強盗(闇バイト)に関する社説・コラム(2024年10月18・19・22・23・24・26日・11月1・2・3・4・7・8・9・13・16・20・21・25・29日)


キャプチャ
 
キャプチャ
横浜市で75歳の男性が殺害された事件の実行役も「闇バイト」で集められたとみられる(10月)=共同
キャプチャ

特殊詐欺被害続発 振り込む前に、まず相談(2024年11月29日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 県内で特殊詐欺の被害が後を絶たない。SNS(交流サイト)型投資詐欺、ロマンス詐欺という新たな手口も出ており、若年者から高齢者まで幅広い年代が被害に遭っている。
 近年は手口が多様かつ巧妙化し、誰もが被害者となる可能性がある。自分は大丈夫だと過信してはならない。不審に思った場合は一人で考え込まず、周囲の家族や友人、警察に相談することが大切だ。
 県警のまとめでは、架空請求詐欺、還付金詐欺といった特殊詐欺の今年1~10月の被害件数は103件、被害額は1億1260万円。件数は前年同期に比べ43件増えている一方、額は約1800万円減っている。
 今年から新たに統計項目として、SNS広告を通じて架空の投資を勧誘してくるSNS型投資詐欺、相手に恋愛感情を抱かせて金銭を要求してくるロマンス詐欺が設けられた。これらの総被害件数が50件、額は4億4682万円に上っている。特殊詐欺の被害額を大きく上回っており、警戒を強めたい。
 SNS型投資詐欺では、秋田市の30代男性が現金982万円をだまし取られている。男性のLINE(ライン)アカウントが株式学習名目のグループに追加され「投資に関する質問があればご相談ください」とメッセージが6月に送られてきた。男性が返信すると、指定口座に送金するよう指示された。送金した後、相手と連絡が取れなくなったという。
 大館市の40代女性はロマンス詐欺で2800万円をだまし取られた。女性は9月、マッチングアプリで相手と知り合い、LINEで連絡を取り始めた。交際のやりとりをする中でネットショップの運営を勧められ、商品の仕入れ代金や運営資金を振り込むよう指示された。
 他県では、茨城県の女性会社役員が著名な経済アナリストをかたるLINEアカウントなどから投資話を持ちかけられ、8億900万円をだまし取られた例がある。被害額は警察庁が把握しているSNS型投資詐欺で最高という。
 電話の相手に覚えがないような場合は詐欺を疑うことが必要だ。同じ話に関する電話が複数人からあったり、次々と要求があったりするケースは、特に注意しなければならない。「簡単に稼げる」といった話をうのみにしない意識も求められる。
 詐欺被害の防止に向け、県内では警察が住民向けに講習会などを開き、注意喚起している。手口や対策の勉強会を開いた住民グループもあり、こうした取り組みが広がってほしい。住民の間で詐欺の危険性を共有できれば、相談もしやすくなる。
 近年は銀行やコンビニエンスストアに被害者を出向かせず、インターネット上で金銭のやりとりを済ませる手口もある。水際対策をすり抜けようとする狙いだ。詐欺の手口に関する最新の情報に留意しておきたい。

闇バイト事件対策 「#9110」活用しよう(2024年11月25日『産経新聞』-「主張」)
 
キャプチャ
警察相談専用電話#9110のイメージ写真
 闇バイトを実行犯とする強盗事件が相次いでいる。どこで誰が狙われるか分からず、不安が広がる。
 地域で事件を予感させるような不審な動きに気づいたらどうするか。警察は住民が対処できるよう、緊急性のない110番とされる「#9110」への通報を促すべきだ。住民も協力したい。
 事件前には犯人グループによる下見などの予兆がある。被害地域から「訪問販売やリフォームなどの訪問営業があり、家族構成や資産状況を尋ねられた」などの証言が出ているのだ。
 こうした証言は事件後に「そういえば」と出ることが多い。これを事前にキャッチできないか。普段とは異なる、犯罪予兆の恐れがある情報を迅速に通報してもらい、先回りして被害を予防し、捜査に生かしたい。
 #9110は平成2年から稼働した都道府県警の総合相談電話だ。困り事や悩み事を受け付け、警察として相談に乗って専門窓口を紹介する。「急がない110番」とも呼ばれる。
 警視庁には昨年、4万8681件の#9110があった。総務、警務部門が担当し、公共サービスの性格が強かったが、今後は防犯、捜査につなぐ機能を強化すべきではないか。
 警視庁は生活安全部とホットラインで結び、#9110に犯罪予兆と推測される不審情報が寄せられると直ちに情報を共有する態勢である。闇バイト関連の不審者情報が増えており担当者の増員を検討してもいい。通話料の発信者負担も再考が必要ではないか。地方議会も含めて柔軟に考えるべき論点だ。
 問題は認知度の低さだ。110番と異なり、#9110の存在が国民に知られているとは言い難い。政府も含め、様々(さまざま)に浸透させる努力が求められる。
 110番に通報が集中すると現在起きている事件事故の対応を妨げる。警察には#9110への不審情報の通報を誘導する工夫をこらしてもらいたい。
 犯人は秘匿性の高い通信アプリを使って摘発から逃れ、住人を蹂躙(じゅうりん)している。地域住民の目を捜査の端緒にして対抗できるよう、防犯と捜査の新たなツールとして#9110を明確に位置付けるべきである。
 安全はただではない。住民も警察任せではなく、自分の身を守る努力をし、情報提供で治安に貢献する意識を持ちたい。

ワンオペ(2024年11月25日『中国新聞』-「天風録」)
 
 管理部門を一つにまとめ経営を効率化する―。四半世紀前、マツダはそんな戦略を立てて販売会社を黒字化させた。「ワンオペレーション」という名の戦略を盛り込んだ記事が当時の本紙に幾つも載っている
▲前向きだったイメージは10年前に百八十度変わった。ワンオペは、牛丼チェーンすき家をはじめ過重労働を象徴する言葉として世に広まった。深夜や早朝に1人で働く体制のことで、強盗に狙われるリスクが高まった
▲これで少しはリスクが減るだろうか。コンビニ最大手が始めた防犯対策の強化策である。ワンオペの際は、入り口の自動ドアを店員が手動で解錠する仕組み。怪しい格好で行くと、店に入れてもらえないかもしれない
▲リスクは強盗に限った話ではない。2年前、名古屋市内の牛丼店でワンオペ中の店員が心筋梗塞で倒れた。3時間後に発見されたが、その後亡くなった。深夜・早朝営業の店で私たちが感じる便利さは、働く人たちの負担やリスクと引き換えなのか
▲人手不足だからと言って放置していいはずはない。ワンオペ解消への戦略を何とかひねり出さねば。誰かの犠牲の上にしか成り立たない便利さを続けるわけにはいかないのだから。

闇バイト 若者の加担 啓発で防げ(2024年11月21日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 一戸建てに住む高齢者を狙った強盗事件が、関東を中心に相次いでいる。
 家の窓などを割って複数人で押し入り、被害者を縛るなどした上で金のありかを聞き出そうと暴行を加える。殺害に及ぶケースもあり、残忍極まりない。
 事件の背後にあるのが闇バイトの存在だ。
 交流サイト(SNS)の「高額報酬」「即日即金」などの文言につられて応募してしまい、気が付けば事件の実行役となっていたというケースもある。
 闇バイトを端緒とした犯罪の内容はさまざまあるが、特に「おれおれ詐欺」などと呼ばれる特殊詐欺に関するものが多い。主な手口は、家族や親戚などを装って金をだまし取るというものだ。
 「架空請求詐欺」「還付金詐欺」など、だます手口はどんどん巧妙になり多様化してきた。2004年に警察庁が一連の類似犯罪の呼称を「振り込め詐欺」とまとめたが、それから20年が経過した今も、全国で摘発が続いている。
 県内では今年5月、高校1年の男子生徒が那覇市に住む70代の女性から現金50万円をだまし取る事件に関わったとして、詐欺容疑などで逮捕された。
 那覇署によると、男子生徒は特殊詐欺グループで現金などを受け取る「受け子」役だったとみられる。
 生徒は闇バイトに応募した理由について「お金が欲しかった」と供述している。安易で短絡的な動機と、重大な犯行との落差に衝撃を受けた。
■    ■
 東京都内や埼玉、千葉などの首都圏で発生している強盗事件も、いわゆる闇バイトに応募してきた面識のない人同士が集まり、犯行に及んでいる。
 このような犯罪では、押し入る家を見極める「下見」としてリフォーム業者を名乗り、「点検しないか」などと言いながら半ば強引に家に入り込もうとする手口が目立つという。
 県消費生活センターによると、県内でも「点検商法」が疑われる通報が増えている。昨年1年間で1件だった屋根工事に関する相談は、今年10月までに12件と急増しており、注意を呼びかけている。
 秘匿性の高い通信アプリなどで集められた闇バイトの裏には、彼らを「捨て駒」として使う指示役がいる。警察は徹底的な捜査で一人でも多くの首謀者を突き止め、犯罪を食い止めなければならない。
■    ■
 広告などを見て軽い気持ちで応募し個人情報を渡してしまった結果、「抜けたら殺す」「家族に危害を加える」などと脅されて逃げられず、犯罪に加担する若者もいる。
 求人サイトの運営会社は闇バイトが疑われる掲載依頼には応じないなど、厳しい自主規制が求められる。
 犯罪の「入り口」に立つ若者を救うための啓発活動が急務だ。そして闇バイトに接触した後でも、勇気を出して警察に相談してほしい。何かおかしいと気付いた時に安心して引き返せるよう、教育現場や警察が全力で取り組む必要がある。

