人に感染させる「シェディング」と呼ばれるリスクはないとしています。

日本ワクチン学会 理事長「正確な情報踏まえ接種の判断を」

 

日本ワクチン学会の中野貴司理事長は「新しいタイプの新型コロナワクチンに関する科学的ではない情報が広まっている現状を放置することは、学会として適切でないと考えている。正確な情報を踏まえたうえで接種の判断をしてほしい」と呼びかけています。

批判電話相次ぎ診療に影響が出た医療機関

新型コロナワクチンの予約を受け付けてきた東京都内の医療機関の中には今月に入ってから「レプリコンワクチンを打ったらどういうことになるか分かっているのか」などと、強い口調でまくし立てるような電話が相次ぎ、診療に影響が出たため、レプリコンワクチンの予約を中止せざるを得なくなったところもあります。

この医療機関には、レプリコンワクチンの予約に関する同様の電話が1日に5、6件かかってきて、スタッフが長時間、対応をしないといけなくなり、かかりつけの患者などからの問い合わせを受けることが難しくなったということです。

また、Xでも院長などを名指ししてレプリコンワクチンの予約を行っていることを批判する投稿がみられるようになったほか、口コミが書き込めるグーグルマップでは信用をおとしめるような内容とともに最低評価とする書き込みも相次ぎました。

この医療機関では基礎疾患のある人や医療従事者などからレプリコンワクチンの仮予約が入っていましたが、診療に影響が出たため、予約の受け付けを中止せざるを得なかったといいます。

院長の男性は「電話やSNSなどでさらなる書き込みが増えることが予想されたので、患者さんには大変申し訳ないですが、中止の決定を示す以外に自分たちの安全は確保できないと判断しました。必要な医療や予防が届くべき人に届かないということが起こりうる現状が非常に残念だと思いました」と話していました。

そのうえで院長は「これだけ問題になっている中で、診療所などでの個別接種では対応できないです。例えば国や自治体のバックアップのもと接種する環境の安全性が確保できるように考えてもらいたいです」と話していました。

この医療機関では現時点ではレプリコンワクチンの予約を再開する予定はないということです。

レプリコンワクチン投稿220万件超え 根拠ない情報や誤った情報も

「レプリコンワクチン」に関する日本語のXの投稿について、NHKが分析ツール「Brandwatch」で調べたところ、去年5月ごろから増え始め、リポストも含めて今月20日までで220万件を超えています。

このうち120万件以上がことし8月以降に投稿されたものでした。

新しいワクチンに不安を感じるとする投稿が多く「シェディング」に関連する投稿が11万件以上ありました。

こうした情報に基づいて接種した人の入店を断るとする店舗も出ていて「レプリコンワクチン」とともに「お断り」との言葉を含む投稿は6万件以上ありました。

また、美容院などを検索するサイトで「レプリコンワクチン」と入れて調べると、入店を断るとする美容院やネイルサロンなどが少なくとも数百店あったほか、Xなどでは接種した人の入店を拒否するとするヨガスタジオや歯科医院、クリニックについての投稿も複数見られました。

レプリコンワクチンに関する同様の投稿はTikTokやインスタグラム、Threadsなどでも見られ、たとえば「接種するとmRNAが無限に増えてしまう」とか、「接種して寝たきりになった人がすでに多数出ている」という根拠のない情報のほか、「接種が強制される」とか、「不買運動で製造工場が閉鎖された」などといった誤った情報も出ていて、中には数十万回閲覧されているものもありました。

専門家「周りにばらまくこと、まずない」

 

ワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫名誉教授は「レプリコンワクチンを接種したとしても、細胞の中でメッセンジャーRNAを複製しているだけで、それもずっと続くわけではない。体内でできるのはスパイクたんぱく質だけで、感染性を持った完全なウイルス粒子ができることはない。周りの人にばらまくことはまずない」としています。

そのうえで中山名誉教授は「レプリコンワクチンもこれまでに使われてきたファイザーやモデルナのワクチンと同じように有効性と安全性が確認されて承認されている。ただ、新しいワクチンであるため、今後、副反応がどう出るのかをしっかりとモニターしていく必要がある」と指摘しています。

不安を感じるときは、SNSなどの情報だけではなく、公的機関などの情報を複数、参照することが重要です。

【解説】レプリコンワクチンとは

次世代型のmRNAワクチン「レプリコンワクチン」は、これまでのmRNAワクチンと同じように「スパイクたんぱく質」というウイルスの一部分の遺伝情報を含むmRNAという物質が体内の細胞に入り、細胞がスパイクたんぱく質を作り出すことで免疫の反応を起こす仕組みです。

「レプリコンワクチン」にはmRNAの一部を複製する酵素が組み込まれていて、接種するとその部分だけが体内で複製されてより長い期間にわたり免疫の反応を起こすことができるため、ワクチンに含まれるmRNAの量がこれまでのmRNAワクチンよりも少ないにもかかわらず、効果が長く続くことが期待できるとされています。

ワクチンの仕組みに詳しい医薬基盤・健康・栄養研究所の山本拓也センター長は「レプリコンワクチン」の利点について「効果が長持ちするため接種回数を減らせるほか、ワクチンの成分の量が少ないので接種直後に起きる副反応が軽くなることが期待されている」と話しています。

mRNAがどの程度の期間にわたり複製されるのかについて、山本センター長は「mRNAは細胞の中で複製されるが、最初に接種する量がこれまでのmRNAワクチンと比べて少なくワクチンの成分が入る細胞の数も少ない。細胞には寿命があり、細胞が死ぬと複製もできなくなるので、無限に増えることはない」としています。

また、レプリコンワクチンを接種した人からワクチンの成分などが排出される「シェディング」と呼ばれる現象が起きるという主張については「『シェディング』と表現されている現象が起きる可能性はほぼゼロに近いと考える。私自身、新型コロナのワクチン開発に関わる中でさまざまなmRNAワクチンやレプリコンワクチンを作って実験したが、シェディングと呼ばれているような現象を確認したことは一度もない」と述べました。

一方、レプリコンワクチンは今回、初めて実用化されたことから、従来のワクチンと比べて実際に接種した人が少なく、情報もこれまでのmRNAワクチンよりも少ないとして「スパイクたんぱく質をこれまでのmRNAワクチンよりも長い間体内で維持することが、人体にとってどの程度の負担になるのかは、さらに研究すべきだ」と指摘しています。

その上で「レプリコンワクチンもこれまでのmRNAワクチン同様、長い期間にわたって研究されてきた技術で、がんのワクチンとしても期待されている」と述べ、今後、ほかの病気にもレプリコンワクチンの技術が使われていくという見通しを示しています。