万葉集に山上憶良の知られた歌がある。<萩(はぎ)の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴(ふじばかま) 朝貌(あさがお)の花>。これで「秋の七草」を覚えた人も多いだろう。尾花はススキのこと。夏を思わせるアサガオがあるのはなぜか。
▼先の歌が詠まれた時代は、「朝貌(朝顔)」といえばキキョウ、あるいはムクゲを指したらしい。ムクゲは「木槿」と書く。アサガオと同じく朝に開き、夕方にはしぼむ一日花として知られる。「朝顔の花一時(ひととき)」と「槿花(きんか)一朝の夢」は、物事のはかなさを例えた言い回しである。
▼立憲民主党の代表選を制した野田佳彦元首相は、1回目の投票を前にした演説で、アサガオを持ち出して党の結束を呼びかけている。花が開くために必要なものは、「日が当たる前の夜の闇と、夜の冷たさ」だ。われわれはそれを知っている―と。
▼立民の源流である旧民主党は、野田氏が代表だった12年前に下野している。「夜」は、風雪に耐えたその後の歳月を指すらしい。政権を担うにふさわしい力をつけたと言いたげだが、国家と国民の安全を守る上で必要な「国家観」は実に頼りない。
野田立民新代表 現実路線、党勢回復なるか(2024年9月25日『河北新報』-「社説」)
代表選で勝利の決め手になったのは、国政選挙の公認候補予定者から枝野幸男前代表の2倍近く得票したことだ。 「選挙の顔」としての期待感の表れだろう。
党是の「原発ゼロ」についても依存度は減らすものの、電力の安定供給に向けた再稼働は分けて考えるとし、条件付きで認める立場を取った。
穏健な保守層を含めた幅広い非自民勢力を取り込む狙いは理解できるが、これでは自民との政策的な対立軸まで曖昧になりかねない。
立民独自の政権ビジョンを明確に打ち出した上で、戦略的な道筋として分かりやすい説明を尽くすべきだ。
一方、「自民党との違い」として強調してきたのは政治改革への取り組みだ。
多くの「抜け道」が温存された改正政治資金規正法を再改正し、企業・団体による献金や政治資金パーティー券の購入を禁じると主張。自民の裏金政治、世襲政治を批判し「政権交代こそが最大の政治改革」とした訴えには一定の説得力があった。
深刻な政治不信を招いた自民は、この期に及んでなお「政治とカネ」の問題に正面から向き合っていない。9人の総裁候補はいずれも裏金事件の再調査を否定し、裏金議員の非公認など「けじめ」にさえ踏み込もうとしない。
国民が求める「カネのかからない政治」の実現を連携の旗印に掲げることが、「野党の議席を最大化」(野田氏)する上で最も重要だろう。
初期の帝国議会は藩閥政府寄りの「吏党」と自由民権運動の流れをくんだ「民党」が対立した。「与党」「野党」の呼称が定着したのは藩閥の力が衰え、「民党」から発展した政党が主要な政治勢力となった大正デモクラシー以降という
▲「首相選びの準決勝」。政権獲得前の民主党の代表選はこう呼ばれたこともある。その後、実際に政権の座についた。だが今の野党第1党の支持率は1桁台。27日に新総裁を選ぶ自民党と渡り合えるのか。野田新体制の力量が試される
▲自由に異議申し立てができる野党の誕生を参政権と並ぶ近代民主主義の一大発明と位置づけたのは米政治学者のロバート・ダールだ。世界的に民主主義の危機が叫ばれる。与野党が政策中心に競争を繰り広げてこそ議会政治の価値が保たれる。
厳しい残暑のせいで開花が遅れていないか。そう思っていた彼岸の中日。自宅近く、堤防の斜面に赤いヒガンバナがぼつぼつ咲いていた。暦を心得ているようで不思議なものだ。
別名の曼珠沙華(マンジュシャゲ)は天上に咲く赤い花を意味し、この花を見る者はおのずから悪業(あくごう)を離れるといわれる。一方で、500も千もあるという地方名には不吉なものが多い。死人花(シビトバナ)、幽霊花、葬式花。よく墓地で見かけるためか、球根に毒を含むためか。
毒は水に溶ける。すりつぶしてさらせば取り除かれるという。ただ、「家に持ち帰ったら、火事がおこる」という「火事花」の異名は「子供がこの植物に触るのを戒める言い伝えであろう」(田中修著「雑草のはなし」)。見る人にさまざまな印象を与える花ではある。
自民党の総裁選も各候補が独自の政策を論じている。もっとも、裏金事件を受けた肝心の政治改革は本気度に疑いの目が向いている。事件の再調査や裏金議員の処遇で目立つあいまいさ。これで水にさらして毒を取り除く作業は十分なのだろうか。
作家の水上勉さんに『飢餓海峡』という作品がある。青函連絡船「洞爺丸」の沈没事故と、同じ日の夜、北海道で発生した「岩内大火」に着想を得た推理小説だ。洞爺丸事故は1954年9月26日に起きた。函館を出港した洞爺丸が台風15号で沈没、千人を超える犠牲を出した。国内史上最悪の海難事故からあすで70年になる
◆9月は台風シーズン。今月中旬に発生した台風14号は中国大陸に上陸後、日本列島に向けて“Uターン”し、石川県に大雨をもたらした。復興途上にある能登半島地震の被災地で7人が亡くなった。浸水した仮設住宅のニュース映像に、なぜ能登半島ばかり…。そう思ってしまう災禍である
◆おとといの立憲民主党の代表選では「弱い人を助ける政治から弱い人が生まれない社会に」という野田佳彦氏の演説が印象に残った。人は生まれた環境に大きく左右される。自分ではどうしようもできない環境に打ち勝つのは難しい
◆野田氏が語る「弱い人が生まれない社会」は理想だが、実現には時間がかかりそう。まずは傷ついた人たちに手を差し伸べ、支え合う社会に。(義)
野田立憲新代表 政権の選択肢示せるか(2024年9月24日『北海道新聞』-「社説」)
1回目の投票で2位だった枝野幸男氏を決選投票で退けた。
自民党の裏金事件の追及はこれからも重要だが、批判の受け皿になることを狙うだけでは大きな支持は得られまい。
他の野党との連携を含め、目指す政権像をはっきり示し、国民の信頼を得る必要がある。
政治に緊張感をもたらし、多様な声を反映するには、野党第1党の力が欠かせない。
政策や理念などの主張を通じて、有権者に具体的な政権の選択肢を示すことができるか。野田氏の手腕が試される。
野田氏が決選投票にまで持ち込まれた争いを制したのは、党内で政権交代への期待が高まる中、その経験や安定感、論戦力などが評価されたのだろう。
基本戦略は現実路線を強調し、中道保守層の支持を取り込むことだ。そのために政策があいまいになる面も少なくない。