不審な電話(2024年11月20日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 「不要な服はありませんか」。先日、自宅にそんな電話がかかってきた。知らない買い取り業者。物があれば自宅まで取りにくるといい、食器や本がないかとも尋ねてきた
▼年配と思われる女性の親切そうな声に「あれば改めて連絡します」と答えたが、後で家人から注意を受けた。買い取りにかこつけて訪問し、家の間取りや貴金属の有無を調べる犯行グループかもしれないと
▼首都圏を中心に住宅を狙った強盗事件が相次ぐ。交流サイト(SNS)を通じて「闇バイト」に応募した若者が実行役となり、住人が殺害されたり連れ去られたりしたケースもある
▼被害に遭った住宅では実行グループがリフォームの飛び込み営業を装って下見していた疑いも浮上している。過去には電話で事前に資産状況を聞く手口もあった
▼首都圏に限った話ではない。未遂に終わったものの、山口県光市では住宅から金品を強奪する目的で工具などを準備したとして、関東地方の中高生が逮捕された。闇バイトに応募したとみられ、事件当日に東京都内で集合し、新幹線を利用して山口県まで移動したという
▼冒頭の買い取り業者をネット検索すると「悪質業者」との書き込みがあった。訪問時に貴金属の有無をしつこく聞かれ、強盗被害が心配で回答を断ったという人もいた。やはり電話するのはやめておこう。
【県内「匿流」詐欺】新たな被害防ぐ対策を(2024年11月20日高知新聞』-「社説」)
 
 交流サイト(SNS)などを通じて集まり、犯行を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」が絡む事件が全国で後を絶たない。首都圏を中心に強盗事件が相次いで報告されているが、高知県内でも明らかになった。
 県民の体感治安は悪化している。当局の徹底捜査と、新しい被害を生まない対策の強化を求める。
 高級腕時計の偽物を高知県など中四国地方の買い取り業者に売って現金をだまし取ったとして、高知県警は詐欺容疑などで県内外の15人以上を逮捕した。被害額は3600万円を超える。
 逮捕されたメンバーは指示役や実行役などに分かれていた。指示役はSNSを通じて上位者から犯行を持ちかけられ、知人に声をかけるなどして実行役らを集めたという。やりとりは秘匿性の高い通信アプリを使っていたようだ。
 今回、SNSを通じた闇バイト募集で勧誘した実行役は限られていたとみられ、犯行内容も詐欺だった。関東の強盗事件とはやや様相は異なるが、メンバー同士の関係は顔見知り程度が多かったとされ、実行役が指示役と連絡を取りながら犯行に及んでいた。緩やかに結びついて現場ごとに離合集散し、それぞれの関係性が極めて薄い。そんな匿流の特徴が垣間見える。
 高額報酬をちらつかせるのも匿流の手だ。今回は1本の偽時計を売るだけで実行役は数万円、指示役も数十万~100万円ほどを得たとされる。ある実行役は検察の取り調べに対し「報酬に目がくらんだ」と話したという。
 衝撃なのは、主犯格とみられる上位者の1人に16歳の少年がいたことだ。上位者には別に大学生もおり、実行役に偽時計を供給していたとみられる。
 強い統制を持たない匿流は実態の把握が難しいケースが少なくない。別のグループが犯行に関与していないか。他に上位者がいないか。県警は今後調べを進める方針だ。全容解明に総力を挙げてもらいたい。
 今回の事件を含め、匿流が関与する事件では若い世代の犯行が目立つ。新たな加害者を生まないよう対策を急ぐ必要がある。
 SNS上では、犯罪とは分からない形で実行犯などを募る闇バイトの勧誘とみられる投稿が相次ぐ。
 報酬目当てで誘いに乗れば、指示役から個人情報を送るよう求められる。家族まで巻き込む恐れもあり、取り返しのつかない事態になる。
 家庭や学校などで、闇バイトには絶対に応募しないよう繰り返し伝えなければならない。友人や知人に誘われた場合も同様だ。
 相次ぐ事件を受けて警察庁は先月、闇バイトに関わってしまった場合は警察に相談するよう促す動画を公開した。各地の警察がこれまでに講じた保護措置は40件を超える。
 犯罪グループの上位者にとって実行役らは「捨て駒」にすぎない。警察への相談をためらわず、直ちに引き返すことが重要だ。

闇バイト強盗/不審な訪問は警察に相談を(2024年11月16日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 首都圏で、交流サイトなどを通じて集められた闇バイトが関与しているとみられる強盗事件が相次いでいる。本県でもこれまで同様のケースが発生しており、決して対岸の火事ではない。
 警察が一刻も早く、闇バイトを根絶し、背後にいる指示役まで摘発することが同様の犯行を減らす最良の方法だが、一朝一夕にはいくまい。被害者になる恐れを少しでも低減するために、自衛策を徹底したい。
 一連の事件は、住宅街の一戸建てが狙われている。現場の犯人らはスマートフォンで指示を受けているとみられる。自身らも指示役に身元を把握されているため逆らうのが難しく、指示されるまま凶暴な行動に出ることがあると指摘されている。被害者が死亡したケースもある。
 一部の事件では、犯行グループが事前にリフォームの飛び込み営業を装って家に上がり込んで、資産状況を調べるなどしていた疑いがある。横浜市の事件では、被害者宅周辺で水道管検査や宝石買い取り業者を名乗る男らが各戸を訪問していたという。
 訪問営業の人がしつこく家に入りたがったり、必要ない場所まで見たがったりするなどは注意が必要だ。ためらうことなく警察に相談してほしい。
 各地で発生している強盗事件には、これまでなりすまし詐欺などを行っていた犯罪グループが関与しているものもあるとみられている。詐欺グループの名簿に名前などが記載されていた人が強盗被害に遭ったケースもある。これまでに詐欺被害に遭ったり、怪しい電話を受けたりしたことのある人は個人情報が漏れている可能性がある。特に警戒してもらいたい。
 犯人らは窓から侵入することが多い。窓ガラスに防犯フィルムを貼るなどしておけば、空き巣などの対策にもなる。複数の鍵を取り付けるなどの方法もある。
 下見で強盗などがうまくいかないと思わせたり、実際に家に侵入しようとされても手間取って諦めるようにさせたりできれば、被害を未然に防いだに等しい。防犯対策を施す場合は家族で話し合うことも重要だ。情報や対策の狙いを共有することで、家族全員の防犯意識を高めることができる。
 県警の担当者は、地域のつながりが被害を遠ざけると強調する。互いにあいさつを交わすなど住民同士の関係の深さを示すことで、下見役にこの地域での犯行が難しいと思わせることができるという。地域全体でスクラムを組み、事件の芽を摘むことが大切だ。

警察は必ず捕まえます(2024年11月16日『中国新聞』-「天風録」)
 
 情報を伝えるすべの乏しい江戸時代、重宝したのは高札(こうさつ)だった。街道筋や四つ辻(つじ)に立てた掲示板である。幕府の決まりやキリシタン禁令と並び、放火や人殺し、盗みなどの悪行を戒めるお触れもあった
SNS全盛の令和時代ならではの高札だろう。相次ぐ「闇バイト」事件にしびれを切らし、警察庁がX(旧ツイッター)に「警告文」を掲げた。〈警察は必ず捕まえます。逃げることはできません〉。宣戦布告らしい
▲令和の高札には併せて、人生を棒に振る手前で引き返し、警察を頼ってきたケースも並べている。相談電話「#9110」などを通じ、既に50件近い保護に成功しているという
▲啓発なのだろう。捨て駒として泥沼に引き込む黒幕の手口も紹介している。啓発という語の由来が「論語」にある。「子曰(しいわ)く、憤せずんば啓せず。悱(ひ)せずんば発せず」。知りたくてうずうずし、うまく言い表せずに心がむずむずしている相手でないと、言葉を発するものか―と。今や、遅いくらいかもしれない
▲むしろ捨て駒の予備軍が知りたいのは、人から感謝されながら働ける「光バイト」の情報ではないか。警察任せにせず、私たち社会の担い手にもできることはある。
キャプチャ

「ホワイト案件」の向こう側(2024年11月13日『産経新聞』-「産経抄」)
 
キャプチャ
闇バイトの見分け方などについて学ぶ生徒ら=大阪市平野区 (宇山友明撮影)
 
 江戸時代の笑いには、知識を前提としたものが多かった。川柳集『柳多留』に<厳寒に酒あたためて紅葉鍋>とある。紅葉は鹿肉の異名である。それを肴(さかな)に一献とは風流な…。と独り合点する人は、かえって物笑いの種になった。
▼本家は、白居易の詠んだ漢詩<林間に酒を暖めて紅葉を焼(た)く>。平たく言えば先の句はパロディーである。むろん、句の風味を損ねる余計な講釈を当時の庶民は必要としなかった。ある種の教養という約束事の上に成り立った、高度な笑いだろう。
SNSで魔の扉を開く「ホワイト案件」が、今年の新語・流行語大賞の30選に挙がった。シロを強調する怪しい言葉が若者らを犯罪にいざなう餌であるのを、知らない人はいまい。同じ類いのニュースは連日報じられ、それでもSNSでつながる悪党たちの凶行が後を絶たない。
▼昔とは比較にならぬ情報社会で、分かり切った落とし穴に引っかかるのはなぜか。指示役に個人情報を握られ、悪事への加担を拒めば「家族に危害を加える」などと脅される。そこで踏みとどまり、警察に保護を求める人も増えているのは救いだ。
▼凶悪な犯罪はしかし、各地で続く。気付いたら引き返す。助けを求める。そんな教養以前の常識すら欠く者が多いのだろう。「ホワイト」の向こう側に広がる暗黒を見る思いがする。新語・流行語の選から漏れた「闇バイト」より、よほど始末の悪い言葉と言えるかもしれない。
▼<忍ぶれど色に出(いで)にけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで>平兼盛百人一首の「色」の名歌である。身の程をわきまえつつ、拙いパロディーを一つ。<忍ぶれど色に出にけりホワイト案件>。隠したつもりでも悪事(ブラック)は必ず、行間ににじみ出る。

