児童福祉司ら「人材の奪い合い」が激化 新宿、品川…東京23区内の児童相談所、人手足りず開設延期が相次ぐ(2024年9月7日『東京新聞』)

 
 東京都内で区立児童相談所(児相)の開設が進む中、児童福祉司などの資格を持つ専門職の確保が課題となっている。2026年度までに半数超の12区で開設される見通しだが、人手が確保できず開設を延期する区も。増える児童虐待にきめ細かく対応するため、人材の確保・育成が急務となっている。(奥野斐)
児童相談所の人材を育成する研修を受ける児童福祉司ら=東京都世田谷区で

児童相談所の人材を育成する研修を受ける児童福祉司ら=東京都世田谷区で

◆虐待対応を担う児童福祉司は引っぱりだこ

 「意思決定が独自にでき、機動力が高まるのが区児相の利点。着実な支援体制を構築するには、必要な時間だった」。当初、22年に区児相を開設予定だったが、専門職が確保できず、予定を2年遅らせた品川区の長谷川彰・児童相談課長は振り返る。
 児相の設置は、16年の児童福祉法改正で、都道府県などに加え23区もできるようになり、練馬区を除く22区が開設方針を掲げた。各区が準備を進める中、19年には国が児相の体制強化のため、虐待対応を担う児童福祉司の配置基準を「人口4万人に1人」から「同3万人に1人」へと引き上げた。虐待対応件数の多い自治体にはさらに上乗せを求めた。

 児童相談所 都道府県と政令市に設置が義務付けられ、その後の法改正で中核市特別区も設置できるようになった。原則18歳未満の子に関する相談や虐待などの通告を受け、児童福祉司ら専門職が子どもや家庭を支援し、問題解決につなげる。学校など関係機関への聞き取りや子どもの一時保護を行うケースもある。里親への委託・支援も担当する。

今年10月に開設予定の品川区児童相談所が入る建物

今年10月に開設予定の品川区児童相談所が入る建物

◆「トー横」はじめ子どもに向き合う児童福祉司も…

 品川区では児童福祉司が当初計画より5人程度多く必要になった。加えて5人に1人は児相勤務経験5年以上の「スーパーバイザー」を置かなければならないため、経験者採用を進めつつ、保健師などを先行して児相を設置した自治体に派遣し、実地研修を積ませるなど育成に努めた。
 新宿区も19年、児童福祉司が当初予定より9人多く必要となり、21年の開設予定を「3年以上延期」とし、現在も開設のめどは立っていない。区によると、虐待対応件数の増加や、少年少女が集まる歌舞伎町の通称「トー横」などがある地域特性から、区域外の子どもにも対応する児童福祉司らの必要数が増えたことが要因の一つという。
 別の区の担当者も「児童福祉司ら人材の奪い合いが顕著になっている」と指摘。「子どもの命に関わる業務や保護者との難しい対応は経験が必要。区が自前で確保、育成するのは容易ではない」と漏らした。
児童相談所を設置または設置予定の区

児童相談所を設置または設置予定の区

◆都の担当課長「丁寧に育成している」

 区児相は20年に世田谷、江戸川、荒川の3区が開設。その後、港、中野、板橋、豊島、葛飾の計8区が続いた。本年度は品川、25年度に文京、26年度に杉並と北の計4区が開設予定だ。もともと児相業務を担当している都も、管轄区域の人口を見直す国の方針に従い、6月に練馬区に新設したほか、大田区と町田、武蔵野、福生市の計4カ所に都立児相をつくる計画だ。都家庭支援課の横森幸子担当課長は「児相業務は一にも二にも、人が重要。人数だけでなく、丁寧に育成している」と話す。
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◆求められる人材育成への支援

 人材育成の取り組みとして、都は2022年度から「児童福祉人材トレーニングセンター」(世田谷区)で、面接スキル向上の実践的な研修などを始めた。
 センターで6月にあった研修には、都児相で働く新人の児童福祉司や児童心理司ら約30人が参加。グループに分かれ、子どもや親らから話を聴く際の相づちのテンポやトーン、傾聴の姿勢、うなずき方など、適切な接し方を具体的に確認していった。
 都児童相談センターの勝見浩行人材企画担当課長は「人材確保と育成のほか、離職防止にも力を入れたい。職員同士のつながりや情報交換の場をつくることも意識している」と話す。
 特別区長会は8月、来年度に向けた要望で、区児相開設時の人材育成などの支援を都に求めた。

◆「子どもの福祉を第一に考える視点を」と専門家

 自治体の児相設置に詳しい鈴木秀洋日大教授の話  設置主体が都か区かにかかわらず、子どもの福祉を第一に考える視点を貫くことができる職員の質と人数の担保は重要。国が子ども家庭福祉を担う新たな資格をつくったり、研修の充実を目指しているが、現場に出る前に実践的な知見を積み重ねる研修期間を置き、配置後も継続したフォローが必要だ。対応の適切さについて検証も常に求められる。