集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法については「憲法違反」と言いつつも、すぐに廃止するのは困難との認識を示した。「原発ゼロ」の目標は掲げないとして、原発に依存しない社会を実現するとの表現が「現実的な対応」とも語った。
自民党の政策の多くを否定する政権公約がつまずいた民主党の経験を踏まえた対応でもあるのだろうが、これでは対立軸が判然としない。違憲の疑いが強い安保関連法は廃止するのが筋だ。原発ゼロを明記した党綱領との整合性も問われる。
政権の枠組みを巡っても、野田氏は「立憲単独で政権を取れる現状ではない」との認識を示すが、他の野党との連携や選挙協力の具体的な話し合いはこれからだ。有権者の投票行動を混乱させないためにも、調整を急がなければならない。
ベテランの野田氏の代表選出は党内の世代交代が課題であることも浮き彫りにした。
野田氏はきのう早急に党人事を固めると表明したが、ここで多様な人材の厚みを示せなければ、国民の支持は広がるまい。
再チャレンジ代表(2024年9月24日『北海道新聞』-「卓上四季」)
▼福永文夫著「日本占領史」(中公新書)によると片山は戦前に弁護士として家族制度改革に情熱を傾け、女性を不幸に陥れた社会組織と法律制度の改革を提唱していた。47年末、家督相続を廃止するなどした改正民法公布で結実する。NHK朝ドラ「虎に翼」の主人公が改正作業に携わった場面は記憶に新しい
キャプチャ
▼2年前、帰らぬ人となった安倍氏への追悼演説で脚光を浴びたのが野田氏。再チャレンジで雪辱を果たせるのか、試される機会は遠からず訪れよう。
政権構想の具体化を図れ/立民新代表に野田氏(2024年9月24日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』-「社説」/『茨城新聞・山陰中央新報・佐賀新聞』-「論説」)
政権構想の具体化を図れ/立民新代表に野田氏(2024年9月24日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』-「社説」/『茨城新聞・山陰中央新報・佐賀新聞』-「論説」)
公明党との連立で政権に安住できる状況が、自民に緩みやおごりを生んでいる。裏金事件など「政治とカネ」問題が後を絶たない要因と言える。
自民は岸田文雄首相の後継を決める総裁選を通じ、「新生自民」をアピールしている。だが、野党がばらばらのままでは、緊張感なき政権に戻りかねない。
1回の投票で過半数に達した候補がいなかったため、上位2人による決選投票になり、野田氏が枝野氏を制した。
旧民主の流れをくむ立民内には、政権を自民に奪還された野田氏への反発や、自民総裁選候補に比べ新味に乏しいとの指摘もあった。
代表選では衆院選での野党協力の在り方が大きな焦点になった。
野田氏は与党を過半数割れに追い込むため「野党勢力の議席を最大化する」と表明。「穏健な保守層」の取り込みと同時に、日本維新の会や国民民主党との連携に前向きな考えを示した。こうした方針も支持されたのであろう。
立民の衆院選候補者は190人台で、全員が当選しても定数465の過半数に届かない。その上、小選挙区は維新と約110、共産党と約90の選挙区で競合。連合の支援を共に受ける国民民主とも10余りの選挙区で争っている。
野党候補を一本化しなければ、小選挙区で与党に伍(ご)する結果は望みにくい。
一本化は最終的に、客観的な選挙情勢分析に基づく野党各党の党首の決断にかかる。残された時間は少ないものの、代表選での主張を踏まえれば、野田氏が野党間の選挙協力を主導すべきだ。
同時に連立政権を念頭に置くのであれば、自公が踏み込めなかった政治資金透明化の徹底は当然として、共に推進する政策の意義と実現への道筋を明確にしてもらいたい。
野田氏は共産と「一緒に政権は担えない」と明言するが、維新や国民民主とも内政や外交・安全保障分野の主要政策は必ずしも一致していない。
これらの課題への対応について方向性を明示した連立政権の構想を示してこそ、立民自体が有権者の政権選択の対象となりうると心すべきだ。
何かが変わる。日本中に熱気が渦巻いていた。2009年8月の衆院選で、マニフェストに「政権交代。」と大きく記した民主党が308議席を獲得し自民党を下野に追い込む。総議席の64%を占めて大勝し、新政権を樹立した。
しかしガソリン税などの暫定税率廃止や高速道路無料化、子ども手当といった多くの目玉公約は実現できず。沖縄県の米軍普天間飛行場移設を巡る迷走、東日本大震災対応での指揮命令系統の混乱など政権運営への不信も増幅し、わずか3年3カ月で崩壊した。
09年の衆院選で民主党が強調したのは脱官僚支配の「政治主導」。その底意に、政権を奪取しさえすれば施策の財源捻出など何とでもなるという傲慢(ごうまん)さ、うぬぼれがあったのは確かだろう。政権は行き詰まり、大きな期待のバブルがはじけて失望だけが残った。
民主党を源流とする立憲民主党の新代表に野田佳彦元首相が決まった。「政権交代が最大の政治改革」と力を込め、迫る衆院選での与党過半数割れを目指し野党協力を視野に入れるという。ただ政権交代を結集原理として期待を集めたとしても、民主党の二の舞いではないか。
国民が知りたいのは自民党との政策の違い、立民中心の政権で何が変わるのかという点、国の将来像である。かつて「どじょう」と自称した野田氏、民主党の蹉跌(さてつ)を教訓として自ら二匹目のどじょうとなれるか。
立民代表に野田氏 政権奪還へ手腕に注目(2024年9月24日『秋田魁新報』-「社説」)
野田氏に対しては、首相時代に消費増税を決めた後、民主党内の反対を押し切って衆院を解散し、野党に転落させたとの批判も根強くある。そうした中で早期に党内を結束させて政策実現の道筋を付けながら、野党連携をまとめ上げ、政権を奪還できるのか。手腕が注目される。
野田、枝野両氏の決選投票となり、2011年9月から12年12月まで首相を務めた野田氏が当選した。すぐにでも政権を担える態勢をアピールでき、誰が自民新総裁になっても堂々と渡り合える存在と判断されたのではないか。
代表選で野田氏は「政権交代こそ最大の政治改革」と主張した。裏金事件を受けて成立した改正政治資金規正法では不十分だと批判し、連座制の強化、企業・団体献金と政策活動費の廃止を盛り込んで規正法を再改正すると強調。国会議員の世襲制限導入も掲げるなど、自民との違いを明確にした。
その一方、日米同盟を基軸とする従来の外交・安全保障政策は踏襲し、消費税率は基本的に現状維持の姿勢を明らかにしている。政権担当能力を示しながら、裏金事件で自民に失望した自民支持層を含む中道・保守層を幅広く取り込んで、党勢拡大を図ろうという狙いだ。
