東北各県の2024年産米の概算金は、主要銘柄で軒並み最高値を更新した。生産コストの上昇に苦しむコメ農家は歓迎する一方、販売価格が高騰し、消費が落ち込まないかと懸念も抱く。消費者や流通業者は家計がどこまで負担増に耐えられるか不安視する。この先、需給や市況はどうなるのか。確たる見通しを持てないまま出来秋を迎えた。
飲食業は価格転嫁に苦慮 コメ離れ加速の恐れ
「主食」の値上げは家計を直撃する。飲食業にもコスト増が重くのしかかる。仕入れ値が上がる以上、流通業者は価格に転嫁せざるを得ないが、コメ離れが進むと警戒感がにじむ。
「高過ぎる」。宮城県内で新米の販売が本格的に始まった19日、仙台市若林区のみやぎ生協荒井店の販売コーナーで、石巻市の教員女性(41)が嘆いた。
10キロで税別5280円。産直ブランドの商品だったが、前年に比べて1400円も高くなった。女性はコメを買うことなく、ゆっくりと売り場を通り過ぎた。
市内では10日ごろから新米が店頭に並び始めた。若林区の生鮮館むらぬしは12日に、ひとめぼれ5キロを税別3600円で販売した。前年の1・5倍ほどの価格だった。
区内の会社員女性(55)は「新米は食べたいが、値段が高いと買うかどうか考えてしまう」と話す。
区内の主婦(35)はため息をつく。7人家族で子どもが3人。遠足や運動会の季節でもある。「10キロ買って3週もたない。新米より安い古米を選ぶ」と諦め顔だ。
コメを扱う飲食業者も頭を抱える。
市内でおにぎりを移動販売する庄司昌雄さん(46)は「生産者あっての仕事。概算金上昇はうれしくもあるが、複雑」と吐露する。月に240~300キロのコメを使う。1個250円前後で売ってきたが「具材や光熱費も高騰し、維持することが難しい」と嘆く。
流通業者も苦悩する。コメ卸のライシー宮城(宮城県栗原市)の担当者は「求めやすい価格にしたいが、高く買って安く売ればやっていけない」と訴える。現在の卸売価格は前年の約2倍。「値下がりする要因が見当たらない」と危惧する。
ウジエスーパー(宮城県登米市)は、5キロの店頭価格を1000円ほど引き上げた。「知っている限りで一番高い金額」と担当者。いつもは徐々に価格が落ち着くが、前年産の品薄にインバウンド(訪日客)需要もある。「しばらくは高いままかもしれない」と厳しく見通す。
一過性? 値崩れ? 農家には不安も
主要銘柄の前年からの上昇幅が過去最大4500円となった宮城県。大崎市のコメ農家坂井美津男さん(73)は「大幅増は当然だ。油、農薬、肥料、資材…。何から何まで20%以上高騰した。コメだけが今まで安過ぎた」と受け止める。
県産ひとめぼれ(60キロ、1等米)の概算金は37・5%上昇したが、坂井さんが固定客に個人で販売する価格は10%も上げていない。
「果たして来年もこの概算金を出してくれるのか。飼料用米に流れた生産者が主食用米に戻り、需給環境が崩れないか」と先を見据える。
「生産コストが上がる中で、増額そのものはうれしい。だが、今後の値崩れが心配で素直に喜べない」
山形県鶴岡市のコメ農家富樫一彦さん(63)は複雑な表情を浮かべる。7月の記録的大雨で一部の田んぼが浸水し、排水作業に追われた。その後は高温が続き、肥料の調整や水の管理に神経をすり減らした。
「コメの在庫が減ったとはいえ、なぜ急に金額を上げられたのか。農協は長期的な販売見通しに基づいて、丁寧に根拠を説明してほしい」と求める。
宮城県白石市と蔵王町で計約30ヘクタールの水田を保有する鈴木健一さん(72)は、農薬や肥料、農機具の値上がりに加え、繁忙期に5人を雇用するため、人件費も賄わなければならない。
「価格に転嫁できていなかったから、概算金上昇で少しは経営が良くなるが、一過性では困る。コメ作りには手間も金もかかることを消費者に知ってもらいたい」と訴える。
コメの需給や市況の先行きは不透明感が漂う。年に10万トンほど減少が続いた国内需要は、直近1年間で11万トン増と10年ぶりにプラスに転じた。8月の全国消費者物価指数で、コメ類は前年同月比28・3%増となり、実に49年ぶりの大幅な上昇率を記録した。
新米が出回り店頭での品薄感が解消されていくと、割高になったコメは敬遠される可能性もある。
秋田県横手市のコメ農家小田嶋契さん(60)は「消費者が今度は『安いコメがいい』と言い出すのではないか。このくらいが本来の価格との認識が、消費者に定着するだろうか」と心配する。