不審な住宅訪問 隙見せぬ気持ちの備えを(2024年11月13日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 犯罪につながる前触れかもしれない。よくよく注意したい。
 県内で不審な戸別訪問が報じられている。リフォーム工事の営業や不要品の買い取りと称し、家に上がって中を見て回ろうとするという。
 首都圏で相次ぐ押し込み強盗事件では、犯行グループが業者の営業を装い、狙いをつける住宅を下見していたとみられている。それに似た動きに見える。
 長野市千曲市では、業者を名乗って訪れ、「近くで工事がある」などと事実と異なる説明をする例があった。「電気工事の関係で来た」と言い、しつこく家の中に入ろうとした例もあった。茅野署管内、塩尻署管内でも類似の訪問が確認されている。
 全国でも多発しており、訪問の名目はリフォームや屋根の修理、水道管の検査、貴金属の買い取りなどさまざまだ。
 電話で家族構成や資産状況に探りを入れた上で押し入る「アポ電」を想起させる例もある。伊那署管内では、消防関係者を名乗って家族構成や近所づきあいなどを聞く不審な電話があった。
 なかには以前からある押し売りや法外な請求をする業者の例もあるだろうが、県警は侵入盗や強盗の下見、特殊詐欺の情報収集のおそれもあるとみている。
 あやしげな訪問や電話には身分証や連絡先の提示を求め、安易に家に上げない、話に乗らないといった気持ちの備えが要る。
 過去には下見どころか、宅配便などを装って訪れ、玄関を開けるなり押し入る強盗もあった。カメラ付きのインターホンやドアチェーン越しに対応し、違和感を覚えたらはっきり断ること、警察に連絡することも念頭におきたい。
 防犯カメラの設置や、ドアなどの鍵を二重にしたり、割れにくい窓ガラスにしたりといった自衛策も考えられる。だが、それらの備えを破る粗暴な手口の強盗がこのところ目立つ。匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))だ。
 高額報酬、即日即金―とうたってバイト希望の若者をつり、強盗や窃盗をさせる。秘匿性の高い通信アプリを使い、首都圏を中心に相次ぐ関連事件では実行役ら50人以上が逮捕された一方、指示役は特定できていない。若者が軽い気持ちで犯罪に加担し、使い捨てにされる状況が憂慮される。
 まずは被害に遭わないようにしたい。自治会などを通じて住民間で情報を共有し、地域ぐるみで隙を見せない工夫を話し合う必要もあるだろう。

「闇バイト」強盗 被害多発 警戒強めたい(2024年11月13日『山陽新聞』-「社説」)
 
 首都圏を中心に8月以降、「闇バイト」の絡んだ強盗事件が相次いでいる。住人が殺害されたり連れ去られたりしたケースもあり、国民の体感治安が著しく悪化している。事件の実態解明と新たな犯罪の発生防止が急務だ。
 警視庁と埼玉、千葉、神奈川の3県警は先月、合同捜査本部を設置し、4都県で発生した計14事件を重点的に調べている。一連の事件は、未明の時間帯に窓ガラスなどを割って複数人で押し入り、住人を縛って金品を奪うといった手口が似ているという。
 地方都市も無関係ではない。山口県光市では先月、工具などを持参して強盗の準備をしたとして、強盗予備の疑いで関東地方の中学生ら3人が逮捕された。互いに面識はなく、闇バイトに応募したとみられる。県外で合流し、公共交通機関を乗り継いで事件現場に移動していたという。岡山県でも警戒を強めたい。
 首都圏の事件では、被害に遭った住宅や周辺で、実行グループが飛び込み営業を装って「下見」をしていた疑いが浮上している。名目はリフォームや屋根の修繕、水道管検査、貴金属の買い取りなど多岐にわたる。不審な訪問や電話は断り、しつこい場合は警察への通報も検討する必要があろう。
 怪しい訪問者を家に入れないことも肝心だ。カメラ付きのインターホン越しや、ドアチェーンをかけた状態での対応を心がけたい。
 首都圏で今回狙われたのは、住宅街にある一戸建てが中心だ。防犯の専門家は、玄関ドアに複数の鍵を取り付けるなどの対策を推奨する。不審者が来た場合にすぐ通報できるよう、常に携帯電話をそばに置いておくことも有効な備えだという。
 犯人が押し入った後、住人に危害を加えるケースも目立つ。侵入された場合に備え、家の中で一時的に身を隠す場所や、逃走経路を整えておくことも重要である。
 犯行グループは交流サイト(SNS)を使い、実行役を募集する。「引っ越し」「タクシー業務」のように普通の仕事を装っているが、犯行に加担する「闇バイト」だ。「ホワイト案件」と業務の合法性を強調している例も多いという。10代や20代の若者が応募するケースが多く、姿を見せない指示役から秘匿性の高い通信アプリに誘導され、顔写真や身分証などの個人情報を送信させられる。途中で「やめたい」と思っても個人情報を基に脅される。
 好条件に見えても、仕事の内容が明らかにされず高額な報酬支払いを示唆する求人には、安易に応じないよう肝に銘じたい。個人情報の提供は厳に慎まねばならない。
 警察庁は先月、X(旧ツイッター)で、実行役に向けて同庁幹部が呼びかける異例の動画を投稿した。「勇気を持って抜け出し、すぐに警察に相談してください」。多くの若者に伝えたい言葉である。

「闇バイト」強盗/高額うたう募集に注意(2024年11月8日『神戸新聞』-「社説」)
 
 今夏以降、首都圏を中心に「闇バイト」による強盗事件が相次いでいる。交流サイト(SNS)などで実行役を集め、スマートフォンを通じ犯行を指示する手口が特徴だ。
 横浜市では75歳の男性が殺害され現金約20万円が奪われ、千葉県市川市ではキャッシュカードの暗証番号を言わせる目的で50歳の女性が連れ去られるなど、荒っぽい手口が目立つ。SNSを使う犯罪はどこでも被害が発生したり、実行役に誘い込まれたりする恐れがある。兵庫県でも警戒を怠らないようにしたい。
 大半はX(旧ツイッター)を通じて「最低5万円」など高額報酬を売りに募り、「引っ越し」「タクシー業務」などと運送関係の仕事に見せかけていた。2022~23年にも「ルフィ」を名乗る指示役らによる広域強盗が起きたことから、募集告知には「ホワイト案件」などと記し合法性を強調していたという。
 指示役は自身に捜査が及ばないよう匿名性の高い「シグナル」などのアプリを使って犯行を命じ、応募者が拒むと、事前に送信させた身分証の情報を基に「家族に危害が及ぶ」などと脅迫するのが常とう手段である。一度加担すると逮捕されるまで利用して「使い捨て」にし、多くは報酬を払っていなかった。卑劣極まりない手口に怒りを覚える。
 警視庁と埼玉、千葉、神奈川県警の合同捜査本部はこれまでに実行役やリクルーター役など30人以上を逮捕したが、指示役を摘発しない限り、新たな集団による犯罪が繰り返される。捜査当局は犯行に使われたスマホの分析を急ぎ、一刻も早い実態解明に全力を注いでもらいたい。
 実行役の多くを占める若者らの自衛策も不可欠だ。高額な報酬をうたうバイトは疑い、安易に個人情報を伝えないようにする必要がある。
 ひとたび犯罪に手を染めれば、「軽い気持ちだった」との釈明は通じない。強盗罪の法定刑は5年以上の懲役、強盗殺人は無期懲役か死刑である。重罪に見合う仕事など存在しないと肝に銘じるべきだ。
 警察庁は闇バイトへの注意を促す動画を公開し、応募者や家族の保護を約束している。もし個人情報を基に脅迫されていても、勇気を持って通報してほしい。
 一戸建ての高齢者宅が狙われやすいとされる。事前にリフォームや貴金属買い取りなどの飛び込み営業を装い、「下見」をした事例も多い。不審な訪問や電話は断り、警察に通報するのが賢明である。
 力ずくで押し入られないよう、来客に対応する際はカメラ付きインターホンやドアチェーンを使い、玄関の鍵や窓ガラスを強化するのも有効だ。被害への備えを万全にしたい。

「闇バイト」強盗事件 SNSの誘い、危険性認識を(2024年11月7日『河北新報』-「社説」


 気軽に情報交換できる交流サイト(SNS)は便利だが、場合によっては危険を伴う。特に、お金にまつわる「うまい話」には警戒しなければならない。
 SNSで募集された「闇バイト」によるとみられる強盗事件が8月以降、首都圏を中心に相次ぐ。地域の安全確保とともに、若者らが犯行に加担しないよう徹底した対策を講じる必要がある。
 事件は東京や神奈川、埼玉などで発生。複数の男が未明に窓ガラスなどを割って押し入り、住人を縛って金品を奪うといった手口が似通っている。このうち10月15日に起きた横浜市青葉区の事件では、住人の男性(75)が暴行を受けて死亡した。
 一連の事件で逮捕された約40人に上る実行役らの多くが20代。通信アプリを通じて犯行の指示を受けていたという。互いの素性を知らず、SNSでつながっては離合集散する「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が関与しているとみられる。
 警察庁によると、闇バイトの募集は「高額」「即日即金」「ホワイト案件」などの文言とともに「楽で簡単」といった表現が強調されるケースが多い。
 犯行に至る典型的な流れは、SNSで「高額報酬」などを検索・応募した人に犯行グループから連絡が入る。匿名性の高いアプリでのやりとりで個人情報を送信してしまうと、犯罪行為への加担を拒否しても個人情報を基に脅迫される-というパターン。犯罪と気付いても個人情報を基に「自宅に押しかける」などと何度も脅迫されるという。
 警察庁は注意喚起の動画をユーチューブで公開し、たとえ脅迫されても「警察は、相談を受けたあなたやあなたの家族を確実に保護します。安心して、そして勇気を持って今すぐ引き返してください」と呼びかける。
 犯罪に加担すれば一生を棒に振りかねない。社会全体で啓発活動を続け、相談体制の拡充にも力を注ぐべきだろう。SNSの監視を強化し、若者が安易に募集に応じないよう努めなければならない。
 強盗事件は関東に限らず地方にも広がる恐れがある。石破茂首相はボランティアによる地域のパトロール活動などを強化するため、地方創生の交付金を拡充するよう関係省庁に指示。2024年度補正予算に関連費を計上することも検討している。
 住民自身も警戒を強めたい。政府は広報で、在宅時も家の鍵をかけるよう促すほか、訪問者に対して不用意にドアを開けないこと、宅配便の受け取りには宅配ボックスを活用することといった防犯対策を紹介している。
 侵入者は「近所付き合いが良く、連帯感のある住宅街」を嫌うという。住民同士が日頃からあいさつを交わすなど顔の見える関係を築き、地域の治安維持に努めたい。