野田氏はどの野党とも対話できる環境をつくるとする一方、共産党とは連立政権を組まないと明言。立民は21年の衆院選で共産とも共闘しており、党内には「野党が結集すれば政権交代できる」との声もある。政策や選挙区の調整をいかに進めていくかは喫緊の課題だ。
代表選は自民総裁選の日程とあえて並行させ、4人の候補は総裁選の議論を批判するなど論戦を展開した。党内からはポスト岸田候補との対決色を出せたと評価する声も上がっている。
裏金事件の背景には「自民1強」のおごりがあると指摘されている。それを正すには政権交代が起こり得る緊張感ある政治が必要であり、野党第1党である立民の責任は大きい。
次の世代のために私たちができること。それは投票です。投票することで、優れた政治家が権力の座に就くようにするのです―
▼米国の生物学者ジャレド・ダイアモンドさんが以前、月刊誌「文芸春秋」の特集に寄せた文章にそんなくだりがあった。これはと思う人がいたら友人に伝え、支持する人の数を増やしていく。市民が選挙で国の未来を決められるのが民主主義の本質だと強調していた
▼日本の現状を見れば、自民党の裏金事件で政治への信頼は失墜。どう立て直すかが問われている。人口減や少子高齢化が進み、将来不安は拭えない。次の選挙で誰に、どの党に一票を投ずるべきか。「選挙の顔」となる各党の代表選びは気になるところだ
▼きのう行われた立憲民主党の代表選。4人による争いを制したのは野田佳彦元首相だった。1回目の投票で過半数とはならず、決選投票で枝野幸男前代表を下した。当選後のあいさつで「きょうからノーサイド。挙党態勢で政権を取りにいこう」と結束を呼びかけた
▼2012年の党首討論で、当時野党だった自民党総裁の故安倍晋三さんに衆院解散を迫られ、「やりましょう」とたんかを切った場面が印象深い。選挙は大敗し、政権を手放すことになった。そのリベンジを果たせるかが問われる
▼まずは支持拡大をどう図るのか。何より、将来を担う次世代に向けて、どんな国づくりを示すのか。27日には自民の新総裁も決まる。両党の選挙の顔をじっくり見比べたい。
(2024年9月24日『山形新聞』』-「談話室」)
▼▽時代劇が海の向こうで脚光を浴びている。米テレビ界最高の栄誉とされるエミー賞で、俳優真田広之さんが主演しプロデュースも務めた「SHOGUN 将軍」が18冠に輝いた。舞台は「関ケ原の戦い」の前夜という。
▼▽真田さんの時代劇では本県ロケの映画「たそがれ清兵衛」も傑作だ。時は幕末、舞台は庄内地方。真田さんは下級武士を演じた。貧しくても愚直に、清く正しく生きる姿に心を打たれた方も多いだろう。藤沢周平さん(鶴岡市出身)の短編三つを基に物語は構成されている。
▼▽藤沢作品には政治家に求められる資質が凝縮されている-。立憲民主党の新代表となった野田佳彦氏が自著で唱えていた。「たそがれ清兵衛」のような凜(りん)とした侍の佇(たたず)まい、市井に生きる武士の矜持(きょうじ)が必要であると。その心構えがないから政治とカネの問題が絶えぬと言う。
▼▽先の本は民主党による政権交代直前に書かれた。15年を経て、政治家のカネを巡る不祥事はむしろ悪化した。「金権政治を終わらせる」。野田氏の訴えに異論はないだろう。ここで政権を担う力を具体的に示せるかどうか。その戦術が問われる。天下分け目の戦いは目前だ。
立民は新代表に野田佳彦元首相を選んだ。野田氏は「力を合わせて、心を合わせて自民党に向かっていきたい。挙党態勢で政権を取りにいきましょう」と述べ、党の結束を訴えた。野田氏は下野した後の国会などで、首相経験を交えた巧緻な弁舌で与党からも高い評価を得てきた。与党の姿勢を正しつつ、政権交代に向けた具体的な政見などを示してもらいたい。
民主党が下野した12年の衆院選以降では、政権交代の可能性が最も高まっていることは間違いあるまい。ただし、それは自民党の政治資金パーティーに絡む裏金問題という敵失が最大の要因であり、世論調査で立民の支持率は伸びていない。野田氏を含めた立民の取り組みが評価されてのものではないことを忘れてはならない。
自民は政権を取り戻して以降、裏金問題などの疑惑や、安全保障などの課題について国会軽視の姿勢を強めた。立民の前身である民主党を含めた野党が離合集散を繰り返し、自民の対抗軸たり得ていなかったことが理由の一つだ。
民主党は政権を担った際、東日本大震災や原発事故の対応で迷走した。野田氏の首相在任時にも、財政改革の法案可決と引き換えに衆院解散を野党に約束するなど、混乱ぶりを露呈した。こうした経緯から、民主の流れをくむ立民の政権担当能力を疑う見方が今も根強いのを重く受け止めるべきだ。
野田氏は、新首相が選出される見通しの臨時国会で、能登豪雨に対応した補正予算の編成が必要との考えを示している。また企業・団体献金の禁止などを盛り込んだ政治資金規正法の再改正案などを提出するとしている。審議を通じて、一連の問題で自民に失望した層の取り込みを目指す考えだ。
次期衆院選に向けて課題となるのは、ほかの野党との連携だ。野田氏は野党候補の一本化が重要としている。ただ安全保障などについては野党間に加え、立民内でも考えの違いがある。共産党との連携も賛否が分かれている。
大切なのは政権交代そのものより、その後、安定して政権を運営できるかだ。野田氏には数合わせではなく、政策面での連携ができるかを重視するよう求めたい。
【立民代表に野田氏】存在感どう示す(2024年9月24日『福島民報』-「論説」)
立憲民主党の新代表に就いた野田佳彦氏は、政権交代の必要性を強調した。党役員人事と次期衆院選の公約づくりに急ぎ着手し、選対本部も週内に設けると表明した姿は、政権を再び担う固い覚悟を感じさせた。代表選は自民党総裁選に埋没した印象を拭えない。野党第1党としての存在感をどう高め、国民の信任を得るのか。他党との連携を含め、資質と力量が試される。
政治改革では、企業・団体による献金と政治資金パーティー券の購入禁止、政策活動費の廃止を代表選の公約に据えた。選択的夫婦別姓は実現する方針を掲げている。政策活動費は自民党総裁選の複数候補が廃止をうたい、選択的夫婦別姓も導入に転じている。新総裁、次期首相に誰が就くかによるとはいえ、争点を事実上、奪われた格好だ。
外交・安全保障は、日米同盟を基軸とした政策を踏襲するとしている。中道保守層を取り込む狙いがあるとされる。有事の近隣、国際情勢を踏まえれば、現実的な対応ではある。ただ、個別の論点は残るとしても、立民と自民の基本路線は同じに映る。
