強盗に関する社説・コラム(2024年10月18日)

「治安」はどこへ、首都圏で相次ぐ強盗 (2024年10月18日『産経新聞』-「産経抄」)    
 
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強盗傷害事件が起きた千葉県白井市の住宅
 いまは亡き辞書編纂(へんさん)者の見坊(けんぼう)豪紀(ひでとし)さんが、こんな趣旨のことを述べていた。世の中で使われる言葉の意味は、辞書の世界から無遠慮にはみ出すものだ―と。それが耳になじんだ言葉でも、不思議な用法に出合うことは確かに多い。
▼一例をあげれば、「防犯のための対策」を縮めた「防犯対策」である。定着した観のある表現ながら、辞書の意味に従えば「防犯」を打ち破るための「対策」、いわば犯人側の視点だろう。さりとて誤用と言い切れないことは、このところ首都圏で相次ぐ強盗事件が示している。
▼施錠した家の窓ガラスを割り、強引に侵入する手口からは粗暴な犯人像が浮かび上がる。一方で、抵抗を受ける恐れの少ない高齢者や女性の住まい、それも周囲の目が届きにくい戸建てが多く狙われていると聞く。防犯への策を講じた犯罪だろう。
横浜市の住宅では75歳の男性が亡くなった。手足を縛られ、暴行された痕があるという。千葉県白井市では民家の女性2人が襲われ、現金と軽乗用車を奪われた。血の通いが感じられぬ凶行に、肌の粟(あわ)立ちを禁じ得ない。SNSで実行役を募る闇バイトとの関連も疑われている。
▼防犯カメラを設置する。厚みのあるフィルムで窓ガラスを覆う。自衛の策を施さねばならないのはむろんのことだが、罪のない人々がおびえ、悪党が高笑いする図は受け入れ難い。逮捕に勝る防犯はないのも事実だろう。徹底した捜査を望みたい。
▼近頃は、「体感治安が悪くなった」との嘆きを耳にすることも増えた。「治安」は本来、国家・社会の秩序と安全が保たれていることを意味する言葉である。かつて安全を売り物にした国で、「治安」と「悪い」が折り合う矛盾をこのまま許してはなるまい。