(2024年11月4日『東奥日報』-「天地人」)
 
 部下の悪巧みに乗せられたベニスの将軍が貞淑な妻に疑心を抱き、あげくの果てに殺害してしまう。しかし直後、事実誤認と知り悔恨のあまり自害する。シェークスピアの四大悲劇の一つ「オセロ」。初演は1604年11月1日という。
 
 作品を構築する要素は謀略、凶行、後悔、そして身の破滅である。連日報じられる「闇バイト」強盗事件の実行役。その振る舞いは400年以上前から上演される悲劇の筋に重なっているように見える。
 高額報酬をうたう交流サイト(SNS)の募集に応じると犯行を命じられる。指示役に個人情報を握られ「殺す」「家族に危害を加える」などと脅されて断れない。強盗現場では住人に暴力を振るい、時に死傷させて金品を奪う一方、逮捕された後には反省も口にする。
 実行役の多くは若者だ。「楽、簡単、高収入」といったネット空間の甘言に、かつお節を前にした猫のごとく自制心が働かなくなるのか。そんな都合のいい話はあり得ず、罪は決して軽くはない。冷たい手錠の感覚を手首に覚えてから悔いるのでは遅過ぎる。
 若者に向け、闇バイトの危険性を訴える啓発や教育は欠かせまい。それ以上に必要なのは、秘匿性の高い通信アプリを駆使し正体を明かさぬまま暗躍する指示役、首謀者らの特定・逮捕である。指先一つで駒を動かす強盗事件の狂言回し、野放しにしてはならない。

罰が当たる(2024年11月4日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
キャプチャ
闇バイトへの注意を呼びかける啓発活動=東京都大田区
 幼い頃、「罰が当たる」とよく聞かされた。「悪いことをすれば-」「食べ物を粗末にしたら-」。悪い行いをすれば、神仏の罰を受けるという。主に祖母から繰り返し言われた
▼そんな言葉は、聞かなくなった気がする。無理もない。内閣府の「高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる世帯のうち3世代の世帯は、1980(昭和55)年に全体の半数を占めていたが、現在は10%を切っている。お年寄りがそばにいる家は減少を続ける
▼身をもって罰を経験したことがある。「くそじじい!」と祖父に悪態をつき、くるりと背を向けて逃げようとした先にあったのはストーブ。ぶつかって、かけてあったやかんの湯が脚にかかりやけど。罰はすぐに当たることがあると知った。だからか、戒めの言葉として植え付けられている
▼今、自制を促す言葉をかけたくなる事件が相次ぐ。インターネット上で集められた若者らによる強盗や詐欺。高額報酬で誘い「闇バイト」と呼ばれるが、重大犯罪に他ならない。高齢者の被害が多く胸が痛む。先頃は強盗予備の疑いで、中学3年の少年ら10代の3人が逮捕された。どこかでブレーキをかけられないものか
▼3世代世帯が減る中、地域の行事は高齢者とも交流できる大切な機会。人口減少やコロナ禍による中止も聞くが、できる限りの触れ合いを願う。その経験で感じたことを心のどこかに残しておいてほしい。(彦)

闇バイト強盗 日常に潜む犯罪防がねば(2024年11月3日『中国新聞』-「社説」)
 
 交流サイト(SNS)などで犯罪実行者を募る「闇バイト」による強盗事件が首都圏を中心に相次ぐ。実行役の大半は20代以下の若者だ。まずは背後にいる指示役の特定・逮捕を急ぐ必要がある。
 
 強盗罪は5~20年の懲役が科される重罪だ。人を傷つけたり死なせたりした場合は、極刑や無期懲役の可能性もある。未熟な若者が凶悪犯罪に加担しないよう、対策を強めねばならない。
 先月には山口県光市の民家へ強盗に入る準備をしていたとして、関東の中高生3人が逮捕された。危険は地方都市にも広がっている。家庭や地域の防犯力も高めておきたい。
 実行役の多くはSNSのバイト募集に応じた。高額報酬をうたうものもあり、光市の事件では数十万円の報酬が示されたという。重罪に見合う仕事など存在しないと肝に銘じるべきだ。
 見極めが難しいのは「ホワイト案件」「行政の許可」などの文言を使い、通常の求人を装うケース。応募者に本人や家族についての情報提供を求めた後、その情報を盾に取って犯罪への加担を命じるのが常とう手段である。
 神奈川県横浜市での強盗殺人容疑で逮捕された22歳の男は、SNSで「ホワイト案件」と検索して応募。犯罪と知って怖くなったが、「家族に危害が及ぶのを恐れて断れなかった」と警察に供述している。
 逮捕者に若者が多いのは、社会経験や判断力の未熟さにつけ込まれるからだろう。SNSでの職探しには、一生を棒に振るリスクが潜んでいることを忘れてはならない。
 犯行の指示役との連絡には秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」が使われるケースが多いという。求人元に不審を感じたら、ためらわずに警察に相談してもらいたい。
 逮捕者の中には14歳の中学生もいた。家庭や学校での啓発も重要になる。背後にある経済事情や家庭環境にも目を配りながら、社会全体で犯罪の芽を摘む必要がある。
 一連の事件は深夜に、集団で一戸建ての窓ガラスを割って押し入る手口が共通する。窓ガラスにフィルムを貼ったり、鍵を増やしたりして防犯対策を強めておくことも大切だ。もちろん、集合住宅だからといって油断はできない。
 現場周辺では、事件前にリフォームや水道業者を名乗る人物が各戸を訪ねていたことも報告されている。住人の数や資産状況、侵入のしやすさなどを調べ、襲撃する住宅を物色していた可能性がある。
 被害者は高齢者が中心だが、光市では30代の男性宅が狙われた。誰が襲われてもおかしくない。地域のコミュニティーをいま一度点検し、不審な人物や車などの情報を共有する態勢も築き上げたい。
 被害も加害も日常のすぐ隣に潜む。元凶の指示役がいる限り事件は続くだろう。広域強盗などで2年前に逮捕された「ルフィ」などと名乗るグループの幹部は、フィリピンから指示を送っていた。これ以上、治安への不安や若者の犯罪を加速させぬよう、警察は一刻も早い実態解明と摘発に全力を注いでもらいたい。

闇バイト強盗】犯罪加担の危険性伝えよ(2024年11月3日『高知新聞』-「社説」)
 
 8月以降、首都圏で交流サイト(SNS)上の闇バイトによる強盗事件が相次いでいる。社会の不安は高まっている。警察は早期の首謀者の摘発と全容解明に全力を尽くさなければならない。
 一連の事件は、未明の時間帯に窓ガラスを割って複数人で押し入り、住人を縛り金品を奪うといった手荒な手口が共通する。千葉県市川市では女性が連れ去られ、横浜市では男性が殺害される事件まで起きた。
 SNSでつながり、現場ごとに離合集散する「匿名・流動型犯罪グループ(匿流=とくりゅう)」が関与しているとみられる。警視庁など4都県警は合同捜査本部を立ち上げ、実行役ら30人以上を逮捕した。
 北海道や山口県でも類似の事件が起きている。事件はさらに広域化する可能性もある。警戒を強めたい。
 犯行に及んだのは高額報酬をうたう闇バイトで集められた若者らとされる。捜査関係者によると、さいたま市の事件では、実行役とされる男らの一部はSNSを通じて「荷物の運搬」などと書かれたバイトに応募。1回で5万~10万円を提示されたという。
 指示役は男らに秘匿性の高い通信アプリをダウンロードさせ、身分証を送らせて待機場所に集めた。ここで一転、強盗を持ちかけ、拒まれると個人情報を盾に脅したとされる。
 闇バイトは、少なくとも数年前からあったといわれる。特殊詐欺の被害者から現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」の確保などで利用された。
 広く知られるきっかけとなったのは2022年以降、各地で続いた広域強盗事件だ。
 フィリピンを拠点とする「ルフィ」などと名乗る男らの指示を受け、闇バイトの募集に応じた国内の実行役が犯罪を重ねた。報酬目当てに安易に応募したら、都合よく使われて簡単に切り捨てられる。そんな構図が浮き彫りになった。
 政府は警察庁を中心に対策を急ぐ。昨年3月には闇バイトなどの緊急対策プランを決定した。
 募集書き込みの削除や犯行に悪用される名簿対策、青少年への啓発強化などを盛り込んだ。だが闇バイトの求人は巧妙化し、削除には限界がある。気付かないうちに犯罪に加担する危険性が高まっている。
 専門家は、新たな加害者を生まないためには若者への教育が鍵だと指摘する。
 闇バイトに応募するのは、SNSに触れる機会の多い若い世代だ。高時給をうたい、ダイレクトメッセージでのやりとりに誘導する求人は闇バイトの可能性が高い。闇バイトの見分け方や危険性を繰り返し伝える必要がある。
 各家庭での防犯意識も高めたい。一連の事件の現場周辺では、リフォームの飛び込み営業などの訪問を受けたという声もあった。資産状況の下見だった可能性もあるという。
 不審な人物の訪問や電話には応じないことが大事だ。気になることがあれば警察に相談したい。

手口巧妙化 後れを取るな/闇バイト強盗対策(2024年11月2日『東奥日報』-「時論」)
 
 首都圏を中心に闇バイト強盗が相次ぎ、社会への大きな脅威になっている。交流サイト(SNS)の「高額報酬」「即日即金」といった投稿で集められた若者が複数で押し入り、住人を縛り上げて暴行。主に一戸建てに住む高齢者を狙う。横浜市の事件では、75歳男性が殺害された。一連の事件で、警察は30人以上の実行役を逮捕した。
 