エネルギー政策は、党綱領に掲げる「原発ゼロ」に触れず、再生可能エネルギーを中長期的に大量導入し、原発に依存しない社会を実現するとした。現政権は原発依存度を高めているが、再エネ政策の方向性自体に大差はない。
経済対策では、消費税の半額相当を所得税額から控除するなどして、分厚い中間層を復活させる独自の政策を打ち出した。医療、介護職就労者らの奨学金の減免も掲げている。教育無償化などと合わせ、厳しい国の財政に影響させずに実施できるのか。
政策は評価できても、政権与党との対抗軸が見えなければ、判断に戸惑う。実現性も問われてしまうのは、自ら首相を務めた旧民主党時代の不慣れな政権運営で、国民の信を失った苦い記憶が底流にある。政権を本気で目指すなら、教訓を胸に党内を束ね、実効性のある政策論議を主導する必要がある。
自民党の裏金問題を引き続き追及するのは、政治不信に応える野党の責務ではある。一方で、選挙戦術にとどまり、成果を得られなければ、支持は広がるまい。政権の選択肢になり得るのか、立民は正念場にある。(五十嵐稔)
立憲新代表に野田氏 政権担い得る力量示す時(2024年9月24日『毎日新聞』-「社説」)
野田氏が目指すのは、従来のリベラル層だけでなく、保守・中道層を含めて幅広い支持を得られる政党だ。そのために「現実路線」の政策を打ち出した。
しかし、与党との違いが分かりにくくなり、存在感が薄れるジレンマがある。リベラル層の支持離れを招くリスクもはらむ。
野田氏は「徹底した政治改革で自民のうみを出し切る」と訴え、裏金事件で自民に愛想を尽かした保守・中道層を取り込みたい考えだ。同時に選択的夫婦別姓制度の導入などジェンダー問題に取り組み、従来の支持者固めも狙う。
ただ、経済や安全保障で国民に信頼される政策を打ち出さなければ、評価は得られまい。
「自民1強」が続き政治の緊張感が失われて久しい。国民の政治不信が募る中、政権を託すに足る信頼感を取り戻し、最大野党の存在意義を示す時である。
野田立民新代表 中道路線で挙党態勢築けるか(2024年9月24日『読売新聞』-「社説」)
野田氏は「総選挙は早い段階で実施される。挙党態勢で政権を取りに行こう」とあいさつした。
経済政策では、低所得者に給付と減税を組み合わせた「給付付き税額控除」を実施し、「分厚い中間層の復活」を期すと訴えた。消費税減税には反対した。
だが、立民は左派から保守まで多様な議員を抱えており、挙党態勢を築くのは容易ではない。
泉氏も代表就任当初は、中道路線を目指したが、左派の反発を受け、どっちつかずに終わった。
野田氏は、安保やエネルギーなどに関する党の基本政策を、より現実的な内容に改められるかどうかが問われる。
野田氏が掲げた公約にも、首を 傾 かし げたくなるものが目立つ。
共産党との関係をどう整理するか、野田氏は早急に答えを出さねばならない。
立憲民主党の新代表に野田佳彦元首相が就任した。政権奪還を掲げて代表選を勝ち抜いた以上は、有権者の期待に応える体制づくりが急務となる。立民が描く日本の将来像を明らかにし、野党勢力を結集する政策の軸を示して次期衆院選に臨んでもらいたい。
野田新代表はあいさつで「本気で政権をとりにいく覚悟だ。戦いの準備を今日から始めたい」と述べた。首相経験者として外交や予算編成、危機管理の経験を生かすとの訴えが、所属議員らの幅広い支持につながったといえる。
代表選の論戦ではいくつか注目すべき変化があった。複数の立民幹部は「いまの野党が政権を担ったら日本の競争力や株価にマイナスだという空気を払拭したい」と語っていた。野田氏は「分厚い中間層の復活」を目標としており、実現への具体策が問われる。
エネルギー政策で野田、枝野、泉氏は原発に依存しない社会をめざしつつ、電力の安定供給に向けた当面の再稼働の必要性に理解を示した。今後の現実的な政策判断につながるなら歓迎したい。
立民は2015年成立の安全保障法制による集団的自衛権の行使容認を憲法違反とし、早期撤回を求めてきた。野田氏らは違憲との党方針を保持しつつ、歴代政権との政策の継続性や日米同盟の重要性に配慮する考えを示した。
政権の座をめざすからには、長期目標と日本が直面する諸課題への対応を整理し、考え方を有権者に説明する必要がある。
野党第1党に求めたいのは、社会保障制度改革での選択肢の提示だ。野田、枝野両氏は所得に応じて給付や控除を実施する「給付付き税額控除」の導入に積極姿勢を示した。一時的な減税や給付措置を競うのではなく、国民の将来不安の解消につながる改革を財源とセットで提案してほしい。
自民党総裁選が27日に終われば、新政権の下での早期の衆院解散が想定される。野党勢力が乱立したままでは選挙で不利になり、一方で政策の違いを度外視した共闘では再び失望を招きかねない。その狭き道を切り開く指導力が立民の新執行部には求められる。
立民代表に野田氏 「保守色」は感じられない(2024年9月24日『産経新聞』-「主張」)
野田氏は次期衆院選が迫っているとして、「本気で政権を取りにいく」と語った。
代表選を通じ野田氏は「穏健な保守層」へ支持を広げると語ってきた。保守政治家を自任しているのかもしれないが、野田氏が語った政策は現実路線とは思えない。
野田氏は演説で、政権を得れば「アジア太平洋地域に米国がコミットし続ける(ような)日米同盟を基軸とした外交安全保障をつくる」と述べた。
だが、野田氏が代表選で語った政策は同盟を揺るがす内容を含んでいた。抑止力を向上させた集団的自衛権の限定行使容認について、違憲との考えを示したからである。日米の外交、防衛協力の現場は混乱し、抑止力と対処力を損なうだろう。
憲法改正には消極的だ。「論憲」の立場を表明したが「今、憲法論を一番の争点としてやることなのか」とも語った。緊急事態条項を巡っては「参院の緊急集会で対応できる」と否定的だった。これでは有事や大規模災害から国民を守れまい。
護憲派と改憲派が混在する党内事情から憲法改正に正面から取り組むのは不得策と考えたのか。一方、野田氏が連携を想定する日本維新の会や国民民主党は憲法改正に積極的だ。両党は緊急事態での議員任期延長で一致している。維新は自衛隊明記も求めている。両党との連携は難しい課題となろう。
野田氏は先の国会で、皇族数確保に関する合意形成の障害となっていた。「女性宮家」の非皇族男子の夫と子の皇族化にこだわったようだが、これは先例を尊ぶ皇室の歴史で一例もない。皇統断絶を意味する「女系天皇」につながりかねない危うい議論でもある。今上天皇まで貫いてきた男系(父系)継承を守る立場をとってほしい。
