給料が振り込みでなかった時代。巨人軍は多摩川グラウンドで選手に渡すことがあったという
▼グラウンドそばのおでん屋の軒先に元は硬球が1ダース入っていた箱が置かれ、みんなの給料袋が入れてあった。長嶋茂雄、王貞治、金田正一といった名選手の給料袋は縦にしても立つ厚み。誰もが羨望(せんぼう)のまなざしを向けていたと堀内恒夫さんが以前、読売新聞で明かしていた
▼堀内さんが若手だったころの話で給料袋を受け取った長嶋さんが二つ折りにしてユニホームの尻ポケットに入れようとしたが、厚くて折れなかった光景も見たという
▼振り込みの時代でも減税の恩恵を実感させたいと岸田政権は考えたらしいが、評判は芳しくない。政府は6月に始まる所得税と住民税の定額減税で、所得税減税額を企業が給与明細に記載するよう関係省令で義務付ける。企業などの事務量は増えそうだ
▼「減税してあげた」と喧伝(けんでん)するかのようでいかにも、恩に着せるように厚かましい。企業などの担当者の仕事を増やしてまでやる価値はどれほどあるのだろう
▼堀内さんの若手時代、自身の給料袋が突然厚くなり同僚たちを驚かせたことがあった。堀内さん発案の全部千円札にするいたずらで、事前に球団にお願いしたという。センスあるユーモアだから、きっと球団職員も面白がって協力したのだろう。御上(おかみ)の思惑でやらされる仕事とは違う。