「少女像」を日本を非難する象徴ととらえるのではなく… ベルリンからの撤去に反対する日本の市民団体の思い(2024年10月8日『東京新聞』)

 
 ドイツの首都ベルリンの公有地に設置された慰安婦問題を象徴する少女像を巡り、地元当局が9月末に撤去を命じた。日本の市民団体は7日、東京都港区のドイツ大使館に設置継続を求める要請文を提出。日本政府は少女像の撤去を働きかけてきたが、団体は今も続く戦時性暴力解決への願いも込めて、存続の必要性を訴える。(中川紘希)

◆「期限切れ」と4週間以内の撤去命令

ドイツ・ベルリン市ミッテ区にある「平和の少女像」存続を要請した日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の梁澄子さん(左端)ら=東京都港区で

ドイツ・ベルリン市ミッテ区にある「平和の少女像」存続を要請した日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の梁澄子さん(左端)ら=東京都港区で

 「少女像は、第2次大戦中に性暴力被害を受けた後、自ら立ち上がり闘い平和を訴えた方たちの像だ」
 元慰安婦の女性を支援する「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」の梁澄子(ヤンチンジャ)共同代表は大使館への要請の後、報道陣に強調した。
 ベルリン市ミッテ区の少女像は、在ドイツの韓国系市民団体「コリア協議会」が2020年に区の公有地に設置。区は当初、1年間の一時的な設置を認めたが、その後も容認してきた。ところが「全国行動」によると、区は9月30日、設置を認める期限が切れたとして4週間以内の撤去を命令。協議会側は将来的な移設などを話し合いたい意向だが、区側が応じるかは不透明な状況という。

◆日本政府は「好ましくない影響」

 「全国行動」はこの日、39団体562人の署名賛同を得た要請文を大使館に提出。対応した参事官は「(自分は)国の外交官であり区の対応の詳細はわからない。個人的見解は答えられない」と述べたという。
ドイツ・ベルリン市で行われた慰安婦を象徴する少女像の設置存続を求める抗議集会=2020年10月

ドイツ・ベルリン市で行われた慰安婦を象徴する少女像の設置存続を求める抗議集会=2020年10月

 チマ・チョゴリを着た10代の少女の姿を表す像は、元慰安婦の支援団体「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」が2011年、ソウルの日本大使館前で謝罪と賠償を求める「水曜デモ」の1000回目に合わせて初めて設置した。米国やイタリア、中国といった各地で、市民団体などが設置を進め、現在では石碑だけのものを含め100カ所以上にあるという。
 日本政府は慰安婦について「強制連行を直接示す資料はない」「『性奴隷』の表現は事実に反する」との立場をとる。各地の少女像について「日韓関係に好ましくない影響を与える」「調査してきた歴史的文献を正確に描写していない」などと撤去を求めてきた。

◆「差別反対や少数者を守る象徴」

 今回命令を受けたミッテ区の像についても岸田文雄前首相が2022年にショルツ首相が来日した際、直接撤去を求めている。外務省の担当者は取材に「引き続き(他の少女像の)関係者に説明をしていく」と話した。
ドイツ・ベルリン市ミッテ区にある「平和の少女像」存続を要請した日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の梁澄子さん=東京都港区で

ドイツ・ベルリン市ミッテ区にある「平和の少女像」存続を要請した日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の梁澄子さん=東京都港区で

 「全国行動」は8日、石破茂首相宛てにも少女像存続を求める要請文を提出する予定。梁さんは「日本政府は、少女像を『日本を非難する象徴』としか捉えていないので問題がこじれている。反省して記憶することが大事で、加害者だからこそ、像を一緒に守ってほしい」と訴えた。
 慰安婦問題を取材するフリー編集者の岡本有佳さんは「海外における少女像は、排外主義テロの犠牲者の追悼の場ともなるなど、戦時下の性暴力だけでなく、人種差別への反対や少数者を守る象徴にもなっている」とその意味を指摘する。
 岡本さんは、少女像が展示され、抗議や脅迫で一時中止に追い込まれた2019年の「あいちトリエンナーレ」企画展「表現の不自由展・その後」の実行委員を務めた。「あいトリの中止は加害の歴史を否定、修正する過激な右派の成功体験になった。ミッテ区の少女像も踏ん張って存続させないと、次は他の地域が攻撃される」と危惧した。