 しかし背後にいる指示役の特定・逮捕には至っていない。実行役とのやりとりに秘匿性の高い通信アプリを使用しているため、手がかりをつかむのが難しい。実行役が次々に摘発されているが、代わりはいくらでもいる。指示役がいる限り、また事件は起きかねない。
 指示役の割り出しを急がなければならないのは言うまでもない。加えて、SNSの文言につられて応募するのを防いだり、たとえ応募したとしても犯行に加担するのを思いとどまらせたりすることも課題になろう。石破茂首相は動画で「怪しい求人に絶対に応募してはいけない」「警察は相談に来た人の安全は絶対に守る」と呼びかけた。
 高額報酬をうたう不審な投稿の削除も含め、あらゆる手を尽くす必要がある。最近は、あえて報酬額を抑え、合法的な仕事と強調して犯罪に引き込む例も目立つ。巧妙化する手口に後れを取らないよう、絶えず対策の見直しが求められよう。
 10月中旬に起きた横浜市青葉区の強盗殺人事件で逮捕された22歳の男は、SNSで合法的な仕事を意味する「ホワイト案件」を検索した。「日給15万円以上」の投稿を見つけて応募。指示に従って他の2人と合流し、現場の住宅に向かった。
 犯罪への加担に恐怖を感じたが、既に個人情報を伝えていたため、家族に危害が及ぶのを恐れて断れなかったと供述。被害者の男性を縛り、キャッシュカードの暗証番号を聞き出そうと激しい暴行を加えたとされる。指示役から、一定時間で通信履歴が消去されるアプリに誘導され、具体的な指示を受けていた。
 金欲しさから安易に誘いに乗り、言われるままに行動した結果はあまりに重大だ。初めて会った実行役同士が互いに監視し、暴行に歯止めがかからなくなるのだろう。
 千葉県市川市の強盗致傷事件で一時連れ去られた50代女性も肋骨(ろっこつ)が折れるなど大けがをした。
 警視庁と埼玉、千葉、神奈川の3県警の合同捜査本部は8月以降に発生した計14事件を重点捜査している。警察庁は幹部が闇バイト募集の手口を解説して、犯罪に加担しないよう訴える動画を公開。これまでに少なくとも3人から相談を受け、保護した。
 闇バイトの代償は大きい。「ルフィ」を名乗る男らが指示したとされる広域強盗事件のうち東京都狛江市で昨年1月、90歳女性が暴行を受け死亡した事件などの実行役として逮捕、起訴された23歳の男は裁判員裁判無期懲役を求刑された。
 誰もが容易に実行役になり得る状況は深刻と言うほかない。先週には闇バイトに応募した中学生ら3人が山口県光市で金品を奪う機会をうかがったとして強盗予備容疑で逮捕された。これまでの事件では、現場近くで犯行グループがリフォームの営業などを装って下見をしているとみられ、地域内で情報共有する仕組みも整えたい。

「闇バイト」犯罪の根を絶て(2024年11月2日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 
 
 郊外の住宅に複数で押し入り、住人に暴力を振るって金品を奪う。荒っぽい手口の強盗事件が首都圏を中心に相次いでいる。
 実行役はSNSなどで集められた「闇バイト」の若者らだ。犯罪グループの首謀者に迫る徹底的な捜査とともに、新たな犯罪者を生まないための手を尽くしたい。
 警察庁などによると、東京、神奈川、埼玉、千葉の各都県で8月以降、同じような手口の事件が10件以上起きた。横浜市では75歳の男性が殺害され、千葉県市川市では女性が一時連れ去られた。いつ、誰が狙われるかわからない。体感治安の悪化は深刻だ。
 高額報酬をうたうSNSの募集に応じ、運転免許証の画像などを送る。その後、犯罪を指示され、個人情報を握られて脅されたため断れなかった――。多くの実行役が加担した経緯だ。
 「ホワイト案件」と記されていても、仕事の詳細を示していない時点で不自然だ。安易に応募すれば一生を台無しにしかねないことを、様々な機会を通じて周知する必要がある。
 警察は人工知能(AI)を使い、疑わしい投稿に警告するなどしている。事業者を含め、官民を挙げた取り組みを急がねばならない。途中で踏みとどまろうとした時に相談や保護を受けられる体制も充実させたい。
 一連の事件を起こしている集団は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と呼ばれる。秘匿性の高い通信アプリで指示を出し、「使い捨て」の実行役には正体を明かさない。
 首謀者らを特定・検挙するには「デジタルフォレンジック(電子鑑識)」などを駆使し、指示系統と資金の流れを追う丁寧な捜査が不可欠だ。全国の警察が連携して解明にあたらねばならない。
 犯行グループは飛び込み営業などを装い、ターゲットを下見しているようだ。自宅のセキュリティーに気を配るとともに、不審者を見かけたら通報するなど地域の防犯力も底上げしたい。

「闇バイト」事件 若者の加担防ぐ対策を(2024年11月1日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 犯罪実行者を募る「闇バイト」の絡んだ強盗事件が首都圏を中心に相次いでいる。勧誘は交流サイト(SNS)などを通じて巧妙に行われている。若者らが犯罪に加担することがないよう、対策に手を尽くさなければならない。
 
 「短時間で高収入が得られる」「安全に稼げる」「ホワイト案件」。犯罪絡みであることを伏せて高額報酬の支払いを示唆するSNS上などでの勧誘情報に、若者らが応募するケースが目立っている。
 応募後は犯行グループと秘匿性の高いアプリでやりとりが始まる。個人情報の送信を求められ、受け子や出し子、強盗の実行などを命じられる。拒もうとしても、提供した個人情報を基に本人や家族に危害を加えると脅迫され、仕方なく犯行に及ぶケースもある。
 闇バイトが絡む事件で多く見られるパターンだ。10月に横浜市の住宅で70代男性が殺害され現金が奪われた事件でも、強盗殺人容疑で逮捕された男の1人が調べに対し、犯罪への加担に恐怖を感じつつも「家族への被害を恐れて断れなかった」との趣旨の説明をしたという。
 秋田県警には闇バイトに関する相談は寄せられていないが、県警は昨年5月からSNS上で闇バイトとみられる募集の投稿に対し、閲覧者にも分かるように警告コメントを返信して注意を促している。昨年は37件、今年1~9月には38件の警告を行った。いずれも警告後は投稿の削除が確認された。
 警察庁は4月から人工知能(AI)を活用した警告もしており、9月までに約2700件実施した。ただ同様の事件は繰り返されている。対応を一層強化しなければならない。何よりも首謀者の摘発に向け、都道府県の枠を超えて警察組織を挙げた取り組みが求められる。
 スマートフォンやパソコンを使っていれば闇バイトの情報に接する可能性は誰にでもある。疑わしい求人には不用意に申し込まないことが第一だ。
 もし分からずに応募してしまって闇バイトと気付いた場合には、すぐに警察に相談することが重要。県警は「脅迫された人や家族を警察は確実に保護する。犯罪に加担する前に勇気を持って抜け出し、相談してほしい」と呼びかけている。
 闇バイトが絡んだ事件では若者の摘発が目立つ。社会経験の少なさや判断の未熟な面があるのかもしれない。教育現場で生徒や学生に対して注意喚起し、対処法を指導することが必要だろう。
 家庭では防犯対策の再確認が欠かせない。県警は強盗対策として戸締まりの徹底や窓の補助錠の設置、防犯フィルムの張り付けなどを挙げている。参考にしたい。
 ネットを悪用した犯罪は地域を問わず、どこでも起こり得る。他県の出来事と捉えずに警戒を強めたい。

広域連続強盗 ネット社会に潜む犯罪(2024年11月1日『東京新聞』-「社説」)
 
 インターネット上の闇バイトに応募した犯人らによる強盗事件が相次いでいる。ネット社会の暗部に潜む犯罪。指示役を速やかに摘発すると同時に、犯罪抑止には社会全体の取り組みも不可欠だ。
 質店や住宅を狙った強盗が8月下旬以降、首都圏を中心に十数件発生。横浜市で75歳男性が殺害され、千葉県市川市では50歳女性が連れ去られ、監禁された。
 警視庁と神奈川、千葉、埼玉の各県警が合同捜査本部を設置したが、市民の不安は高まっている。
 実行役らは相互に面識はなく、交流サイト(SNS)の闇バイト募集で集められ、通信アプリを通じて犯行を指示されていた。
 「ホワイト(合法)案件」との誘い文句をうのみにして、個人情報を把握された後は、指示役から「逃げたら殺す」などと脅され、犯行を拒めなかったという。
 2022年から表面化した「ルフィ」を名乗る海外在住の指示役による連続強盗事件と同種で、特殊詐欺グループが容易に稼げる強盗に手口を変えた疑いが濃い。
 実行役や被害品の回収役など約40人が逮捕されているが、指示役は捕まっていない。
 犯行指示は時間がたつとメッセージが自動的に消える通信アプリを使っており、警察は通信記録の復元や被害品の流れなどから指示役の割り出しを進めている。
 被害者宅の選定には、飛び込み営業のリフォーム詐欺集団の顧客情報が使われた疑いもある。こうした情報は犯罪集団の間で取引されており、解明が急がれる。
 まずは各戸の防犯対策を徹底したい。複数の鍵を付けたり、窓ガラスに防犯フィルムを張ったり、高齢世帯を見守ることも必要だ。
 強盗殺人・致死罪は極刑か無期懲役の重罪だ。なぜ実行役の若者らが安易に手を染めたのか。
 要因の一つは若者の人間関係の希薄さだろう。好みの動画投稿サイトやSNSのみを情報源にして暮らす生活様式が、常識の欠如を促している可能性がある。
 ITの発達も犯罪を助長している。通信アプリの秘匿性が高くなったり、海外からでも犯行を指示できるようになったからだ。
 もちろん、若者の経済的な困窮からも目を背けてはならない。ネット社会の新たな犯罪を抑止するには、取り締まりだけでなく、若者の生きづらさとも向き合う社会全体の取り組みが欠かせない。

(2024年10月26日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 以前お世話になった建築会社から、創業記念の「粗品」が届いた。箱を開けると防犯カメラだ。よく見ると「ダミー」とある。模造品だ。直径10センチほどの半球型で赤色灯が光る。見た目は本物そっくりだ
 
