第102代総理大臣に選出された石破茂氏(写真・JMPA)
10月1日、臨時国会が召集され、衆議院・参議院の本会議で指名された自民党の石破茂総裁が、第102代内閣総理大臣に選出された。同日、新閣僚の名簿も発表され、石破新内閣が発足した。だが、3日に公開された各社の世論調査では、支持率は約50%と“好発進”とは言いがたいスタートとなった。
「石破氏は、総裁選中『総理に就任したら、衆議院を解散する前に国会で、すべての閣僚が出席して質疑をおこなう予算委員会を開催する』と明言していました。ところが、新総裁に就任した直後、この方針を変更し『10月27日に衆議院総選挙をおこなう』と早期解散を表明したのです。その間、わずか2週間の“豹変”に、ネットでは石破氏の“裏切り”を非難する声が多数、見受けられます」(政治担当記者)
解散総選挙をめぐる突然の方針変更には、野党からも一斉に反発の声があがった。
「立憲民主党の野田佳彦代表は、『言ってきたことを守っていないじゃないかと。とっとと逃げてしまうということに対して、私は深い失望を覚えています』と発言。日本維新の会・馬場伸幸代表は『戦う前から逃げているということですから、“敵前逃亡内閣”というのがぴったりの名称じゃないかな』と批判していました」(同前)
石破氏が「裏切った」と非難されるのは、今回が初めてではない。Xでは、石破氏の“裏切り癖”が掘り返されている。たとえば――。
《麻生政権の閣僚を務めていながら、支持率低迷で総選挙が近づくと総理官邸に乗り込み、「後任は麻生さんが指名すべきだと、私は思うわけです」と謎の論理を展開して麻生おろしに加担。麻生太郎を裏切る》
「麻生太郎内閣に農水相として入閣していた石破氏が、真っ先にいわゆる“麻生おろし”に動いたのは事実です。麻生氏は、いまでもそのことを根に持っているでしょう。石破氏は1993年に、非自民の細川連立政権が成立した際、自民党を離党して新進党に加わり、その後、1997年に自民党に復党した“出戻り組”ですが、それも、格式を重んじる麻生氏には気に食わない。石破氏に裏切ったという気はなくても、麻生氏には裏切られたという強い思いがあるでしょうね」(前出・政治担当記者)
ほかにも指摘されるのが、故・安倍晋三元首相との確執だ。
《森友問題や加計学園問題で自衛隊日報問題で新聞テレビに連日出演して、安倍政権と自民党を背後から撃つ発言をしまくり、マスコミの安倍おろしに加担。安倍晋三を裏切る》
「2007年の参院選で自民党が大敗し、安倍氏が続投の方針を表明したときには、石破氏は党の総務会で『選挙に負けたにもかかわらず、続投するのは理屈が通らない』と、公然と安倍氏の辞任を求めています。森友問題などでは、メディアで安倍政権を盛んに批判し、党内から“味方を背後から撃つ”と反感を買いました。今回の組閣では、旧安倍派の閣僚はゼロでしたが、石破氏は安倍氏との確執をまだ引きずっているのかもしれません」(同前)
これらの“裏切りの歴史”について、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、「個々の事例に関しては不確かなものもある」としながらも、こう述べる。
「基本的に、石破氏は“正直者”なんですよ。永田町では、言うべきことを言ってはいけないというのが、ある種の不文律。ところが、彼は言うべきことを言っちゃうから、嫌われる。たとえば、麻生内閣の閣僚でありながら、麻生氏に辞任を迫ったこともそうだし、安倍氏に対していろいろ文句をつけたのもそうです。とくに安倍政権以降は顕著でしたが、『後ろから鉄砲を撃つのか』という批判は、つねにあったわけです」
しかし、そんな石破氏の言動を批判するほうに問題があると伊藤氏は続ける。
「自民党という党はもともと、本来は自由闊達な議論ができる政党でした。時の政権に対しても、平然と文句をつける議員はいくらでもいたんですよ。それが、安倍政権になってから変質してしまった。官邸一強になって、議員は官邸の方針に黙って従え、たてつく奴はけしからんとなった。自民党がおかしくなったわけです。そのなかで、文句をつけ続けたのは石破氏くらいしかいなかった。だから嫌われる。それで結果的に“裏切り者”にされたわけです」
ただし、今回の石破氏の“豹変”については、伊藤氏はこう苦言を呈する。
「石破氏は総理になってから、“石破カラー”が消えつつあります。総理になった途端にブレてしまった。それは、政権基盤がぜい弱だからです。解散の時期だって、石破氏がもともと反対していた早期解散に従わざるを得ないのは、政権基盤が弱いからです。しかし、それは本人の責任でもある。これまで、周囲に優秀な人材を集めて来なかったからです。総理になるなら、『この人のためなら』という奴がまわりにいなければいけないが、石破氏にはそういう仲間がいないんです。だって、人づき合いは下手だし親分肌じゃないし、理屈ばっかりこねるしね。これじゃ好かれませんよ」
石破総理が本来の自分を取り戻すには、総選挙で結果を出すことが条件となりそうだ。
「自民党が単独過半数を維持できれば、そこから先をどうするかが石破氏の自由になります。かつて故・中曽根康弘氏も総理時代、就任当初は角栄氏に総理にしてもらった、という弱味があって、角栄氏の言うことばかり聞いていると批判されました。ところが政権が長く続くうちに、徐々に“角栄離れ”を起こしていって、『大総理』といわれる人物になりました。いまの石破氏は、ある意味、中曽根政権の発足時と同じような環境にいます。今後、独り立ちできるかどうかです」(伊藤氏)
独り立ちして、本来の“石破カラー”を取り戻すのか。まさか、その期待まで裏切られることはない、と信じたいが――。