野田立民代表 政治改革は言行一致で(2024年9月24日『東京新聞』-「社説」)
立憲民主党の新代表に野田佳彦元首相(67)が選ばれた。次期衆院選で有権者に政権交代を訴えるには、政治改革の覚悟を示し、自民党との違いを明確にする必要がある。代表選で主張した政治改革の具体策を、党独自の取り組みとして先行して実施してはどうか。
代表選で立民の所属議員や党員・サポーターらは、派閥の裏金事件で自民党から離れた保守層を含め幅広く支持を得るには、中道的な立場の野田氏が望ましいと判断したようだ。自民党が総裁選で演出する「刷新感」に対抗し、政治経験が豊富な野田氏の「安定感」を重視したとも言える。
自民党は「政治とカネ」の問題になお後ろ向きだ。総裁候補9人は全員、裏金事件の再調査を否定し、裏金議員の国政選挙での非公認にも踏み込まない。使途公開が不要な政策活動費の廃止に多くの候補が言及したのは、立民など野党側に追及された結果だろう。
「政権交代こそが最大の政治改革」という野田氏の言葉に説得力を持たせるには自民党に譲歩を迫るだけでは不十分だ。代表選公約である企業・団体献金禁止などの抜本改革を、法改正を待たずに自主的に実施する「言行一致」の覚悟を示すことも必要ではないか。
党や党支部が企業・団体献金を受け取らず、所属議員が政治資金パーティー券を企業・団体に売らなければ、自民党との資金力の差が広がったとしても、現在すでに行っている政策活動費の支出停止と合わせ、改革の決意は有権者に確実に伝わる。
政治改革の言行一致は、野田氏が目指す他の野党との連携強化にも有益だ。国会議員に毎月100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途を、日本維新の会は党として公開しており、立民も同調すれば、対話の糸口になるだろう。
野田氏は政権に就いた場合には当面、自民党政権の外交・安全保障や税制、エネルギー政策を引き継ぐ姿勢だが、行き過ぎた現実路線は自民党との違いを不鮮明にして、政権交代の意義を損なう。政治改革だけでなく、私たちの暮らしがどう変わるのか、政策を幅広く、分かりやすく語ってほしい。
▼民主政治には能力ある野党が必要だといい、「(与党は)淡々たる心持で政権に執着せず、時あっては反対党にも政局に立つ機会を与えるがよい」。今の自民党議員が聞けば青ざめるか
▼野党も政治の現実を意識せよというのが吉田翁の本意だろう。政権運営の経験が乏しくなると「主義主張は実際政治に遠ざかり、空理空論に走るか、過激に流れ…」
▼首相時代に批判を受けても消費税率の引き上げを決めたことを思い出す。この代表選では原発ゼロさえ封印し「穏健な保守層を取り込む」と訴えた。近づく総選挙を意識し、同党は野田氏の現実路線を選んだといえる
▼問題は野党らしい理想の政治を求める従来の支持層とどう折り合いをつけるかだろう。ドジョウ宰相があだなだった。<おちつくとどじゃう五合ほどになり>。買った直後のドジョウはよく動くので量が多く見えるが、しばらくするとおとなしくなり、減ってしまうという江戸川柳。理想と現実の塩梅(あんばい)を間違えれば、人気の量も怪しくなる。
野田立民新代表 政権奪還へ問われる手腕(2024年9月24日『新潟日報』-「社説」)
野党第1党の党首として、他の野党をまとめ、責任ある政権政党を築き得るのか。新代表にはその手腕が問われる。
新鮮味には欠けるが、来月にも予想される衆院解散・総選挙の顔として、経験の豊かさや安定感を期待されたのだろう。
野田氏は「本気で政権を取りに行く覚悟だ。戦いはきょうから始まる」と決意を語った。
野田氏に対し、旧民主党政権で臨んだ2012年総選挙で下野をもたらした張本人として反感を抱く議員もいる。次の総選挙で雪辱を果たせるか、正念場となる。
代表選のしこりも残さぬよう、党内結束を強めねばならない。
野田氏は17日間の代表選で、政権奪還に向けて、自民派閥の裏金事件で愛想を尽かした自民支持層を含む「穏健な保守層」にアプローチする姿勢を明確にした。
政策面では、消費税の逆進性を緩和するための「給付付き税額控除」の本格的導入を提案した。
原発を巡っては、原発に依存しない社会を実現すると公約に示しているが、電力安定供給への再稼働は分けて考えるとし、実効性のある避難計画や地元の理解を条件に東京電力柏崎刈羽原発などの再稼働を認める立場を取った。
代表選は、自民との違いを鮮明にして、自民に代わる政権担当能力を示せるかが注目された。しかし、重要課題では具体的なビジョンをほとんど語らなかったとの指摘も出ている。
野田氏には有権者の選択肢となるような国の明確な将来像を、丁寧に示すことが求められる。
野田氏はこれまで共産党と同じ政権は担えないとしてきた一方、就任会見で「各野党と誠意ある対話をしていく」と重ねて述べた。
本気で政権を取る上で、野党候補の一本化は不可欠だ。どう実現するか、その点も注目したい。
(2024年9月24日『新潟日報』-「日報抄」)
▼12年、野田さんは当時の民主党政権の首相として総選挙に臨み、大敗して自民党の政権復帰を許した。首相の座に就いた安倍氏は長期政権を築き「勝ちっ放し」の状況をつくった。敗軍の将となった野田さんは悔しさを引きずりながら、哀惜の念を述べたのだった
▼その野田さんが、民主党の流れをくむ立民の代表選を勝ち抜いた。野党第1党の党首として、政権奪取を目指す先頭に立つことになる。元首相の立場から再び政権トップの座に就くべく動き出した
▼2年前の追悼演説では、2度にわたって首相の座を手にした安倍氏について、こう述べていた。「『再チャレンジ』という言葉で、たとえ失敗しても何度でもやり直せる社会を提唱したあなたは、自ら実践してみせた」。いま改めて、自らの再チャレンジに向けた思いを強くしているのだろう
▼安倍氏、あるいは自民の「勝ちっ放し」を許したのは、ほかならぬ野田さんであり野党である。自民派閥の裏金事件が発覚して以降も立民の支持率はさほど上がっておらず、自民1強の状態は続いている
▼政治家として経験豊富な野田さんだが、自身や立民が政権を担う資格があると有権者を納得させられるかどうか。前回首相に就いた時よりも、ずっと厳しい道のりが待っているのかもしれない。
立憲民主新代表/対抗軸となる政策明確に(2024年9月24日『神戸新聞』-「社説」)
野田氏は枝野幸男前代表との決選投票を制した後のあいさつで「本気で政権を取りに行く覚悟だ。戦いはきょうから始まる」と力を込めた。