▼住宅を狙った凶悪な強盗が相次ぐ。業者はそれを心配し、一品を選んだのだろう。ただ拙宅の小さな玄関からすると、高価に見えるカメラはどうも不釣り合い。どこに設置したものか思案している
▼交流サイト(SNS)で実行犯を募る「闇バイト」による強盗や特殊詐欺が絶えない。即日十数万円、経験不問…。「ホワイト案件」などと、ご丁寧に合法作業と称する求人もあるようだ。それを信じる若者が多いのが悲しい
▼捜査本部ができた首都圏の連続強盗は、手配中の容疑者が本県で逮捕された。北海道や東北にも移動していた。命を奪う凶行は、全国どこでも起きかねない。指示役は海外にいる可能性があり、国際捜査も求められる
▼防犯対策の一環で、政府はボランティアによるパトロール強化や防犯カメラの設置補助も検討しているようだ。防犯カメラは使い方次第で監視カメラになる。常に見張られているような社会は息苦しいのだけれど
良寛に〈盗人にとり残されし窓の月〉という句がある。住まいの五合庵に泥棒が入った。金目の物などない。良寛はわざと寝返りを打ち、着ていた衣を盗ませた。逸話の詳細は何パターンかあるようだが、禅僧の優しさがにじむ。防犯カメラならぬ「窓の月」が一部始終を見ていたか。
キャプチャ
盗人に 取り残されし 窓の月  (良寛
貧乏で無一物の良寛さんの草庵に泥棒が忍び込んできました。良寛さんは、朝早くから托鉢には出たものの、結局子どもたちとの遊びにうつつを抜かしたために、ろくろくお布施をもらえずに疲れて帰庵しました。それでやっとお粥の夕食を済ませると、すぐに床を敷いて、ぐっすり寝込んでしまいました。
 ところが、ひと眠りした良寛さんは、部屋の片隅から聞こえる物音に、ふと目を覚ましました。目を凝らしてみると、手拭いで頬かむりをした男が、物色しているではありませんか。明るい月の光が雨戸の隙間から差し込んでいるので、その男の仕業が手にとるように見えています。部屋の隅の米壷に手を入れて、空っぽであることを知った彼は、今度は壁に掛けてある頭陀袋の中を探しだしました。けれども、その中には、手まりとおハジキ、それに破れ手拭いが入っているだけで、びた一文のお金も見つかりません。男は、眠ったふりをしている良寛さんの足元に立ちすくんで、尚も部屋中を探し回ってみたものの、金目のものはありません。
 そこで彼は、そーっと掛布団の端を握って引っ張ろうとしました。そのとき、さっきから彼の挙動を細目で見ていた良寛さんは、両足でぐーっと布団を蹴り下げながら、大きく寝返りをうって、からだを布団の外へ乗り出してやりました。そんなこととは知らずに喜んだ泥棒は、難なく布団を引き寄せて、それを小脇に抱えると、ぬき足さし足で庵の外へ出ていってしまいました。
 泥棒は、やむを得ず役にたたない物を手にして帰った。泥棒を思いやって窓から外を眺めると、ただ盗り忘れられた月だけが、明るく輝いていたのでした。
 良寛様の大らかで優しさがにじみでた詩とその物語です。(曹洞宗澤龍山少林寺HP
旧暦の30日は新月の闇夜だった…(2024年10月24日『毎日新聞』-「余録」)
 
キャプチャ
「闇バイト」に注意を呼びかける香川真司選手の啓発動画。「ヨドコウ桜スタジアム」の大型スクリーンに映し出された=大阪市東住吉区で2023年10月13日午前11時12分、岩本一希撮影
キャプチャ2
横浜市青葉区の住宅で住人の後藤寛治さん(75)が殺害された事件で、神奈川県警青葉署から強盗殺人容疑で送検される宝田真月容疑者=横浜市青葉区で2024年10月20日午前8時26分、藤井達也撮影
 旧暦の30日は新月の闇夜だった。江戸では「やみ」を30や300の符丁に使った。東海道中膝栗毛ではかごかきが「やみげんこ」と料金を言う。五指を握るげんこは50の符丁で計350文。八百屋の「やみ2文」は32文を意味した
新月の夜は明かりがなくては指先も見えないという。行き先にも迷い、畏怖(いふ)の念が湧く。「闇」には「光がない」「暗い」以外に「愚か」「心が乱れて迷う」「世が乱れて治まらない」などの意味もある
▲世間の目をはばかる時にも使う。戦後の闇市や闇米。闇金融や闇カルテルは今も横行する。新顔が「闇バイト」だ。SNSを通じた高額バイトの募集に応じて強盗や特殊詐欺に手を染める若者が増えている
▲首都圏で続く強盗事件では死者も出た。逮捕者の一人は安全な「ホワイト案件」の言葉にだまされ、個人情報を握られて逃げられなくなったと供述している。中高生も闇バイトに無関係ではない。若者を「愚か」と切り捨てては類似の犯罪を根絶できまい
SNSでバイトを探すのは今の若者の日常。「闇バイト=犯罪」の意識を高める啓発活動も強化したい。「ルフィ」を名乗る指示役が海外を拠点にしていた事件もあった。首謀者を安全地帯に置いてはおけない
▲「世はぬば玉の闇の儲(もうけ)」。明治の作家、樋口一葉がこの世の闇に乗じた不当な利得を指して「たけくらべ」で使った表現である。若者を巻き込んだ「闇の儲」を許さず、安心して暮らせる治安を確保するための「闇夜のともしび」が欲しい。
現在後世(ごせ)ねがひに一昨日來たりし門前も忘れて、簪三本七十五錢と懸直(かけね)すれば、五本ついたを三錢ならばと直切(ねぎ)つて行く、世はぬば玉の闇の儲はこのほかにも有るべし、信如は斯かる事どもいかにも心ぐるしく、よし檀家の耳には入らずとも近邊の人々が思わく、子供中間の噂にも龍華寺では簪の店を出して、信さんが母さんの狂氣面(きちがひづら)して賣つて居たなどゝ言はれもするやと恥かしく、其樣な事は止しにしたが宜う御座りませうと止めし事も有りしが、大和尚大笑ひに笑ひすてゝ、默つて居ろ、默つて居ろ、貴樣などが知らぬ事だわとて丸々相手にしては呉れず、朝念佛に夕勘定、そろばん手にしてにこ/\と遊ばさるゝ顏つきは我親ながら淺ましくて、何故その頭(つむり)は丸め給ひしぞと恨めしくも成りぬ。

死語になるのが一番(2024年10月24日『中国新聞』-「天風録」)
 
 辞書出版の老舗、三省堂が催す「今年の新語」は10年目になる。先輩格の「新語・流行語大賞」と違い、重きを置くのはこの先も生き永らえ、辞書に載る言葉かどうか。耐用年数の見極めが腕の見せどころなのだろう
▲1年前の「新語2023」の10位は「闇バイト」だった。きのうは本紙テレビ欄の番組表にやたら顔をのぞかせていた。首都圏で相次ぐ強盗の一味は闇バイト仲間らしい。今週は光市で民家に押し入る間際に捕まった
▲〈日給5万円〉〈ホワイト案件〉…。SNSの甘い言葉に釣られた末端の実行犯らは、使い捨ても同然。背後から指図する黒幕は尻尾をつかませない
警察庁は、匿名・流動型犯罪グループと名付けた。略して「匿流(とくりゅう)」。末端の面々は意外にも、良く言えば擦れてない、世間知らずが目立つという。光市で捕まったのも関東の中高生3人だった。バイト感覚で手を染めたが最後、一生を棒に振る怖さを家庭や地域で教えておきたい
▲「闇バイト」も「匿流」も、命名は世間に対する警鐘にほかなるまい。被害者にも加害者にもなってほしくない―と備えを促している。願わくは辞書に載る前に根絶やしにされ、死語となるのが一番なのだが。

広域連続強盗 若者の関与断ち根絶急げ(2024年10月23日『北海道新聞』-「社説」)
 
 複数人で住宅に押し入り、金品を奪う強盗事件が関東などで相次いでいる。
 横浜市では高齢男性が殺害される事件に発展した。
 一連の事件で逮捕された若者らの多くが、交流サイト(SNS)で高額報酬をうたい犯行を手伝わせる「闇バイト」に応募したと供述している。
 札幌市豊平区で起きた強盗致傷事件でも逮捕された男が警察に同様の内容を述べている。
 若者が金銭目的にためらいなく平穏な家庭を襲う。こうした凶悪犯罪が広域化し、道内にも及んだのであれば道民の衝撃と不安は大きい。
 警察は総力を挙げて犯行グループを摘発し、事件の拡大を食い止めねばならない。
 8月下旬から続く一連の事件は住宅の窓ガラスを割って侵入し、住人を粘着テープで縛るといった荒っぽい手口が特徴的だ。連絡には秘匿性の高い通信アプリが使われている。
 警察は、犯罪グループがSNSを使って闇バイトを集め事件を主導したとみている。
 「ルフィ」などと名乗る道内出身の男らによる2022、23年の広域強盗事件が重なる。
 この事件では、消去された通信記録の解析やカネの流れの追跡が、海外に潜伏していた指示役らの摘発につながった。
 今回これまでに逮捕されたのは実行役などにとどまる。被害をなくすには背後関係を突き止め、首謀者らまでを一挙に摘発することが欠かせない。警察は最新のデジタル技術も駆使して捜査を尽くしてもらいたい。
 SNS事業者は闇バイト情報に目を光らせ、削除に力を入れる責任がある。
 横浜の事件で逮捕された男は税の滞納があり、犯罪と無関係とうたう「ホワイト案件」と書かれたアルバイトに応募した。
 犯罪と気付いたが個人情報を伝えていたため家族への危害を恐れ、断れなかったという。
 若者を誘い込む手口は絶えず巧妙化している。警察は、勇気をもって抜けだし相談するよう呼びかけている。相談者や家族の適切な保護が求められる。
 強盗罪の刑罰は重い。軽い気持ちが取り返しのつかない結果につながりかねない。
 若者が軽率に犯罪に陥る背景も解き明かしたい。孤立や困窮が影響しているのなら、根本的に手だてを考えねばならない。
 政府は、闇バイトに応募しないよう呼びかける広報や相談体制を強化するという。
 善悪を判断する大切さは無論、闇バイトの危険性を粘り強く伝え続ける必要がある。

