北方領土返還 運動継承へ国は支援を(2024年9月3日『北海道新聞』-「社説」)

キャプチャ
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 旧ソ連による北方四島侵攻から先月28日で79年となった。
 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、領土交渉再開の展望は開けない。返還を願う元島民の高齢化は進み、平均年齢は88.7歳となった。
 戦前、戦中にかけて島で生まれ、返還運動をけん引してきた人が次々この世を去っている。
 先月、千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の脇紀美夫前理事長が死去した。一昨年には千島連盟根室支部の宮谷内亮一支部長が亡くなった。
 領土交渉は国民の理解と後押しが欠かせない。返還運動の重要性もそこにあるが、近年の署名活動では応じる人が減っている。国民の関心低下が心配だ。
 故人の遺志を受け継ぎ、運動を継承する若い世代の育成が急がれる。政府は具体的な支援策を講じるべきだ。
 ロシアが四島に侵攻したのは、日本がポツダム宣言を受諾し降伏した後のことだ。
 ロシアはきょう3日を「対日戦勝記念日」とし、日本の軍国主義から島々を解放したとしている。しかし四島は一度も外国の領土となったことがない日本固有の領土だ。ロシアの主張は到底受け入れられない。
 島の現況はロシアが不法占拠するウクライナ東部と重なる。政府は四島返還を毅然(きぜん)として要求し続けなければならない。
 ロシアはウクライナ侵攻に対する経済制裁に反発し、日本を「非友好国」に指定した。制裁は、国際法に違反し武力で他国の主権と領土を侵したロシア側に原因がある。一刻も早くウクライナから撤退すべきである。
 ロシアは四島交流事業(ビザなし渡航)も中止した。ビザなし渡航には、旧ソ連時代に人道目的で始まった墓参と、ソ連崩壊後の1992年に始まったビザなし交流、さらに99年開始の自由訪問がある。
 ロシアはビザなし交流と自由訪問の政府間合意を一方的に破棄した。墓参の枠組みは残るが、新型コロナ禍もあり5年連続で途絶えたままだ。
 元島民らは生きているうちに墓参を果たすことを切望している。政府は四島への日本の立場を損なわない形で早急に実現を目指すべきだ。北海道も国への働き掛けを続けてもらいたい。
 岸田文雄首相は対ロ制裁で米欧との連携を重視した。ただ領土問題が困難な状況にあっても、その展望を語り、元島民に寄り添う姿勢は希薄だった。
 ロシアは隣国であり続ける。専門家や民間レベルなどで意思疎通を保ち、将来の政府間対話の再開に備えるべきだろう。