「医師の収入は高すぎる」と断言する院長 無駄な検査や処方をなくすため、患者に勧める「5つの質問」がある(2024年10月9日『東京新聞』)

 
<医療の値段・第5部 続・明細書を見よう>⑥

◆「薬の処方は3カ月に1度」が可能と語る総合診療医

 「生活習慣病の場合、うちは患者さんの状態が安定していれば、薬の処方は3カ月に1度が基本です」
「医者にChoosing Wiselyの5つの質問をしても、失礼にはあたらない」と話す谷口恭医師=大阪市北区で

「医者にChoosing Wiselyの5つの質問をしても、失礼にはあたらない」と話す谷口恭医師=大阪市北区

 そう話すのは大阪市北区の「T・I・C谷口医院」の谷口恭院長(55)。研修医時代にタイのエイズホスピスで学んだのを機に、日本では数少ない総合診療医の道を進み続ける。
 「どのような疾患にも患者にも対応する」ことを大切にして実践しており、外国人やエイズウイルス(HIV)陽性者、性的少数者(LGBTQ)ら医療拒否に遭いやすい患者の駆け込み寺として知られる。

◆「飲まないことに越したことない」と減薬も

 もうひとつ大切にしているのが「受診や薬、検査は最小限にすること」。なぜ収入減になることを心がけるのか。「貴重な時間とお金を受診に費やすのはもったいないやないですか。薬だって飲まないことに越したことないから、可能な限り減薬もします」
 高血圧などの生活習慣病の場合、治療開始から半年ほどで、8割以上の患者が3カ月処方に。そのために力を入れるのが、食事や運動、体重、ストレス、仕事、生活の乱れなど時間をかけた問診だ。食事指導はさらに専門の看護師がする。

◆「年に1回インフルエンザのワクチン打ちにくるのが理想」

 「うちの看護師は長いときは30分くらい話をしてます。毎日、カルテを1ページくらい書いてますよ」
 減薬は処方を1~2カ月にして、採血して体調が悪化していないか確認しながら進める。「生活習慣病の薬も可能ならやめていくようにしています。実際やめた人もいる」と谷口さん。
 「多くの患者さんに言うてるけど、年に1回インフルエンザのワクチンだけ打ちにくるのが理想。きれい事と違う、それがわれわれの喜び。そもそも医師の収入は高すぎると思う」
 治療で算定するのは検査などを包括する生活習慣病管理料(Ⅰ)=6100〜7600円=ではなく、検査は出来高払いの(Ⅱ)=3330円=の方だ。
 「算定はそれなりの指導をした場合に限っているので、しないことも多々あります。(Ⅰ)は点数がやたら高くて現実的ではない」

◆欧米やカナダなど患者・医師団体が重視する概念とは

 そんな谷口さんが勧めるのが「Choosing Wisely」という概念だ。「直訳は『賢く選択』ですが、要はお金をかけんと、安くて質の良い治療をしようという動き。日本では医者が乗ってこんけど、欧米やカナダなどで普及し、患者団体も医師の団体も重要視している」
 海外ではChoosing Wiselyを運営する組織が「こんな診療をやめよう」というリストを公表している。「ウイルス性の風邪には抗菌薬は不要」や「慢性の頭痛にMRIは不要」など。「日本でもそのようなリストが普及すれば、無駄な検査や薬を減らすことにつながる」
 Choosing Wiselyには「検査や治療を受ける前に医師に尋ねる5つの質問」がある。「この五つを患者さんが医師に主張すれば、無駄な検査や処方がなくなるだけでなく、医者と良好な関係が築けるのではないかと思います」

 Choosing Wisely 米国内科専門医機構財団の主導で2012年に発足した活動で、日本でも16年に医師や市民らによってChoosing Wisely Japanが設立された。ポリファーマシー(薬剤の多剤併用)や過剰診断が世界的な問題になりつつある中、医療者と患者が「賢明な選択」をするために立ち上がった。米国をはじめ、カナダ、イタリア、英国、オーストラリアなど各国で広がっている。

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<連載:医療の値段>
 6月の診療報酬改定に合わせて生活習慣病の診療代の頻回な請求を取り上げた連載第3部に、多数の情報や意見が寄せられた。改定後は「医療費が値上がりした」「薬の長期処方やリフィル処方を断られた」という声が今なお届く。問題をもう一度追った。(杉谷剛が担当しました)
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