大の里(新大関)に関する社説・コラム(2024年9月22・23日)

大の里が新大関に 最高位へと一層の精進を(2024年9月23日『産経新聞』-「主張」)
 
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秋場所優勝を果たし、内閣総理大臣杯を授与される大の里 =両国国技館(萩原悠久人撮影)
 
 大相撲の関脇大の里(24)が秋場所を13勝2敗で制した。
 直近の3場所で2度の優勝を含む計34勝を挙げ、大関昇進を確実にしている。初土俵から所要9場所での新大関は、昭和以降で最速の記録である。
 角界を背負う力士として、このまま横綱へ駆け上がる覚悟で来場所以降の土俵に立ってほしい。
 郷里の石川県津幡町は、能登半島地震で家屋や道路などが打撃を受けた。能登地方は先週来の大雨による被害も広がっている。郷土力士の朗報は、被災地の人々を元気づけ、復興を後押しするはずだ。
 大の里の四股名は大正から昭和にかけ、小兵ながら大関を7年務めた大ノ里に由来する。師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)が、角界を背負える弟子が現れたときに授けようと温めてきたという。
 学生相撲で2年連続のアマチュア横綱になるなど、角界入りする前から「大器」の呼び声は高かった。192センチ、182キロの恵まれた体格を生かし、右差しと左からの強烈なおっつけで前に出る取り口は、破壊力で群を抜いている。
 秋場所を全休した横綱照ノ富士は、2場所連続での15日間皆勤が2年以上もない。大の里に、和製横綱誕生の期待がかかる理由である。
 ただし、まわしに固執しないいまの取り口は、土俵際の逆転をくらうことも多く、盤石とは言い難い。左上手を引き、相手を組み止める相撲を早くものにしてほしい。
 「ちょんまげ大関」の誕生は、大銀杏(おおいちょう)で土俵に立つ関取たちの、ふがいなさの裏返しでもある。特に大関陣の不出来が目に余る。3月の春場所では4人いた大関が、その後に霧島と貴景勝が陥落し、貴景勝秋場所途中で引退した。
 琴桜と豊昇龍は秋場所で早々と優勝争いから脱落し、終盤に巡ってきた大の里との直接対決でも敗れている。土俵が締まりを欠くのも無理はない。
 大の里も、来場所以降は番付の重みを全身で知ることになるだろう。周囲のマークが厳しくなることも予想される。綱取りの道を甘く見てはならない。
 何よりも国技の伝統と格式を受け継ぎ、強く、愛される力士であってほしい。長く活躍できるよう、精進を願う。

人々を励ます土俵の力(2024年9月23日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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大相撲九月場所(秋場所)14日目、大の里(右)は押し出しで豊昇龍を破り、優勝を決めた=両国国技館
 大相撲の現在の土俵は直径4・55メートル(15尺)。「倒す」だけではない、「出して勝つ」という相撲の魅力を引き出す絶妙の大きさと形なのだという。元小結で解説や講演などで活躍する舞の海秀平さんが『大相撲で解く「和」と「武」の国・日本』(KKベストセラーズ)で書いていた。
秋場所の土俵を制したのは24歳の関脇大の里だった。14日目に難敵の大関豊昇龍を一気に押し出し2度目の優勝を決めた。「迷いなく思い切っていけた」と振り返り、「暗いニュースで大変な状況。自分の優勝が力になれば」と記録的豪雨に見舞われた石川県への思いを述べた。
▼同県は1月の能登半島地震の被害が癒えないままだ。県中部にある津幡町出身の大の里は、初優勝した夏場所の後の6月に金沢市の避難所を訪れて、被災者らと交流したばかりだった。
▼若い力が多くの人を励ます一方で、小欄のまわりは元大関の関脇貴景勝の引退にショックを受けた中高年の同僚が多い。けがで不振だったとはいえ、まだ28歳だ。それだけ厳しい世界ということか。会見では、かつて自身の付け人を務めた埼玉栄高校の後輩、王鵬に敗れた後、引退を決断したことを明かした。
▼「手をいっぱいに伸ばしたが、横綱には届かなかった」と語ったのが印象的だ。「やるべきことは全てやった」とも。力士としては小柄で押し相撲にファンが多かった。年寄「湊川」を襲名、後進の指導にあたる。
舞の海さんは本紙コラムで「直径4・55メートルの限られた土俵の中で、どんな動きができるのだろうと想像を広げてほしい」「観客は予想を覆す相撲を見せてくれる力士の出現を待ち望んでいる」と記していた。人々に勇気を与える土俵の力にさらに期待したい。

(2024年9月22日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 大相撲で十両以上の力士を「関取」と呼ぶ。語源は諸説ある。一説には「関」は力士の最高位を意味し、その地位を占めることを「関を取る」と言ったからという。中世末期に勝ち抜き形式の取組で最後まで勝ち残ることを「関を取る」と称したからという説もある
▼いずれにせよ第一級の力士を指す言葉だ。その関取に「大」の冠をかぶせたのが「大関」である。「関取の中の関取」「別格の関取」といった意味だろう。横綱の地位が設けられるまでは最高位の呼称だったというのもうなずける
糸魚川市の能生中、海洋高で力士としての礎を築いた大の里が大関の地位をぐっとたぐり寄せた。秋場所で、昇進の目安である直近3場所合計33勝を突破し、千秋楽を前に2度目の優勝も決めた
▼生まれ故郷の石川県も、第二のふるさとである本県も沸き立った。共に元日の能登半島地震で打ちのめされた。きのうの記録的な豪雨でなお深い傷を負った地域もある。暮らしの再建に向け、重い荷を背負う人も多い
▼相撲には神事の側面がある。力士を神の化身になぞらえることもある。桁外れの体躯(たいく)と力を有する力士から、運気をもらえると感じる人もいる。郷土の星の躍進が、厳しい現実に立ち向かう力に少しでもならないか
初土俵からわずか9場所。関取の象徴である大銀杏(おお いちょう)はまだ結えない。異例の「ちょんまげ大関」が生まれるかもしれない。ただ、大器はさらにその先を見据えているだろう。関取の最高峰へ。歩みを止めないはずだ。