「悠仁さまは学習院に行くべき」はおかしい!袋だたきの批判に皇室評論家が反論(2024年9月15日『ダイヤモンド・オンライン』)

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第48回全国高校総合文化祭の総合開会式に出席された秋篠宮ご夫妻と長男悠仁さま=7月31日、岐阜市長良川国際会議場(代表撮影) Photo:SANKEI
● 悠仁さまと小泉進次郎氏で 異なる大学進学報道の温度差
 悠仁さまの進学先は、学習院以外のどこであっても批判されそうだ。学校推薦やAO入試なら「忖度ありの裏口入学」、ガチンコの一般入試なら「一般国民と争って一人蹴落とした」といわれるだろう。
 一方、デイリー新潮は3年前、小泉進次郎環境相の米国コロンビア大学留学について「特別なプロセス」があったと詳細に報じたが、次期首相候補であるにもかかわらず、さして問題にされていない。このアンバランスも不思議だ。
 将来、天皇になるプリンスが、特別に配慮されて良質の勉学の場を提供されることは皇室制度を揺るがす大問題だが、首相(当時)の息子が特別に配慮されて学歴を手に入れるのはいいらしい。
 世界を見れば、プリンスの勉学の場は立場に配慮したものであるのが常識だし、日本人もそう思ってきたと思う。しかし、突然、おかしな空気が流れ、学習院ならいいが、ほかはダメだというのだ。
 たとえば、ひろゆき氏は『ABEMA Prime』で「学習院は皇族のためにつくられた学校だから、試験がなくても入れるというのはいい。しかしそれ以外の所、東大でも日大でも入りたいなら一般人と同じように入試を受けるべきだ」とまで言い切っている。
 振り返るに、悠仁さまは幼稚園以来、学習院へ行かないことを契機に袋だたきにされ続けてきた。だが、学習院が特別な存在だとか、悠仁さまが学習院を選ばないのがけしからんといった議論はおかしいということをきちんと説明したい。
● 法的に特別な地位はない学習院大学 卒業された天皇はいまの陛下だけ
 学習院はもともと華族の学校であって皇族の学校でないし、学習院大学を卒業された天皇は、いまの陛下だけだ。法的にも特別な地位はなく、学習院だけが皇族に対し特別配慮が許されていると考える理由はない。学習院の一部の卒業生などが自分たちの学校が特別だとデマを流し、悠仁さまの自由な選択を邪魔するような言動をしている。これは強く非難されるべきだろう。
 皇族方の教育の歴史は、新著『系図でたどる日本の皇族』(宝島社)で詳しく紹介したが、歴代天皇では、大正天皇は満8歳から通い始め、中等科1年修了で退学された。昭和天皇も初等科のみで、東宮御学問所で勉学を続けられた。秩父宮殿下は18歳で陸軍士官学校高松宮殿下は15歳で海軍兵学校予科に転じられた。
 上皇陛下は、学習院初等科の時、学友と共に沼津や日光に疎開され、戦後は西洋的な思想と習慣を学ぶべきという昭和天皇の意向でバイニング夫人を家庭教師にされた。
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 マッカーサー元帥の質問に「東京大学学習院大学に進学したい」と答えられており、学習院が既定路線ではなかった。1回生の終わりから、エリザベス女王戴冠式出席などのため、半年にわたる旅行に出発されたので進級できず、学友と離れたくないとの希望で聴講生としてそのまま過ごされた。
 今上陛下は、新設された学習院幼稚園に入園され、大学卒業までとどまられた。大学院2年目の途中からオックスフォード大学に留学され、帰国後、28歳で博士課程前期を修了され、その後も、学習院の活動に積極的に参加されている。
 秋篠宮皇嗣殿下も幼稚園から大学まで学習院だが、大学進学時には他大学に進みたいと希望されていたようだ。卒業後は、総合研究大学院大学教授の指導で研究され、論文博士号を授与されている。英国にも留学された。
● 皇族の多くが 学習院以外に進学
 
 上皇陛下の姉妹のうち、東久邇成子さんは、3人の男子をあえて慶応幼稚舎に、島津貴子さんは長男を西町インターナショナルスクール、啓明学園に通わされた。
 愛子さま、眞子さん、佳子さまは、学習院幼稚園から始まり女子高等科に進まれた。
 愛子さまは、小学校の時から、欠席、遅刻などが多かったので、雅子さまが学校の校外行事にまで付き添うなどの特別の扱いを学校側が認め、無事卒業できた。