闇バイト強盗多発 凶悪犯とならないために(2024年10月23日『産経新聞』-「主張」)
 
 
 家庭や近所、職場や酒場で、凶悪な広域強盗への恐怖が口の端に上る。体感治安は著しく悪化している。
 犯行グループは住人をハンマーで殴り、刃物で切りつけ、現金などを強奪する。極悪非道な実行犯像を浮かべるが、必ずしもそうばかりではない。
 横浜市の住宅で住人を殺害し現金を奪ったとして強盗殺人容疑で逮捕された22歳の男は交流サイト(SNS)の「ホワイト案件」と記された投稿を通じて指示役とつながり、身分証などで個人情報を伝えた。「犯罪に加担する恐怖を感じたが、個人情報を知られ仕返しや家族への危害を考え断れなかった」と供述しているという。
 これが「闇バイト」で使い捨ての犯罪者となる典型的な姿である。警察庁は昨年、「犯罪実行者募集の実態」と題する広報啓発資料をまとめた。生々しい実例集である。
 SNSの甘い誘いに乗れば言葉巧みに個人情報を求められ、写真や住所、銀行口座から家族や交際相手の詳細まで引き出される。面接と称して携帯電話の電話帳や交信記録を撮影されたケースもある。
 これらは全て離脱や逃亡を認めない脅迫の材料となる。「家に火をつける」「家族を殺す」などの脅しが怖くて犯行に加担すれば、それも新たな脅迫への弱みとなる。約束の報酬を受け取ることもない。抗議しようにも指示役の上部は連絡先が分からない。他人を殴り傷つけ殺害した心の痛みは消えず、犯行集団からの離脱を図れば警察に密告され、「犯罪者」としてネット上に写真が公開される。
 これが逮捕まで続く。なぜならそれまで決して離脱を許されないからだ。身から出たサビであり、同情はできないが、人生は破滅である。世の中に、そんなに甘い話はないと知るべきだった。それでもすでに、「闇バイト」の甘言に乗ってしまった場合はどうするか。
 警察庁は、こう呼びかけている。「自分自身や家族への脅迫があっても、強盗は凶悪な犯罪です」「すぐに警察に相談してください。警察は相談を受けたあなたやあなたのご家族を確実に保護します。安心して、そして勇気をもって、今すぐ引き返してください」
 犯罪から抜け出す方策は、もはやこれしかない。

闇バイト強盗 検挙、防止へ総力挙げよ(2024年10月23日『京都新聞』-「社説」)
 
 インターネット上で高額報酬のアルバイトをうたい、募集に応じた若者らによる強盗事件が相次いでいる。「闇バイト」を実行役とした凶悪犯罪の広がりを深刻に受け止め、社会全体で手を打たなければならない。
 8月以降、住宅に押し入って住人の高齢者らを襲うなどの強盗事件が首都圏で計14件発生している。横浜市では75歳男性が殺害され、千葉県市川市では50歳女性が連れ去られて監禁された。
 交流サイト(SNS)で集められた若者らが、指示役の命令に従って実行したとみられている。
 捜査関係者によると、横浜市などの事件で実行役とされる男らのうち数人は、「荷物の運搬」「ホワイト案件」などと書かれたバイトに応募し、1回で5万~10万円の報酬を提示されたという。
 指示役の男は、身分証を送らせて待機場所に集め、強盗への関与を持ちかけるなどした。拒むと「個人情報を知っている」などと脅迫したとされる。
 闇バイトが絡む事件は、SNSの普及に伴い、2020年ごろから特殊詐欺グループによる被害が各地で急増して注目が高まった。22~23年には、「ルフィ」などと名乗る男らが指示した京都市や東京都狛江市などでの強盗事件への関与も発覚し、凶悪化が目立つ。
 多くの事件では、首謀者や指示役など中枢メンバーの摘発はわずかで、逮捕・起訴されたのは末端の実行役が大半だ。甘言にのせられた結果、後戻りできなくなり、使い捨てられる構図が浮かぶ。
 警察庁は、SNSでつながって離合集散を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と名付け、警戒を強める。治安への重大な脅威として、指示役の検挙に総力を挙げてほしい。
 ただ仲間内の連絡は秘匿性の高い通信アプリが使われ、痕跡が残りにくい。人工知能(AI)活用でネット上の監視も強めるが、閲覧段階で有害情報と見抜けない内容が多く、専門家は「闇バイトと分からないよう勧誘が巧妙化している」と指摘する。
 相次ぐ強盗事件を受け、石破茂首相は闇バイトへの注意喚起や相談体制強化などを補正予算案に盛り込む考えだ。
 SNSに潜む危険は、著名人を語る投資詐欺広告など多岐にわたる。被害防止に向け、犯罪に関わる書き込みの監視や削除などSNS事業者の責任と役割は大きい。
 若者の困窮や孤立の解消など、多角的な観点で犯罪の芽を摘む必要もある。

目さむる心ち、眠れぬ心ち(2024年10月23日『長崎新聞』-「水や空」)
 
 吉田兼好徒然草」の一節に〈しばし旅立ちたるこそ、目さむる心(ここ)ちすれ…〉(十五段)とある。旅に出れば世界が開け、目が覚める気持ちになる、と
▲「目が覚める」には心が新鮮になる、という意味のほかに、罪を悔い改める、の意味もある。凶悪事件の実行役はいま、後者の意味で〈目さむる心ち〉かもしれない
▲強盗に押し入り人の命を奪ったり、大けがをさせたりと、残忍な事件が後を絶たない。闇バイトに手を染め、実行犯として逮捕された男たちは「嫌になった」、指示役に個人情報を握られ「家族への危害を恐れて断れなかった」と悔いを口にしている
▲やったことは非道の極みだが、犯罪とは知らずに交流サイト(SNS)で稼ぎ口を探し、言われるがままに身分証明書の情報を渡し…と、指示役の手練手管に操られた揚げ句の仕業でもある。ずぶずぶと沼にはまるのを見過ごすわけにはいかない
▲犯罪に加わる前でも、たとえ加わった後でも、警察に相談、出頭すればわが身も家族も守られる、と専門家は言う。後戻りできないと思い込めば使い捨てにされるだけだ、と
▲同様の事件は関東に限らず地方にも広がっており、〈目さむる心ち〉どころか“眠れぬ心ち”が列島を覆う。加害者にも被害者にもならないよう防犯の心の鍵を閉め直したい。(徹)

(2024年10月22日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 「犬を飼いなさい」「外に照明をつけた方がよい」。大正末から昭和初めにかけ、東京で約100件もの強盗事件を重ねた男は押し入った家の住人に対し防犯の注意を説いた。世に言う「説教強盗」である。男は逮捕時27歳だった
 
▼首都圏で発生した一連の強盗事件で逮捕された実行犯の多くも20代。一軒家を狙っている点も共通する。実行犯は闇バイトに応募したとみられる
▼ただ現代の連続強盗の手口は手荒い。未明に窓ガラスを割って複数で押し入り、住人を縛って金品を奪う。暴行されて重軽傷を負ったり、亡くなったりした被害者もいる。警視庁と埼玉、千葉、神奈川の3県警は合同捜査本部を設置した
▼「短期で稼げる」と応募した闇バイトで個人情報を握られ、「家族への危害」を恐れて断れずに犯行に及んだと供述する容疑者もいる。指示役の言いなりにならず、暴力を踏みとどまれなかったか
▼同様の事件は今月に入って札幌市でも発生。全国的に警戒が必要だ。先日、秋田市内の家電量販店では不審者の訪問拒否に役立つインターホン、屋外用の自動点灯ライトの売り場で熱心に品定めする客らの姿を見かけた。防犯意識の高まりの表れだろう
「歴史への招待21昭和編」(日本放送出版協会)によると、説教強盗の影響で、当時の東京では街灯や番犬が増えたとか。元説教強盗氏は番犬について「秋田犬は怖かった」とも語っている。ただ現代の闇バイト強盗に対して番犬の効果の程は分からない。
キャプチャ

相次ぐ闇バイト強盗 凶行加担の危険性認識を(2024年10月22日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
男性が殺害された住宅を調べる捜査員ら=横浜市青葉区で2024年10月16日午後1時58分、本社ヘリから玉城達郎撮影
 インターネット上の「闇バイト」募集に応じた結果、凶悪犯罪に加担させられる。その危険性の認識を広く共有する必要がある。
 8月下旬以降、住宅を狙った強盗事件が関東地方で相次いでいる。窓を割って侵入し、住人を粘着テープで縛り、暴行するといった手口が目立つ。
キャプチャ2
女性が連れ去られた現場周辺を規制する警察官=千葉県市川市で2024年10月18日午後2時27分、藤井達也撮影
 横浜市では75歳の男性が殺害され、千葉県市川市の女性は連れ去られて監禁された。
 ネット交流サービス(SNS)で集められた若者が、指示役の命令に従って実行したのが特徴だ。
 横浜の事件で逮捕された容疑者は短期間で稼ぐことができるアルバイトをSNSで探し、犯罪とは無関係と強調する「ホワイト案件」との投稿を見て応じたという。
 途中で闇バイトだと気づいたが、身分証明書で個人情報を把握されており、「家族に危害が加えられるのが怖くて抜け出せなかった」と警察に供述したとされる。
 お金欲しさで深く考えずに行動すれば、取り返しのつかない結果を招く。犯罪に手を染める前に警察に相談すべきだ。警察庁は、連絡してきた人を保護するよう、全国の警察に通達を出している。
 新たな被害を防ぐためにも、指示役の検挙が不可欠だ。
 指示役は実行役との連絡に、秘匿性の高い通信アプリを使っていた。やり取りが残りにくく、手がかりを得るのが難しい。
 悪質な訪問営業をするリフォーム業者の顧客情報が利用され、被害者たちの家が狙われた疑いもある。警察は徹底的な捜査で全容を解明すべきだ。
 2022~23年にも、「ルフィ」などと名乗る指示役による同様の広域強盗事件があった。警察は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と位置づけ、取り締まりを強化してきた。
 捜査体制を整え、ネット上の闇バイト情報に目を光らせている。ただ、手口は巧妙化しており、対策の不断の見直しが求められる。
 強盗被害に遭わないため、住宅の防犯も大切だ。玄関や窓に複数の鍵を付けたり、防犯器具を活用したりするのが有効という。
 高齢化とデジタル化が進む中での新たな犯罪である。人々が安全に暮らせるよう、社会全体で取り組みを進めなければならない。

