「移住婚」支援頓挫 時代錯誤の発想、撤回は当然(2024年9月4日『河北新報』-「社説」)

 少子化自治体の消滅危機を旗印にすれば、「子どもを産んでくれそうな女性」に支援金を渡し、地方移住を促す施策が許されるのか。あからさまな「ばらまき」が批判を浴びたのは当然だ。
 政府は、結婚を機に地方移住する「移住婚」の女性に支援金を支給する構想を事実上撤回し、仕組みを再検討する方針を決めた。
 過度な東京一極集中に歯止めをかけようと、内閣官房が2025年度概算要求に関連経費を盛り込む方針だったが、交流サイト(SNS)などで「国は女性がお金で動くと思っているのか」といった批判が相次いだ。
 現行の移住支援金は、男女を問わず東京23区の居住者か、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)からの通勤者が対象。引っ越し先での就業や起業が条件で、単身者には最大60万円としている。
 内閣官房は制度を拡充し、結婚で移住する女性は、就業予定がなくても支給対象とする方向で構想を描いていた。金額の上乗せや婚活イベントへの交通費支給も検討。担当者は、独身女性に限った理由について「地方では若い未婚男性の数が女性よりも多く、アンバランスが生じている」と説明する。
 批判を受け、構想を素早く撤回した点は評価できるが、結婚を条件にした上、女性限定で支援金を渡す施策は明らかに性差別的だ。就業を支給要件から外したことは「夫が働き、妻が家庭を守る」との家族観がにじみ、女性活躍推進の政府方針にそぐわない。最大60万円という金額の妥当性にも疑問符が付く。
 23年の人口移動報告によると、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が約6万8000人で、うち女性が約3万7000人。進学や就職で上京した女性が地元に戻らない傾向が強く、東京以外の道府県は女性より男性の未婚者数が多い。
 少子化で人口構成がいびつになれば社会保障負担が増え、人手不足も加速する。地方ではすでに深刻な問題で、危機感を持つのは当然だ。
 だが、結婚や出産は極めて個人的な領域であり、将来の労働力確保が危ういからとはいえ、政府や自治体の介入は慎重であるべきだ。
 戦時中の「産めよ殖やせよ」政策のように、少子化対策は女性への「産ませる」圧力になりかねないことを為政者は常に意識してほしい。
 働く夫を支え、家事や育児、介護をこなしながらパートタイムで働く女性は珍しくない。特に地方では家父長制的な考え方が根強く、家事労働の負担に加え、雇用や賃金の男女格差が大きい。
 女性たちが地方から出て行く理由は、はっきりしている。若い世代が明るい将来展望を描けるように、政府は自治体とともに問題の根底にある男女格差の解消に本気で向き合うべきだ。