「さとしゃぶ」
鍋の季節が近づいてくる中、また今年もしゃぶしゃぶ食べ放題の需要が高まってくるだろう。各店が価格や提供内容の差別化で競い合っており、肉質・価格・食べ放題品目の拡充で差別化を図っている。今回はその中でも、内容の充実さと価格のリーズナブル性で群を抜く「温野菜」と「さとしゃぶ」、若者世代をターゲットに低価格路線で勢いづく「しゃぶ葉」の3チェーン店を取り上げてみたい。
しゃぶしゃぶ食べ放題市場が定着して約30年
しゃぶしゃぶ食べ放題が定着し、競争が激しくなるに連れ、内容の充実さと価格競争が激化し、かなり内容が進化してきたようだ。市場が刺激的・競争的になったおかげでお客さんの満足度が高まる中で、要求水準も高まっている。
しゃぶしゃぶは焼肉と違い、脂を洗い落とすから肉の追加量が格段に多い。だから、店側も原価の高い肉の追加量の抑制に工夫が必要だ。しかし、原価対策も過剰になると顧客満足度が低下するから、そのサジ加減が難しい。
現在は、肉以外のメニュー(前菜・刺身・揚げ物・焼き物・煮物・サラダ・麺飯類など)も食べ放題にした店が主流だ。肉以外のメニューも食べ放題にして魅力度を高めつつ、原価率の高い肉の追加量を抑え、原価を圧迫させずお腹を満たしてもらう戦術だ。
最近の輸入食肉の高騰は店側には厳しく、原価対策は急務である。 肉以外のメニューも食べ放題にして、低原価商品に追加が分散すれば、お客さんも色々と食べられ、店側も原価低減に繋がる。双方が満足できる食べ放題だ。
多品種食べ放題で先駆者的な存在である和食さとのさとしゃぶ
和食さとは、サトフードサービスが運営するファミレスチェーンである。和食をメインとしている和食ファミレスとしては、日本一の店舗数(194店舗、2024年9月時点)を誇っている。季節の和膳が主力商品でご年配の顧客に高い支持を受けている。
和食さとがしゃぶしゃぶ食べ放題を始めたのは2007年、平日ディナーの集客対策として始めたようだ。店内を賑やかにすることと、顧客の世代交代に向け、将来の顧客予備軍の開拓の目的もあると聞く。
同店が始めたしゃぶしゃぶ食べ放題は、今は多くの店が取り入れている肉と野菜以外のメニューも食べ放題のプランの先駆者的存在でもある。
しゃぶしゃぶにも力を入れだした和食さとは、基本コースに季節折々の付加プランを定期的に付加し飽きのこないようにしている。基本コースは「しゃぶしゃぶ食べ放題:さとしゃぶ」「すき焼き食べ放題:さとすき」「焼肉食べ放題:さと式焼肉」である。
和食さとの魅力は“豊富すぎる”プランと品数
コースと価格(税別)は、焼肉国産牛スペシャル(4,490円)、焼肉プレミアム(3,490円)、しゃぶしゃぶは、国産牛スペシャル(4,190円)、牛&豚プレミアム(3,190円)、牛&豚スタンダード(2,690円)、厳選豚プレミアム(2,590円)、厳選豚スタンダード(1,990円)となっている。
さとしゃぶのプレミアムコースは、肉と野菜以外も食べ放題で、強みの和食料理で、前菜など酒の肴・唐揚げや天婦羅などの揚げ物・ステーキなど焼き物・サラダ・茶碗蒸し・にぎり寿司・天丼・吸い物・うどん・そば・カレー・丼など、食べられる種類の多さは群を抜いておりお得感がある。
飲み放題の「さとバル」も人気で、自らが取りに行くのは大変だが、自分好みのドリンクに仕上げられるのは嬉しい。デザートはソフトクリームの食べ放題で、自分好みにチョコレートなどをトッピングするお子さんをよく見かける。
これだけ豊富な一品メニューも食べ放題となると、肉の追加量が減り原価高騰に抑止力がかかる。肉は重ねられる皿に何段も盛置きし、追加注文が入るとすぐに提供できるように段取りするのだ。
ただ、一品メニューを作るのに、調理スタッフの手間や負担がかかっては意味がない。原価率をうまく低減させても、その分、人件費がかかっては利益が出ない。
飲食店では、FLコスト(原価+人件費)を60%以内に抑制することが重要になっている。食材の共通化や半加工品をうまく活用し、手間を省きながら簡単に提供できるように仕組化しないといけない。追加品目数を増やし、メニューの魅力度を向上させながら、原価と人件費を低下させているようだ。
コロワイド傘下のレインズが展開する温野菜
