内部通報した本人が自殺の異常事態。なぜ、斎藤元彦兵庫県知事を告発した元幹部の自死は防げなかったのか? 国内 2024.08.29 by 河合 薫『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2024年8月28日『MAG2ニュース』)

連日メディアで報じられている、斎藤元彦兵庫県知事のパワハラなどを巡る疑惑。内部告発を行った県職員が自殺と見られる死を遂げるなど、最悪の事態となったこともあり大きく注目されています。この件について論じているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、問題の本質は「内部告発公益通報」をされた側の知識のなさと法律の曖昧さに尽きると断言し、そう判断せざるを得ない日本社会の現状を批判的に記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:弱い人の味方じゃない!?
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
法律は弱い者の味方ではないのか。誰が兵庫県知事を告発した人物を殺したか
兵庫県の斎藤知事のパワハラの疑いなどを告発する文書をめぐり、すべての県庁職員を対象に行われたアンケートの中間報告が、正式に公表されました。
実施したのは県議会が設置した百条委員会です。対象はすべての県庁職員で、7月末に配布。8月5日までに寄せられた全体のおよそ47%にあたる、4,500人余りの回答の集計結果です。
本調査は「告発文書」で指摘された7項目の内容の真偽について、職員の認識や経験を問うた内容で構成されています。
具体的には…
斎藤知事の命令を受けた副知事が、五百旗頭真理事長に対し、副理事長2人の解任を通告。その後、五百旗頭氏が急性大動脈解離で急逝。そこに至る経緯。
21年7月の知事選で県職員が知事への投票依頼などの事前選挙運動等。
知事による次回知事選に向けた投票依頼。
贈答品などを知事が受領。
県の職員らによる知事の政治資金パーティー券の大量購入依頼。
阪神オリックス優勝パレードにかかる信用金庫等からのキックバック
知事のパワハラ
公表された66ページにのぼる報告書には、これらの「疑惑」について現場の声が丁寧に記されていました。それは現場の訴えであり、働く人たちの正義であり、組織の空気であり、あり方への疑問でした。
この問題については、兵庫県議と弁護士で構成する「準備会」が、真偽を調査する第三者機関を設置し、2025年3月上旬をメドに報告書を取りまとめることを決めたので、こちらの結果が出てから私見を述べたいと思っています。
一方で、メディアはパワハラキックバック問題ばかりを報じていますが、問題の本質は「内部告発公益通報」をされた側の知識のなさと、法律の曖昧さに尽きます。
ことの始まりは3月12日に、元県民局長だった男性職員が「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為について」と題する告発文を一部報道機関に送付し、20日にその事実を知った斎藤知事が「犯人探し」を県幹部らとはじめたことです。翌日には「元幹部職員の関与の可能性」が浮上し、その後、元幹部職員の公用メールから文書が送られていたことを突き止めます。
ここまでで終われば、まだ救いはありました。が、なんと県側は元幹部職員を6回にもわたって聴取を行い、3月25日には元幹部職員のパソコンを押収したのです。
パソコンには告発文のデータが残されており、県側は27日、元幹部の定年退職(3月末予定)を取り消し、役職を解任します。
4月4日に元幹部職員は「公益通報制度」を利用して件の窓口に通報し、担当部署が手続きを開始。そして、7月、元幹部職員が亡くなるという、最悪の事態に発展しました。