犬猿の仲とされた麻生太郎元総理はマンガ好きとして知られていたので、ここでもあまり気が合わなかったのかもしれない。マンガしか読まないとか、国際政治を「ゴルゴ13」で学んでいるといった話がまことしやかに伝えられる麻生氏と、同僚との酒席よりも一人で本を読んで勉強する時間を重視するという石破氏が相容れないというのは実にわかりやすい。
実際に、石破氏の本棚を覗いてみると、安全保障関連の本が圧倒的に多いものの、一部にマンガやノンフィクション、趣味の鉄道関連書籍などもチラホラ見える。
読む本のジャンルはさらに幅広いようだ。以前、コロナ禍における「おうち時間」を使って読む本、読み返そうと思っている本を問われた際に挙げた書名は以下の通り。
『国家安全保障の政治経済学』(吉原恒雄)、『パンデミックとたたかう』(押谷仁・瀬名秀明)、『国家権力の解剖 軍隊と警察』(色摩力夫)、『軍事法廷 戦時下の知られざる「裁判」』(北博昭)、『アメリカ大統領選 勝負の分かれ目』(大石格)、『知られざる潜水艦の秘密』(柿谷哲也)。
いかにもお勉強用という本ばかりだったため、インタビュアーが、「硬い本ばかりですね」と突っ込むと、次の様にも語っている。
「いやいやそんなことはないですよ。いい機会だから久しぶりに三島由紀夫を読み直そうとしていて、これは楽しみなんですよ。『豊饒の海』4部作、『午後の曳航』『女神』『美徳のよろめき』……『豊饒の海』は結構しんどいけれど、『美徳のよろめき』あたりはワクワクしますね」
さらに「若者、例えば大学生にお薦めしたい本などはありますか?」との問いには、
「うーん、どうでしょう。自分自身、法学部の学生だったので、法律書とかばかり読んでいたから……でも先ほど言った三島はよく読んでいました。
川端康成は『古都』『みずうみ』が好きでしたね。
そんな石破首相は、著書も数多い。そのうちの一冊、『異論正論』(新潮新書)の中では、本を用いての自分なりの勉強法について語っている。リアル書店に出向いて本を選ぶことが、生活の一部に組み込まれていたようだ(以下、同書より抜粋・引用)。
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私の勉強法
『異論正論』石破茂[著]、新潮社
週に1回は、大型書店、主に八重洲ブックセンターに行くのが習慣となっています。書店の棚を見ると、読んだことのない本が毎回、数多く並んでいます。
一つの分野、国について理解しようとするだけでも、膨大な数の書籍に目を通す必要があります。官僚からのレクチャーはある意味、必要最低限をカバーするものだと思った方がいいと思います。
それにどれだけ上乗せして考えられるか。世界とは何か、宗教とは何か、現代政治はどう動くか。そうした大きなことについて、政治家は自分の言葉で語れなければならない、と私は考えています。
多くの先人が、そのためには古典を読むべきだ、ということを示唆しています。そのとおりで、長い年月を経てなお生き残っている書物に学ぶべきところが多々あります。
個人的には、若い頃から小室直樹氏にも大変影響を受けました。異端の学者として知られる小室氏ですが、その安全保障や政治、社会についての指摘はいまなお参考にすべき点が多々あります。その後継者とも言うべき橋爪大三郎氏の著作にもいつも蒙を啓(ひら)かれる思いです。「ああそうだったのか」と思う。
あくまでも私個人のスタイルですが、はじめに広くテーマについて学ぶ中で、「この人の視点が面白い」と感じたら、その人の著作をできるかぎり読んでみることにしています。私淑ということになりますが、一度とことんその著者の思考法や知見を追いかけます。例えば小室氏、橋爪氏、あるいは半藤一利氏や保阪正康氏です。近現代の歴史、特に大戦前後のことをリアルに語れる方で、ご存命なのはもう保阪氏くらいかもしれません。
先日、自民党中央政治大学院で、その保阪正康氏を講師として石橋湛山(たんざん)について学ぶ機会がありました。そこで、ロンドン海軍軍縮条約締結の際の統帥権干犯(とう すいけんかんぱん)事件についての見解をご教示いただき、深く納得し、また共感したことでした。
保阪氏は、「統帥権の独立よりも、陸海軍大臣現役将官制の方が弊害は大きく、それがこの問題の本質である」と指摘され、これは正鵠(せいこく)を射たものと思います。保阪氏や半藤氏の著作を読むにつけ、近現代史に関する自分の知識と理解の浅薄さに気付かされます。
こうしたことを体系的に頭に入れておくことが、外交においても、また将来の有事においても、必ず役に立つと考えているのです。
本を読みこむときは、大切なところに線を引きます。そうやって頭に入れて、咀嚼(そしゃく)できたら、講演などでその話を取り入れてみます。こうして少しずつ、自分の言葉にしていく努力をします。
より本質的なことは、自分で本などを読んだり、人に話を聞いたりして学び続けるしかありません。
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総理となった今、その勉強の成果がこれから国民のために活かされることが望まれる。
協力:新潮社 新潮社
Book Bang編集部