「節電要請」ナシでこの猛暑を乗り切った…その理由とは 他エリアから「電力融通」たくさん受けた地方は?(2024年10月3日『東京新聞』)

 
 記録的な暑さになった今年の夏、政府の消費者への節電要請はなかった。電力供給の余裕を示す「予備率」が落ち込む日はあったが、需給逼迫(ひっぱく)の警報や注意報も発令していない。東京エリアでは、東京電力柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働に向けた手続きを進める中、原発が動いていなくても乗り切った。(鈴木太郎)

 予備率 エリア内の電力需要(使用量)に対する、供給力の余裕を示す割合。送配電会社が電気を送る単一エリア内で計算する「エリア予備率」と、近隣エリアからの電力融通を考慮に入れた「広域予備率」がある。前日段階で、広域予備率が5%未満になると需給逼迫の注意報、3%未満で警報が発令される。夏季の節電要請は、通常は6月時点の広域予備率の見通しを基に判断。電力融通の指示は、エリア予備率の低下予想を基に出される。

◆東京エリアでは2022、23年に「節電要請」

 全国の電力需給を監視する電力広域的運営推進機関によると、発電事業者は気象予報に合わせて事前に供給力を調整する。前日予想の段階では国内のどのエリアでも、需給逼迫の警報や注意報を発令することはなかった。しかし、前日予想にない高温や電源トラブルで、結果として局地的に需給が逼迫した日もあった。
 東京エリアでは、6月から9月末にかけ、他エリアからの電力融通も考慮した予備率が結果として5%を下回ったのは4日間。特に、予想以上の残暑が続いた9月になってから予備率が低下する日が目立った。火力発電所が定期メンテナンスで停止し、供給力が落ちたことなどが原因とみられる。いずれも電力融通や、稼働中の火力や予備電源の出力を上げる「焚(た)き増し」でカバーした。
 最近の夏では東京エリアで、政府は2022、23年に消費者に節電を要請している。2022年6月には需給逼迫の注意報を出していた。

◆7基の原発が稼働済みの関西エリア

 経済産業省の担当者は「今年から発電容量や調整力の取引市場が本格的に始まり、需給調整の運用方法が見直された。融通や焚き増しの準備が柔軟にでき、一部で綱渡りの場面もあったが、結果として節電のお願いまではせずに済んだ」と振り返る。送配電を担う東京電力パワーグリッドは「発電事業者らの準備に加え、日頃から消費者の節電意識が浸透していたおかげもある」と述べた。
 一方、電力融通の指示が今夏で突出して多かったのは、7基の原発が稼働済みの関西エリアで16件だった。指示の内訳は、需要急増や発電機トラブルによる他エリアからの供給が12件。需要が少ない日の発電量の急増による他エリアへの供給が4件だった。
 脱原発の実現を訴える市民団体、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「電力需要が高まる真夏の昼には、太陽光発電の寄与が大きかった」と振り返る。今後は太陽光のない時間帯の供給力確保が課題になるが、「導入コストを考えれば、原子力よりも価格低下が見込まれる再生可能エネルギーと蓄電池の大量導入で乗り切る方が良い」と指摘した。

◆石破政権で「原発政策」どう変わる?

 デジタル化の進展で電力需要が増えるとの予想から、岸田文雄前首相は原発を最大限活用する姿勢を明確化した。二酸化炭素を排出しない電源として、既存原発の再稼働や運転延長の推進に加え、今後の新型炉への建て替えや新増設の可能性にも言及した。
 これに対して石破茂首相は自民党総裁選への出馬時には、再生可能エネルギーの可能性を引き出しつつ「原発ゼロに近づける努力を最大限する」と発言し、政策転換をにおわせた。しかし、その後は電力需要の増大予想を理由に、「原発ゼロが自己目的ではない」とトーンダウンした。
 武藤容治経済産業相は2日、東京電力福島第1原発の事故後、現行までのエネルギー基本計画に盛り込まれていた「原子力を可能な限り低減する」との表現を、年度内にも改定する次期計画で削除することを示唆した。