牛角は店舗数825店舗を展開する世界最大の焼肉チェーンだ。だから、しゃぶしゃぶ食べ放題店を多店舗展開できる基盤と食肉関係の調達力に強みがある。温野菜は現在216店舗(2024年8月時点)で店舗数は業界2位であり、焼肉食べ放題は1位、しゃぶしゃぶ食べ放題は2位と共に店舗数上位である。
現在、レインズは売上970億円、コロワイドグループの中でも売上構成比40.2%、店舗数(約1400店舗)、店舗構成比53%超とグループのコアとなる事業会社だ(2024年3月時点)。
コロワイドは、カテゴリーごとに多業態を展開し、同じ業態でも価格帯ごとに複数のブランドを運営し、リスク低減と収益機会の多様化によるリターンの最大化を目指している。
日常から非日常の食事、若年層からご年配の方といった幅広い客層にフルカバーできるよう適切のブランドポートフォリオの管理を徹底。M&Aの積極活用と人的資本の強化で、いずれは外食売上1位を実現できるよう体制の整備に注力中だ。
その中でも、焼肉としゃぶしゃぶを展開するレインズにかかる期待は大きい。そのしゃぶしゃぶ食べ放題の温野菜は、日々進化しており、今年の忘年会シーズンに向けてより充実させている。
メニューは、お肉・国産野菜・逸品料理など 60種類以上がおかわり自由となっており、お肉に強みがあるだけでなく、祖業は居酒屋だから逸品メニューにも自信があって、しかも食べ放題というのが差別的優位性があるとのことだ。
選べるだしも7種類あって訴求ポイントだ。コースの種類と価格(税別表示)は、温野菜コース(3,180円)がメインで、三元豚コース(3,180円)、タンしゃぶ(3,780円)、黒毛和牛(4,980円)、霜降り黒毛和牛コース(5,980円)となっている。
全コース共通の食べ放題コースとして、前菜(6種類)、逸品料理(7種類)、サラダ(3種類)、麺飯類(8種類)、国産野菜(16種類)、鍋肴(8種類)、デザートは9種類の中から1つ選ぶことになっている。アルコール飲み放題プランをセットにすれば、通常料金(税別)1,480円が300円引きになりお得感もある。
低価格路線のしゃぶ葉は若者世代や節約志向の人々に人気
一方、すかいらーくグループのしゃぶ葉は低価格でヤングファミリーや若者を中心に人気を集めている。現在は295店(2024年9月時点)と、グループ内でも著しく店舗数を増やしており、経営資源の配分度合いを高めていることが分かる。
今年1月に279店舗だったが、9月には295店舗と16店舗も新規出店している。グループ内の店舗数の増減を見ても、ガストは17店舗減らしており、しゃぶ葉に力を入れているのが分かる。グループ内のカニバリゼーションを解消し、成長業態の再配置でグループ全体の最適化を目指しているようだ。
ちなみに現在、平日ディナー限定で、豚しゃぶ+寿司の食べ放題+飲み放題のプランが1人3000円(税込)で、しかも、3時間と時間も長い。若い男女のグループ客に人気で、店は賑やかだ。
このプランは、家族客にも最適で、就学前のお子さんは無料となっており、小さなお子様連れのご家族には最高だと思う。野菜バーを見るとレタスやポテトサラダなどもあり、サラダのカスタマイズ化も可能で、しゃぶしゃぶの薬味やタレ関係もバリエーション豊かに揃えてある。
アルコール飲み放題も自動生ビールサーバーや各種サーバで多数用意され、お酒飲みのお父さん連中は大喜びだ。自分で入れるのは大変だという人もいるが、この物価高の中、これだけ安く食べて飲めるのはありがたい店である。
お肉とお寿司は好きな商品をタッチパネルで注文し、その他の野菜関係やうどん・カレーは料理卓に各自が取りに行くようになっている。一方で店側は、安く提供する為にお肉やお寿司の提供は配膳ロボットをフル稼働だ。
厨房も含めて少人数の店員で対応しているとはいえ、利益を出すのは大変なのではと心配するが、その点はコロナ収束後、業績の回復が好調なすかいらーくの傘下だからできることだろう。
高価格路線VS低価格路線の戦いに注目
和食さと・しゃぶしゃぶ温野菜など、ワンランク上の食べ放題店に対し、両店とは一線を画し若者世代をターゲットに、低価格のしゃぶしゃぶ食べ放題を提供して支持を受けるしゃぶ葉。
価格帯・客層・品数・品質から自店のポジショニングを確認しても、立ち位置が異なるのが明白だ。これから企業や家族の忘年会を控えて、しゃぶしゃぶ食べ放題を売りとして、集客する各店は、自店の特性をアピールして集客し、顧客基盤のより強化に向けて頑張って欲しい。
【中村清志】