野田氏は民主党政権の首相だった2012年、不利な情勢下で衆院解散に踏み切り、自民の政権復帰を許した。有権者の失望感は根強く、議席数で与党に大きく水をあけられた状況が続く。負のイメージを払拭し党勢拡大への期待に応えられるか、早速手腕が問われる。
代表選では、泉健太代表、当選1回の吉田晴美衆院議員を含む4候補が「政権交代を目指す」と口をそろえた。次の衆院選で国民から認められる選択肢になるためには、具体的で実現性を持った政策と戦略を打ち出すことが欠かせない。野田氏はその先頭に立つ重い責任を負った。
派閥裏金事件で自民に逆風が吹く中にあっても、立民は民意の十分な受け皿になり得ていない。野田氏は「分厚い中間層の復活」を唱えてきたが、党の独自政策が幅広く浸透しているとは言い難い。有権者に政権交代の意義や現実味を感じてもらうには、経済政策や社会保障、安全保障、原発・エネルギー、少子高齢化などの幅広い分野で現政権への対抗軸を明確に示さねばならない。
野田氏に求められるのは、新たな選択肢を打ち出す発信力とともに、与党の政策から抜け落ちる多様な声に耳を傾ける姿勢だろう。選択的夫婦別姓制度の導入などジェンダー平等実現への道筋も示す必要がある。政治に期待しない有権者の関心を引きつけられるかが喫緊の課題だ。
次期衆院選への最大の争点が「政治とカネ」の問題への対応である。改正政治資金規正法は多くの「抜け穴」が残る。代表選で野田氏は企業・団体献金の禁止や政策活動費の廃止を訴えた。自民党のみならず、有権者の間には既成政党全体への不信感がある点を直視するべきだ。先送りされた課題を解決し、真の政治改革をけん引してもらいたい。
衆院選を見据え、野党連携の在り方も焦点となる。野田氏は「どの党とも対話できる環境をつくる」と強い意欲を示す。支持団体の連合を介した国民民主党との選挙協力にとどまらず、日本維新の会などと主張の違いを乗り越え候補者調整を進められるか、粘り強く寛容な指導力が求められる。
野党第1党として国民に政権交代への結集軸を示し、政治に緊張感を取り戻さなければならない。
岡山市のJR岡山駅西口で約1週間前にあった街頭演説会で、舌鋒(ぜっぽう)鋭く訴えていた。「疑似政権交代では政治を正すことはできない。本物の政権交代こそが政治改革。その先頭に立つ決意だ」と。きのう、立憲民主党の新代表に選ばれた野田佳彦元首相(67)が、自民党の裏金問題や総裁選に批判を強めていた。
確かに、民主主義国家で代わり得る選択肢がない政治は緊張感に欠け、腐敗する恐れがある。だが、「本物の政権交代」を実現するには、現政権に対峙(たいじ)するための政権担当能力を、国民に説得力を持って示さなければならない。
討論会などでは折に触れて民主党政権での首相経験を持ち出した。当初は「昔の名前で出るのは良くない」と慎重姿勢を示していたにもかかわらず、出馬を決断すると一転し、政権交代には「経験と安定感」が必要だと唱えた。
野田氏が選ばれた背景には、自民党が総裁選を通じて刷新感を打ち出し、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測が広がる中、論戦に強く、中道・保守層の引き寄せも見込める「重鎮」に期待が集まったことがあろう。
ただ、首相として解散に踏み切り、政権を失った記憶を想起させるとして、再登板に否定的な声も根強かった。党内の結束がまず課題となる。
代表選では特に裏金問題を批判し、政治資金規正法の再改正や国会議員の世襲制限導入を主張した。権力の批判は大切なものの、それだけで政権交代はできまい。政治改革に限らず、現政権に対する具体的な代案を国民に示すことが必要である。
とりわけ残念だったのは、地方の活性化を巡る議論が低調だったことである。立民は代表選の期間、岡山など全国11カ所で遊説などを行った。人口減少が加速し、地方は疲弊の度を増していることを改めて感じたはずだ。それを政策につなげてもらいたい。
例えば、地方の女性が東京圏に移り住む大きな理由は、地元に魅力的な仕事がないことである。こうしたことへの改善策が求められる。
党内把握や野党連携の進展に向けて、野田氏のリーダーシップと調整力が早速、問われることになる。
立民新代表に野田氏 政権担うビジョンを示せ(2024年9月24日『中国新聞』-「社説」)
早期の実施も想定される衆院選で党の「顔」となる。野田氏は決選投票で枝野幸男前代表を退けると早速、「本気で政権を取りにいく」と述べ、すぐに臨戦態勢に入ることを強調した。自民党に代わって政権を担う能力があることを、有権者に示していく必要がある。
政権交代を求める声が高まっているのは確かだろう。野田氏は「千載一遇のチャンス」と語っていた。ただ裏金問題など自民党による敵失であることを忘れてはなるまい。自民党には大きな逆風であっても、立憲民主党の追い風はそう強くない。
野田氏は衆院選で、自民党に失望した保守層を含めて取り込みたい考えを示す。しかし単独での政権獲得は現実的には難しい。野党がまとまれないことで、自民1強を許した経緯がある。与党を過半数割れに追い込むことを目標とし、「野党勢力の最大化」に向けた調整が重要になる。
代表選は、刷新感より経験や安定感を重視する結果になった。裏を返せば新たな人材の不足にも見える。決選投票に残った2人は新味に乏しい。当選1回の吉田晴美氏が立候補にこぎ着けたが、推薦人が別の候補を公然と推す事態になった。最も若い泉健太氏は現代表にもかかわらず得票ポイントは3位にとどまった。自民党への対抗軸として信任が得られなかったのだろう。
野田氏の重点施策は「分厚い中間層の復活」である。格差の拡大は先進国に共通する課題であり、重要なテーマに違いない。岸田文雄首相が「中間層の拡大」を訴えるなど、自民党を含め、いくつかの政権がフレーズを変えながら打ち出してきた。どう実現するかが大事だ。
信頼の回復が必要であることは、立憲民主党にも言える。多くの国民は、旧民主党政権時代の失敗と混乱を覚えている。野党になってからも、自民党に対する「反対ばかり」の姿勢について、若い世代を中心に厳しい目が向けられた。具体的な代案に国民は期待している。
野田氏には、現実感を持って野党をまとめる強いリーダーになれるかどうかが問われている。弱い立場の人を支える立憲民主党らしい政策を打ち出し、明確な未来のビジョンを示してほしい。
光陰矢のごとし 立民党代表選(2024年9月24日『山陰中央新報』-「明窓」)
「光陰矢のごとし」という。月日のたつのが早いことを示す表現だが、立憲民主党の代表選を見ていて、そんなことわざが頭に浮かんだ。
