令和の米騒動(コメの品不足)に関する社説・コラム(2024年8月23日)

令和の米騒動(2024年8月26日『中国新聞』-「天風録」)
 
 棚に札が立ててある。「お一人様1袋」。きのう訪れたスーパーのコメ売り場である。もう棚には価格の高い商品が幾つか残るのみ。「5キロで10キロぐらいの値段がする」。嘆きながら高齢の夫婦が購入していた
▲コメの品薄が続いている。「令和の米騒動」などと呼ぶ報道も。何を大げさな、と感じつつ、店頭をのぞいてみて考え直した。7月の全国消費者物価指数でコメ類は前年より約17%上がった。20年ぶりの上昇率という
▲2023年産米は猛暑のせいで収穫量が少なかった。一方でインバウンド(訪日客)の急増によって外食産業での消費が拡大した。さらに今月8日には南海トラフ地震の臨時情報が出た。備蓄する人が増え、品薄に拍車がかかった。買いだめの動きまで
▲新米が出回れば品薄は解消されていく―。農林水産省はそう見込む。24年産米は店頭に並び始めている。しかし仕入れ値の上昇に業者は気をもむ。この夏も猛暑だったため。しかも台風が近づいている。稲穂が心配だ
▲大正の米騒動はやはりコメ値上がりから。暴動が全国500カ所以上で起きた。終息後に内閣は総辞職した。騒動を落ち着かせる仕事もやり遂げるよう、令和の内閣に望む。

コメの品不足 国民の不安招かぬ情報発信を2024年8月23日『読売新聞』-「社説」)
 
 日本人の主食であるコメの品不足や価格上昇が続いている。政府は、国民の不安を招かぬよう、適切な情報発信に努めてもらいたい。
 スーパーや米穀店で、主食用のコメが品薄となっている。店頭では、購入を制限する動きが広がっており、1家族1点までに限る大手スーパーもあるという。
 民間の在庫量は6月末で156万トンまで減り、比較できる1999年以降、最も少なくなった。
 品薄を受け、値上がりも顕著だ。5キロ・グラム入りが、通常の2倍近くとなる3000円を超えるまでに高騰した例があるという。
 ただし、コメの安定供給に責任を負っている農林水産省は、日本全体でみれば、必要な民間の在庫量は確保されており、需給は 逼迫ひっぱく していないとしている。
 一部の卸売業者が、外食業界向けなどに必要な数量を確保しようとコメを買い集め、価格上昇につながったとも指摘される。
 消費者の間に、いたずらに不安が広がることは望ましくない。政府は、消費者や業者に対し、きめ細かく情報を伝えて、混乱を招かないようにするべきだ。
 秋以降、新米が本格的に出回れば、品薄が緩和されるとの見方もある。凶作でコメ不足に陥った93年の「平成の米騒動」とは異なる状況だ。消費者は買いだめに走らず、冷静に対応してほしい。
 品薄と価格の高騰が生じている要因は三つある。
 政府は、人口減で毎年10万トン、消費が減ると推計し、補助金をつけ、飼料用米などへの転作を支援する生産調整を続けてきた。このため、2023年産の収穫量は過去最少の661万トンとなった。
 そこに、昨年夏の猛暑により、北陸や東北などの主要なコメ産地で、小粒なコメが増え、粒の白濁が広がった。主食用の23年産米は市場に出回る量が減少した。
 さらには本格回復した訪日客による外食の需要増が重なった。
 農水省は、猛暑の影響やインバウンドの需要増が、今後、どの程度続く可能性があるのか、改めて点検し、生産調整のあり方を検討していくことが重要だ。
 コメの価格が一定程度、上昇すれば、農家の収入増となって、経営にプラスとなる面があるが、物価高で家計が苦しい中、コメの価格が急騰すれば、結果として需要の減少を招き、農家の経営にも打撃を与えることが懸念される。
 過度な価格変動を避け、安定的な生産基盤を築くことは消費者と生産者の双方の利益になろう。