世の中は今も昔もウソであふれている(2024年10月22日『産経新聞』-「産経抄」)
 
キャプチャ
演説を聞く多くの有権者ら =20日午後1時58分、大阪市住之江区柿平博文撮影)
 毎年暮れには日本漢字能力検定協会が全国から公募した「今年の漢字」が発表される。平成19年は「偽」が選ばれた。確かにこの年は、食品の「偽装」をめぐって有名な洋菓子メーカーや名物和菓子店から高級料亭までがやり玉に挙がった。公的年金制度への国民の信頼をゆるがす「消えた年金問題」も発覚した。
▼首都圏で相次いでいる強盗事件の実行犯はやはりSNSでの募集に応じた若者たちだった。横浜市青葉区の住宅では75歳の男性が手足を縛られた遺体で見つかり、現金約20万円が奪われていた。
▼強盗殺人容疑で逮捕された22歳の男の供述には驚いた。アルバイトをSNSで探しているうち、「『ホワイト案件』の投稿を見つけて応募した」というのだ。今も昔も世の中はウソであふれている。事件の首謀者がブラックな闇バイトだと明かすわけがない。
▼途中で犯罪に加担することに気づいたものの後戻りはできなかった。個人情報を知られ家族が危害を加えられるかもしれない恐怖にかられたからだとも供述している。稼いだ金で数十万円滞納している税金を払うつもりだったらしい。ごく普通の納税感覚と、むごたらしい犯行との間に落差がありすぎる。
衆院選の投開票日が来週27日に迫り、選挙戦は激しさを増している。有権者としては各党の候補者の訴えに耳をすませて冷静に判断したい。政治家の公約にこそ、ウソがはびこっているからだ。
▼その中で石破茂首相は「看板に偽りなし」を意識しているように思える。何しろ毎日テレビの画面から飛び込んでくるのは、「新しい自民党はルールを守る」との決意表明である。ただし、あまりにも当たり前過ぎると突っ込みたくなるのは、小欄だけではあるまい。

闇バイト強盗 治安を揺るがす重大な脅威だ(2024年10月19日『読売新聞』-「社説」)
 
 日本の治安をおびやかす重大な事態である。警察は、犯行グループの実態解明と摘発に全力を挙げねばならない。
 郊外の住宅などに男たちが押し入り、住人の高齢者らに暴力を振るって現金を奪う強盗事件が続発している。8月以降、東京、埼玉、千葉、神奈川を中心として約20件に上っている。
 横浜市では、手足を縛られ、全身を殴られた高齢の男性が死亡する事件が起きている。千葉県市川市では、高齢の女性宅が襲われ、同居する50歳の娘が連れ去られて埼玉県内で監禁された。
 高齢者宅に狙いを定め、平穏な日常を一瞬にして破壊する極めて悪質な犯行だ。市民は大きな不安にさらされている。
 闇バイト強盗は近年、全国で相次ぎ、海外にいた「ルフィ」と名乗る指示役の男らが逮捕された。それでも同種の事件がこの2か月で多発している。警察は威信をかけて捜査に取り組んでほしい。
 実行役は、SNSの「闇バイト」で集められ、通信アプリを通じて犯行の指示を受けていた。一方の指示役は、「小山」「夏目漱石」など、複数の事件で同一のアカウントを使っていた。
 警察は、SNSでつながって離合集散を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)による連続強盗事件の疑いが強いとみて、関係する都県警による合同捜査本部を設置した。
 今月に入り、北海道でも類似の強盗事件が発生している。事件がさらに広域化する恐れがあり、厳重な警戒が欠かせない。
 一連の事件では、住宅の窓ガラスを割って室内に押し入るという乱暴な手口が共通している。金を奪うためには手段を選ばないという凶悪性が顕著だ。
 闇バイトで集められた実行役は、指示役から「逃げたら殺す」と脅されていた。その恐怖心から、犯行が今後さらにエスカレートする可能性は否定できない。
 現場周辺では、リフォーム業者や水道業者を名乗る人物が、事前に各戸を訪問していたケースがある。警察は、家族構成や資産状況を調べて襲撃する家を物色していたとみて、捜査している。
 
 怪しい人物の訪問や電話には対応しないことが重要だ。不審な出来事があったら、迷わず警察に通報してもらいたい。
 
 それぞれの家で防犯対策の強化にも努めたい。窓ガラスに防犯フィルムを貼って割られにくくしたり、玄関や窓の鍵を複数にしたりする対応を検討してほしい。

(2024年10月19日『山形新聞』-「談話室」
 
▼▽簡単な仕事を手伝ってほしい。見覚えのない男から突然こんな誘いを受けた4人はそれぞれ金絡みの泣きどころがあった。訝(いぶか)しんでも示された巨額の報酬には抗(あらが)えない。互いの素性を知らぬまま、押し込みに加担する。
▼▽藤沢周平さん(鶴岡市出身)が「闇の歯車」で描いたのは、自らに累が及ばないよう立ち回る狡猾(こうかつ)な首謀者と、一獲千金で人生を変えようとする者たちの末路だ。金を欲する人間が面識のない人物に集められ、凶行の駒として使われる展開に、昨今の犯罪が二重写しになる。
キャプチャ
▼▽首都圏で、未明に窓ガラスなどを割って複数人で押し入り、住人を縛って金品を奪う手口の強盗事件が続発。横浜市の住宅では、襲われた75歳の男性が死亡している。18日午前までに逮捕された容疑者は計29人。いずれも、闇バイトに応募して集められた実行役とみられる。
▼▽小説では、飲み屋での密議で企ての全容が直接伝えられたが、現代の匪徒(ひと)はすべて通信アプリを介して動く。「ルフィ」などを名乗った男たちによる事件で何人も逮捕されたのに、同様の犯罪が繰り返される。黒幕を捕らえ、回り続ける闇の歯車を一刻も早く止めなければ。

「治安」はどこへ、首都圏で相次ぐ強盗 (2024年10月18日『産経新聞』-「産経抄」)    
 
キャプチャ
強盗傷害事件が起きた千葉県白井市の住宅
 いまは亡き辞書編纂(へんさん)者の見坊(けんぼう)豪紀(ひでとし)さんが、こんな趣旨のことを述べていた。世の中で使われる言葉の意味は、辞書の世界から無遠慮にはみ出すものだ―と。それが耳になじんだ言葉でも、不思議な用法に出合うことは確かに多い。
▼一例をあげれば、「防犯のための対策」を縮めた「防犯対策」である。定着した観のある表現ながら、辞書の意味に従えば「防犯」を打ち破るための「対策」、いわば犯人側の視点だろう。さりとて誤用と言い切れないことは、このところ首都圏で相次ぐ強盗事件が示している。
▼施錠した家の窓ガラスを割り、強引に侵入する手口からは粗暴な犯人像が浮かび上がる。一方で、抵抗を受ける恐れの少ない高齢者や女性の住まい、それも周囲の目が届きにくい戸建てが多く狙われていると聞く。防犯への策を講じた犯罪だろう。
横浜市の住宅では75歳の男性が亡くなった。手足を縛られ、暴行された痕があるという。千葉県白井市では民家の女性2人が襲われ、現金と軽乗用車を奪われた。血の通いが感じられぬ凶行に、肌の粟(あわ)立ちを禁じ得ない。SNSで実行役を募る闇バイトとの関連も疑われている。
▼防犯カメラを設置する。厚みのあるフィルムで窓ガラスを覆う。自衛の策を施さねばならないのはむろんのことだが、罪のない人々がおびえ、悪党が高笑いする図は受け入れ難い。逮捕に勝る防犯はないのも事実だろう。徹底した捜査を望みたい。
▼近頃は、「体感治安が悪くなった」との嘆きを耳にすることも増えた。「治安」は本来、国家・社会の秩序と安全が保たれていることを意味する言葉である。かつて安全を売り物にした国で、「治安」と「悪い」が折り合う矛盾をこのまま許してはなるまい。

闇バイトの落とし穴(2024年10月19日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 スマートフォンに先日、宅配便の不在通知メールが来た。再配達依頼を選ぶとクレジットカード番号などを記入するページに飛んだ。危ない。「なりすましメール」に引っかかるところだった
◆それにしても巧妙だ。送り状番号や品名が記載され、本物の不在通知とそっくり。メールアドレスを入手し、実在の企業と見分けがつきにくいメールを送る。1人ではなく組織化された集団だろう。だましのプロである。ご注意を
◆一方で、こうした「ヒヤリハット」の情報共有や啓発活動で成果が鈍るのか、近年は犯罪組織が直接凶行に及ぶ事件が起きている。首都圏で強盗事件が相次ぎ、実行役をSNSの「闇バイト」で集める手口が報道されている
キャプチャ
◆残念ながら情報技術を悪用する人がいる。自分は手を汚さず、若者を使い捨てる悪人がいる。SNSでつながる見知らぬ者同士が、時に「高額報酬」で結束する。匿名・流動型犯罪グループ、通称「トクリュウ」と呼ばれる
◆犯罪に手を染めると相手を傷つけ、大切な人を悲しませる。便利なスマホも落とし穴は多い。しかも、欲が絡めば大きい穴さえ見えなくなる。注意していても穴に落ちることはあるかもしれないが、その時に引き上げてくれたり、抜け出す勇気を与えてくれたりするのは家族や友人。SNS以上に顔が見えるつながりを大切に。(義)