“主役”は5カ月前、松江市内のスーパー前でマイクを握っていた。「解明しない。納税しない。処分しない。説明責任を果たさない。反省しない政党に処分を下す投票をしよう」。自民党の裏金事件を厳しく批判したのは立民の野田佳彦元首相。衆院島根1区補選で立民候補を応援するため松江入りした。
その場には、知名度の高い蓮舫参院議員(当時)も応援に駆け付けていた。立民は島根1区を含め、同じ日にあった3補選で全勝。その余勢を駆って蓮舫氏は7月の東京都知事選に挑んだが、まさかの3位に終わった。「栄枯盛衰」「一寸先は闇」である。
この言葉の重みが身に染みているのは、民主党政権の首相時代、自民に政権交代を許した野田氏自身だろう。立民の新代表に就き「汚れた政治の膿(うみ)を出し尽くさなければいけない。政権交代こそが最大の政治改革だ」と意気込む。
野田氏が松江で応援演説した同じ日、自民党の小泉進次郎元環境相も自民候補の応援のため松江でマイクを握っていた。小泉氏も立候補する自民党総裁選の投開票は27日。2人が党首討論で相まみえることになるのか。光陰矢のごとしだが、誰が総裁になろうと、応援演説であまり語られなかった地方創生にもっと目を向けてほしい。(健)
【立民代表選】政権担当の力量示せたか(2024年9月24日『高知新聞』-「社説」)
ただ、選挙戦は全般的に政策や党運営を巡って分かりにくさが目立った。政権を担う力量を示すことができたのか、政権選択につながるような論戦を展開できたのかには厳しい見方もある。
他の野党との連携では、4氏とも国民民主党との連携の必要性では一致した。しかし、日本維新の会や共産党との連携は野田氏が政権交代に向け「どの野党とも対話できる環境をつくる」としたのに対し、枝野、泉両氏は距離を置いた。
党内では野党同士の選挙協力を巡って深い対立がある。それが改めて浮き彫りになった格好だ。次期総選挙に向けた野党連携が野田氏の最初の試練となりそうだ。
消費税の在り方も論点だった。立民は直近2回の国政選挙で「消費税減税」を打ち出したが、次期衆院選では明記を見送り、所得に応じて給付や控除を実施する「給付付き税額控除」の導入を掲げる。
野田氏は減税に否定的で、給付付き税額控除を支持。一方で、党代表として給付付き税額控除を打ち出した泉氏は「食料品の税率減も選択肢だ」とした。
党綱領に掲げる「原発ゼロ」の方向性も曖昧だった。野田、枝野両氏は「原発に依存しない社会」を実現するとしつつも、再稼働などには現実的に対応をする姿勢を見せた。原発の活用を掲げる国民民主党との連携を意識した可能性がある。
こうした分かりにくさがあるが、それでも野党第1党に課された使命は大きい。代表選で候補4人がそろって訴えた、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革の実現は、野党の力が欠かせない。
野田氏は代表選出を受け、「私は本気で政権を取りにいく覚悟だ」と強調。「みんなで力を合わせ、心を合わせて打倒自民党に向かっていきたい」と訴えた。
立民は旧民主党時代から、代表選を通じて党内の路線対立が激しくなる傾向があった。それでは国民の支持は広がるまい。新代表の下、党内が一枚岩になって与党に対峙(たいじ)できるかが問われる。
政策や論議を通して、引き続き国民に政権の選択肢を示す必要もある。党の変革は自民だけでなく立民にも求められている。
「悪夢」のレッテル(2024年9月24日『高知新聞』-「小社会」)
瓶や容器のラベルがうまく剥がれない時がある。薄く紙が残ったり、ねばねばが消えなかったり。粘着剤の種類や貼ってからの時間が原因だという。
まずは湯に浸して対処していた拙宅だが、あるとき調べてみると「裏技」が多々あった。その一つにドライヤーでの加熱があり、試すと、あら簡単。拍子抜けしたものだ。
一方で、そんなふうに簡単にいかないのが「レッテル」だろう。レッテルはオランダ語で「ラベル」の意味。なぜかこちらは日本で独自の使われ方をされ、「レッテルを貼る」は相手の属性を勝手に評する際の慣用句になった。
そのレッテル貼りで歴史に残る一つが、安倍晋三元首相による「悪夢のような民主党政権」ではないか。これは行き過ぎだと批判が出た。だが世に放たれた「悪夢」の2文字は一人歩きし、実際に政策の迷走や内紛が目立った民主党政権の負のイメージを膨らませる。それが立憲民主党の足かせになっている。
裏返せば、今回の党代表選で問われたのはこのレッテル剥がしだった。候補4人は持論を展開しつつ、党の一体感も訴えたが、「自民党批判のうまさ」合戦になった感もある。政権担当能力をどれだけ発信できたか、答えは次の選挙で出る。
レッテルと言えば、新代表の野田佳彦元首相も党内から「野党転落の戦犯」扱いされる。外からも、内からも貼られたレッテル。瓶のラベルのように簡単に剥げる裏技はない。
立憲民主新代表 具体的な政権構想を示せ(2024年9月24日『西日本新聞』-「社説」)
代表選には4人が立候補した。野田氏は豊富な政治経験と定評のある国会論戦で期待値を高め、他の3候補よりも幅広い支持を集めた。
事実上の首相を選ぶ自民総裁選が27日に決着する。新首相は刷新感のあるうちに、衆院の解散・総選挙に打って出るとみられるからだ。
立民代表選は明らかに衆院選を意識し、自民との違いを打ち出す論戦を展開した。
自民総裁選で賛否が割れる選択的夫婦別姓は、野田氏をはじめ立民の候補全員が賛成を表明した。安全保障は日米同盟が基軸だと異口同音に訴えた。
4候補の考えが一致しなかった政策もある。減税や原発・エネルギーなどは、党内の意見が必ずしも一致しない。新執行部が政権構想をまとめる段階で亀裂があらわになる可能性もある。
党内を統率できなかったことは、野田氏にとって痛恨事のはずだ。政権を目指す野党第1党が、いつまでたっても「ばらばら」と言われるようではふがいない。
野田氏は「政権交代こそが最大の政治改革だ」と語る。実現には党内ガバナンス(統治)の確立が欠かせない。その意味でも新執行部の人事は重要になる。
他の野党との連携は避けて通れない。選挙区によっては候補者一本化を検討する必要があるだろう。
地方組織の強化も課題に挙げたい。立民公認で立候補する地方議員は少ない。旧民主出身議員の多くが無所属で活動しているのは、党の離合集散についていけないからだ。
地方で地力をつけないことには、国政選挙で安定した力を発揮できない。
立民代表に野田氏 対抗軸見える政権構想に(2024年9月24日『熊本日日新聞』-「社説」)