 また、学習院大学には3年間、ほぼ通学されず、4年目もゼミなど限られた機会しか出席されず、サークル活動などにも参加されなかったが、学習院は柔軟に対処して卒業させた。
 眞子さんはICUに進まれた。佳子さまは学習院大学に進まれたが、2回生の途中で退学され、ICUに入り直された。
 三笠宮家および高円宮家の女王さま方では、高円宮家の3人は、幼稚園はいずれも松濤幼稚園。大学も承子さまは、学習院を中退しエディンバラ大学に留学され、最終的には早大を卒業されており、守谷絢子さんは城西国際大学だ。三笠宮家の彬子さまと瑤子さまは松濤幼稚園から学習院幼稚園に移られた。
 秋篠宮家がこうした状況を俯瞰して、学習院悠仁さまに好ましい教育環境を提供してくれそうもないと判断されたとしても不思議ではない。
● レベルの高いご学友は 学習院で得られるのか
 学習院が最後に男子皇族を受け入れたのは、秋篠宮皇嗣殿下の時、つまり40年ほど前のことであって、当時のノウハウなどは残っていないだろう。将来の天皇の安全を確保すべき警備は、今上陛下の時が最後だ。愛子さまの場合は立場も違うし、登校されても不特定多数の学生と交流された機会は一度もなかったので参考にできない。
 一方、お茶の水女子大附属や筑波大学附属を所管する大塚署は、悠仁さまが幼稚園の時から一貫して警護を担当しており、警備の面でも学習院に優位性はない。
 「学習院なら適切なご学友が得られる」との声もあるが、現在の学習院に旧華族社会の優秀な子弟がいるともいえない。また、以前は、大学は学習院以外に進むにしても、いったんは学習院に入る人が多かった。近衛文麿細川護熙もそうだし、華族でなくても吉田茂鳩山由紀夫・邦夫兄弟や官僚でも多かった。
 上皇陛下のご学友というと作家の藤島泰輔、元農林水産相の島村宣伸、ジャーナリストの橋本明などの名が出てくるが、今上陛下の同期生でもすでにそうした著名人はいないし、まして、悠仁さま世代の学習院で質の良いご学友を得られるかは疑問だ。
 一方、筑波大学附属では、知的レベルの高い友人を得られているはずだ。伝統的に堅実で知的な校風であり、美智子上皇后の御父君や弟もOBだ。悠仁さまの成年にあたってお茶の水大学の幹部が回顧を語り、たいへん良い教育を受けられてきたことが分かると話題になった。
 また、大学の教員を見ても、上皇陛下が学ばれたころの学習院は院長に哲学者の安倍能成、他にも社会学者の清水幾太郎など錚々たる陣容だったが、現在の学習院がとくに未来の天皇の学びに向いた体制とは思えない。
● 周囲に迷惑をかけるかどうかで 大学側は判断すればいい
 学習院の卒業生の一部が、「悠仁さまが学習院に進学しないのはノブレス・オブリージュに欠ける」とかいって攻撃しているのは困ったことだ。学習院を選ぶ道義的義務などあろうはずもなく、悠仁さまの自由を束縛すべきではない。
 また、「学習院だけが皇族に特別の配慮をできる」というのは論理の飛躍だ。学校が公表している基準によらずに入学者の選抜を行うことは、良くないので透明化すべきだが、学力以外の要素を考慮すること自体は、過度でない限り、排除するべきではない。
 特にAO入試や学校推薦の場合は総合評価が許されているわけで、皇族についても、その大学での勉学が社会にとって有益だと判断すれば合格させても良いと思う。
 海外の大学は、有力者の子弟、官僚や企業のエリート社員、もしくは、寄付をしてくれたなどの理由で公然と入学させている。日本の学校でも同様のことがないはずはない。
 皇族特権を否定したら、皇族は何もできなくなる。重要なのは、特権によって他人に著しく迷惑をかけないことである。たとえば、テーマパークに皇族が遊びに行かれるとすれば、貸し切りなどで他の利用者に迷惑をかけないようにしてほしいということだ。優先入場まで否定することもなかろう。
 大学進学でいえば、学力的についていけないような学校に背伸びして入るのは、周囲に迷惑をかけるので良くない。大学側もそういう観点から判断すればいい。
 最後に、学習院の皇族教育についての役割を前向きに考えるとすれば、皇室・華族研究所のようなものをつくって、研究や人材育成をしたらいい。伝統的な宮廷文化や皇室の歴史について体系的に研究対象としてほしいし、海外のハイソサエティーの文化についての研究は国益のためにも必要だと思う。また、悠仁さまや妃殿下になる人も含めた教育の場として活用してもらえるように提案したらどうだろうか。
 (評論家 八幡和郎)