野党第1党である立憲民主党の新たな代表に野田佳彦氏(67)が選ばれた。早期の衆院解散が取り沙汰される中、民主党政権で首相を務めた野田氏の経験と、「穏健な保守層」の取り込みを図る政権戦略が、国会議員や地方組織から支持を得た。
野田新代表は10月1日召集の臨時国会で早速、新たな首相と対峙[たいじ]することになる。自民党総裁選の展開次第では、月内の解散・総選挙も想定される重要局面だ。自民への対抗軸が明確になる政権構想を練り上げ、有権者に選択肢を提示してもらいたい。
1回目の投票で過半数を得た候補がなく、上位2氏の決選投票で野田氏が枝野氏を破った。
選挙期間は規定上最長の17日間に及んだ。自民党総裁選(27日投開票)と同時並行の日程を組んだことで、立民内には「ポスト岸田候補との対決色を演出できた」と自賛する声が上がっている。
4候補は討論会や遊説で「政治とカネ」の問題に対する自民の姿勢を厳しく追及。複数の総裁候補が政策活動費の廃止を言い出したことにも「なぜ今になって」と批判した。選択的夫婦別姓には全員が賛成し、賛否が割れる自民との違いを印象づけた。
一方で、安全保障や原発・エネルギー政策といった論点では「現実路線」を踏まえた主張が目立ち、相違点を明確にすることはできなかった。
野田氏は次期衆院選に向けて「野党の議席を最大化し、与党を過半数割れに追い込む」と強調する。一方、共産党とは「連立しない」と明言しており、前回の衆院選とは野党共闘の形が大きく変わる可能性がある。日本維新の会や、関係の深い国民民主党とどのような形で連携するのか、開かれた議論で結論を導いてほしい。
物価高が暮らしを直撃し、少子高齢化や人口減少への対応も待ったなしだ。こうした課題と正面から向き合うためには、政治の信頼回復が欠かせない。その意味でも立民が果たすべき役割は大きい。
立憲新代表に野田氏 政府与党との差異明確に(2024年9月24日『琉球新報』-「社説」)
4人が立候補した立憲民主党の代表選は23日に投開票され、元首相の野田佳彦氏が新代表に選出された。近づく総選挙で政権の選択肢として国民に認められるかどうか、再び首相を目指すという野田氏の手腕が注目される。
だが、自公を過半数割れに追い込むためにと保守層にウイングを広げるあまり、自民党と代わり映えしない主張となれば野党第1党の存在意義は失われる。政権交代が可能な政治のためには、政府与党との政策の違いを明確にして国民に示すことが必要だ。
代表に就いた野田氏は衆院選に向けてマニフェスト(政権公約)作りを急ぐと述べた。政治不信が高まる中、生活者の声に耳を傾け、国民本位の公約を示せるかが問われる。とりわけ辺野古新基地の見直しを含む在沖米軍基地の負担軽減、安全保障政策で新たな選択肢が必要だ。
県内移設の見直しを掲げながら結局は自民と同じ辺野古新基地に回帰したことが、政権交代に対する失望を招いたことを野田氏は忘れてはならない。国民に選択肢を提示できなければ、政治不信や無関心を助長するだけだ。
今回の代表選で琉球新報が実施したアンケートに、野田氏は辺野古の新基地建設について「立ち止まって見直すべき」との立場を回答した。日本記者クラブの討論会では「沖縄の民意を踏まえ、米国と膝をつき合わせ丁寧に協議することが基本」と述べた。
辺野古新基地は費用や工期が際限なく膨張し、普天間飛行場の早期返還につながらないことが明らかになっている。自民の総裁選立候補者が後ろ向きな日米地位協定の改定とともに、自公政権との対立軸を立憲が示すことだ。
野田氏は政府が尖閣諸島を国有化した際の首相でもある。当時の石原慎太郎都知事が尖閣購入を計画していたことから、「都が保有するよりも『平穏かつ安定的な管理』に近づくと思った」と振り返っている。それであればこそ、国有化後の尖閣周辺で日中がにらみ合う状況を解消し、南西諸島周辺での紛争回避に尽力する責務がある。
「台湾有事」にあおられた野放図な防衛予算の膨張を防ぐためにも、中国との関係改善へリーダーシップを党内外で示してもらいたい。
10月1日に臨時国会が召集される方向だ。国会で野党が行政監視機能を果たし、政策を提示して、与党と政権運営能力を競い合うことが健全な民主政治の土台だ。国民の多くが納得していない改正政治資金規正法の問題もある。
自民は政局に走った性急な衆院解散は慎み、新たな党首同士の下での論戦を正面から受けて立つことだ。
立民新代表に野田氏 「政権構想」明確に語れ(2024年9月24日『沖縄タイムス』-「社説」)
政権の緩みやおごりをただし、批判票の受け皿となるためにも、野党第1党の党首としての野田氏の手腕が問われる。
代表選には4人が立候補。野田氏は決選投票で前代表の枝野幸男氏を破り選出された。選出後の第一声で「本気で政権を取りに行く覚悟だ」と決意を語った。
「政治とカネ」問題の払拭はもちろんのこと、外交・安全保障や経済面で希望と安心感をもたらす政策を打ち出すことが求められる。
立民はジェンダー平等や選択的夫婦別姓、分配重視の経済政策などで現政権との違いをアピールする。自民総裁選で浮上する「解雇の規制緩和」については「働く側にプラスはない」とし、人手不足の産業の賃金改善や産業創出などの環境整備などを求める。
基本政策について党としての方向性を明示した上で、連立政権をはじめ政権交代への具体的な道筋を示すべきだ。
多様な選択肢は、若者など政治との距離を感じている人たちの参加につながる。国民が「政治は変えられる」と実感できるような発信が求められる。
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名護市辺野古の新基地建設問題で野田氏は、工事をいったん中止し米側と交渉するという「党の方針を踏まえ対応する」とした。軟弱地盤による工事の長期化やコスト増大などを問題視している。
県が求める日米地位協定の抜本的な見直しについても、改定に向け日米政府による協議の必要性に言及するなど理解を示す。
立民は、県内で「オール沖縄」勢力の一翼として共産、社民、社大などと連携する。一方、存在感が高いとはいえない。
政権交代に連携が鍵となることは間違いない。ただ、地域によってもその在り方は異なる。地域の事情に配慮した連携を模索すべきだ。
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野田氏は今回、代表選で長年袂(たもと)を分かってきた小沢一郎氏の支援を取り付けた。
立民はこれまで主要な政策を巡り、党内の路線対立がたびたび先鋭化してきた経緯がある。まずは党内が一致しなければ、他党との連携はおぼつかない。次期衆院選に向け、挙党態勢の構築が求められる。